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第63話  到着しよう!



 バルバードさんの舵を操る腕と、魔法士ネピアの誘導により、目的の船着き場所へ舵をとる社会派紳士ご一行様。既に大きな大きな大陸は目視出来る距離になり、精霊の国への到着は現実のものとなっていた。


「ついに…… 精霊の国へ……」

「どうするんだ? ここで暮らすのかズーキは?」

「あ、うん。とりあえずは二人と一緒に住む事にしてるよ」

「ほぉ、それは結婚を前提とした?」

「……ラヴ姉さんを喜ばせないで下さい」

「(うるうる)」


 希望の眼差しでこちらを見上げるラヴ姉さん。肯定するれば暴走するし、否定すれば一人むくれてしまう。その時の膨れた頬はとっても可愛げがあるのだが、時折見せる鋭い眼光が俺を突き刺してくるので、それは避けたい。


「バルバードさん。精霊の国へ着いたら何かお手伝いしますか?」

「そうだな、何せ処女航海だったからな。船の点検や補修箇所も出てくるだろう。それに物資の補給もしなければならない」


 現実的な話を船長であるバルバードさんに振る事で、この面倒な案件から逃れる事に成功した社会派紳士。そうは思ったもののラヴ姉さんはむくれ膨れた顔をこちらに展開してくる。


「だが、船賃を払ってくれた者にあまり手伝わせる訳にもいかないな。物資の補給だけは上陸する者にお願いしたい所だ。何せ俺も船員達も精霊の国へ行った事が無いからな」

「分かりました。到着後に出来るだけ早く手配します」


 この精霊の国は、別名ディープ・フォレストと呼ばれている。エルフ達は鎖国している訳ではないが、この大きな大きな森を抜けてエルフに会う事は、人間には不可能のようだ。森で迷いエルフに出会えなかった人間達は、この森を底知れぬ不明瞭な存在として恐怖し別名で呼ばれる事になる。


「嬢ちゃん達いるか?」

「いるよ~」

「はい」

「いきなり攻撃されたりはしないんだよな?」

「もしいたら、ブチかましてあげるわ」

「大丈夫ですよ。そもそも、この辺りの浜辺にはエルフはあまりいませんから」

「よし。じゃあこのまま上陸する。船員達は到着次第、船体チェックだ。最低でも一週間はかけて全体を見直すぞ。航海して気になる所もあったからな」

「「「「「 了解 」」」」」

「ついに到着か……」

「いや~ 久々の陸だぜ~」

「俺たちも早く上陸したいもんだな」

「まぁ、仕事済ませてエルフの街でゆっくりしてみたいもんだぜ」


 アウロ達はそれぞれの気持ちを吐き出し、定められた勤務内容をこなしてから上陸するようだった。


「あの……もし上陸するようでしたら、私たちが案内しますね。でないと、森で迷ってしまいますから」

「そうね。勝手に行ってもいいけど、ここにも戻って来れなくなるわよ?」

「了解だ。物資さえ送って貰えればこちらは問題ない。ゆっくりしてきな」

「はい。わかりました」

「いっぱい美味しいものを送ってあげるわよ。もちろんお酒もね?」

「そいつは楽しみだ。よろしく頼む」

「いや~ 目前に迫る深い深い森ぃ~ あぁ~ 夢にまで見ていた異種交配ハイブリッド現実リアルの場所で! はふぅ~ん」


異種姦いしゅかんを禁止したら異種交配ハイブリッドになりました)


「ラヴ姉さんはエルフの彼氏でも探すの?」

「なっ!? 違うよ!? あたしじゃない! ズーキくんさぁ!」

「人の事ばっかり考えていると、ラヴ姉さん行き遅れるよ?」

「なはぁ!?」


 すると崩れ落ちるように膝をついて、心が傷ついたアピールをするラヴ姉さんだった。


「ラヴの嬢ちゃんいいか?」

「……ぅ」 


(ちょっと涙が出てる…… 最近思ったんだけど、自分が泣かせた女の子の涙って結構いいよな……)


「盛り上がっているところ悪いが、嬢ちゃんは仕事あるからな?」

「えっ?」

「そりゃそうさ。あの三人は現金前払いで乗船してるんだぞ? そして船員五人は仕事として乗船している」

「えっ?」

「勝手に乗り込んだ挙げ句、船賃は払わない、仕事はしないじゃあ、あの三人が可哀想だろ?」

「えっ?」

「通常なら定期航路じゃない精霊の国へ行くとなったら五百万クイーンはかかる。だが今回は俺の船だし、アドリード王国から出港させたかったという俺の思惑もあったから、三人で三百万クイーンに割り引いたんだ」

