第82話 アミューズメントしよう!
「こちらで~す」
「はい」
「……」
「……」
「……」
「楽しみだ~い!」
建物内に入ると途端に大人しくなるエルフの三匹。辺りを伺うように見渡している。俺とラヴ姉さんは変わりなく館長さんのレイカさんに付いて歩く。
「どうしたエルモア? 緊張しているのか?」
「……いえ」
「ネピア?」
「……なに」
「……なんだか大人しくない?」
「……いつも大人しいでしょ」
「……」
「……」
(俺の気持ちを伝えると面倒な事になるな……)
「クリちゃん?」
「はい」
「何かあった? 辺りを見回してさ」
「……その」
「それは私がお答えします」
「館長さん」
「レイカです」
「レイカさん」
「はい!」
「ふんふ~ん? ん~? なんだかあたしも嬉しい気分だよ~」
(異種姦好きじゃないのかよ…… それとも…… 人間じゃないとか……?)
何やら鼻歌交じりで俺と館長さんであるレイカさんを交互に見ているラヴ姉さん。異種姦純愛苦愛なラヴ姉さんに率直な疑問をぶつけてみたかったが、レイカ館長からのご案内があるとの事でそれに聞き入る事にした。
「ここは特別な場所なんです。外界とは違った場所として存在しています。その為、精霊の加護を受けられなくなり、戸惑っているのでしょう」
「精霊の加護が受けられない?」
「そうです」
「え~と。外界と遮断されているのですか? 魔方陣列車のように」
「もっと上位な魔法により隔離されているといった方が適切ですかね」
「何か秘密が?」
「ふふっ。それはどうでしょう? ただ彼女達が不安になる気持ちはわかります。生まれてからずっと側にいた存在が感じ取れないんですから……」
「……そうなのかエルモア?」
「……はい。初めての感覚で戸惑っています」
「大丈夫か?」
「タロさん…… ありがとうございます。大丈夫です」
「そうか」
「クリっち? 大丈夫か~い?」
「……うん。確かに不安はあるけど、みんないるから。ラヴありがとう」
「ん~ん。当たり前の事さぁ~ 心の友だってばさ~」
「ふふっ」
そして大人しい宣言をしたネピアは本当に大人しく、これなら可愛げがあるのになと思う程に、しおらしくなっていた。
「ネピア?」
「……なによ」
「不安か?」
「……別に」
「……全く見当違いの事かもだけど、この世界に飛ばされた時も不安だったよ俺は。だって誰も近くに知り合いがいないんだ。……けどクリちゃんの言う通り、今はみんなが近くにいるから本当に安心している。ありがとうな」
「……うん」
「優しいですね」
「今だから言えますけど、不安だらけでしたよ。けど一人じゃなかったから……」
「……そうですね。一人は……寂しいです……」
(言葉に重みを感じる…… 言霊に乗るその事柄…… そうとう大変な思いをしてきたのだろうな……)
そう考えいていると、俺たちがここに来る事によって彼女達が救われると言うなら、これ程に嬉しい事も無い。そして彼女……レイカさんも最初は一人だったのだろうが、今は仲間だろう二人がいる。だからこそ余計一人の時の寂しさを思い出してしまったのかもしれない。
「……と、せっかく来て頂いたのに、暗い気分にさせちゃいましたね」
「そんな事はありません。むしろ、今の状態が俺にとって大変喜ぶべき事なんだと再認識しました」
「ふふっ。仲がよさそうですもんね?」
「はい。何せ滅多に見られない、ちんちくりんで暴虐モレモノのマーキングエルフであるネピア嬢がこのような、しおらしさとは……」
「……喧嘩売ってんの?」
「いえいえ。精霊の加護が無ければ不安に満たされて、大人しくなっちゃう可愛らしいエルフが見れただけで、十分満足でございます」
「「「「 !? 」」」」
「え~? 告白ぅ~? ね~? 精霊が祝福できないところじゃネピアっちが可哀想だよ~?」
「いえ。弱体化した今が好機なのです」
「……」
「それは…… もっしっかっしって!? いきなりしっぽ(むぐぅ!?)」
「(ちょっとラヴ姉さん!? しっぽりとか禁止! 淫靡なセリフは禁止ですっ!)」
「(でもぉ~ ラヴ姉さん本当に嬉しいっ! 行動的なズーキくん最っ高!)」
(この人の純愛基準がマジで分からん…… 弱ってる所に攻め込んでOKなのかよ……)
「本当に幸せそうで良かったです」
「幸せです」
(ネピアの野郎からアドバンテージを取ってる今! 俺は最強最高の社会派紳士としてこのアミューズメントを支配している…… はっはっはぁ!)
