第57話 情報を集めよう!
「それで、どうだったんだネピア? ドローン嬢様の件は?」
「仕事もあったから完璧とは言えないけど……休日以外は王宮に足を運んでいる事が多いわね。そうして昼前に新市街にある建物へ入っていくわ」
「そうか。その建物は大商人の?」
「所有者は分からないわ。けど、大商人が経営している大商会の建物ではないわね」
「その辺りは人通りとかはどうだ?」
「裏口から入ってるみたいだから、そっち側なら人目に付きづらいわね」
「よし。ありがとうネピア。それと……大丈夫だったか?」
「……聞かないで」
「……そうしたいけど、あいつら本当に真性だから心配だよ」
「大丈夫よ。追いかけられただけ。精神的には大丈夫じゃないけど……はぁ」
「ひとまずはこんなもんか」
「タロさんは何をするつもりなんですか?」
「社会派紳士からの教育的指導だ」
「はぁ」
実際にある程度情報を伝えておきたい所ではあるが、それを言ってエルモアに止められてしまう事を恐れている。
(優しいからな……エルモアは……)
「んで何すんのよ?」
(こいつはこいつで仕返し手伝ってくれるからな……軽く内容をここで伝えて、後でネピアに詳しく伝えておくか)
「そうだな。詳細に関してはまだ言えないが、簡単に説明する」
「ん」
「はい」
「配布するんだ。あの綺麗に描かれているドローン嬢様の絵を」
「ん? そんだけ? そんだけの為にあんな大金使ったの?」
「絵を……配るんですか? それが指導に?」
「そうだ。だがそれだけではなく合わせ技になる。まぁ、ちょっと待っててくれ。どちらにせよ、二人には説明しなければならない。じゃないと成功しないからな」
「あい」
「はい」
(当日実行する時になれば、勢いと流れでうやむやになるだろう。反対されても)
「それと精霊の国への事だけど……ザンさんがバルバードさんにある程度は話していてくれて決定事項ではないけど、そこまでは行ってくれる船を手配出来るみたいなんだ」
「ほんと!?」
「本当ですか!?」
「あぁ。何せ八百万クイーンもあるからな」
「……いいの? あんたが稼いだ金よ?」
「その為に稼いできたんだ。それに全部消費する訳じゃない。五百万前後あれば行けるみたいだしな」
「よかったです。全てなくなってしまったら本当に申し訳ないです」
「俺も助かったよ。けど、全額なくなろうが精霊の国へ行けるなら行くぞ。それが当初の目的で俺の意思でもある」
「うん」
「はい」
「よし。慌てる事もないだろうけど、役場のアクトゥスさんが出来るだけ早い出国をなんて言っていたからな。早いに越した事はないから、まず一緒にザンさんの所に行こう」
そうして久しぶりに三人で行動する。屋根裏部屋にはもう住む事もない。なんとなくそんな事を考えると、この狭い屋根裏部屋にも愛着がわいてくる。
「ザンさんいますか?」
「おう。入れ」
「失礼します」
「はいるよ~」
「おじゃまします」
(相変わらず綺麗な部屋だな……)
「船の手配か?」
「はい。昨日話していたのをお願いしようかと」
「分かった。バルバードに俺から伝えておこう」
「出航はいつ頃になりますでしょうか?」
「そうだな……船員が集まれば荷物を積み込むだけだからな。人次第ってところか?」
「そうですか。まだ先かもですけど……本当に世話になりました」
「あぁ、良くやったな。嬢ちゃんたちも良かったな。これで帰国出来る」
「うん!」
「はい!」
「アンのヤツも喜んでいた。だが、お前らがいなくなるのを寂しがっていたぞ?」
「そうでしたか……折り入って挨拶に行きます。直接お会いしてお礼を言いたいです。アン様はどちらに?」
「……」
「?」
「これから旅立つヤツにあまり話したくはなかったのだがな……情報は持っててもらいたい。いいか?」
「「「 はい! 」」」
