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第55話  欲を満たそう!



(ここか…… 「夜もストライカー」は…… むふぅ)


 夜の帝王の時のように、自信満々で店へ入る。もう紳士ぶる必要はなく、欲をぶつける為にここに来たのだ。


「お待ちしておりました……タロ様でございますね?」

「はい!」

「お話は伺っております。金額の説明など野暮なことは致しません。ですが、お時間のご希望だけ伺ってよろしいでしょうか?」

「はい!」

「当店はショートコースでも九十分となっております。ミドルは百二十分。ロングコースは百八十分でございます」

「はい!」

「タロ様ぐらいの紳士になりますと、二百四十分の超ロングコースなどもございますが?」

「超々ロングで!」

「かしこまりました……それでは三百分でよろしいでしょうか?」

「はい!」


(時間に追われる行為など瞑想未満だ)


「それでは嬢の選択でございますが……実はですね、本日は不定期出勤の顔出しNGのスペシャル嬢が出勤しております。名前はプリン嬢。その名に恥じぬ乳房ちぶさを持っておりまして……」


 俺は危惧した。「夜の帝王」から斡旋されたとは言え、この店舗が優良店とは限らない。もちろん系列店という強みがある為に、安心の程はある。だが煮え湯を飲まされたネットの先輩方の話を聞くと、大体に大きな乳房ちぶさを所有している嬢は、身体も大きいと。乳房ちぶさと腹の見分けが付かない怪物モンスターのような嬢が現れて、戦闘シーンに移行するのは避けたかった。


「……」

「……ご安心下さいタロ様? 当店はタロ様が今現在思っているような嬢は一人も在籍しておりません。プリン嬢は乳房ちぶさだけが大きいのです。お尻も小さい訳ではありませんが、適度な大きさに魅了されること間違いなしです」

「はい!」

「タロ様には包み隠さずお教え致します。唯一のマイナス点と言えば背が低いことでしょうか」

「むしろ最高! それでお願いします!」

「かしこまりました。それでは嬢に用意させますので、あちらの貴賓室でお持ち頂けますでしょうか?」

「はい!」


(やったぁ!)


 貴賓室と呼ばれた待機室に入る。飲み物やお菓子などが置いてある他は何もない。いや、本がいくつか置かれておりそれは官能小説だった。何ページかめくりながら待機する。

 依然、ネットの先輩たちが言っていたが、以前の世界でこういった待機室の中にはテレビがあって延々とその行為を垂れ流していると。先輩たちはそれに異論を唱えていた。これから行為をするってのに、何が悲しくて映像やそういった本を見なくてはならないのかと。


(しかし官能小説を読んでしまっている自分がいる……)




 永遠ともいえる待機時間の中で俺は憔悴しきっていた。何故なら嬢が来ない。


(俺の体内時計が狂っているだけなのか?)


 待てど暮らせど来ない嬢。しかしその大いなる闇を切り開く声が、俺の耳から脳へ刺激として伝わってきた。


「失礼しま~す」


(キター!? めっちゃ可愛らしい幼げな声! いやっほー!)


 俺は時を止められるのかもしれない。いや、時が止まっていたのは俺だけだったかもしれない。そこにいたのは、大きい乳房ちぶさを所有しているプリン嬢ではなく、ちんちくりんな、まな板娘が存在していた。家事使用人ハウスキーパーのコスプレをして。


「た、タロー? 帰ってきてたの……? そ、それに、こ、こんな所で……なに……して……」

「なにやってるじゃないっ!」


 いきなり怒鳴られたネピアはそこで萎縮する。


「お父さんはこんなところで働いていいなんて一言もいってないぞぉ!?」

「なっ! なにをっ!?」

「いいかっ!? ネピアっ!? 最初はアルバイト感覚かもしれないっ! けどなっ!? どんどん金銭感覚が狂ってくるんだっ!? まともなバイトなんてその後してみろっ!? 一時間で千クイーンも稼げない仕事なんてやる気をなくすっ!」

「ちょ、ちょっと」

「お父さんはそんな娘に育てたつもりはないっ!」

「だ、だから……」

「よしっ! 教育的指導だ! ボーイさ~ん! 個室一つ空けてくれ!」

「あ、あの……タロ様?」

「オラぁ! ネピアぁ!? お父さんが教育してやるからよぉ!? こいっ!」

「いやっ 離してっ!?」

「オラぁ! こんな所で働くなんてお父さんは絶対許さないぞっ!?」

「だからぁ! 違うのよっ!」

「言い訳は個室で聞くっ! もう我慢出来ないっ!?」

「あんたぁ~ いいかげんに……」


 そうして俺はネピアにお姉さんがいる事を、彼女が来てから思い出した。


「あの……タロさん?」

「え! エルモアっ!? エルモアまでっ!?」

「お帰りなさい。無事だったんですね?」

「あ……うん」

「本当によかったです。来てくれたのは嬉しいですけど、まだお仕事がありますから、また後で」

「えっ……仕事?」

「それでは失礼します」

「えっ」

「離しなさいっ!」


 いつも通り鳩尾みぞおちに一発入れられ、今回のは重かったと感じる前に店舗の待機室で就寝する。





 気がつくと歓楽街に一人捨てられていた社会派紳士。記憶を辿りあの店舗での悲劇を思い出す。


(ネピア…… しかも…… エルモアまで……)


 俺は彼女たちの気持ちを理解しきれてなかった。もっと俺が彼女たちの気持ちに気がついていれば、このような事態を避けられたしれないというのに。


(俺……何やってんだ……)


 散財した事を恥じるように、一時金としてもらった残り三十万クイーンを手に取ろうとするが見つからない。


(あっ! やべぇ!? スラれたかっ!?)


