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第84話  アミューズメントしよう! その3



 未来の間で妄想を具現化されたエルモアとネピアはその場にうな垂れていた。その間にこのアミューズメントの館長さんであるレイカさんに、次のアトラクションの代金五百クイーンを支払う。


「お次はこの部屋です。マネマネの間といいます。同じように部屋に進んで下さい」

「わかりました」


 多少気まずさがあったのか、レイカさんはそそくさとこの場所から消えていく。すると乾いた音が二発重なるようにして先ほどの未来の間から響いてくる。互いの頬を張り合ったのか、頬に赤い手あとをつけたロリフターズがこちらへとやってきた。


「さぁ行きましょう!」

「早く行くわよ!」


(互いに記憶を封印した方が良い未来になるな……)


 ロリフターズは先ほどの事が無かったように、気持ちを切り替えてマネマネの間へと踊り入った。クリちゃんもラヴ姉さんも同じ判断に行き着いたのか、ここが初めてのアトラクションのように振る舞っていた。


「暗いな……」

「暗いですね……」

「暗いわ……」

「暗いね……」

「暗~い!」


 中の部屋は広いのか、進んでいっても何かにぶつかるような事は起きずズンズンと進んで行く。手を繋ぎたくなるような暗闇ではあったが、不思議と嫌な感じはしない。


「なんだっけ? マネマネの間だっけ?」

「そう言ってましたね」

「マネマネは記憶には無いわね」

「なんだろうね?」

「なんだろ~?」


 進めど進めど何も無い。もしかしたら何かあるのかも知れないが見えない。俺は思った。暗闇なんだから何してもバレないと。


(よし…… 落ち込んでいるだろうから、景気づけにネピアを驚かせてやるか…… いつも通りにしてやるのが優しさだよな…… なら日頃の仕返しを……)


 そう思い立ったが吉日。早速行為の内容を考えていると、そのネピアから声が上がる。


「きゃっ! 何!? あんたぁー!? この暗闇で私に何しようとっ!?」

「なっ!? まだ何もしていないぞっ!?」

「まだって何よ!? こ、この私の……」

「この私の?」

「こ……」


 ネピアが言い終わる前にこの部屋の明かりが付く。広大な部屋の中に取り残されるように立ちすくむ五匹。いや六匹になっていた。


「「「「「「 なっ!? 」」」」」」


 あろう事か、この世界には社会派紳士がもう一人追加で存在していたのである。自分の姿をこうやって見るのは初めてだが、なんともまぁ勇ましい社会派紳士っぷりである。


「あ、あんたぁー!? ついに淫獣化して自己分裂をっ!?」

「なんだよ自己分裂って……」

「……淫獣は止めて下さい」


 まさしく俺のような物言いをする社会派紳士がもう一人。計二人の社会派紳士がネピアに言葉を紡ぐ。


「……一人じゃ子孫を増やせないから、自分で増やしたんでしょ。ぷぷっ」

「あっ!? なんだとネピア!?」

「オラぁ!? ネピアの癖に生意気だぞっ!?」

「タロさんが二人……」

「え…… ズーキさんが…… 二人……?」

「こりゃまた斬新な発想だね…… こうやって純愛を示してくるとは…… ラブ姉さん! 感激っ!?」


(見るからに俺。格好も同じ。まずは挨拶だな)


「どうも」

「あ、どうも」

「……」

「……」

「社会派紳士のタロ・ズーキです」

「これはご丁寧に。社会派紳士のタロ・ズーキです」

「どうもどうも」

「いえいえ」


 硬い握手をして、社会派紳士である事をアピールする社会派紳士が二匹。紛う事なき社会派紳士ではあるが、いかようにして存在しているのか。


『あ~ 聞こえますか~?』


 すると不思議な森一丁目の館長であるレイカさんの声がこの部屋、広間全体に響き渡る。


『ここはマネマネの間です。このアトラクションでは本物と偽物を当ててもらいます。どれだけ仲間の事を分かっているかの判断が出来るという訳です。もちろんここでも精霊の協力は得られません』


「なるほど」

「そうですか」


『それでは楽しんで下さいね? では』


 大きな大きな広間がまたもや静寂に支配される。本物は勿論俺だ。だが、暗闇からいきなり明かりがついたもので、皆には分からないだろう。


「まっ ずっと一緒に旅をしてきたんだ。クリちゃんはともかく、エルモア。ネピア。ラヴ姉さんなら俺が本物だって分かるだろう?」

「はい」

「二人とも只の不審者ね。ぷぷっ」

「なんだとオラぁ!?」

「なんつった今オラぁ!?」

「二人とも本物に見えますね~」

「このままでいいんじゃないかな~?」

「……それはアトラクションとして駄目じゃないのか?」

「……アトラクションの意味ないな」


(どうやったら分かってもらえるのだろうか…… 正直みんながすぐ当ててくれなくて寂しい……)


「はっはっはぁ!」

「……頭大丈夫かネピア?」

「……暗闇で頭打ったか?」

「大丈夫だしっ!? 打ってないしっ!?」

「……じゃあなんだよネピア」

「……どうしたんだよネピア」

「分かったのよ! 私にはね!」


(おぉ~ ネピアだけど凄い嬉しいな…… あいつともずっと一緒にいるからなぁ…… ありがとうな。ネピア)


