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第85話  アミューズメントしよう! その4



 目が覚めるとそこは大きな大きな広間だった。見覚えの無い天井が俺の意識に入るが、あまりにも記憶との接点が無い為に、自分の存在が不透明に感じるような感覚に陥る。


「あ…… 起きましたか……? 大丈夫?」

「ん…… んぁ……」


 焦点が天井に向いていたのを目の前へと移動する。段々とピントがあっていくような感覚を現実に体験し、優しい顔をした美しく長い金色の髪を持つエルフを見続ける。


「……あれ? ……クリちゃん?」

「はい。クリちゃんです」

「あ…… どうして…… 今は……」

「不思議な森一丁目に来たんですよ? 今はその中にいます」

「あぁ…… そうだっけ…… そうだ……」


 久しぶりでも無かったが、強制的に眠りに落ちた後に少しずつ目覚めるような鈍い刺激を受けつつ、状況を把握する。だが俺は瞬時に理解した事が一つだけあった。


(あ…… 膝枕…… 膝枕ぁ…… はぁ…… 気持ちぃぃ)


「う~んう~ん」

「どこか痛いですか? ズーキさん?」

「痛くないよ。気持ちいい」

「気持ちいいんですか?」

「はい!」

「はぁ」


 なんだか落ち着かない気分になってきた。何故ならよく分からない状況ではあるが、クリちゃんの厚意でこの状態になっているのだ。俺はクリちゃんにここまでしてもらうほど、彼女に尽くした訳ではない。何か褒美を貰いすぎて今後が心配になる小心者である事を素直に認め、社会派紳士は動き出す。


 なんともいい気分ではあったが、未練を断ち切るように立ち上がるようにすると、「あっすいません。起きますよね」と言って膝枕状態を解除して起き上がるのを手伝ってくれた。


「いや……謝らないでくれクリネックス君。本当に感謝している」

「そうですか、それは良かったです」

「良かったのはこちらの方だ。久しくこの気分を忘れていたよ。本当にありがとう」

「いえいえ。そう言って頂ければ十分ですよ」


 何故だか既視感デジャヴを感じ、頭を左右に軽く振りながら意識を整えてゆく。相変わらずの広い場所あったが、それでも何か、ほんの少しだけ……気持ち広く感じた。それは一人少なかったからであった。


「あれ? ネピアは?」

「あの扉の外にいますよ」

「外に? なんで?」

「それは……」

「まぁいいや。ネピアぁー どうした~?」


 本人に直接聞いた方が早いと思った俺は扉から外に出る。通路にあった窓から外を眺めている姿は儚げであった。まだ見た目は子供ながらも大人びた表情で外を見つめているのを見るとなんだか落ち着かない気分になった。


 そして俺はその気持ちが俺の本心である事がすぐにわかった。魅了される俺の心。真っ直ぐにネピアを見据えて近づいてゆく。俺は堪えきれない衝動を胸に秘めて、彼女に心からの気持ちを真正面からぶつける事にした。



「オラぁ! てめぇ! 思い出したぞっ! この俺様を罠にハメやがったなぁ!? えっ!? アトラクションを利用した罠でハメ込むとはいい度胸じゃねぇか!」

「わっ!? 生き返った!?」

「てんめぇ! 今! 生き返ったって言ったよな!?」


 ネピアとそのまま組み合い一悶着起こす。


「だいだいあんたのこの私に対する扱いがヒドいからこうなってるんでしょうが!?」

「あぁっ!? どこがヒドいんだよっ!? 紳士そのものだろっ!?」

「どこが紳士よっ!? 淫らな獣が息巻いてるだけでしょっ!?」

「俺の今までの行動を見て、どうやったら淫らって言葉が出てくるんだよっ!? 俺が何したってんだよっ!?」

「あんたって奴は記憶ってモノが存在しないのっ!? 散々に淫獣として恥じない行動をしてきたじゃないっ!?」

「……」

「……」

「……ふん。平行線のようだな」

「……そのようね」


 俺とネピアは互いに距離を取る。相手から視線を外さないように横へとジリジリ移動する。先に動くか、それとも相手の出方を見るか。だがその選択肢を選ぶ事なく、この件は終了する。


