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第88話  アミューズメントしよう! その7



『次の上映は連続二本立てです』



「ほら始まるわよ」

「……はぃ」

「今度はどんな…… ある意味気になる……」

「楽しみ~」

「……これは私たちへの警告映像。女王様よ感謝致します」



 映し出される映像は同じく鍛冶屋ザンの建物内。そして懐かしの屋根裏部屋でもある。これはエルモアの視点だろう。俺が側にいてネピアがバンザイしながら眠りについている。


(屋根裏純愛組が…… どうしてこんな事に…… うぅ……)



『……ネピア。おはよう。起きれるか?』

『……』

『ネピアおはよう~ もう起きる時間だよ~』

『……』

『おいネピア。朝だぞ』

『……』

『ネピア~お出かけしようよ~ ね?』

『……』

『(ムニっ)』

『……』

『ムニっ ムニっ)』

『……』



「ネッピーの服が凄いはだけてる…… ギリギリだよ……?」

「扇情的だねぇ~」

「なんで私だけこんなシーンばっかりなの…… もういやぁ……」

「隣に私がいても、無防備な獲物がいれば突き進む紳士食ロリフイーターい…… 獣ながら天晴れ……」


(今はネピアのバンザイアホ寝も笑えない…… むしろラヴ姉さんのように扇情的にも感じる程だ…… どうしちまった俺……)



『ネピア~ 行こうよ~』

『ちょっと待ってくれエルモア。ネピア姫は永遠の眠りについてしまってるようだ。この社会派紳士という名の王子でしか目覚めさせる事は出来ない』

『はぁ』



 そうしてネピアの寝顔にまっしぐらな俺。口を尖らせて、小さな小さな口に狙いを定めるように突き進んでいく。そこで映像は終了した。


「え、え、え~!? ちょ、ちょっとズーキさん!? これって!?」

「口づけかね…… こんなに男気のある御方だったとは…… ラヴ姉さん! 見直し!」

「……連続ビンタされても文句ないでしょ?」

「……はぃ」

「獣には獣の道がある。そしてそれは私たちエルフの道では無い」


 映像が切り替わるが、同じように寝息を立てているネピアにイタズラしている俺の様子。今度はこの俺の視点で進んで行く。荷馬車の中での事だろう。



『(ニュっ)』

『……っ ……はぁ ……はぁ』

『(スッ)』

『……。 ……。 ……』

『(ニュっ)』

『……っ ……っ ……はぁ』

『(スッ)』

『……。 ……。 ……』

『(ニュっ)』

『…… …… ……』

『(スッ)』

『………………』

『………………』

『………………』



 そして先ほどの映像と同じようにネピアに近づいていく。まさしく俺の視点なので、寝息を立てている可愛らしい顔をしたネピアに、ズームアップしていくように映像が進んで行くが、これまた直前で映像が終了する。


「どうして…… あの状態から…… き、キスしようと……?」

「知れた事…… 軽い刺激を当てて目標となるエルフの反応を伺い、作戦を実行するか判断する用心深さ…… 淫らな気持ちを持ちつつ冷静に事を運べる性戦士クールファックファイター…… 私もうかうかしていられませんね……」

「……だって」

「……私が悪うございました」

「ほわぁ~ 二回もキスしたんだぁ~」

「……未遂です」

「……これは本当よラヴ姉」


(社会派紳士はいずこへ…… もしかすると俺は社会派紳士ではないのか……?)



『それでは次の上映に映ります…… あ…… これは可哀想ですかね…… じゃあ次の……』



「お待ち下さい館長殿! 情報が無い戦闘ほど恐ろしいものはありません! 是非とも上映の程を…… このロリフターズの特攻一番機ことエルモアが具申いたします」



『じゃ、じゃあ上映しますね……』



 俺は既に嫌な予感を遙かに超えた、人間の男としての尊厳を十二分に破壊する展開を予想し見事的中した。



『やったぁ! 久々の一人ぃ~! これで~ これで~ 楽しい楽しい瞑想ちゃんがぁ~!』



 同じく俺の視点で始まる締め切った屋根裏部屋の中。上部にある扉から少し漏れた光が、程よい薄暗さを醸し出していた。楽しそうに鼻歌を歌いながらロールの木であるロールちゃんの葉っぱをくるくると引っ張り地面に置く。


「え…… これって瞑想中のタロー? 今までの流れからすると…… えっ?」

「え? え? え? もう何がなんだか頭がついていかないよ~!」

「男の子だねぇ~」

「ちょ、まっ待って!? これは駄目だって!? 駄目だって!?」

「落ち着きなさい…… 私だって止めたかったのに、一切の躊躇や情け無しよ? 諦めなさい」

「いやぁーーー!?」


(駄目だっ!? これは絶対駄目だっ!? もしこれが皆の目に止まったらラヴ姉さんを除く全ての女性メンバーからハブられるコト間違いなし!)


