第75話 五人酒と洒落込もう! その2
「さっきの話なんだけど、二人はどうしてフルオンからいなくなっちゃったの? ズーキさんと出会うまで何してたの?」
「……」
「……」
「どうしたんだ~い? 黙っちゃって~?」
どうにもこうにも話したくない事実があるようだ。彼女らはどうしてだか奴隷として商人に連れられていた。どうやらその事もクリちゃんには話していないようだ。そしてその状態を救ったのが俺。
(まぁ、アウロ達のおかげだけどな。あとヒポか)
「ま、まぁ、ね?」
「う、うん。色々あって」
「……」
「ふ~ん?」
意外に引く気は無いのか、クリちゃんが怪しむような顔をしながら二人を見つめる。ラヴ姉さんは酒さえ飲めればいいのか、さほど興味がないようだ。
(クリちゃんは二人の親友だしな。俺が立ち入る話しでもないか)
「ズーキさん?」
「はい」
「何か知ってます?」
「いえ」
「本当?」
「いえ」
「どっちですか?」
「……」
俺は思った。思わせぶりな対応をする事によって、クリちゃんとの関係を立ち上げる事が出来るのではないかと。肝心の二人は探られたくないのか、そっぽ向いているという絶大なるチャンス。
「(クリちゃん。ここではマズい。いずれ二人で……)」
「(分かりました。その時はお願いしますね?)」
「(あぁ…… もちろんだとも……)」
「(ふふっ)」
「(ははっ)」
(よっしゃぁ!? 完全個室貸切プラン発動!?)
「ズーキくん?」
「……なんでしょうか? ラヴ姉さん様?」
「様? まぁいい。なんだか嫌な気を感じてね……まさかとは思うけど……」
「まさかですよ? ラヴ姉さん? クリちゃんの奢りで気兼ね無しに飲めてないんじゃないですか? 致し方ありませんね。この私、社会派紳士もラヴ姉さんの分を多少ですが出しましょう!」
「えっ!? ホントっ!? ホントかいっ!?」
「もちろんですよラヴ姉さん。大事な仲間ですから」
「やった~! 酒場のお姉さ~ん! 追加ぁ~ 追加ぁ~」
「は~い」
(そういやラヴ姉さんも元は酒場の店員さんだったよな……)
なんとなく初めてあった時のラヴ姉さんを思い出す。とても妖艶でお姉さん気質があるものの、とても小柄なので親しみやすさがあった。だが侮れないのはいきなり変なスイッチが入る所だ。下手すると止められる。息の根を。
(可愛い娘だと思ったんだけどなぁ)
その気持ちをフルで裏切られた社会派紳士。だからどうしても完全個室でクリちゃんと一体化したいのである。
「じゃ、じゃあかんぱ~い!」
「か、かんぱ~い!」
「……」
「かんぱ~い! やっほ~い! 追加ぁ! 追加ぁ!」
「うぇ~い!」
(クリちゃんが、完全に疑いの眼差しで二人を見ている…… だが、その目も可愛いっ! うぇ~い!)
