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第76話  五人酒と洒落込もう! その3



 努力の結晶日焼けエルフから頂いた清酒を皆で頂き、その瓶が空になる頃に俺はクリちゃんに一つ質問を投げかけた。


「そういやさ。クリちゃんは走り屋を続けるの?」

「そうですね~ メンバーもいないですし、エルちゃんもネッピーも戻ってきたから新しい事でもしようかな~ なんて思ってます」

「なにするの?」

「エルちゃんもネッピーも、この精霊の国から一度とは言え出た訳ですから、私も旅でもしてみようかと」

「クリっち~ あたしと離れちゃうの~?」

「ううん。いきなりいなくなったりしないよ。私だってラヴと一緒にいたいもん」

「クリっち!」

「ラヴ!」

「「(ひしっ!)」」

 

 仲睦まじい種族を超えた繋がりがここにある。俺はこの瞬間を見れただけでも数年は暮らせるだろう気持ちになった。でもラヴ姉さんにクリちゃんは渡さない。


「エルちゃんとネッピーはどうするの? ズーキさんは?」

「俺は二人と一緒に住むよ」

「「「「 !? 」」」」

「何を驚いてんだよ。誘ってくれたのネピアだろ?」

「わ、私は誘ってないわよ!」

「そうだっけ? エルモアだったか?」

「そ、そうでした……」

「なんでちょっと言い淀んでるの?」

「いえ。淀んでいません」

「淀んでたよね?」

「いえ」

「本当?」

「いえ」

「どっちなの?」

「……すいません」

「はぁ」


 いつもと逆に、俺がエルモアを問い詰めるような形になってしまった。もしかすると体験版エルフゲームの事から、一緒に住む事を考え直しているのかもしれないと思ってしまう。


「嫌か?」

「そんな事はありませんよ」

「ならネピアはどうだ?」

「……断ったらどうするつもり?」

「……一緒にいさせて下さい」

「仕方ないわね。一緒にいてあげるわ感謝しなさい」


(クソッ! この上から目線はっ!?)


「じゃあ決まりな。ちなみにエルモアとネピアはどうするんだ? レベル上げだっけ? それはもういいのか?」

「……」

「……」

「ん~? どうしたんだ~い?」

「エルちゃん。ネッピー。まだレベル上げるの?」

「……正直これで許してくれるか分からないってのが本音ね」

「……足りないと思う」

「なんだ? 許す?」

「色々あるのよ…… はぁ……」

「……やっぱり何かをプラスで得ないと」

「……よく分からんが、一緒に出来る事ないのか? なんだか置いてけぼりで寂しいぞ俺は」

「気持ちは嬉しいけど…… 一緒にレベル上げって言ったって……」

「そうだよね…… みんなもいるし…… タロさん…… ラヴさん…… クリちゃん…… あっ!?」

「どうしたのエルモア?」

「ネピアっ!? あれっ! タロさん!」

「タローがどうしたのよ」

「タロさんは人間!」

「そうね」

「ラヴさんも人間!」

「そうね」

「私たちエルフ!」

「……どうしたの?」


 するとエルモアはその場で立ち上がり、自身の脳にあった深い記憶から、その言葉を思いっきり引き上げたように声に出す。


「不思議な森一丁目!」

「あっ!?」

「ふしぎな…… あっ!?」


 エルモアはもちろんの事、ネピアとクリちゃんもその言葉を知っていたようだ。俺とラヴ姉さんは互いに顔を見合わせるが状況を理解出来た訳ではない。


「そうねっ! それならっ!」

「うんっ! いけるよっ! これならレベルどころか、もしかしたら魔法具だって!」

「良かったね! エルちゃん! ネッピー!」


 喜ぶ三匹を尻目に、俺とラヴ姉さんは互いを見つめ合っていた。口を開け間の抜けたラヴ姉さんの顔ではあったが、その顔立ちと綺麗な瞳に映るのは紛れもなく俺の顔。


(やっぱりラヴ姉さん可愛いな。これで逆鱗スイッチが敏感でなければなぁ…… そして純愛の定義も未だ全容は把握出来ていない…… はぁ……)


 場違いな考えをしていると、テンションのあがった三匹の内一匹が、店員さんを呼び止めて何やら注文をしていた。俺は分かっていた。何を注文したとかそういった訳では無い。これからの流れが分かっただけだ。