 俺はネピアがそうしたように画面の前に立ちはだかり、その行為を見せないように命を賭した。震え上がる魂の叫び。だが漏れる俺の卑しい吐息。



『はぁ…… はぁ…… はぁ……』



「ちょ、ちょ、あ、あんた…… 何して…… え……」

「こ、こ、これって…… ま、まさか……」

「う~ん。こんなコトしないで直接すればいいのにさ~ う~ん。ラヴ姉さん! ちっと下方修正に見直しっ!」

「修練を怠らない性戦士クールファックファイター…… これは戦場でも作戦通りに動ける逸材…… これを瞑想と偽って隠し通したとなると頭脳戦では向こうが上……」

「女王様…… 助けて……」



『ちょっと可哀想なのでこのシーンは終了しますね』



「……」

「……」

「……」

「あり? 終わり?」

「トップシークレットという訳ですか……」


 画面の前から動けなくなる元社会派紳士。もう紳士という言葉を使う事はないのかもしれない。



『次で最後ですね』



 もう何が来ても恐くない。もう失われた品格は元に戻らず、人格すらも失われていく。恐くない。恐いのは映像が終了した後の皆の態度と目線だけ。



『ちょ、ちょっとあんた、や、やめなさいって……』

『ん~ ん~ ん~』



 最後の映像は王都アドリア脱出作戦の一つ。ドローン嬢様を拉致ってネピアと旧市街の建物に運んだ時のものだった。変わらずの視点は俺で固定。



『ドローン嬢様? それでは私の方から指導に入りたいと思います。座学と実習があるのですが、どちらがよろしいですか?』

『!? ん~! ん~! ん~!』

『かしこまりました……実習の方で?』

『!?』

『それでは……』

『(ガタッ)』



「あっ! ネッピーがいなくなったら…… この人が……」

「この子どうなっちゃったんだろうね~?」

「……もう十分に理解してくれたわよね?」

「……」

「……私だって恥ずかしかったんだから。お風呂のシーン…… うぅ……」

「……」

「まさか看板娘サンドウィッチレディーなる作戦命令中に己の作戦も実行しているという多重展開作戦…… 人間とは末恐ろしい……」



『どうも~ ズーキーで~す! これから実習を開始しま~す!』

『ん~! ん~! ん~!』

『痛かったなぁ~ あの時は本当に痛かったなぁ~』

『ん~! ん~! ん~!』

『お前にも……痛みを感じてもらう。精神的にも……肉体的にも……な?』

『ん~! ん~! ん~!』

『へっへっへっ なかなか美味しそうな果実だなぁ~ えっ?』



『以上がこのアトラクションの全てになります。ご歓談が終わりましたら、通路へ退出願います』



「この人…… やっぱりこの後……」

「私が駆けつけたら作戦を停止したよ。千載一遇の好機チャンスでも作戦実行に支障のある展開になれば、即作戦中止できる類い希な判断力……」

「そうなの? 安心したぁ~」

「けど、ズーキくんが考えた作戦でこの後どうなったかは分からないさ~」

「え?」

「ま、あの子もズーキくんにヒドい事したからね~ 骨折しててもおかしくない程にやられたのさぁ~ それもエルモアっちとネピアっちの為にね」

「そ、そうなの? そうなんですかズーキさん?」

「……もうどうでもいい」

「エルちゃん? 本当?」

「それすらも作戦の内」

「ネッピー?」

「本当よ。あのドローン嬢って子がアドリード王国の大臣と繋がっている可能性があったから、一切抵抗しなかったわ。ちょうどその時に奴隷解放申請をしに行く途中だったから、騒ぎにならないようにって。もし大臣に繋がっていて、難癖付けられて解放申請が出来なくならないようにって言ってたわ」

「ズーキさん……」

「ね? 男気満載の名誉紳士ハイブリッド・ジェントルメンさ! ラヴ姉さん! やっぱり上方修正!」


 名誉も無い。紳士も無い。魅力も何にもそこには無い。俺の耳はもう既に機能を果たしていなかった。だが、ご歓談はまだ続いていく。











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