 すると一枚の紙がポケットに入っていた。そこに書かれていたのは、「金は預かった」というネピアであろう文字だった。それと仕事のが終わるであろう時間が書かれている。


(よかった……けど……よくなかった……うぅ)


 エルモアとネピアをああいった店で働かせてしまった責任は俺にある。もっと……もっと気遣ってやれたら。




肩が地面につくんじゃないかと、思うくらい気落ちしながら我が家へ戻る。階段を上るその足も重い。


「おう。無事戻ってきたな」

「ザン……さん……」

「どうした? 大丈夫か?」

「もう……俺……どうしたら……」

「……詳しく話せ」


 言われるがまま、部屋にも入らず状況を説明した。すると建物が倒壊するんじゃないかと思うくらいの大声で笑い出すザンさん。そして落ち着いたところで話し出す。


「安心しろ。覚えてないのか? 家事使用人ハウスキーパーの仕事のことだ」

家事使用人ハウスキーパー……あっ!」

「あぁ、嬢ちゃんたちは、追加の仕事であそこの手伝いをしていただけさ」

「……よかった」

「だから、お前が考えいてるような事はない。大体よ、お前が嬢ちゃんたちを信用しないでどうする?」

「……はい」

「まぁ、過酷な労働の後だ。判断も間違えるだろうよ。今日からはゆっくり休みな」

「……はい」


 そのまま階上へと向かい、久しぶりの屋根裏部屋へと上る。


(戻ってきた……生きて……戻ってきた……はぁ)


 感慨に耽る。そのまま目を閉じて思いを浮かべる。浮かんだ思いに対して考えを当て込み、気がつくとそのまま屋根裏部屋で寝てしまった。




「ちょっと」

「……」

「ちょっと……起きなさい……」

「……」

「起きろって言ってんでしょ! 淫獣っ!」

「おわっ!?」


 蹴り起こされる社会派紳士。何故にこのような仕打ちを受けねばならないのか、小一時間ほど問い詰めいたい気分になったが、ネピアもまた同じ心境だったようだ。


「起きました……」

「……なにしてたの?」

「寝ていました……」

「……その前よ」

「その前?」

「そ、その……変なお店に……いたじゃない」


(あっ! そうだ! 俺は二人の事を勘違いして……)


「誤解だ」

「……」

「誤解だったんだよ……全ては悲しい誤解さ……」

「……それで?」


(流せない……しかし社会派紳士として、この状況は打破しなくてはならない)


「……二人の仕事を見に」

「そう」

「……」

「ならどうして場所が分かったの?」

「……」

「あっ、あんたは……あ、あそこで……な、なにをしようと……」

「大丈夫だ。何もしていない。ね? 安心!」

「……淫獣」

「ちょ!? 違うって!? 本当に何もしていないって! 大体ああいった店舗は初体験だったんだ!」

「……体験しようとはしたんじゃない」

「くっ」


(負けるな! 社会派紳士!)


「そうかもしれない。ただ俺は未経験の汚れ無き存在。ネピアと一緒だ」

「なっ!?」

「確かに俺は過酷な仕事の後で、判断を間違ったかもしれない。だが、そういった事は一切していない。これは女王様に誓って言える!」

「なぁっ!? なんて事を!」


(あっ! やべぇ!? またやっちまった!?)


「……もういい。分かったから、冗談でもそういう事は言わないで」

「ごめん」

「もういいわ。実際あんたが言った言葉は本当みたいだし、その……未経験てのも……」

「あぁ、ネピアと一緒だってのも嘘じゃない」

「そ、そういう事は……言わないで……」

「……はい」


 妙にいじらしいネピアを可愛らしく思うものの、エルモアの姿が見えず気になったので質問する。


「エルモアは?」

「……」

「なぁ、エルモアはどうした? 仕事終わったんだろ?」

「さぁ」

「さぁ……って」

「あんたが、あんな所にいたから愛想つかしちゃったんじゃない?」

「えっ」

「そりゃそうでしょ。あれだけ心配していたエルモアに無事を告げることも無く、自身の欲望を叶えようとしていた淫獣。どう考えたってこの回答に行き着くでしょう?」

「えっ」

「はぁ……可哀想なエルモア姉さん」


(マジかよ……けど……あの時も素っ気なかったよな……)


「どうしよう……」

「どうしようもなにも、どうしようもないわね。過去は変えられない。背負って生きていくしかないわ」

「そんな……」

「そ、その……も、もう……あんな所に行かないと……誓える?」

「はい! ネピア嬢!」

「……ネピア嬢は……今はやめて」

「はい!」

「絶対よ? いい? この誓いを破ったら……死よ?」

「……それはちょっと」

「(ギロっ!)」

「はい! 誓います!」

「よし。淫獣。お前はこの私の配下だ。勝手な行動は許されない」

「はっ!」

「いい返事だ。エルモア姉さんの事は任せなさい」

「……お願い致します」

「……その」

「ん?」

「エルモア姉さんに……嫌われるのは……イヤ?」

「あぁ。なんだか心が落ち着かないよ……」

「そ、そう。な、なら、しっかりしなさい。二度とこういった事にならなように」

「分かった。ありがとうなネピア。それと、遅くなっちまったけど……ただいま」

「……うん。お帰りタロー」


 だが、いつまで経っても帰ってこないエルモア。とうとう深夜と言っても差し支えない時間になるものの彼女は一向に帰ってこなかった。











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