第83話 アミューズメントしよう! その2
レイカさんに促されるようにして、アトラクションのある部屋に中に入る。最初こそ照明がなく暗かったものの、部屋の中心地に辿り着く頃には薄暗く光が点り始めていた。
「何もないな」
「何もありませんね」
「何もないわね」
「ないね」
「ないないな~い!」
辺りを見回すも本当に何もない。天井が高くそれなりの広さを持った室内にあるのは、五匹という存在だけ。
「未来の間って言ってたけど、未来でも見えるのか?」
「誰の未来ですかね?」
「誰でもなく世界の未来かもしれないわね」
「未来かぁ~ よい未来だといいけどね~」
「はやくぅ~! 未来未来ぃ~!」
待ちきれないラヴ姉さんは、多少の癇癪を滲ませながらむくれ始めていた。そのふくれっ面が完全体になる頃に、中心となる天井から一筋の光が差し込む。それは直径一メートルに満たない円のスポットライトのようだった。
「なんだ?」
「なんでしょうか?」
「なんだろね?」
「なんだろ?」
「わ~い!」
好奇心が全てを勝り、自身の行動に対して歯止めしないラヴ姉さんが光へと導かれていく。その光を神々しく浴びる事はなく、打たせ湯を浴びるようにして気持ちよさそうにしていた。
「光! 気持ちいい!」
「気持ちいいのラヴ姉さん?」
「気持ちい!」
「未来は見えますかラヴさん?」
「気持ちい未来!」
「具体的にはどうなのラヴ姉?」
「未来は気持ちい!」
「気持ちいいが未来?」
「気持ちぃ~!」
どうやら俺たちの未来は気持ちいいようだ。だが、ラヴ姉さんが気持ちいいだけで俺たちにとっては気持ちよくない可能性も十分ある。個人差というモノは厄介なものだ。
「どの辺りが気持ちいいの?」
「光受けてる部分! あたたかい!」
「あたたかいから気持ちいいんですか?」
「あたたかいから気持ちいい!」
「あたたかくて気持ちいい未来なの?」
「あたたかくて気持ちいい未来!」
「未来はあたたかいの?」
「あたたかい!」
(未来はあたたかいのか……)
「ちなみに何か見えるの?」
「見える!」
「何が見えるんでしょうか?」
「光!」
「光は見えるでしょうけど、何か頭に浮かんだりしないの?」
「気持ちいい!」
「ラヴの頭の中は気持ちいいだけだね……」
(……もしかして本当に気持ちいいんじゃないのか?)
あの光自体に快楽的な情報が埋め込まれていて、光を浴びると快楽を享受出来る快楽光線。この光線を浴びると何人たりとも、その快楽から逃れられる事は出来ないのではないだろうか。
(もしや…… ラヴ姉さんの今のステータスは…… 快楽落ちしてるんじゃないのか……?)
「あ、あのラヴ姉さん?」
「気持ちい! 気持ちい! 気持ちぃ~!」
「なんだか本当に気持ちよさそうですね」
「もち!」
「そんなに気持ちのいい未来って…… 大丈夫なのかしら……」
「もちのロンさ!」
「未来は安泰だね~」
(安泰っていうよりもただの変態だな……)
最初からそうであるように、恍惚とした表情を惜しみなくさらけ出して感じ続けていたラヴ姉さん。皆がその光に対して興味を持ち始めた頃、部屋の中にマイクを通したような声が響く。
『あ~ 聞こえますか~?』
「レイカさんか? 聞こえますよ~」
「はい」
「聞こえるわね」
「大丈夫ですよ」
「光があたしを気持ちよく~!」
『お楽しみのところすいません。ラヴさんには効果ないようですね』
「「「「「 !? 」」」」」
「え…… だって凄く気持ちよくなってましたよ?」
『単純に光の熱が心地よかったんじゃないでしょうか?』
「……」
「……」
「……」
「……」
「そんなっ!? ホントにっ!? 気持ちよかったのにぃ~!? うわ~ん!」
『え~とこの未来の間は、その光を浴びるとその方の未来の姿が見えるんです。ですが、その方の未来によっては見えない事もあります』
「完全に騙された……」
「そんなに気持ちいいのなら、私も浴びてみたかったですね」
「わ、私は別に興味は……」
「肩こり治るかな~ なんて考えてたよ~」
「騙してない! 気持ちい! ネピっちは嘘! 治る!」
「なっ!? う、嘘じゃないわよ!」
「はぁ~ ムッツリが漏れ漏れでベースケな事がバレバレですよネピア嬢?」
「スケベはあんたでしょっ!?」
『そういう事ですので、どうぞ引き続きお楽しみ下さい』
「じゃあ次はこの社会派紳士が光を浴びよう」
「そのまま浄化されたりしてね…… ぷぷっ」
「浴びたら肩こりと一緒に尿漏れも治るかもな」
「あんたぁー!? いい度胸じゃないっ!?」
「タロさん頑張って!」
「頑張る事あるのかな?」
「うぅ…… 気持ちよかったのに……」
「……そんなに気持ちよかったのラヴ?」
「うん! 最高! ネピっちみたくなっちゃう!」
「「 なっ!? 」」
「ちょ、ら、ラヴ姉!? へ、変な事を言わないで!」
「そ、その…… みたくってのは……」
「ん~? なんだ~い?」
「そ、その……」
「ん~?」
(マジで? ラヴ姉さんマジで? ネピアみたく? 漏れ増しの事?)