「あの~? 次のアトラクションへご案内してもよろしいですか?」

「「 はい 」」




 先ほどの広間から、楽しげに俺の格好をしたクルーと話しながら出てくるエルモア。どうにも俺ではない俺がエルモアと話している様をみると心が落ち着かない。そのクルーはエルモア達に一礼してから、俺たちとは別の方向へと進んでいく。


「でも凄いですね。すぐに見分けるなんて。それも精霊の加護無しですから」

「……まぁ、そうなんですけどね」


(ネピアの野郎…… いつもいつも俺様に絡んできやがって…… 何が気に入らないってんだよ…… お前だけを見てないからって嫉妬でもしてんのか……?)


 ネピアに関してはそれは無いだろうと、気持ちの悪い考えを否定し、レイカさんを先頭に皆で歩く。


「でも似てたね~」

「そうだねエルちゃん。私にはどちらとも本物に見えたよ」

「あたしも~ でも二人でも良かったかなぁ~ そうすれば…… むふっ」

「え…… ラヴはもう一人ズーキさんがいた方が良かったの?」

「そりゃそうさい! 出来れば人数分欲しいところだね~」

「……こんなのが何匹もいたら拳が痛くなるわ」


(ネピア…… 本当に痛いのは俺だからね……?)


「そう言えば、男である俺だけなんですか? 本物と偽物を見分けるアトラクションって?」

「いえ。女性の皆さんでも出来ますよ」

「じゃあネピアをお願いします」

「……そうしたらもう始まる前から分かってますよね?」

「くっ」

「考え無しのアホね」


(ベースケなエルフの癖に生意気な…… しかし引く訳にはいかない…… なんとかネピアの偽物を……)


「けどこれだけで能力があがるんですか? たった一回で?」

「十分ですよ。気持ちは伝わってきました。それに元々お二人の能力上げが目的なんですよね?」

「はい!」

「そうね」

「二人が見分けられればアトラクションは終了という事ですね」

「え~ じゃああたしは何も出来ないのか~い?」

「いえいえ。せっかく来て貰ったので楽しめるように考えていますよ」

「うわ~い! 楽しみ~!」

「……なら俺が能力上げを希望すればもう一度?」

「……あんたしつこいわね~ そんなんだからモテないのよ」

「なっ!?」

「あの、モテないんですか?」

「いえいえ。前の世界では何十人も囲っていましたよ? 選り取り見取りとはこの事! はぁーはっはっはぁ!」

「(ビクゥ!?)」


(あっ!? ヤバい!? エルモアが怯え上目遣いながら俺から距離を取って!?)


「待って!? エルモア!?」

「(ジリジリ)」

「エルモア!? ゲームの話だって!? な!? 現実じゃないんだっ!?」

「……そうでしょうね。タロさんにとってはゲーム。彼女達にとっては紛れもない現実。そしてタロさんは狩る側の人間。私は狩られる側のエルフ。待っていたら捕喰されるだけです」

「喰わないって!? エルモアを喰ったりしないよっ!?」

「……もう一度考えさせて下さい。あれからそういった話を聞きませんでしたから、油断していました。私もまだまだですね。それについては感謝しますよ」

「そんなぁ~ (ガクッ)」

「ぷぷっ アホねぇ~」


 俺はエルモアと同じように油断していたのだ。イベントだからって必ずしも好感度が上がる訳ではない。だが上がると信じて疑わなかった社会派紳士は自ら選択肢を誤り、エルモア正規ルート → ネピア正規ルート に舵を取っていた事に気づき始めるのは、次のアトラクションを体験してからになる。











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