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第51話  五匹でBBQしよう!

 


 滞りなく準備は進み、裏庭に展開されるBBQ野外ステージ。ここにいるのは俺とエルモアとネピアとラヴ姉さん。そしてヒポ。

 ザンさんとバルバードさんは二人で酒場へ行ってしまった。アン様は誘われたことに喜んでいたが、火急の件との事で外出してしまう。


(アン様……ちょっと「気」が戦闘状態な感じがしたな……)


 聞いてみる勇気は全くせず、俺には関係の無いことだと言い聞かせるようにその後は準備に没頭した。そして今現在、すでに火は入っていて後は焼いて食べるだけの状態。


「んじゃ食べようかぁ~」

「そうですね~」

「おなかすいた……」

「乾杯! 乾杯しよう!」


 一人やたら変なテンションで食い気を乱す社会派紳士。何故なら最上級と言っても過言ではない五百万クイーンの仕事にありつけたからだ。もう我慢出来ない程に酒を飲みたくなっている。


「おうともさ! じゃあ先に乾杯してから焼こうか!」

「はい!」

「……おなかすいた」

「……ごめんなネピア」

「ううん。後は焼くだけだし、乾杯は重要だからね」

「ありがとうな」

「うん」


 そうして各自、飲みたいお酒を取り合うのかと思ったが、ラヴ姉さんが持ってきていた赤ワインをエルモアもネピアも頂いていた。


「ズーキくんはどうする? お酒は飲みたいのを飲みたい分だけ飲むのが一番だからね」

「いただきます。外で飲む時はビールが多かったですけど、それ飲んでみたいです」

「はいよ~ 高いワインじゃないんだけど、これまた価格に見合わない美味さでね~ コストパフォーマンスは最高さ!」

「ラヴさん。ありがとうございます」

「ラヴ姉ありがと!」

「じゃあ行き届いたところで~ かんぱ~い!」

「「「 かんぱ~い!!! 」」」


(美味い……しみじみと感じれる程に美味い。この赤ワインの美味さもあるのだろうけど……やっぱ仕事の事が大きいかもな……)


「じゃあ焼こうか。最初はみんな食べるだろうから、じゃんじゃんいくよ~」

「あっ ラヴさん、私も手伝います!」

「じゃあ一緒にやろうか~」

「はい~」

「……」

「……」

「……お前は手伝わないのか?」

「……既に人数の足りている状況に出張る必要性は無いわね。そういうあんたはどうなのよ?」

「……悔しいが同じ結論だ。それに俺が焼くより二人の方が、食材を引き立てること間違いない」

「そっ……なら一緒に飲んで待ってましょ」

「そうだな……じゃあ改めて乾杯」

「乾杯」


 ラヴ姉さんとエルモアの料理風景を肴にし、赤ワインを堪能する俺とネピア。そして傍らにはヒポがいる。


(ヒポって肉食べるのかな……)


「なぁネピア」

「なに」

「ヒポって肉食べるのかな?」

「ん~ 分からないわね。けど食べたきゃ食べるでしょ」

「確かに。その通りだな」


 するとヒポが匂いを嗅ぐような動作をして、肉を焼いている鉄板の方へ顔を向けていた。俺とネピアもヒポにつられるように、調理中の食材を眺めた。


「美味そうだな」

「おなかすいた……」

「干し芋は?」

「とっくにないわよ……」

「まぁ……飲み物でも腹は膨れるぜ」

「……そうね」

「「乾杯」」


 何度目になるか分からない乾杯を互いに続けていると、第一回目の配給が始まった。ネピアは目を輝かせて食事モードへ移行した。

 俺も皿を受け取ると同じようそのモードに移行し、十分に食材を味わいながら咀嚼し、胃に落としてゆく。間に飲む赤ワインが大変よいアクセントになり、どんどん食と飲みが進んでいく。とてもとても美味しかった。


「ほら、ヒポも食べるか?」

「(ふる)」


 耳を軽く振った事を肯定のサインと受け取り、ヒポの目の前に皿を置いてやる。そのまま匂いを嗅いでから一口で食べきってしまった。ラヴ姉さんはヒポの事を聞いていたのか、じゃんじゃん大きい肉を焼いて、俺に渡してくる。


