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第52話  やることやろう!



 モコ伝説により、多大な不幸を受けることになったかもしれないネピアをよそに、告白BBQ大会は盛況のもと終了した。

 楽しい楽しい前夜は過ぎ去り、新しい日を迎えた社会派紳士。最高二ヶ月間のカニ漁の前に俺はやることを済ます為、新市街を歩いている。


(まずはリボルバーの弾があるか確認だな)


 エルモアとネピアと初めて会った時に商人から借りた、リボルバーの弾を探しにきている。そしてザンさんから聞いた魔法用具店を発見する。


(ここか……)


 暴力や恫喝など全く好まない優しい社会派紳士ではあるが、相手がそうとは限らない。防衛の為にも武器は必要だった。決心するように魔法用具店の扉を開けて元気よく挨拶する。


「こんにちわ!」

「……いらっしゃい」


(どうやら歓迎はされていないようだ……)


 それもそのはず新市街ある立派な作りの建物。置かれている商品の金額も桁が違う。俺はまず店員にリボルバーを見せて目的の弾丸があるか確認した。


「……」

「……」


(うさんくさそうに俺の事を見ているな……)


「これ……本当にあんたのものかい?」

「はい!」

「……」

「……」


(全く信用されていないな……何か方法は……)


「……証明出来る?」


(証明……か……証明って難しいな……けど諦める訳には……そうかっ!)


「はい! 女王様に誓ってこのリボルバーは自分のモノです!」

「っ!?」


(なんだ? 驚愕と言っても差し支えないような驚きだ……まずかったか?)


 すると店主は俺の後ろを見たり、周りをキョロキョロと見始める。一定時間済んだ後にカウンターから出てきて、握手される。


「いや~! あんたぁやるねぇ!」

「えっ?」

「いや~ 初めてだよ~ その啖呵切って連れていかれなかったのはさぁ! いや~ あんたは証明したよ! 完全に! よし。弾だったな。ちょっと待っててくれ」

「……あの。どういう事なんでしょうか?」

「ん? そうかそうか。説明するよ。ふふっ」


(なんだか嬉しそうだな……)


「……あんたのような客でこういった身分不相応な商品を持ってきたり、売ろうとするヤツは大体、盗品を持ってきているのさ。そうしてそいつらは証明しろって言うと大体困る。何せ証明出来なければ金にもならない。すると困った奴らは女王様にすがるのさ」

「はぁ」

「まともに生きていれば、そんな事は口が裂けても言わないってのに、やつらは自分だけは大丈夫だと思って女王様に誓うのさ。嘘だって自分だって分かっているハズなのにね」

「はぁ」

「そうして現れるのさ。雲が……」


(雲……?)


「あれはね……まぁ……あんたは女王様に認められた存在、大丈夫だろう。その雲はさ……多分に女王様、もしくは配下の者さ。いきなりこの場所に現れた雲に連れ去られるのさ、女王様に認められなかった存在はね」

「えっ!」

「いや~ あれこそ壺に入れられるんじゃないのかなぁ~ いや~ すごいよ。この店に立ってから女王様に誓ったのはあんたで三人目だけど、三度目の正直ってやつかねぇ~ いや~」


 そう言いながら店の奥に消えていく。リボルバーの弾を探しにいったのだろう。


(……ミスってたら……俺……そこで人生終了してたのか)


 深い後悔と合わせて恐怖が俺を支配する。だが俺は連れ去られなかった。しかし今後は軽々しくその言葉を使うことは、死を意味するモノだと心に刻み込む。


(まだまだこの世界の禁忌タブーを理解し切れていないな……)


「はいはいお待たせ。ウチにあるのは、この数、この種類だけだね」


 そこにあったのは赤、緑、青色の弾丸だった。


「ありがとうございます。これ……色が違いますけど、何か違いがあるんですか?」

「赤は攻撃用の魔法弾で効果はバツグンだけど、一直線に飛ぶから基本は一人相手かな。緑の魔法弾は相手をそこにある自然の力で押さえ込む、広範囲って程でもないけど何人かは捕らえられるよ、殺傷能力はないね。青の魔法弾は回復さ、離れた相手にも治療魔法がかけられる。まぁ外したら効かないけどね」

「ありがとうございます。おいくらですか?」

「あんた金は持ってるの? これ高いよ?」

「……おいくらでしょうか?」

「一発で百万クイーン」

「百万!? それも一発!?」

「あぁ。魔法が込められているからね。それにこの国じゃあまり売れ線じゃないからね。商の国とかならもっと安いだろうね、あそこは需要あるから。……まぁ女王様に認められた人だから……そうだね……原価が安い、赤の魔法弾なら金額は下げれないけど、二発で同じ値段でいいよ」

