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第81話  入場受付をしよう!



「じゃあお客さんの所に戻るから用意よろしくね!」

「あいよ~」

「まかせろ!」


 嬉しそうな足取りとはこの事だろうか。軽やかなステップから発せられる爽やかなメロディ。どうやら俺までメルヘンでファンシーな気分になってしまう。


「お待たせしました!」

「いえいえ」

「いらっしゃいませ! 不思議な森一丁目へようこそ! 当館の受付兼館長をしておりますレイカと申します」

「これはどうもご丁寧に」

「お客様は当館の入場条件を満たしておりますので、お一人様千クイーンが入園料となります。各アトラクションをご利用の際は一人百クイーンの料金がかかります」

「はい。じゃあまず五千クイーンですね。どうぞ」

「ありがとうございます。それでは…… あ……」

「?」


 魔法士な格好をしている上に三角帽子を被っていた事、そして最初の対応が嵐のようだったので気がつかなかったが、俺はこの娘を見た事があるような気がした。そして彼女が言っていた女子中二学生。俺は雲がかった記憶を晴天にするように頭を回転させるが、どうにも雲が晴れない。この世界に来て時間が経過する程に、この世界に馴染むような感覚がある。そしてそれと同じように以前の世界の記憶もまた朧気になっていく。


(全てを忘れた訳では無い。こうなにか人との繋がりが希薄というか、そういった以前の世界の記憶の結びつきが弱まっているように感じるんだ)


「あの……」

「はい」

「もしかして……」

「はい」

「……なんでもないです」

「はぁ」

「え~? なになに~知り合い~? ん~?」

「あぁ…… なんだかどうにも思い出せないんだけど…… そのような……」

「……覚えているんですか?」

「え……」

「いえ…… なんでもありません…… さぁ、行きましょう! あちらの入り口からどうぞ!」


(気になる…… 勿論あの娘の事も気になるのだけど…… どうして以前の世界の人の顔が朧気なんだろうか…… 物や動物なんかは…… ハッキリしてるのに……)


「え~? もしかして以前の世界の彼女か~い?」

「「「 !? 」」」

「どうなんだろう?」

「「「 !? 」」」

「……彼女の事を忘れるなんて。そうかい。そういう事かい?」


(あっ!? ヤバいっ!? 純愛ルートから足踏み外したっ!?)


「待って!? 待ってラヴ姉さん!?」

「……最後の言葉くらい聞こうじゃないか」

「……正直本当に分からないんだ。以前エルモアとネピアには瞑想する事でこの世界との結びつきを強くするなんて話はした。もしかしたら本当に結びついて以前の世界の記憶というか…… なんていうんだろう…… その…… 人との…… 繋がり……? そういった事柄が俺の記憶から向こうへ流れていってしまっている感じがするんだ…… いや…… それとも俺じゃない俺が体験した世界……?」

「そうかい。……どうやら本当にそう思っているみたいだね。他は大丈夫かい?」

「そうだな。これもあくまで俺の感想だけど、この世界に定着しているような感じは実際する。ただそれが事実なのかは分からない」

「……ハッキリした事は言えないけど、あんたがそう思っているならそうかもね。ここはちょっと特殊みたいだから、精霊もざわついてはいるけど、そのように言ってるわ。まぁ安心しなさい。あんたが瞑想の時に言っていた以前の世界から引き戻されるような事にはなっていないっていう証拠でしょ」

「私もネピアに賛成するよ。タロさん? 向こうの世界の記憶に靄がかかって寂しいですか?」

「……大丈夫さ。今はみんながいるから」

「ズーキさん…… 元気出して下さいね」

「あぁ! クリちゃんの膝枕があれば記憶くらいあげれるさ」

「……本当に記憶消してやろうかしら」

「……強制抹消は止めて下さい」


(でも…… でももなにもないな。俺が言った通りだ。今はみんながいる。けれど、なにか…… なにかが…… 忘れちゃいけない…… なにか…… はぁ……)