「あんたね!? 偽物は!? (ビシィ!)」


 するとネピアはあろう事か、本物である俺を指さしてきた。俺は慌てて本物である事をネピアに伝える。


「おいおい。俺が本物だって。冗談は止めてくれよ」

「私には分かるのよ! 確かに人生で言えば少ない時間だったとは言え、淫獣の選別を間違える事は無いわっ!」


(バッチリ間違えているんですけど……)


「まぁ安心したよ。ネピアが俺の事を分かってくれて」

「そりゃそうよ。まっ安心しなさい。それなりに濃い時間を過ごしてきたんだから。ね?」


 あろう事か偽物と楽しそうに話しているネピア。なんだか無性に腹が立ってくる。俺は我慢出来なくなり、ネピアに喰ってかかる。


「何が濃い時間だ…… 本物も見分けられない濁った目をした、濁り漏れエルフのネピアよ。奢ってんじゃね~ぞ!? あっ!? オラぁ!?」

「ふん。そうやって偽物は追い詰められるとボロを出すのよ。そんなに怒って自らが偽物だってアピールしてるのと一緒じゃない」

「なっ!? ち、違ぇよ!? お前が分かってくれないからっ!?」

「あんな事を言ってるわよ?」

「しょうがないだろ。偽物なんだから。まっ、ネピアが簡単にクリアしてくれたから俺は安心だよ。ハハッ」

「んがぁ!? お前っ!? ふざけんなよっ!? 何がハハッだ!? こっちがハハッだよ!? あっ!?」

「じゃあ終了なのかな? このアトラクションは?」

「ん~ いや…… 偽物はすべからく酷い目に遭うのが物語としては一般的さ やっぱ偽物のズーキくんにはお仕置きが必要じゃないかな~」

「なはっ!?」


(俺!? 俺がお仕置き!? あのネピアに!? 待って!? 待っつっんっだ!?)


「でもネッピーは凄いね~」

「ふふん。あまり褒めないで頂戴。大した事じゃないわ。当然の理ね」

「まぁ分かりやすいよな。でも俺はクリちゃんに見分けて貰えなかったから寂しいよ……」

「あ、ご、ごめんなさい……」

「冗談だよ。これからはもっと俺の事を見ててくれな。ハハッ」

「はい…… これからもお願いしますね」

「勿論だよ。ずっと一緒さ」

「……はい」


(くっそぉ!? 俺のクリちゃんになんたる物言い!? 絶対潰してやんぞこのクソ社会派紳士がぁ!?)


「……という訳で」

「……言う訳で?」

「お・し・お・き・ね?」

「いやぁーーー!?」

「あ、こらっ!? 待てぇーーー!?」

「いやぁーーー!? 誰かぁーーー!?」


 いきなり全力で攻撃しようとしてきた、おしっこマーキングエルフのネピア。喜々として追いかけてくるが、俺にとってはただの危機。


「おい!? ネピア!? 止めろって!?」

「待てぇーーー!?」

「ネッピー凄い楽しそうな顔してる」

「ホントだね~ 頑張れ~」


(くっそぉ!? どうしってこんな目にぃ~!?)


 逃げながら偽物に近づき睨み付けていると、エルモアが偽物の社会派紳士に声を掛けていた。そのまま彼女らを円の中心にするように逃げ続ける。


「あの~?」

「なんでしょうか? エルモアさん?」

「よく似てますね」

「「「 !? 」」」

「そっくりです!」

「「「 !? 」」」

「えっ…… こっちが偽物なの?」

「そうだよ」

「ホント? エルっち?」

「はい。間違いありませんよ」

「……どうして偽物と分かったのですか?」

「私がタロさんを間違える事はありませんよ」

「……そうでしたか」

「じゃ、じゃあ偽物なんですね?」

「……はい。このアミューズメントのクルーの一人です」

「どうしてすぐに種明かしする気になったんだ~い?」

「瞳が物語ってましたから…… もう騙せないと確信しました」

「エルちゃんは凄いね~」

「じゃあネピアっちは……」


(よっし!? 状況は最悪だったが、疑いは晴れた! この阿呆エルフめ!)


「おい!? ネピアっ!? 聞いてただろっ!?」

「何がっ!? こら!? 逃げるなぁーーー!?」

「逃げるも何も解決したんだよ!? あっちが偽物だって!?」

「偽物はあんたでしょうがーーー!?」

「違うって!? アホかっ!? いいから一回止まって話を聞いてこいって!?」

「ブチのめせば全てがハッキリするわ!」

「アホか!? もうハッキリしてんだよっ!?」


(こいつ!? もしかして最初から分かって!?)


「ネッピー…… もしかして……」

「ネピアも最初から分かってたと思う」

「流石だね~ ネピアっちの愛情表現も分かりやすくていいね~」

「えっ!? ラヴ? それって……」

「ん~?」

「え……と……その……」

「ん~? そのなんだ~い?」

「愛情って……」

「ん~?」

「……」


 同じだったのだ俺と。ネピアもまた俺に対して日頃の仕返しを考えていたのだ。それをアトラクションの中で実行し、完膚無きまで叩きのめせるように張ったネピアの罠にハマっていくのであった。











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