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第79話  不思議な森駅に到着しよう!



「クリちゃん?」

「……」

「そっとしておいておきなさい」

「……そうだな」


 あれから怒濤のクエルボちゃんをお見舞いされたクリちゃんは、安らかな寝息を立てながら魔方陣列車で就寝していた。


「「 チョリ-ッス(ッス)!! 」」

「……もうエルモアとラヴ姉さんは止まらないな」

「列車は停まってるけどね……」

「「 はぁ 」」


 唯一まともなネピアと共に大分キツくなってきた酔いに身を任せる。到着まで三分の一といった時間ではあるが、それでもまだ時間はある。何気なしにネピアを見ていると気がついた事があった。俺の話は聞いているものの、何やら微妙な動きをしている。


「なぁネピア」

「……なに」

「飲み過ぎたな」

「……そうね」

「飲み過ぎたらどうなるんだろうな」

「……クリちゃんみたくなるでしょうね」

「……」

「……なによ」


 俺には分かっていた。もうネピアの膀胱はマックス決壊近々だろうと。だからあえて率直に言葉に出す。


「ここは防水なのか?」

「防水? 雨が降ったって車内は大丈夫よ……」

「そうじゃない。車内からは大丈夫なのか?」

「車内? 別に大丈夫でしょ……」

「そうか。なら安心だな」

「……」

「……」


(まだ気がついていなようだな。俺にはもう分かっている事を。俺は超男女平等主義者。攻撃の手は緩めない)


「ほら。お前だけが今はまともなんだ。話し相手がいなくなったら困るからな。飲めよ水」

「……いらない」

「ん? なんでだ?」

「……なんでもいいでしょ」

「でもよ。取り残される俺の気にもなってみろよ。どうせまたエルモアがネピアにクエルボちゃんの瓶を渡してくるぞ。な? 今のうちに水分補給しとけって」

「……いらない」

「……」

「……」


(もう少し気遣う感じで居たたまれなくさせてやるか……)


「お前が酒に強いのは知ってるよ。だけど、水分を取らないと身体には毒だろ? お前が身体壊してしまったら悲しいぞ」

「それは…… そうだけど……」

「ほら。飲んどけって。俺に心配させるのがエルフのやり方なのか?」

「ち、違うわよ…… た、ただ……」

「ただ?」

「……なんでもないわ」

「なんだよ…… そんな事を言われたら余計心配なんだけどな……」

「……大丈夫よ。……でも心配してくれてありがと」


(……正直自分がクズに思えてきたが、ここで畳みかけないと失禁しない。くっ、なんという事だ。あぁ、女王様よ…… ネピアが大いに失禁しますように……)


「「 チョリ-ッス(ッス)!! 」」

「(ぷるぷる)」


(こいつもう限界だな…… 放っておいても祈願は達成するか……)


「ネピア~!」

「ネピアっち~!」

「「「 (ギュッ!) 」」」

「あっ!?」

「どうしたの~? ネピア~?」

「どうしたんだ~い? ネピアっち~?」

「ちょ、ちょっと。い、いきなり抱きつかないでっ! は、離れてよっ!」

「「(シュン)」」


 がっくりと肩を落とすようにうな垂れる二匹の幼獣ならぬ酔獣。俺は内心ほくそ笑んでいた。間違いなくネピアは涙を流した。量はどれ程だろうが、それは紛う事なき事実。俺は追い打ちを掛ける為にネピアに声を掛けながら肩に触れる。


「どうしたんだ? ネピア?」

「 !? 」

「なぁ? どうしたんだって?」

「さ、触らないでっ!」

「おいおいどうしたんだよ? お腹でもいたいのか? ほらお腹出してみろよ。さすってやるから……」

「こ、こないでっ!?」

「ん~? なんだよ~? え~?」

「いやっ!? 止めてっ!?」


(うわぁ~ クッソ楽しいぃ~ ドンドン溢れさせてやるぞ~ へへっ)