「「 チョリ-ッス(ッス)!! 」」

「え? なに? ちょ? す?」

「「 チョリ-ッス(ッス)!! 」」

「「「 チョリ-ッス(ッス)!!! 」」」


(終わった…… 始まってもいないのに終わった……)


「お待たせしました~ クエルボのフルオンスペシャルとショットグラスで~す」

「サー!」

「よっし! 今日は飲むわよ~!」

「私もいっぱい祝って貰ったから今度はお返しだね~」

「なんだかよくわからないけど~ 飲むなら飲むよ~ わ~い!」


 俺は既に頭が痛くなっていた。これから行われるエルモアを主導とした地獄のテキーラ、クエルボちゃんショット連続飲みのベース増し増し耐久レースが始まるからである。


(……だがそれがどうした? 見ろ彼女達の顔を? あれ程までに嬉しそうな表情…… これは社会派紳士として答えてやらねばなるまいて……)


「エルモアっ!?」

「サー!」

「ライムは極上かっ!?」

「サー!」

ソルトの用意はっ!?」

「サー!」

「ショットグラスにクエルボは入れたなっ!?」

「サー!」

「……無論ベースは増し増しだな?」

「サー! サー! サー!」

「オラぁ!? もう止まらねぇぞ!? 行くぞっ!? 風乙女ウインドメイデン! ロリフターズ! 異種姦純愛苦愛いしゅかんじゅんあいくらぶ! そしてこの俺様っ! 社会派紳士の屋根裏純愛組やねうらじゅんあいぐみ!」

「「「「「 (パクッ)(クイーッ)(ペロッ) 」」」」」


(くっはぁ~!? 効くわぁ~!?)


「さぁさぁ皆さんどうぞどうぞ。クエルボちゃんが飲んで欲しそうに見つめてますよ?」

「「「「「 チョリ-ッス!!!! 」」」」」

「「「「「 (パクッ)(クイーッ)(ペロッ) 」」」」」

「うぇ~い! アホ丸出しだけどアホだも~ん!」

「いやぁ~ やっぱエルちゃんの好きなクエルボはシャキッとするね~」

「クエルボちゃんはお利口さんで頑張り屋さんだからね~」

「そうだね~」

「「 ね~ 」」

「あ~ わたしも~」

「「「 ね~ 」」」

「まって~ あたしも~」

「「「「 ね~ 」」」」

「うぇ~い 俺も~」

「「「「「 ね~ 」」」」」


 五匹そろって椅子に座りながら、上半身を同じように傾けて声を発する仲良しさん。連続で二杯入れただけでこの高揚感。そしてこれはまだ序章でもある。これからパンチの効いた酔いが前進し、血液を周り全身を狂酔へと導く。


「あ~ そうそう~ これ~ みんな飲んでね~」

「なんだ~い?」

「あ~ クリちゃ~ん ありがと~」

「クリちゃん! あんがと!」

「この黒丸はなんだ?」


 手のひらサイズの小さい瓶から出てきた黒い玉。それをクリちゃんが皆に三つずつ渡す。


「これはですね~ 精霊の国に伝わる胃腸薬なの~ その名も正論丸せいろんがん!」

正論丸せいろんがん?」

「これ飲んどけば間違いないって事よ~」

「これアドリード王国に無かったから、二日酔いが大変だったね~」

「へぇ~ これあれば二日酔いにならないのか~」

「便利ぃ~」

「タローが使ってたレタツーも良かったけど、これは別格よっ!」

「それでも飲み過ぎたら二日酔いにはなりますけどね~ ははは~」

「限界の向こうは無限大です! さぁさぁ皆さんどうぞどうぞ! このクエルボちゃんで正論丸を流し込んで下さい!」


(一瞬ちょっとクエルボで流し込むのは、おかしくないかって思ったけど…… そんなの杞憂だっ! うぇ~い!)


「「「「「 (パクッ)✕2 (クイーッ) (ペロッ) 」」」」」

「「「「「 チョリ-ッス!!!! 」」」」」

「「「「「 あははははははは!!!!! 」」」」」


 どの国へ行ってもどの世界にいても、俺たち五匹は同じように飲み、同じように過ちを繰り返して行くのだろうと知るのは、エルモアが追加のクエルボを注文していた時には気づかなかったのである。











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