多少人間としてどうかと思う所も全く無かった訳ではないが、あまりにもしおらしいネピアを見て焚き付けたくなった自分もいる。そんな言い訳を頭の中でグルグルと回していると、目の前に大きな扉が現れる。どうやらここが最初のアトラクションのようだ。
「はい。お待たせしました。こちらは未来の間になります。」
「未来の間ですか?」
「はい。楽しんで下さいね」
「わ~ 楽しみ~ なんだろ~?」
(はしゃいでるなぁラヴ姉さん)
「あ、そうか百クイーンでしたよね一人。それでは五百クイーンどうぞ」
「はい。ありがとうございます」
「あ、タロさん。自分の分は自分で払いますよ。まずまとめて払って貰った入場料から……」
「それには及ばないよエルモア君。ここに来るまでにクエルボちゃんをいっぱい頂いたしね」
「でも……」
「いや本当に大丈夫だ。正直迎え酒したのは良かったと思ってる」
「そうですか。分かりました。ご厚意に甘えさせて頂きます」
「うむうむ」
あれだけクエルボちゃんを頂いた割には偉そうな物言いではある。だが俺はその時初めて気がついた。
「なぁエルモア?」
「はいタロさん」
「酔い…… 覚めてないか…… 俺だけか……?」
「あ…… 本当ですね…… 精霊の事ばかり気にしていたのですっかり……」
「……本当ね。どうしてかしら?」
「……私も意識が凄いハッキリしてる」
「ん~?」
(ラヴ姉さんだけは分からないな)
「それはですね。この場所がそういった場所だからですよ」
「そういった場所?」
「みなさん能力を上げに来たんですよね?」
「……この二人だけですがね」
「……そうなんですか?」
「はい。みんなを付き合わせちゃっています」
「クリちゃんとラヴ姉には申し訳ないわね」
「いいよいいよ気にしないでネッピー。私も楽しみだもん」
「そう! ラヴ姉さん! 楽しみ!」
(ふふっ ステータス低下した哀れなエルフがネピアよ。そうやって俺様のEXゲージを貯める言動をし続ければいいさ。ははっ)
「最大限個人の能力が発揮出来るように、ステータス異常は取り払っています。ですが、あくまで個人の能力についての施設ですので、精霊との干渉は遮断させて頂いております」
「なるほど」
「え~ そうしたら、このアミューズメント施設の前で泥酔するまで飲んでも、入館したらリセット!? すご~い!」
「……名案ですねラヴさん。ここならクエルボちゃんショットグラス未使用バージョン・オール明けテンション瓶一気飲みが昼夜問わず連続展開出来るという訳ですか!?」
「絶対身体壊すぞ」
「ははは。それは凄い考えだねエルちゃん」
「……正直繰り返しそのようにしたらどうなるかは分かりませんよ? あくまでイレギュラーな場所なんです」
「夢という現実が今ここに!?」
「サー! サー! サー!」
「……大量に清酒持ってこようかしら」
「……ネピアもかよ」
「だって好きなだけ飲めるのよ?」
「好きなだけ飲んでるだろ?」
「……足りない」
「……もう血管に直接ブチ込んだ方がいいんじゃないのか?」
「変わった飲み方があんたの世界ではあるのね」
「色々な奴がいるのは確かだろうけどな。逢った事はない。むしろ逢いたくない」
「そうね。舌で味わえないなんて人生五分の四は損してるわ」
「俺も喉は通したいよ」
「タロさん!? タロさん!?」
「なんでしょうか? エルモアさん?」
「これはサクッとレベルアップして本来の目的に戻りましょう!」
「あ、あぁ」
(本来の目的がレベルアップなんじゃないのか…… 永久の宴が目的へと上書きされた……)
「それでは皆さんどうぞお入り下さい」
「はい。それでは行ってきます」
「瓶だ瓶だ~!」
「あ~ モコ殺し飲みたいな~」
「はっ!? ご飯も食べ放題!? BBQ! BBQ! B!B!Q!」
「BBQはいいね~ いっぱい食べても気にしなくていいなんて最高かもね~」
思い思いの希望を胸に秘め、未知なる部屋へ続く道への価値を見いだす。そうして始まる「不思議な森一丁目」という俺にとって大切なイベント。だが既にクエルボちゃんに陶酔しきっている、狂酔戦士エルモアンの気を引く事は可能なのかは女王様のみぞ知る。