「ほらぁ~ おなかぁ~ おなかぁ~ (ズンっ!) うっ……」


 そうしてすっかり忘れていた鳩尾みぞおちを一発これ程無く喰らい、クリちゃんと同じように地にひれ伏すのであった。





「ご乗車ありがとうございました。終点不思議な森です。お忘れ物ございませんようご注意下さい」


「ほら起きろ淫獣っ!?」

「あべぇ!?」

「ん…… 着いたの……?」

「「 チョリ-ッス(ッス)!! 」」

「あれ……? 俺……? 膝枕が……? 無い……?」

「あんたぁ~? 私に何しようとしてたのっ!?」

「……膝枕」

「ちょっと聞いてるのっ!?」

「膝枕…… 膝枕ぁーーー!?」

「「「「( ビクゥ!? )」」」」

「エルモアっ!? どうしてっ!? どうしって!?  なんで膝枕してくれていないんだぁ!?」

「タロさん……」

「エルモアぁ……」

「膝枕は当分禁止項目に致します」

「なっ!? 何故ゆえにっ!?」

「距離が近すぎます」

「そんなぁ…… うぅ……」

「ぷぷぷ」

「てめぇ!? ネピア!? 車内失禁した癖に生意気だぞっ!?」

「なっ!? してないっ!? 私、車内失禁なんてしてないっ!」

「いんやぁ~? この社会派紳士には丸わかりですぅ~ 抱きつかれた時、そして俺に肩を叩かれた時。少なくとも二回は漏れているハズ。ネピア嬢特殊言語を使用すれば二滴の涙が前面に展開しアンダーウェアに水分をもたらしたのは紛う事なき事実っ!」

「なっ!?」

「人の事を笑ってられるのか? えっ?」

「(ゴォォォ)」


(くっ…… 炙りのネピアめ…… 瞳をメラって威嚇してやがるぜ……)


「あの~?」

「なんだいクリちゃん?」

「膝枕って?」

「あぁ…… あの尿漏れネピアの野郎に気絶させられた後には、エルモアが膝枕をして俺をいたわってくれていたんだ。なのに…… なのにぃ~」

「……タロさん」

「ほらエルちゃん? ズーキさん悲しんでいるよ?」

「で、でも」

「でも今までしてあげていたんでしょ?」

「う、うん」

「なら膝枕ぐらいしてあげたら?」

「だ、だけど」


 俺は聞き逃さなかった。「膝枕ぐらい」というクリちゃんの言葉を。そうして俺は第二の膝枕要員になるであろうクリちゃんに畳みかける。


「……いいよクリちゃん。無理強いは出来ない」

「ズーキさん……」

「タロさん……」

「チョリ-ッス!」

「エルモアの事は諦めるよ……」

「タロさん……」

「世代交代だと思う。そういった時期にきているんだ」

「世代…… 交代…… ですか?」

「そうさ! クリちゃん! 君だよっ!?」

「えっ!?」

「膝枕ぐらいって言うくらいなんだ。クリちゃんにとっては大した事ではないという現れ…… なら俺もそれに預かろう…… ささっ。こちらで」

「おい淫獣」

「なんだモレモノ」

「この私を差し置いて随分と楽しい話をしているな?」

「ははっ。なんだ? 仲間に入れて欲しかったのか? だが残念。膝枕をしている時に頭と背中を濡らす訳にはいかないもんで…… おわっ?!」


 酔いが一瞬で吹き飛ぶような殺気と共に、ネピアの拳が舞う。俺もそのまま舞ってしまうかと思ったが、攻撃を躱す事に成功。


「私自ら膝枕をしてやろう…… 貴様の亡骸を抱くという優しさを持ってな……」

「……」


(マズいな…… 次は躱せそうに無い…… どうする……?)


「まて。返答を聞かずして死ぬつもりは毛頭無い」

「……なんの返答だ?」

「クリちゃんの気持ちさ」

「「 !? 」」

「チョリ-ッス! うぇ~い!?」


(ラヴ姉さんのアホ加減が上手くいかなかった時の救いになるか?)


「どうなんだい? クリちゃん?」

「え、そ、その……」

「俺はクリちゃんが膝枕してくれたら…… 嬉しいよ……」

「「「 !? 」」」

「さぁクリちゃん。俺を救えるのは君だけさ……」

「わ、分かりました…… そ、その…… そうなったら…… します……」


(よっしゃーーー!? オラぁ!? 膝枕確定祭り決定っ!?)


「「 !? 」」

「ネピア。そういう事だ。部外者は大人しくしてろ」

「なっ!? ちょ、ちょっとクリちゃん!? だ、駄目よ!? こんな淫獣に膝枕なんてしたら一生モノの傷よっ!?」

「そ、そんな事はないと思うけど……」

「駄目よっ!? ちょっと隙を見せたら、どこからでも入り込んでくる淫獣なのよ!?」

「そ、そうなのかなぁ?」

「気にしないでクリちゃん。ネピア嬢は漏れ後は荒れるんだ」

「あんたぁー!?」

「まぁ君はそこで息巻いていればいい。これは強制ではなく、クリちゃんの判断。俺たちがとやかくいう事ではない。さぁ目的を果たす為にいざ出陣!」


 そうしてネピアの追撃を微妙に気にしつつ、前進する社会派紳士。俺はクリちゃんの膝枕を夢見つつ、そしてその夢を叶える為にはネピアの野郎の鳩尾みぞおちネピパンチを受けなければならない事実に辟易するのであった。











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