「三百万クイーン!?」

「理解したようだな。まぁ百万クイーン支払うってんなら考えるが…… まぁ地元の兄ちゃん達なんだろ? 仲もいいみたいだから、頑張ってくれな」

「そんなぁ!? ここまで来て生殺しなんてっ!? ヒドイよ~ わ~ん!」


 膝をついた状態から額を甲板に当てた後、腕を振り握った拳を交互にバンバンと当てて悔しさをアピールしていた。


「……お前、いくら持ってんだよ」

「アウロ兄ちゃん!」

「リーダーは甘やかすなぁ」

「まぁ…… ラヴは子供の頃から精霊の国の話はしていただろ?」

「まぁ…… 確かに。それで周りに引かれてたしな。ははっ」

「わ~ん! ヒドイよ~! ヤコブ~!」

「リーダーばっかに払わせるのもなんだし、俺も多少なら出すよ」

「フレイ兄ちゃん!」

「なんだか…… 出さないと畜生兄ちゃん扱いされそうな流れだな……」

「ベルギィ兄ちゃん!」

「それで、いくら持ってんだよラヴ?」


 膝をつきながら脇を締め、胸の前で重ねた両方の拳から人差し指を出して、くっつけたり離したりして恥ずかしそうにしながら皆に伝えるラヴ姉さん。


「さ……(ごにょごにょ)ーン」

「さ? お前…… 三十万クイーンしか貯めてないのかよ…… はぁ……」

「まぁ、ラヴにしては貯めた方じゃないか?」

「そうだな。ラヴは金が入ったら右から左だったしな」

「ラヴも大人になったもんだ。ははっ」

「五人で割ると…… 十四万クイーンだな」


(甘やかされてる…… これがラヴ姉さんの元か……)


「さ……(ごにょごにょ)ーン」

「なんだ? ハッキリ言えよラヴ?」

「さん……」

「さん?」

「三百…… クイーン…… なの」

「さっ 仕事仕事。バルバードの旦那ぁ! 船体修理の件…… っ!?」

「見捨てないでぇ~! 待ってよぉ~! うわ~ん!」

「お前っ!? なんで三百クイーンしか持ってねぇんだよっ!? 子供の小遣い以下だろっ!?」

「だってぇ! だってぇ!」

「だっても何もないっ! 多少貯めていたら、思うところもあったが、これじゃあ話しにならん! 大体なんでそれしかないんだよっ!?」

「払ったの……」

「……なにを」

「酒場の…… ツケ」

「バルバードの旦那ぁ!?」

「待ってぇ! 待ってぇ!」


 アウロだけでなくノカラ、ヤコブ、フレイ、ベルギィからも見捨てられ打ちひしがれるラヴ姉さん。俺は目を合わせないように、目前に迫る精霊の国を見続けていた。しかし、そう上手くはいかなかった。


「ズーキくん?」

「……」

「ねぇ! ズーキくんってばぁ!?」

「……」

「うわ~ん! ズーキくんが無視するぅ~!」

「自己責任ですね。頑張って仕事して下さい」

「うわ~ん!」


(俺はラヴ姉さんを甘やかさない)


「タロさんタロさん。ラヴさんを置いていくんですか?」

「あぁ。ちゃんと仕事して、まともな人間になってから上陸するみたいなんだ」

「うわ~ん!」

「でも…… お世話になりましたし……」

「世話にはなったかもしれない。だがお金の大事さを知らない人は、いずれ破滅の道へゆく……」

「偉そうに…… あんただって凄いお金の使い方してたじゃない…… そ、それに…… あ、あんな店舗で…… そ、その…… そういった行為を」

「スケベエルフは黙っていてもらおうか」

「なっ!?」

「いいか? 俺は前にもいった通りに未経験だ。そのスケベエルフと一緒で綺麗な身体のままだ」

「そ、そういう事は…… 言わないで……」


(よし。これでネピアは黙らせた)


「上陸出来ない訳じゃない。ちゃんと仕事したら来れるんだから頑張って下さい」

「そんなぁ……」


(よし、諦めモードに移行してきたな……)


「じゃ、頑張って…… っ!?」

「見捨てないでぇ~! 待ってよぉ~! うわ~ん!」


(くっそぉ!? 意外に諦めが悪いっ!? こうやって駄々をこねれば、甘やかして貰えるって知っているな!? 俺は絶対負けたりなんかしないっ!)


 するとラヴ姉さんは俺の耳元で囁き始める。


「(しょうがないなぁ~ ズーキくん? ラヴ姉さんなんでも言う事を聞いちゃう! ね!?)」

「……」

「(ね~え~ どう? ね? いいよね?)」

「(スッ)」


 俺は立ち上がりラヴ姉さんから離れ、船長のバルバードさんへ向かう。


「……ズーキくん ……そんなぁ」

「バルバードさん」

「なんだ」

「(スッ)」

「いいのか?」

「大切な…… 仲間ですから……」


 そうして俺はバルバードさんへ百万クイーンの札束を渡した。それを見ていたラヴ姉さんがこっちへ飛んできて俺に抱きついてきた。


「ありがと~! ありがと~!」


(嬉し涙も悪くないな……)


 だが、側にいたスケベエルフのネピアは勘ぐるような目線をこちらに向けて威嚇していた。そして俺に対する印象を一つの言葉で表す。


「……淫獣」

「淫獣はやめて下さい……」

「よかったですね! ラヴさん!」

「ありがと~! ありがと~!」


 そうして俺達三人は、一人増えて四人で精霊の国へ上陸する事になった。











 タイトル変更いたしました。

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