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第47話  ネピアと出かけよう!

 


 ネピアに引っ張られるようにして、鍛冶屋ザンを後にする。本日もいい天気でお出かけ日和と言える。


「なぁネピア」

「なに」

「エルモアは何してるんだ?」

「……覚えてないの? ちょっと強くやり過ぎたかしらね。いつもならすぐに思い出すのに……」

「?」

「エルモアはね……瞑想しているのよ今」

「!?」


(えっ!? エルモアが瞑想っ!? えっ!?)


「その……本当の瞑想だよな?」

「はぁ? 本当じゃない瞑想ってなによ?」


(やっべぇ!? 適当に誤魔化そう!)


「すまん。言い間違えた。……本当に瞑想しているのか?」

「そうよ」

「……なんで?」

「なんでも」

「なんで? どうして? なぜゆえに?」

「……」

「……」


 ネピアの顔が今まで見たことのないくらい、鬱陶しそうになっている。だがここで諦めては真相解明には至らない。

 俺は絶対にエルモアが瞑想している理由を知りたかった。どうしても気になってしまうから。彼女が瞑想している様を。


「……気にしているのよ」

「気にしている?」


 何の事か分からなかったが、ネピアが干し芋を巾着袋の中から出して頬張る。しばらく咀嚼すると、俺にも干し芋を渡しながら話してくれた。


「ロールの木の仕事あったでしょ? 巻き取り」

「あぁ」

「あれ……途中で投げ出しちゃったじゃない」

「あぁ。でもそれって俺が言い出したんだぞ? まぁ確かにエルモアも死んだような目をしていたし……なんだっけ? え~と、あぁ、落ち着きのない子なんですなんて言ってたっけ?」

「そう。だから瞑想しているの」

「瞑想して落ち着きを得るって事か」

「……それもあるわ」


 旧市街を市場に向けて歩いていたが、ネピアがふと足を止める。それに応じるように俺もその場で止まりネピアを見つめる。


「さっきも言ったけど気にしているのよ。あんたはさ、なんだかんだ言っても私たちのことを考えてくれて、それを自分の事のように扱ってくれてるじゃない? その……コロシアムの仕事だってあんなに傷ついて無理をして……」


 なんだか気恥ずかしくなって、ついネピアの話しに口を挟んでしまった。


「まぁ、クビになったけどな。ハハッ」

「……それよ。すごい気にしてたでしょ? 落ち込んじゃってさ……私たちに謝りまでして……」

「そりゃそうだろ……あんなに高給な仕事を棒に振っちまったんだ。しかも寝坊だぜ?」

「あんたがそんなに頑張ってくれているのに、自分は何やっているんだろうって思ったんじゃない。エルモアは」

「……」

「楽な仕事で弱音を吐いて嫌だったんじゃないかな」

「……そんな、気にしなくていいのに」


 すると待ってましたと言わんばかりに、ネピアが強調して俺に伝えてくる。


「その言葉そっくりあんたに返すわ。クビになって落ち込んでたのは誰?」

「……俺」

「そういうこと。エルモアの気持ちも分かるでしょ?」

「……はい」

「ま、私が偉そうに言えた義理でもないんだけどね。なんだか昨日から様子が変だったのに気にしてあげれなかったしね」


(確かに……様子は変だったな)


「そのネピア?」

「ん?」

「……様子、やっぱりおかしかったか?」

「う~ん。なんだか、心ここにあらずって感じしたよね。心を乱されている感じはしたかな」

「そうか……なんだか心配だな」

「大丈夫よ。深刻なものではなく一時的なモノよ。姉さんは自分の事を落ち着きがないなんて言うけれど、私はそう思わない。確かに行動的であるけど、心はとても穏やかだしね」

「あぁ。エルモアの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいな」

「……誰に?」

「ネピアちゃん」


 そう言うとネピアは俺の事を睨み付ける。事実を述べてこれからの人生をより幸せに生きてもらいたいという、社会派紳士の願いは通じただろうか。


「……ねぇ」

「なんだ?」

「あんたは飲まないのかしら?」

「飲んだら恩恵が受けれそうだからな。頂くとしよう」

「そう」

「……」

「……」


 重要な会話は終了したという事が、明確に表現されるかのように、先に歩いていくネピア。そのまま互いに干し芋を食べながら市場に向けて歩いて行く。段々と賑やかになってきた頃に、ネピアに声を掛ける。


「そういやネピアさ」

「……なに」

「何か市場で買い物あるのか?」

「う~ん。食材以外には……清酒と……」


 互いに購入するモノはあまりないようで、用事はすぐに済んでしまいそうだった。するとネピアが一つ提案をしてきた。


「ねえ。ちょっと行きたいところがあるんだけど……いいかな」

「いいよ。せっかく一緒に来たんだ。楽しもう」

「うん」

「じゃあ先にそこにいくか。どこだかは知らないけど」

「市場の真ん中」

「あいよ。じゃあ行くか」


 市場の中心に向かって歩き始める。途中にネピアが清酒の「覇王」が置いていないかしらみつぶしに探し始めてしまったので、俺も近くの商店で時間を潰す。


「らっしゃい」

「ども」


(なんだ? ステッカー? 色々なステッカーがあるものだ)


 一つ一つ見たら夕方までかかるんじゃないか、と思うくらいの数のステッカーが店を取り囲んでいた。


「兄さん。ここは初めてかい?」

「あ、はい」

「これはね。魔法ステッカーさ。ペタッと貼れてスルッと剥がせる大変便利な代物さ」

「魔法……ですか」

「なんだい。信じちゃいない顔だね。どれ試供品がここに……ほら、やってみて」


 促されるままステッカーを受け取り、貼りつけた。すると店主が剥がすようなジェスチャーをしてきたので、俺は貼り付けたステッカーを剥がす。


(うん普通だな)