(明らかにこれはヒポ用の肉だよな……ラヴ姉さんは魔法馬まほうばと呼ばれたこの動物の事を知っているのだろうか)


 多少気にはなったのものの、自身の食欲と飲酒欲が勝りみんなと話しながらBBQを楽しんでゆく。




「食べたねぇ~」

「食べましたね~」

「まだいけるぅ~」

「ネピアは凄いな……」

「成長期ですから」


(こいつは成長するのか……じゃあエルモアも大きくなるのかな……)


 何気なくそんな事を考えてエルモアを見つめる。俺の脳内には立派に成長した聖修道女グッドシスターなエルモアがいた。


(綺麗になるだろうな……)


 身も心も美しく育ったエルモアを思い描き、自身の脳内で堪能する。


「どうしたんですか? タロさん?」

「んぁ? あぁ、いや……その……」


 言葉に詰まってしまい、慌てて取り繕うとするもラヴ姉さんにはやし立てられる事になる。


「ん~ ん~ ん~」

「……なんですかラヴ姉さん」

「いいね~ いいよ~ そのエルモアっちを見つめるズーキくんの横顔……これは見惚れるね~」


(まぁ……異種姦いしゅかんうんぬん言われるよりかマシか……)


「そうなんですか?」

「……ちょっと考え事しててさ」


(流れを変える為に仕事の話をするか)


「あぁ~ ちょっといいかな?」

「告白キターーー!?」

「……ラヴ姉さん……お願い……ちょっと落ち着いて」

「うん!」

「その……二人も聞いてくれるかい?」

「はい」

「……なによ改まって」

「仕事決まったんだ!」

「本当ですか! よかったですね~」

「よかったじゃない。んでなにすんの?」

「……」


 一人むくれるラヴ姉さん。思っていた内容と違ってふて腐れている。

 

「え~と冬の島だったかな? そこでカニ漁をするんだ。期間は二ヶ月だからちょっと長いけどね」

「その……二ヶ月間は戻ってこないんですか?」

「あぁ。けど大漁になれば一ヶ月でも戻ってこれるみたいなんだ」

「なんだかさみしくなるわね……」


(なんだかネピアにそう言われると、俺も寂しい気分になるな……)


「それでさ、……完全出来高だから何とも言えないんだけど、普通に捕れれば新人でも……」

「……新人でも?」

「……もったいぶるわね」

「……ご、五百万クイーンだって」

「「 !? 」」

「えっ! マジで!?」

「マジ」

「本当ですか!?」

「本当」

「……エターナルフォースブリザー島」


 すると今までふくれ顔をしていたラヴ姉さんが俺たち三人に口を挟む。だがその顔は険しかった。


「エターナルフォースブリザー島?」

「そう。聞いてないかい? もしかして詳細も?」

「え……金額的に尋常じゃないので過酷だとは思っていますが……」

「その島はね……数百年前に生まれたのさ。ある一人の大魔法士が異世界からやってきてね、その人が作り上げたのさ……」

「島を? 一人で? 作り上げたんですか?」

「いや……元々そこは孤島だった。その大魔法士は避暑地を選ぶように、この世界にやってきたと言われている。だがその年は猛暑だったのさ。残念ながら……」


(避暑地に異世界って……凄いスケールの話だな……)


