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第50話  仕事を受けよう!

 タイトル変更いたしました。

 


 結局のところ本日も、クエルボ大人買いセットと永眠枕を受け取ることは出来なかった。真性門番アピスト・グラマのコンビに追いかけられて屋根裏部屋がある自宅へと戻ってきていた。


「(モコの突き合い……モコの突き合い……モコの突き合い)」

(なんだかネピアが呟いているけど大丈夫か? 何かの呪文を唱えている訳じゃないよな? いきなり何か発動して巻き込まれるのは嫌だ……もう、意識を失いたくない……うぅ)


 ネピパンチを干し草の中で受けた俺は、そのまま永眠してしまうんじゃないかというような深い眠りについていたようで、時刻は夕方に差し掛かろうとしていた。


「(マオ……マオ……マオ……マ……ォ……ッ……ゥ……)」

(……いっちまったか? ネピアの頭? なんだか心ここにあらずって感じだな……)


 複雑な表情をしながら、うな垂れるように歩いているネピア。その様子を記録出来れば面白かったのだが、俺はある事を思い出していた。


(そうだよ……ザンさんと夕方に会う約束していたんだ……ネピアのせいで遅刻するところだった)


「ネピア」

「……」

「ネピア?」

「……」

「……大丈夫か?」

「……」

「はぁ……俺はザンさんに用事あるから、先に屋根裏に行っててくれな」

「(こくり)」


(一応反応してくれたな)


 ネピアは肩を落とすようにして階上へ向かい、俺はザンさんの部屋へ向かう。扉の前に立ちノックしようとすると、中から話し声が聞こえてきた。

 一旦ノックする事を躊躇したが、このままいても仕方ないので扉を軽くノックし来訪を伝える。


「おう。開いてるぞ」

「失礼します」


 相変わらず物で溢れているが、掃除が行き届いているのがザンさんの部屋だ。そしてザンさんと話していたのは、海の男バルバードさんだった。初めてあったのは奴隷解放記念パーティーをした旧市街の酒場。俺たち三人が満足するまで酒と食べ物を奢ってくれた人格者でもある。


「元気してるか? ズーキだったか?」

「はい。元気にしています。この間はご馳走様でした」

「あ、あぁ……あの二人も元気か?」

「はい。変わらず元気にしていますよ」


 バルバードさんの顔は綻び、娘を心配する親のような優しさを感じた。そういった優しさがこちらにも伝わり、俺も優しい気分に浸る。


「お前は仕事探していたよな?」

「はい。探しています。よろしくお願いします」

「だとよ?」


 ザンさんが俺に確認する。覚悟を決めるよう即答した。どうやらバルバードさんが仕事を斡旋してくれるようだった。


「よし。じゃあ決定事項として話を進める」

「はい」

「仕事の内容はカニ漁だ」

「かに……漁……ですか」

「そうだ。ここ王都から少し離れた所に万年冬の島がある。そこでカニを捕る。期間は通常二ヶ月。女王様の加護があれば大量につぐ大漁で一ヶ月かからないかもなぁ。船に乗ったら最後。もちろん帰港するまでは帰れない。どうだ?」