一人乗り切れないクリちゃんを見つめ続けていると、一つ考えが浮かぶ。先ほどまでクリちゃんを飲ませるとネピアが勘ぐり、強制的にエルモア正規ルートもとい、クエルボ増し増し狂酔ルートへ移行していた。だが、今はその分岐ポイントを操作するネピアの動きに支障が出ている状態。これはチャンス。
「さぁさぁクリちゃん? 祝賀会のメイン様なんだから盛り上がっていこう! な? ネピア?」
「あ、う、うん」
「な? エルモア?」
「は、はい」
「ラヴ姉さん?」
「なんだ~い?」
「もっといいの飲みたくないですか?」
「えっ!? いいのっ!?」
「俺、ちょっとラヴ姉さんに厳しすぎましたよ。お詫びといっちゃなんですが、本日の飲み代は俺が払いますんで、気にしないで飲んで下さい」
「わ~い! ズーキくん大好きさぁ~! 店員さ~ん! 追加ぁ!?」
「は~い」
そうして現れる愛想のよい店員さんに、良さげな清酒をラヴ姉さんと一緒になって聞く。多少値は張ったものの、別の意味で十分回収出来ると考えて注文した。
「本日は風乙女の祝賀会。クリちゃんには気持ちよく飲んで貰う為にも、この社会派紳士が身銭を切りますっ!」
「「「「 お~ 」」」」
そうして現れる清酒の名前は「風姉妹」。ラヴ姉さんと選んだこの清酒は、高めの値段と名前だけで決めたという勢いだ。
「おいしそ~」
「ホントだ~」
「いいね~」
「やっほ~い」
「……いいだろ? 名前もさ?」
「ありがとうございます! ズーキさん!」
「さぁさぁ皆で乾杯しよう」
(自然にクリちゃんに飲ませられる流れになってきたな)
「じゃあ何回でもやるけど、クリちゃん本当におめでとう~」
「ありがと~」
「「「「「 かんぱ~い! 」」」」」
(風が頬を撫でるような滑らかな飲み口。美味い)
「うん! おいしい!」
「おいしいわね!」
「おいしい!」
「「「 ね~ 」」」
すると久しぶりにと言うか、精霊の国で初めて見た「ね~」だった。クリちゃん、ネピア、エルモアとも椅子に座っているので、上半身のみを皆で同じ方向へ傾けて、同じタイミングで声も掛ける。
ちなみに、これは立っているバージョンもある。腰に手を当てたり、両腕を閉じたり開いたり、つま先を上げたり下げたり、色々変化があるのがこの仕草のよい所である。
「あ~ あたしも一緒にやりた~い!」
「「「「 ね~ 」」」」
「俺も入れてくれ~!」
「「「「「 ね~ 」」」」」
(充実なる一体感)
「「「「「 かんぱ~い! 」」」」」
風姉妹なる清酒を皆で頂き、場も盛り上がりを見せる頃には、酒場ポポタンの席も埋まりつつあった。そんな中、あるエルフの集団が店に入ってきた。そしてその集団の中にいた一人の娘に目を奪われる。
(あれは…… ダークエルフ……?)
自ずと知れた褐色の肌を持つエルフ種族の一つ。だがこの異世界ではどのような位置づけなのだろうか。そのような考えを持ちつつ、風姉妹をお猪口で頂いていると、案の定に疑惑の眼差しを向けてくる、ちんちくりんエルフがネピア。
「……あんたって本当に淫獣よね」
「……女性を見るだけで淫獣は止めて下さい」
「彼女が気になるんですか?」
「あぁ。初めて見たからな。だが、あまり見るのも失礼だよな」
「ん~? ズーキくんは彼女が気になるん~?」
「……そんなに気になるんなら、話しかければ?」
「……ちょっと女性にいきなり声をかけるのは」
「まぁ、あんたが声かけたら事案よね。ぷぷっ」
(ネピアの野郎…… お前が酒飲んでるのが事案だっての……)
「ズーキさん? 彼女とお話したいんですか?」
「え、いや、その……」
「お~い! ね~ね~?」
「なっ!?」
(ラヴ姉さん!? いきなり声かけたぞっ!?)
「わたし?」
「そ~う! 一杯奢るからちょっといいか~い?」
「は~い」
奢りが効いたのか、素直にやって来るダークエルフと思わしき娘。なんとなくダークエルフの髪の色は銀色な印象があるが、彼女はエルモアやネピア、そしてクリちゃんのように煌びやかな金色だった。
「のんで~ 風姉妹だって~」
「えっ!? いいの~? これって結構高い清酒だよね~」
「うんうん。風姉妹も飲んで貰いたいってさぁ~」
「ありがと~ じゃあ貰うね~」
「それじゃ~」
「「「「「「 かんぱ~い! 」」」」」」
何度目になるのか数えるのもアホらしい程の祝杯。だが何回あげてもいいのが乾杯という声かけであるのもまた事実。
「ほらほらぁ~」
「な、なんですかラヴ姉さん……」
「ん~?」
(とりあえず純愛を乱さないような話しにしないと…… ラヴ姉さんの逆鱗ポイントに触れ無いように……)
「あの」
「はい?」
「私、社会派紳士のタロと申します」
「えっ? タロ?」
「はい」
(もしかしてこの娘にも、間違った俺の印象が伝わっているんじゃないだろうな……)
「それでわたしに?」
「綺麗な肌ですね」
「「「「 !? 」」」」
「ありがと~ 自慢なんだ~」
「お店に入って来た時から気になってしまって…… あまりジロジロ見るのも申し訳ないと思いまして……」
「それで呼んだの?」
「はい」
「面白いね~ でも嬉しいよ~」
「喜んで頂いて私も光栄です」
「へぇ~ 好きなの?」
「「「「 !? 」」」」
「とても気になります」
「「「「 !? 」」」」
「それなら、わたしも頑張って太陽の下にいた甲斐があったよ~」
「え? それはどういう?」
その回答を聞く前に、一緒に来ていた仲間からお呼びがかかり、奥のテーブル席へと向かって行ってしまったダークエルフな彼女。
(太陽?)
