第87話 アミューズメントしよう! その6
(俺…… 社会派紳士なんだよな…… けどどう見ても社会派紳士とは思えない…… 俺は…… 間違っていたのか……?)
「……自分視点じゃないから見え方が違ったでしょ?」
「……正直驚いている」
「……私も驚きました」
(クリちゃんも驚いているんだ…… 優良個体であるクリちゃんが…… うぅ……)
「いいじゃ~ん! すごい情熱を感じるよ~ まさに純愛!」
「ラヴ姉…… これって純愛なの……?」
「うん!」
「そ、そう」
「え、そうなの? ラヴ?」
「うん!」
「……ラヴさんは未だ気づいていない。この紳士に隠された本当の意味を」
「ん~? 本当の意味~?」
「はい。全くもって巧妙な隠れ蓑ですよ。今の今まで私も惑わされていたんです」
「ん~?」
(もう俺の手から大分離れたエルモアの心…… だが…… 諦めたらそこで試合終了…… そして人生は続く…… くっ)
『いかがでしたか? 正しいと思っている事や間違っていると思う事。見る方面が異なるだけで気がつく事も多いと思います。世の中全てが間違っていて全てが正しい。本当に難しいですね。それでは次の上映に参りたいと思います』
(まだあるのか…… なんだか自信なくなってきたな…… はぁ……)
「……ほら始まったわよ」
「……あぁ」
「これは……?」
「お風呂だよクリちゃん。王都アドリアにいた時に住んでいた、鍛冶屋ザンさんの自慢のお風呂」
「……この視点は俺じゃ無いな。視点の位置が低い」
「……もしかして」
そうして映る細い細い腕。お湯が玉のように弾くその透き通るような美しい腕は、まさしくロリフターズのうちのどちらかだ。
「ちょ! これは駄目よ!? 入浴中じゃないの!?」
「……じゃあエルモアかネピアか」
「……これは私ではありませんね」
「じゃあネッピーだね」
「お~ 白いね~ 美しくもまた儚い存在であるネピアっちの細腕~」
「え!? これ私!?」
「そうだよ。間違いないよネピア」
「……ネピア肌綺麗だな」
「なはっ!? ちょ! あ、あんたはそっち向いてなさい!」
「けど、みんなで見るものなんだろ?」
「だ、だって(もじもじ)」
「あっ……お前はまだ…… まぁ仕方ないか…… まだ幼いしな」
「なぁっ!? ストーップ!? ストーーーップ!!!」
身体全体をまんべんなく洗うネピアの視点では、いかなる所も映し出される事致し方なし。それを見せないように画面の前に立ちはだかり視界を塞ぐネピア。
「おい。見えないぞ」
「見えないようにしてんのよっ!? ちょっとぉ!? 館長!? これ盗撮じゃないの!?」
すると大きな衝撃音と共に、今回の主人公であるネピアの可愛らしい悲鳴が上がる。そうして視点は自らの身体から風呂場の扉へとシフトする。
『きゃっ! えっ……何? 何が起こったの……?』
『……あの。私です。社会派紳士のタロでございますネピア嬢。お手数おかけ致しますが、お閂外して頂けますでしょうか?』
『……えっ? タロー? えっ? 閂外してどうするの……?』
『お風呂に入ります』
『えっ……? だって私いるんだよ……?』
「え…… ズーキさん……? 今の衝撃音ってまさか……?」
「もちろんズーキくんがネピアっちのいる風呂場に猛進した結果さぁ~」
「……ネピア戻ってきて弁明して下さい」
「……また映らないとも限らないでしょ。それにどっちにしても無理ね。全てを無罪にする凄腕の弁護士でも無理な案件ね」
「お風呂という安息の時間を狙うこの狡猾さ…… 敵ながら惚れ惚れする行動力……」
『……重々承知しております。ですがこの私……もう我慢が出来ないのですよネピア嬢』
『っ! いやっ! 何する気っ!?』
「えっと…… どうしてズーキさんはネピアがいるのに……?」
「……本当に風呂に入りたかったんです」
「一緒にね~?」
「!?」
「ち、違う!? 二つあるんだ! お風呂が!」
「二つあっても、ネッピーは入浴中ですよ……?」
「……はぃ」
「そのお風呂が二つという隙をつくのが、このエルフゲームの支配者たる由縁…… どのような事でも自身の行動に繋がるなら見逃さない偵察能力……」
『いいからさっさと開けろってんだよ! こっちはもう臨戦態勢なんだよぉ! ネピアっ!? オラぁ!!?』
『あんた!ついに本性表したわねっ! このろくでなしめっ!』
『本気で行きます』
『ちょっ待っ』
『オラぁーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!』
そうして一番微妙な所で終了する今回の映像。同じように部屋に明かりは付いたが、二匹の心は暗いままかもしれなかった。
「さ、さすがにこれはどうかと……」
「……申し訳ございません。どうしてもお風呂に入りたかったんです」
「そうさ~ 絶対ズーキくんは入りたかったのさ~ ネ・ピ・ア・っち と!」
「……本当に勘弁して下さいラヴ姉さん」
「……どうして私があんたにキツく当たってたか理解してくれた?」
「……はぃ」
「……出会って二日目よ? しかも時間にしたら一日ちょいって所。それなのに映像だけでも二つ。他にも不審な動きや言動もここでは語りきれないわ」
「……すいません。本当にすいません」
「……少しは分かってくれた?」
「……正直大分心に響いています」
「……そう。響いてくれたならそれでいいわよ」
「……感謝いたします」
(もしかして…… 俺が悪かったのか……? 今までのネピアの行動…… 俺が全て起因して……?)
思い出してみると確かにそうかもしれなかった。俺が突飛で不審な行動をしたからネピアは警戒した。その警戒心を上回る行動をしてさらにネピアを怒らせる。
「ね、ねぇ? ネッピー?」
「うん?」
「ほ、他には何かあった?」
(もうこれ以上俺の黒歴史を掘り下げないでくれぇ……)
「ん~ そうね~ とりあえずこの映像の前に、いきなり股に顔を突っ込まれたわね……」
「「 !? 」」
「え、え、え~? ほ、本当?」
「本当よ。そうよね?」
「……はぃ」
「……膝枕は一回のみの限定版と致しますね?」
「ぅ…… は、はぃ……」
(初回限定膝枕か……)
「いや~ ズーキくんの好感度うなぎ登り!」
「えっ!? ラヴはそうなの!?」
「ん~? そうなのってどうなんだ~い?」
「そ、それは……」
「ん~?」
「あの時ネピアが魔法を使って叩きのめしていなかったら、蹂躙されていたのはこの私たち…… 運命とは自ら切り開くものなり……」
『次の上映は連続二本立てです』
「ほら始まるわよ」
「……はぃ」
「今度はどんな…… ある意味気になる……」
「楽しみ~」
「……これは私たちへの警告映像。女王様よ感謝致します」
そうして続いていく、上映会という名の公開処刑。俺は見るたびにネピアへの申し訳なさと己の不甲斐なさを実感していくのであった。
申し訳ございません。更新時間を過ぎてしまいました。