「はい! やらせて下さい!」

「金額も聞かないで即答とはな。若いってのは良いことだ。だが金の為に仕事をするからな、これから賃金の説明をする……」


 なんだか勿体つけるように、一度話を区切りバルバードさん。なんだか空気が張り詰めたような気がして、俺は唾を飲み込んだ。


「……完全出来高制だ。取れた量にもよるが一回の漁で新人なら、五百万クイーンはいくだろうな」

「!? 五百……万……クイーン!?」

「驚いたか? たかだか二ヶ月で貰える金額じゃないよな?」

「はい……相当……厳しいって事ですよね……」

「やめるか?」

「いえっ! やらせて下さい!」

「五百万クイーンあれば、あの二人もディープ・フォレストに帰れるだろうよ」

「はい!」

「よし。出港は来週頭。こないだ会った港に日の出前集合だ」

「ありがとうございます。お世話になります」


 するとザンさんがこちらを見てくる。強い眼差しで俺もそれに呼応するかのように、意思を持った目線で返す。


「お前ならやれる。自分を卑下するな。どうせ出航したらやるしかないからな」

「はい!」

「……ひとついいか?」

「はい。ザンさん」

「待ってるヤツがいるって事を絶対に忘れるな。お前はそういう言い方の方が気合いが入るだろうよ」

「はい!」

「じゃあ、ズーキよろしく頼む」

「はい!」

「嬢ちゃん達に報告してやんな。これで帰れる可能性がグンと上がったんだ」

「はい!」


 俺は二人に深い深いお辞儀をして、その場を去った。そのまま屋根裏部屋に向かうように階段を上がっていく。最上階に辿り着くとそこには糠漬けをかき混ぜているエルモアがいた。


「エルモア。ただいま」

「おかえりなさい! タロさん!」


 元気いっぱいなエルモアの声を聞きて安心する。どうやら気落ちしていた気分は無くなり、いつも通りのエルモアに戻ったようだった。


「タロさん」

「なんだ? エルモア?」

「……なんだか心配かけてしまったようで、ごめんなさい」

「そんな……謝らないでくれ。こっちこそ色々迷惑かけたな。ごめんな」

「そんなことないです。私の方が本当に……」

「なぁエルモア。どっちにしても互いに謝って、互いに問題ないっていってるんだ。これからもよろしくな」

「はい! 通常モードに戻った私をよろしくです!」

「あぁ!」

「ふふっ」

「ははっ」


 すると屋根裏部屋にいたネピアが聞いていたのか、こちらへとやって来る。ネピアも肩を落とすような状態でなく、俺たちのやり取りを見て微笑んでいた。


「そうだ。二人に伝えたい事があるんだ」

「なに?」

「なんですか?」

「え~ なに~ 愛の告白かいな~? ラヴ姉さん! いいところに参上!」 

「ラヴ姉さん!?」

「ラヴ姉!?」

「ラヴさん!?」


 するといつの間にか最上階まであがってきたラヴ姉さんがそこにはいた。

なにやら荷物をもって心底嬉しそうな顔をしながらこちらへやって来る。

 服装はいつも通り和風な格好だったが、いつもと違う所が二つあった。一つは頭にしている手ぬぐい。そして前掛けに書かれているその文字だった。


(「見敵必殺」から「焼肉定食」に変わってる……)


「今晩! 肉! 食べる!」

「……あの、なんで片言なんですか?」

「こないだ! お礼! これ!」


 ラヴ姉さんは持っていた荷物を三人の前に展開する。それは上等そうな肉や野菜だった。


「わぁ~ おいしそうです!」

「本当ね。ラヴ姉いいの?」

「いい!」

「ありがとうございます」


 食材を渡してくると何故か俺にすり寄ってきた。すると耳打ちしてくるような体勢になるラヴ姉さん。彼女は大変小柄なので俺は身体を落とし耳を傾けた。


「(ごめんね~ 告白のじゃましちゃってさぁ~)」

「(……違います。ラヴ姉さんのご希望には添えなくて申し訳ないですね)」

「(えぇ~ なんだぁ~ 今からしっぽりとした繋がりが、ここで見れると思ったのにぃ~)」

「(ラヴ姉さん……頼みますから変な事は言わないで下さいよ?)」

「(大丈夫! 安心!)」

「あの……」

「あ、あぁ済まないエルモア。なんでもないんだ」

「はぁ」

「……」


(ネピアの野郎、勘ぐってやがるな……)


「まぁまぁ、積もる話もあるだろうから早速行こうじゃないかっ!」

「どこいくのラヴ姉?」

「ふっふっふっ。それは裏庭さっ! 告白BBQ大会の始まり始まりぃ~」 

「告白とBBQって……凄い組み合わせですね……」

「でも、BBQ楽しみです!」

「ん! じゃあ飲みもん取ってくる!」


 言うが早いがネピアは勢いをつけて屋根裏部屋に酒を取りに行った。俺とエルモアは階下にいたアン様に声をかけてBBQセットを借りにいく。都合よく常備しているか気にはなったが、ラヴ姉さんの大丈夫という絶対的な言葉を信じ行動に移る。そうして各々、BBQ開始の為の準備に翻弄されていく。



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