「赤の魔法弾の方が安いんですか?」

「この弾を飛ばすだけだからね。基本的には作りやすいんだよ。他のはその効力を発動させる為に、いくつかの魔法式が弾の中に入っているから高くなるのさ」

「なら青の魔法弾も回復だけの魔法式ですよね? 安くはないんですか?」

「青は飛ばして回復させる。赤は飛ばすだけ。これの違いさ。まぁそんなに数が出る商品じゃないからってのもあるけどね」

「……分かりました。ちょっと持ち合わせがないので諦めます。その……もしもなんですが、これを売ったらいくらになります?」


 難しいような顔をしながら腕を組んで唸る店主さん。どうやら金額が決まったのか、軽く身を乗り出すようにして答えを言う。


「ウチなら二百万クイーン」

「二百万!?」

「こういった武器を扱っている専門店ならその倍近くはいくだろう。ただ、この国では難しいかもしれない。もしかすると商の国ならもっと高額になる可能性は考えられる。あそこは弾がここより安いけど、こういったしっかりとした作りの武器は高額買取なハズだ」

「……そうですか。凄いですね」

「兄ちゃん、出来れば売らない方がいいよ。何せ女王様に認めてもらったリボルバーでもあるから」

「はい。その……もし売るならここにします。その時は買い取ってくれますか?」

「……いいだろう。その目は何か思いがある目。そういった事情ならその時は買い取ろう。だがここでは正直買取は安いよ」

「いいんです。お願いします」


 すると店の人はカウンターから一つの箱を取り出す。年期の入った箱で今の今まで眠り続けていたような印象を受ける。

 

「……持っていきな」

「えっ」

「六つだけ弾丸が入っている。効能はお楽しみさ」

「……いいんですか?」

「あぁ、これも陳腐な言い方かもしれないけど運命ってヤツさ。代々伝わる怪しい箱でさ……その時の店主がその時の判断で渡す事になっている。さぁ持っていきな」

「はい! ありがとうございます!」

「ヘッケリィだ」

「タロ・ズーキです」



 互いに自己紹介をして後にそれを受け取り、魔法用具店を後にした。次に向かうのは王宮近く。それはあることの情報収集に向かう為だった。



(真性門番のコンビに会わないように願う……)


 今日は幸運の日なのか、モコ伝説の恩恵を受けているのか、出会うことはなく王宮近くへ辿り着く。

 大きな門の近くには王宮へ入る為の受付があった。大臣に媚びへつらう為なのか、多くの献上品のような荷物を引いた荷車が待機している。


(ここはマズいな…… 裏門みたいな小さいところがいい……)


 身を翻し王宮の壁に沿って歩く。途方もない大きさではあるが、諦める訳にはいかない。正門だろう大きい門から離れてどれくらい時間が経っただろうか。兵士や王宮で仕事をする人たちの為のような裏門があった。


(チャンスだな……門番しかいない……)


 意を決して門番に声をかける。


「なんだお前?」

「お世話になっております。少しお聞きしたい事が門番様にございまして……」

「貴様のような者が何用か?」

「……実は私、ドローン嬢様にお世話になっております貿易商人でございます」

「あぁ、なるほど。その面妖な出で立ちはその為か? ドローン嬢様に用があるなら正門からだぞ」

「はい。もちろんです。……実はサプライズなプレゼントをドローン嬢様にとの考えがございまして、それでドローン嬢様の事を少しお聞きしたく参りました」

「……何故、ここでそのような?」

「なんだかこいつ怪しくないですか?」

「怪しいには怪しい。間違いなくな」


 俺はこのあたりだなと考えて、もう少し話しをしてから見せようと思っていたモノを門番に展開した。それはドローン嬢様から頂いた高級そうな賞状筒だった。


「これは?」

「……ドローン嬢様に頂いたモノです。これを見て頂ければ納得して頂けるかと」

「どれ……おぉ……なんと綺麗に描かれているんだ」

「本当ですね……でも、噂のあの娘たちにはかないませんね」

「……あぁ」

「噂のあの娘とは?」

「あ、これは失礼しました。もちろんドローン嬢様もお美しいですよ」

「我々の守備範囲からは完全に超えてしまっていますけどね」

「……え~と、私はただの貿易商人です。あくまでドローン嬢様とは商売上の付き合い。教えて頂けませんか?」

「ふぅ。安心しました。大臣様の遊び道具にされてしまっては困りますからね」


(なんだ? ドローン嬢様は結構有名なのか?)