「ちょっと淫獣!? 黙ってないでさっさと光を浴びる!」
「……淫獣はやめて下さい」
仕方なく光の真下に身体を滑らしていく。俺も快楽まみれになったら皆の前で何かが漏れてしまうかと危惧したが何もなかった。ただ皆の反応はあった。
「「「「 !? 」」」」
「どうした? 何を驚いているんだ?」
「あ、あんた……」
「た、タロさん……」
「ズーキさん……」
「なんだか細かい四角がぼやけていっぱいあるよ~」
「!?」
俺は光に照らされた自分の身体を見る。そこにあったのはモザイク処理された自身の身体。
「おわっ!? なんだこれっ!?」
「……正視できない存在ってことでしょ」
「……新しい絵の技法みたいです」
「しかも光が差し込んでる部分全部ですね……」
「秘密処理されてる~ わ~い! 楽しそう~!」
(俺の未来はモザイクなのかよ…… うぅ……)
「あっ!? もうでちゃうの? おもろかったのに~!」
「……はぃ」
「なんだか不安だけど私いってみる!」
ヘコんだ俺の脇をすり抜けるように、クリちゃんが光の下へと向かう。クリちゃんもまたラヴ姉さんと同じように好奇心で満ちあふれているのかもしれない。そして現れる未来のクリちゃんの姿。
「変わらないね」
「変わりませんね」
「変わらないわね」
「一緒! ラヴ姉さんと一緒!」
「……結構期待してたのに」
『あ~ すいません。クリネックスさんは効果あるようですね』
「え? じゃあクリちゃんは変わらないって事?」
「みたいですね」
「そのようね」
「ラヴ姉さんとクリっちは一緒!」
「身長もっと伸びると思ったのに…… うぅ……」
ガックリと肩を落としたクリちゃんは、迎え出たラヴ姉さんと何故か抱き合って互いをリスペクトしていた。
「なんだか未来の姿を期待していただけに……」
「あまり未来の事は言わないで下さいズーキさん……」
「す、すまない」
「え~ これじゃあ何も変わらないよ~ ズーキくんだけじゃん楽しんだの!」
「楽しんでいません」
「エルモア先行ったら?」
「じゃあ先に行くね」
『お二人は姉妹ですからどうぞ一緒に。少し光を大きくしますから』
「だってさ」
「じゃあ一緒に行ってきます」
「いてくる」
「あまり期待するとガックリくるよ……」
「ラヴ姉さん! 最後に期待!」
館内アナウンスのレイカさんが言った通り、スポットライトのような未来の光が二周り程に大きくなり、ロリフターズが十分入れる程に変化した。その光にロリフターズが包まれ幾ばくかの時が経ったあと、驚愕の未来を目にする事に。
「え……」
「あ……」
「すご~い! すご~い! すご~いぞ~!」
エルモアの身長は激変し俺よりちょっと低い位。今より長くなった髪が大人の雰囲気を醸し出していた。だがそれ以上に妖艶に思えたのは、美しい顔立ちだけではなくその胸元だった。伸びた身長と合わせて大きくなったのか、ラヴ姉さんに勝るとも劣らない優良果実がたわわに実っていた。
(エルモア…… 魅力的過ぎるだろ……)
「綺麗……」
「いい! いいよ! いいんよ~! 二人とも綺麗だぁ~!」
ネピアの身長はエルモアをさらに超えていた。同じく長く伸びた髪を今現在のように縛ってはおらず、いつもと違う髪型だけでも大人びて見える。気になる胸元はエルモアと比べたら小さく感じるものの、そのモデルのような体型から考えると、一番バランスが取れている大きさかもしれない。
(ネピア…… こんなに変わるのかよ…… すごい綺麗だ……)
「私…… これが…… 私……?」
「え…… 本当に……?」
「ネピアっ!?」
「姉さんっ!?」
「「( ギュッ!! )」」
「よかった! よかったです! よかったんですよ!」
「ホント! ホントよ! ホントだったのよ!」
「「( ギュッ!! ) 」」
(抱き合う姿が尋常じゃないくらい絵になる…… マジかよ…… 綺麗すぎるだろ……)
「いいなぁ…… 私はこのままかぁ……」
「大丈夫! ラヴ姉さん! 一緒!」
「そうだね。ラヴがいるもんね」
「いる!」
「「( ギュッ!! )」」
(こちらはこちらで可愛いと思います)
もう止まらないのか、ロリフターズ、風乙女と異種姦純愛苦愛は互いを抱きしめたまま涙を流す。その涙の理由は各々違っていた。
『あ~ すいません。すごく言いづらいのですが……』
(ん? なんだ?)
『あまり変化がないのもどうかと思いまして……』
(変化がない?)
『お二人もこの光が効果なかったみたいなので、お二人の妄想を具現化してみました。それではこの未来の間は終了になりますので、通路の方へ退出して下さい』
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
(触れないでおこう…… 誰しも触れられたくないモノがあるから……)
心の闇を暴かれて、抜け殻のようになったエルモアとネピアに声を掛ける事なく、この未来の間から逃げるように退出していったのである。