彼女の言葉を噛み締めながら、奥のテーブル席へと目線を向けるがここからは見えない。だが見えないモノを見続けても仕方が無かったので、意識を自分たちのテーブルに向けると、様々な目線で迎え入れられた。
「ズーキさんは褐色の肌が好みなんですか?」
「そうだな。健康的ではあると思う」
「なるほど」
「クリちゃん?」
「はい」
「彼女みたいなダークエルフ的な存在って精霊の国じゃ珍しいの?」
「え? ダークエルフ? それって……」
「あんたぁ…… 私だけじゃなく、見ず知らずのエルフに闇呼ばわりすんの?」
「ネピアに闇なんていったか? 尿漏れダークエルフのネピア? ははっ」
「あんたぁー!? 私に言ったでしょう!? 闇属性の悪魔エルフだって!?」
(根に持ってやがったのか…… 器の小さい野郎め…… だから漏れるんだよ……)
「あの~?」
「……なんでしょうか? エルモアさん?」
「あの方は何か悪い事をしたのでしょうか?」
「ん? いや、してないけど」
「ならどうして闇なんて言うんですか?」
「……俺の元いた世界ではダークエルフってのがいたんだよ。その種族の特徴は褐色の肌なのさ」
(ダークエルフに関しては諸説色々あるが、淫獣呼ばわりされたくない上に、エルモアに避けられたくない)
「そうでしたか。でもこの精霊の国を含めてそのような種族はいませんよ」
「そうか。じゃあ彼女は?」
「焼いてるのよ」
「焼いてるんですよ」
「焼いてるんじゃないでしょうか」
「焼いてる?」
「言ってたじゃない。太陽の下にいた甲斐があったって。日焼けよ、日焼け」
「えっ!?」
(マジかよ…… ダークエルフってただの日焼けだったのか……)
「私たちエルフは肌が強くて、太陽の日を浴びても日焼けしないんです」
「ならどうして」
「頑張ったのよ。多分」
「頑張った?」
「聞いてみれば?」
すると、先ほど仲間にお呼ばれしたダークエルフな彼女が、清酒一瓶片手にこちらにやってきた。
「さっきはごめんね~ これ風姉妹に比べたら安物だけど美味しいよ。褒めてくれたからあげるよ」
「あ、すいません。ありがとうございます。そのお聞きしても?」
「なにかな?」
「エルフは肌が強いと聞きました。どうやってそこまで綺麗に肌を焼いたんですか?」
「エルフ? あなた人間?」
「はい」
「へぇ~ 初めてだ~ わたしもジロジロ見ちゃってるね。ごめんね」
「いえいえ。私でよければどうぞ」
「え~とね。確かに私たちは肌が強いから中々、肌が褐色にならないんだけど、ずっと浴び続けていれば少しずつ焼けるんだ。それを生まれた時から繰り返すとこうなるって事。それでも日を浴びなくなればまた皆と同じになるよ。だから私は出来るだけ日を浴びてきたんだ」
「そうなんですか。努力の結晶ですね」
「そうなんだ~ だから褒めてくれて嬉しかったよ~」
そうしてまた仲間の所に戻る彼女。エルフの褐色は一日にしてならず。一生かけて行っていくモノだと理解した日でもあった。
19時08分より遅れる場合は事前告知するよう心がけます。最近時間が乱れていて本当に申し訳ございません。