「うんうん。いいねぇその顔。じゃあこれ剥がして」


 今度は店主が自分で魔法ステッカーと呼ばれる代物を壁に貼る。それを俺に剥がすように言ってくる。


(ステッカーも一緒だよな? どれ……ん……あれ? 剥がれ……ない)


「この効果が魔法ステッカーさ。基本的には貼った人しか剥がせない」

「えっ……凄いですね。でも剥がれなくなったら困りますよね?」

「そうだね。魔法ステッカー剥がしを購入してもらうのが店主としての努めだけど、頑張れば剥がせるよ。他人が剥がす場合はちょっとコツがあるんだけど、少しめくれてきたら一気に魔法効果がなくなるから、スルッといけるよ」

「へぇ~ 面白いですねぇ」


 それから店主さんに試供品で剥がし方を教わる。一通りマスターした後に店内を見渡していた。

 色々あるものだと感心しながら見ていると、宅配便に貼るような注意書きシールがいくつか販売していた。


(これは……そうか……注意喚起って大事だよな)


 俺はその注意書きシールをいくつか購入する事に決めた。タイミングよく戻ってきたネピアと一緒に店を出て目的の場所へと向かってゆく。




「そういやさ、市場の中心なんて言っていたけど何があるんだ?」

「宿」

「宿? 俺の仕事探しか?」

「ううん。掲示板を見にいくわけじゃないよ」


 またもや干し芋を巾着袋から取り出して食べ始めるネピア。俺も欲しかったが、自分から言い出したら負けなような気がして、何となく目線で訴える。


「ん? なら泊まるのか?」

「あんたと二人っきりで、宿に泊まるなんて事は絶対にないわよ」


 そう言うとネピアは不快そうに俺の目線を避ける。どうやら干し芋は頂けなさそうな状況へと変化した。


「そうか……ならもし泊まったらどうする?」

「絶対にないわ」


 もう一度俺は巾着袋に目を向け物欲しそうな顔をするが、やはり状況が良くないのか全く反応してくれないネピア。


「絶対?」

「絶対」


 その言葉には確固たる意思が見て取れる。そして話の内容に関しての言葉だけでなく、干し芋に関する扱いにしてもだった。


(こいつ……干し芋を俺に渡す気はないようだな……クソっ)


「ならよ。もし泊まったらどうする。そこまで絶対の自信があるんだろ?」

「しつこいわね……まぁいいわ、その時はあんたの言うこと聞いてあげるわ」

「……そうか」

「……まぁこの私がそのような選択をするわけはないけどね」

「なぁ」

「なに」

「干し芋くれ」

「いや」

「なんでだよっ!? さっきくれたろ!?」

「さっきはさっきでしょ!? 時間ってのはねぇ! 刻一刻と過ぎ去っていっているのよっ! それを感じ取れないなんて、この干し芋を食べる資格はないわっ!」

「んだとぉ!?」

「まぁ、そうやって息巻いていなさい。いま現在、この干し芋の所有権はこのネピア様が握っているのよ。そこで涎でも垂らしてなさい! はっはっはぁ!」


 確かにその通りだ。ネピアが所有していて間違いなく彼女のモノだ。俺はお金が無い訳では無い。今現在、仕事はしていなく散財してしまったとは言っても、懐にまだ余裕はある。

 実際自分も買えばいいだけの話しなのだが、ネピアが所有している干し芋は限定版なのである。限定版。その響きだけで購入に至ってしまいそうになるのは、一種の病なのではないだろうか。

 だが侮るなかれ。この限定版干し芋は、限定の名に恥じずとても美味しかったのだ。昨今、限定版と名を打てば購入してくれるだろうという、浅はかな狙いが見て取れて嫌になる状況を打破する様に、この世に舞い降りた芋である。


「……涎たらしたのはお前だろ」

「なっ! たらしてないっ! 私、ヨダレなんてたらしてないっ!」

「あっ……す、すまん。俺の間違いだったよ」

「……まったく。まっ、分かってくれれば良いのよ」

「お前の口から出る体液は尿だもんな。ハハッ」

「あー!? また尿っていったぁ!?」

「……けど……やめようこの話は。お前の尿を飲んだ事がトラウマになってきた。あぁ……女王さま……何故わたくしにこんな仕打ちを……」

「……ねぇ」

「……なんだ」

「……ホントに……私の……その……よ(ごにょごにょ)を口に……入れたの?」

「一応いっておくけどな……入れたんじゃなくて強制的に入れさせられたの。わかる? 任意じゃなくて強制飲尿。アンダスタン?」

「あー!? また尿っていったぁ!?」

「しかもガッツリ増し増しだ……はぁ……俺もう汚れちゃった……うぅ……」

「……」

「……」

「……ねぇ」

「……なんだ」

「……忘れて。お願い」

「……あぁ。もちろんだよ」


 互いに記憶を封印する為の条約を結び、書状に調印した後のように熱い握手を旧市街の市場の通りで交わす。 

 ネピアはその条約においての終結に満足したのか、限定版の干し芋を俺に渡してくる。初めからこうしておけば、互いの傷をえぐるような真似をしなくて済んだというのに。


(だがうまし この干し芋は 春の風)


 つらい冬という季節を乗り越えて、芽吹いてくるであろう草花のように、俺とネピアの関係も春先の風のように穏やかになるであろう。











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