第45話 エルモアと逃避行!
アイチ寝具店から永眠枕なる最強就寝アイテムを手に入れた俺とエルモアは、依然として旧市街の市場を探索している。
「ネピア喜びますよ~」
「そうだな。俺も今夜寝るの楽しみだよ」
(起きれるか分からないけどな……)
「そういやさ……もし布団を購入出来たとしても、あの狭い屋根裏部屋で使用するとなると俺とエルモアは一緒の布団だな。ネピアはハンモックだし」
「!?」
「新規格になった寝具はどれ程の値段なんだろうな。どんなものか新市街に見に行ってみるか? エルモア?」
「(……二人……愛……知る……場所……布団……)」
「エルモア?」
「……き、禁止項目です。ね、ネピアもいるんですよ?」
(禁止項目!? またクエルボ大人買いするのぉ!? ネピア仲間外れにしたからぁ!?)
「えっと……じゃあネピアも一緒に……」
「!?」
「けど……あいつ嫌がると思う。だから俺はエルモアと二人だけが良かったんだけど……」
「!?」
「まぁ布団はまだでも、極上の枕が手に入ったから当分は気持ちよく寝れるからな。布団はまだ先でもいいか」
「……はぃ」
「?」
いつもより大人しいエルモアを見て、君はそんなに静かにならずとも、ネピアがそれくらになってくれれば丁度良いのになと心の中で思う。
「なぁエルモア?」
「……はい」
「どうしたんだ今日? 何かいつもと違くないか?」
「……そんな事はありません」
「……」
「……」
「俺がエルモアを傷つけたんだったら謝るよ。ごめん」
「いえ! 違います! ……そういうんじゃないんです」
「……」
「……」
どうも勝手が違うエルモアの対処に困っていたところ、助け船ならぬ泥船に乗った真性たちが俺たち迎えにやって来た。
「こちらにおられましたか。聖なる幼人様」
「ささっ こちらへどうぞ。湯浴みの準備も出来ております」
相変わらずの真性っぷりを発揮する門番兵士の隊長アピストとグラマ。舐り絡みつくような大変不快な視線をエルモアに向ける。
「本当に止めてもらえるか? 肉体的にも精神的にも傷がつく」
「なんだとぉ~?」
「傷が付いたら舐めれば良いのだぁ~」
今現在こいつらの脳内で行われている思考を具現化する事が出来たら、一冊の本もとい冊子が生まれるだろう。
(本当に救いようがな。これでも同じ人間なのか? 社会派紳士は世界を恨む)
「行こう」
「はい」
「ちょっと待ったぁ!」
「そうだそうだ!」
「……なんだよ?」
「……その、もう一人はどこだ?」
「あぁ?」
「もう一人いるだろうっ! その、とても可愛らしい娘が……」
「……そうか。じゃあ、こちらの娘は可愛くないと。しっかり伝わったと思うよ。じゃあ来世で」
「待てぇ! 違うっ! そういう事ではないっ! 違うんだっ!」
「そうだっ! こちらの幼人様は私たちの仕事を労ってくれた聖幼人様! そういった高みにある存在なのだ!」
(んっ気っ持っちっ悪ぅ)
「……そうか。じゃあ、あっちの娘は高みにない存在と。しっかり伝えておくよ。じゃあ来々世で」
「待てぇ! 違うっ! そういう事ではないっ! 違うんだっ!」
「そうだっ! あちらの幼人様は私たちに涙を見せてくれた幼気様! そういった次元の違う存在なのだ!」
(次元の彼方に飛ばしてやった方が世界の為なんじゃないのか?)
俺とエルモアは熱っぽい彼らをそのままにして静かに立ち去ろうとした。だが気がつかれてしまった。
「逃げるぞっ!」
「はいっ!」
「いくぞっ! グラマっ! 確保して正義の湯浴みだっ!」
「はいっ! 身体の洗浄の役目はこのグラマがっ!」
「……なんだと? 部下のクセに一番おいしいところを持っていくだとぉ?」
「……隊長は幼人様がリラックス出来るように、湯の温度調節に人生をかけてもらえれば結構ですから」
「なんだと貴様っ!」
「だいたいですね……」
真性なる門番たちは仲違いを始めその場で問答していた。その隙に俺とエルモアは迷路のような旧市街の市場の奥に向けて逃げていった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「……疲れましたぁ~」
あちらこちらとジグザグに逃げ回ったので、ここが何処なのか分からなくなってしまう。
「……ここはどこだ?」
「……ずいぶんと奥にきてしまいましたね」
奥にきた感じはするものの、依然として市場は続いている。周りには商店があり建物が連なっている。
「あいつらいつも市場にいるのか?」
「どうなんでしょう? でもいつも探されている感じはしますね」
「はぁ……」
「ふぅ……」
すると近くから聞きたくない声が聞こえ始めた。
「いたかっ!?」
「いませんっ!」
(マジかよ!?)