「そうして怒り狂った大魔法士は、その孤島に多大なる力を使い、永久なる冬の島を完成させたのさ」

「今も……そこに……?」

「いや、あまりにも暴風雪が続いたので、元の世界に帰ったって話しだね」

「……大丈夫なんでしょうか?」

「ハッキリいうけど、死んでるよ人。何人も漁で」

「……」

「そんな……タロさん……」

「……あんた、やめときなさい。目先の金に飛びついて、死んだら意味ないでしょ?」


 確かに響いた。俺の心に。だが、覚悟を決めた俺はエルモアとネピアの気持ちには応えられない。


「二人が待ってるから……大丈夫だ」

「タロさん……」

「あんた……」

「……ならあたしは止めないよ。それが分かっているなら死んでも戻ってきな」

「はい!」

「じゃあズーキくんの就職祝いに乾杯だ~!」

「「「 かんぱ~い!!! 」」」


 それから心配そうな目で二人に見られることもあったが、確固たる俺の意思を酌み取ってくれたのか、時間と共にそのような事はなくなり、楽しいお酒の時間がやってくる。


「いや~ 相変わらずズーキくんはいい男だねぇ~ ラヴ姉さんまたもや惚れ直したよ~」

「はは……ありがとうございます……」


 多少飲み遅れて酔いに差があるように感じていた時に、あるものが目に入ってきた。地面と一体化しているヒポの隣にモコがいたのだ。


「モコだぁ~」

「モコ~」


 エルモアとネピアがモコに気がつき、触れに行く。ラヴ姉さんはそこで懐かしいものを見る様にしてモコを眺めていた。


「ラヴ姉さんは触りにいかないんですか?」

「ん? あぁ、もう一生分ぐらい触れたからね」

「一生分?」

「うん。実家にいるんだモコ」

「えっ!? ラヴさんの家にモコいるんですかっ!?」

「ラヴ姉ん家に行きたい!」

「あ~ すまないね、ぬか喜びさせてしまって。実家は北の街にあるのさ」

「そうですか……残念です」

「あぁ~ モコぉ~ 会いたかったよぉ~」


 その悲しみをモコに伝えるように、触り続けるネピアとエルモア。何かを考えるようにしてラヴ姉さんが話し始めた。


「二人は精霊の国出身だよね? ならこの国に伝わるモコの伝説を知ってるかい?」

「「(ふるふる)」」

「伝説ですか……」

「そうさ。この国では比較的モコはどこにでもいる。けれど見れないモコの状態が一つだけある。なんだと思うかな?」

「寝ているところですか?」

「う~ん……おしっことか?」


(おしっこ好きだなネピアは……)


「それは交尾!」

「「 !? 」」


(二回も見たけど……)


「人生の中でモコ同士の交尾を見た者はほとんどいない。だからもし見る事が出来たら幸せになるって伝説なんだ。まぁ、見る事は不可能だろうけどね。動物学者ですら見たことがあるのは一握り中の一握りだって話しさ」

「……あのラヴ姉さん? 俺、見ちゃったんだけど」

「えっ!? ホント!? すごい! ズーキくん凄い! 幸せバッチリ!」

「は……はぁ……」

「私も見ました!」

「えっ!? エルモアっちも!?」


 ラヴ姉さんだけではなくネピアが心底驚いたようにエルモアを見続けている。


「もしかして三人一緒に見ちゃったぁ? いや~ 最っ高! 三人最っ高! 繋がってるねぇ~ しっぽりだねぇ~」


(危ない。絶対変な事を言い出すよ、この人)


「ラヴ姉さん? 三人一緒じゃないんだ。俺とエルモアが最初で、次の日にネピアなんだ」

「!?」


 一気に青ざめるラヴ姉さん。口をパクパクさせながら俺たちを指さしている。


「あ……あ…… 違うよね? ズーキくんと一緒にネピアっちはモコの交尾を見てないよね?」

「いや、俺と一緒だけど……どうしたのラヴ姉さん?」

「……この伝説は本当なのさ。絶対幸せになれるって話。けど、その人生でも一回見れるか分からない状況を二回以上見た人は……逆にものすごく不幸になると言われている。そして一緒にいた人も……」

「え……マジで?」

「けれどズーキくんの場合は二回だから幸福と不幸で相殺されるハズ」

「結局変わらないって事か……けど、どうしてそんなに驚いているの? ラヴ姉さん?」

「ズーキくんは相殺された……けれど一緒にいたネピアっちは……」

「えっ!?」

「うぅ……ネピアっちぃ~」


 どうする事も出来ない状態を諦めるように、全身でネピアを抱きしめて泣き始めるラヴ姉さん。


「えっ? えっ!? え~!?」

「うわ~ん」

「ちょっとラヴ姉! どうなるの私ぃ!? ねぇ!? ちょっと!? 答えてよぉーーー!?」


 それから泣き続けるラヴ姉さんと、多大なる不幸を手に入れたかもしれないネピアが発狂し続ける、最強の告白BBQ大会となったのである。











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