「実は旧市街にアイドルがいるようなんですよ」

「アイドル?」

「それもジュニアアイドルなんです!」

「ものすごく幼くて可愛らしいようなんですよ~」


(王都アドリアの兵士は全員が真性なのか……だが使えそうだな……)


「聞いております。魅了されこの上ない存在であると」

「そうでしょう! そうでしょう!」

「あぁ~ 早く旧市街の市場で待ち伏せないとぉ~」


(ヤバい。完全に真性だ……話を戻さないと……)


「あのそれでですね……ドローン嬢様の事なんですが、いつも下男を連れて歩いてますよね? ちょっとしたサプライズの為に、その下男たちがいない時間にプレゼントを考えているのです。ドローン嬢様がお一人で王宮に来たり、お一人で行動している時はありませんか?」

「ありますよ」

「本当ですか? 下男たちは?」

「はい。下男たちは多分正門近くにて待機しているんじゃないでしょうか。あのような者達に王宮は入れませんからね」

「それはいつでしょうか?」

「大体……昼前くらいですかね……午後になるとここに戻ってきます。それと……」

「それと?」

「噂があるんです。王宮や新市街で人気のあるドローン嬢様がここまで王宮に近づけたのは、その大商人の一人息子のお陰だと。もしかすると、邪魔な下男を置いて逢い引きしているんじゃないかって言われているぐらいですよ」

「なるほど……これはありがとうございます。そういう事なら上手くやらないと逆効果ですね」

「そうですね」


 俺はあまり深入りせず、兵士二人に口止め料として一万クイーンほど手渡した。無駄な出費だろうが、俺の復讐劇を完遂する為にも情報が流れて欲しくなかった。


(よし。あと一件だ)


 王宮から新市街、そして旧市街の市場へと向かう。するとそこにはエルモアとネピアがいた。


「あっ! タロさん!」

「あんたも市場に来てたの? 用事は終わった?」

「エルモア、ネピアも来てたか。用事は後一件だな」

「どこいくん?」

「……ステッカー屋」

「(ゴォォ)」


(少しずつ瞳が燃え上がって青色に!?)


「待て! ネピア! 違う! 別件だ!」

「別件……?」

「(ドローン嬢様への復讐の件だよ)」

「(シュゥゥゥ……)」


(火が……消えた……はぁ……)


「まぁ、そういう事だから行ってくるな」

「……そう」

「はい!」


 流れ的に一人で向かうモノだと思っていたが、エルモアとネピアも付いてきた。エルモアは嬉しそうに、ネピアは俺の言葉を信じていないのであろう。隠すことでもなかったので三人ともどもステッカー屋へ向かった。


「いらっしゃい。おっ、また来てくれたね~ どうだい? とてもよい商品だったろう?」

「あ、はい……」

「(ゴォォォォ)」


(ビクっ!)


「ん? 何か不具合あった?」

「いえ! 効果はバツグンでした!」

「(ゴォォォォぉぉぉぉ!!!!)」


(恐いよぉ……助けてぇ~ エルモア~ン)


「そうかいそうかい。それはよかった。まぁゆっくり見ていって」

「いっぱいありますねぇ~」

「(ギロっ!)」


(見つけちゃったかネピア…… そう、それだよ? こないだのステッカーは)


 奥に消えてゆく二人をよそに、俺は店主さんに相談を始める。一声かけてから賞状筒を手渡して中身を見せた。


「ほぉ~ これはずいぶんと綺麗に描かれているね。相当な魔法式を組んで作成したと思われる一品だ」

「その…… これをそのままの画質で複写できますか?」

「この画質で? ……出来ない事はないけど、凄い金額になるよ」

「おいくらほど?」

「まずは複写するにあたって百万……いや、八十万クイーンあたりかな。それから一枚ごとに千クイーンってところ」

「……そうですか。これを抵当に入れて作れませんか」


 俺はリボルバーを店主に見せる。店主は驚いたように一歩下がり、リボルバーと俺を交互に見比べる。そして俺も店主さんの顔も真剣そのものだった。


「……訳ありのようだね」

「もし受けてもらえるなら、新市街の魔法用具店で売って欲しいんです。それだけがこちらお願いです」

「あぁ…… ヘッケリィさんのところか。もう行ってきたのかな?」

「はい。実は来週からカニ漁へ行くんです。十分にお金は手に入ると思いますが、流石にこの金額を抵当なしじゃ頼めませんからね」

「分かった。もしお金が用意出来なかったら必ずヘッケリィさんの所で売るよ。まぁどっちにしろ王都ではあそこでしか売れないだろうしね、正当にはさ」

「二ヶ月後には出来てますでしょうか?」

「一ヶ月かからないとは思うよ。じゃあ細かい打ち合わせだね……」

「はい」


 ステッカー屋の店主と、細かい打ち合わせをしていると、物珍しそうにやってくる二人の姉妹エルフ。彼女らも交えて、この世界初となる百万クイーン超えの仕事を発注した瞬間でもあった。











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