鋭い眼光をこちらへ向けて、先ほどとは違う雰囲気が辺りを漂う。張り詰めた緊張感のもと、情報を展開するザンさん。
「どうもな……きな臭くなってきやがったんだ」
「……きな臭く?」
「なにやら大臣の野郎の動きがな……おかしいんだ」
「大臣なにかすんの?」
「それが分かればアンも大喜びだろうさ。だが今一歩の所で情報が途切れちまう。むしろ泳がされている感じもするな……」
「いくつかの情報をあえて漏洩させて、本質を掴ませないようにしているようなものでしょうか?」
「そういった感じはするな……王都は今まさに揺れ動いている。そしてこの国の王女様の事も心配だ……それとここにいる姫様たちもな」
「ザンのおっちゃん……」
「ザンさん……」
「お前が守るんだぞ。いいな?」
「はい」
「船の手配は任せろ。一日でも早く帰国出来るよう取り計らう。バルバードにはこれから会って伝える。後は任せな」
「はい!」
「よろしく!」
「お願いします!」
そうして勝手知ったる屋根裏部屋に戻る三人の仲間たち。引っ越しの作業を始めるように、軽くではあるが荷物をまとめ始める。
「なんだか寂しいね、この屋根裏部屋からいなくなるの……」
「そうだな……色々あったな……」
「とてもいいお部屋でしたね」
「あぁ」
もう少しここに世話になるのだろうが、俺たち三人はすでに精霊の国へと心を動かせていた。
「いつも通りだけど……飲まないか? 俺はここで飲んでるのが一番落ち着くよ……」
「そうね。いっぱい飲んで思い出をつくろ」
「じゃあ漬物持ってきますね!」
「頼む」
「あっ、やるよエルモア!」
「じゃあ一緒に選ぼうね」
「うん」
それから本当にいつも通りの宴会が始まる。本日はエルモアもネピアもゆっくりとしみじみ飲んでいる。それに呼応するかのように俺もまったりしていた。
「ねえ」
「ん?」
「あんたさ……精霊の国へ行ったら……どうするの?」
「ん~ 全く決めてなかったな……どうするか……」
「じゃあ一緒に住みましょう!」
「いいのか? 俺も一緒で?」
「はい!」
「ネピアもいいのか?」
「……断ったらどうするつもり?」
「……一緒にいさせて下さい」
「仕方ないわね。一緒にいてあげるわ感謝しなさい」
(クソッ! この上から目線……精霊の国で後悔させてやるからな……)
「じゃあ親御さんに挨拶しないとな……なんだか緊張するよ……」
「「 !? 」」
「格好は……これしかないけど…… 一応正装だから大丈夫だよな? それとも精霊の国の正装を着たほうがいいか? どうだ?」
「あ、あんたは……その……私たちの親に……会うつもりなの?」
「ん? 世話になったんだ。挨拶ぐらいしないとマズいだろ」
「そ、そう」
「……」
「エルモア? どうした?」
「いえ……やっぱり……実家に行かないと駄目でしょうか?」
(実家に戻りづらいのか? まぁ俺も元の世界に二人が来て、実家に挨拶したいって言われたら困るよな……)
「そんな事はないよ。二人と一緒にいられればそれでいいよ」
「「 !? 」」
「そ、そう」
「……」
「まぁ、その辺りはおいおいって事でいいだろ。俺も精霊の国へ行けるのは楽しみにしているから、どんなところなんだろうって今は思っているよ」
「楽しみはとっておきなさい」
「そうですね。実際見て感じてもらった方がいいと思います」
「そうだな。よし、乾杯しよう!」
「うん!」
「はい!」
「「「 かんぱ~い! 」」」
そうして三人が器に口を付けた瞬間、屋根裏部屋に一つ付いている窓から強烈な光が差し込んできた。
「なんだっ!?」
「これは結界っ!?」
「強大な魔法結界ですっ!」
慌てて屋根裏部屋から階下の窓を覗く。そこからも強大なる光がこの王都アドリアを照らしていた。そうして始まったのだ。この王都アドリアから、アドリード王国が変わっていく序章の始まりだった。