「でもズーキくん?」

「なんでしょう? ラヴ姉さん?」

「あの眼差しは完全に乙女さ!」

「「「 !? 」」」

「色々な状況が重なって本来体験出来ない世界転移を行ったとしても…… 乙女の純情を忘れるような事はあってはならないね……」

「はぃ……」

「まぁこればっかりは、仕方ないのかもしれない。でも、今は目の前にいるんだ。大事にしてあげるのさ。これも何かの縁だ」

「はい」

「いやぁ~ ズーキくんは色恋沙汰が多いねぇ~ え~?」

「それは無いわねラヴ姉」

「なっ!?」

「こんな淫獣が色恋なんて出来るはずないでしょ? あったとしてもただの一方通行。ぷぷっ」

「……これ以上俺の傷口を広げないで下さい」

「いや」

「オラぁ!? やめろって言ってんだろ!? あっ!?」

「夫婦漫才はとりあえず置いておいて行くよ~」

「……絶対後悔させてやるからな」

「やってみれば?」

「……」

「……」

「あの~?」

「なんでしょうか? エルモアさん?」

「彼女なんですか?」

「「「「 !? 」」」」

「いぇ」

「彼女じゃないんですか?」

「いぇ」

「どっちなんですか?」

「……すいません」

「……」

「……」


 謝る事しか出来ない不甲斐なさを感じるものの、本当に分からないので答えようはない。だがハッキリ答えないと、エルモアとの距離がまたもや遠くなってしまうような気がして、なんとかしてやろうとも思った。


(しかし…… 出会った気はする…… 元の世界で…… ただ、靄がかかった記憶の中でも互い違いのような不自然さがあって、どれも夢のように感じる……)


 他の記憶を辿るが、それはなんとなく思い出せる。ただ彼女との記憶がどうしても一致しない。真実、偽り、全てがミックスされたようになってそれが濁っているかのようだ。


「早く~!」

「ラヴ姉さんは元気だな……」

「ズーキさんも元気出して下さいね。その、私たちいますから。ここに」

「あぁ…… ありがとう。本当に嬉しいよ」

「はい」

「……あんまり隙見せると駄目よクリちゃん」

「ネッピーだって心配してるのに」

「なはっ!?」

「本当か? クリちゃん?」

「はい。だって(もごっ!)ん~! ん~!」

「クリちゃん? 私は心配なんてしてないわ。心配しているのはクリちゃんの貞操だから。わかったかしら?」

「(うんうん)」

「よろしい」

「ネピアも心配してるの?」

「……してない」

「私は……」


(エルモアはいつだって俺の味方さ。いつだって心配してくれているんだ……)


「……どうなんでしょう」

「なっ!? え、エルモアっ!? どうしって!? 俺!? 心配でしょっ!? ねっ!? 心配!」

「はぁ」

「エルモアぁ~ どうして……」


(やっぱ体験版エルフゲームが、エルモア正規ルートから外れた要因なんだ…… どうしたら元に…… まてよ……)


 俺は真剣に考えた。クリちゃんは既に膝枕OKの所まできている。もしかすると、クリちゃんルートに進行中なのかもしれない。だが俺はどうしてもエルモアの事が気になってしまう。


(クリちゃんルートを模索しながら、エルモア正規ルートへ戻す事は出来ないのか……)


 出来るはず。何故ならこのアミューズメント施設は完全にイベント。紛う事なきイベント中のイベント。ここでエルモアとの仲を取り戻す事が出来る可能性大。


(よし。エルモアがくっついて離れないくらい好感度を上げてやる…… そしたら、俺もよしよしをしてやるんだ…… ふふっ ははっ)


「さぁ! 皆の衆! 参るぞっ!」

「参ってるのはアンタでしょ……」

「くっ」

「さぁ行こ。エルモア。クリちゃん。ラヴ姉は先に行っちゃたよ」

「そうだね」

「いこうか」


 そうしてついに始まるエルモア正規ルートへの道筋。ただ、それを思っていたのは俺だけで、世界がどう望んでいるのかは知るよしも無かった。











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