「ヤバい! 逃げるぞっ!?」
「はいっ!」
「見つけたぁ~」
「すみずみまで、お清め致しますからご安心をっ!」
体力が回復しきっていない所に、尋常ではない探索能力で発見されてしまう。捕まる訳にもいかず建物沿いを走って逃げる。
すると建物の扉から手を出して呼んでいる旧市街の住民がいた。
「こっちだ!」
「助かるっ!」
「ありがとうございますっ!」
「このまま最上階へっ!」
「「はいっ!」」
そのまま階段を駆け上がる。手を出して呼んでくれたのはアン様、ザンさんの知り合いだろうか。
最上階へ登りきる前に、階下から扉を蹴り破った音と真性門番アピストとグラマの声が聞こえてくる。
「どこだ!?」
「今日の運勢、ラッキーワードは最上階! 上ですっ!」
「よしっ! 行くぞグラマっ!」
「はいっ! アピスト隊長っ!」
(なはぁ!? なんなんだよその占い!? くっそぉ!)
最上階に着くと、もう一人の協力者が突き当たりの扉を指さしている。
「ここからそのまま飛び出て下さいっ!」
「「はいっ!」」
扉に手を掛けていた協力者が、扉を開け放った瞬間をめがけるように走り抜けた。
「おわっ!?」
「あっ!?」
扉の向こうは空中で、俺とエルモアは地面に向けて落下していく。だが地面に激突する事はなく、山のように盛ってある干し草に着地し、中に埋もれていった。
「どこだっ!? おい!? 貴様っ!? 幼人様とクズがいただろう!? 何処へ行った!?」
「あちらの非常階段から階下へ……」
「よしっ! 行くぞグラマっ!」
「はいっ! アピスト隊長っ!」
(ふぅ~ 協力者のおかげでなんとか撒いたか……)
空中へ身を投げ出した時はどうなる事かと思ったが、幸い怪我することもなく大量の干し草の中に埋もれている。
「エルモア大丈夫か?」
「はい。タロさんも大丈夫ですか?」
「あぁ。全く酷い目にあったな」
「ふふっ 本当ですね」
「ははっ」
「ふふっ」
酷い目にはあったが、いつも通りのエルモアに戻っていたので俺は安心した。
「とりあえずここから出るか」
「そうですね」
そう言いながら干し草の中を匍匐前進のように進んでいく。顔を干し草から出した瞬間にあいつらの声が聞こえる。
「どこだっ!?」
「幼人様ぁ~!」
(( スッ ))
顔を出した瞬間に引っ込めた。あいつらが近くを走り去っていく。
「(まだここにいた方がいいな)」
「(そのようですね)」
二人で辺りを伺うようにする。顔は干し草から出さないが、目の辺りだけは外を見れるように干し草を除けた。
「どこだっ!?」
「幼人様ぁ~!」
(( スッ ))
既に顔は引っ込めていたのだが、何となく声がすると干し草の中へ身体を潜めてしまった。
「(エルモア……諦めて当分ここにいよう)」
「(そうですね。その方がよさそうです)」
それからどれ程に時間が経ったのだろう。目の前の景色を見るのも飽きた頃、その退屈さを紛らわす存在が俺とエルモアの視界に入ってくる。
「(タロさんタロさん! モコですよ! モコ!)」
「(おぉ……それも二匹もいるじゃないか)」
ネコをまんまるくしたような生き物のモコ。タンポポの綿毛のようにまんまるで本当に可愛らしい。今日の昼に裏庭で初めてみたモコ。それが今日はモコの日、モコデーなのか二回も遭遇する事に成功する。それも二匹。
「(かわいいですねぇ~ 寄り添ってますよ~)」
「(本当だな~ なんだか微笑ましいな~)」
長年連れ添ったようにも見えるし、初々しさもあるようにも見える二匹のモコ。見ていてとても気分がホッコリするような仲睦まじさであった。
「(今の私とタロさんみたいですね!)」
「(あぁ! 俺たちも寄り添ってるからな! 干し草の中で!)」
「(ふふっ)」
「(ははっ)」
二匹のモコにつられるように、俺とエルモアも仲睦まじさを展開する。すると寄り添っていた二匹のうち一匹が離れる。どこかへ行ってしまうのかと思ったが、そのような事にはならずもう一匹のモコの後ろに陣取った。
「(どうしたんでしょう?)」
「(毛づくろいしてあげるんじゃないのか?)」
「(仲いいですもんね~)」
「(そうだね~)」
「(ふふっ)」
「(ははっ)」
すると俺たちが予想した展開を大きく裏切り、大地と同化したように動かなくなったモコの後ろからもう一匹のモコが覆い被さる。
「(!?)」
「(!?)」
覆い被さったモコが鳴き声を出す。
「マ~オ」
「……」
「マ~ ッオ!」
「……っ!」
モコ同士の交尾が始まったようだ。
「(今っ!? 今ですかねっ!? タロさんっ!?)」
「(そっ、そのようだな……)」
激しさはなく相手をいたわるような交尾を展開する。
「マ~オ マ~オ マ~オ」
「……っ ……っ ……っ」
モコ二匹の営みが目前で行われている。
「(きっ 気持ちよさそうですねっ!? タロさんっ!?)」
「(そっ、そのようだな……)」
確かに恍惚な表情のモコたち。
「マ~オ マ~オ マ~オ マ~オ マ~オ マ~オ」
「……っ ……っ ……っ ……っ ……っ ……っ」
その恍惚な表情のまま行為を続けいていく。
「(そっ その、どのくらい続くのでしょうか!? タロさん!?)」
「(そっ、そのようだな……)」
行為に見とれていたのか意味の通じない返事をする。
「マ~オ マっ! マ…… マォ…… ッオ ……オゥ ……ォゥ」
「……っ っ! っ…… っ…… っ…… …… …… ……」
まだ重なったままだが行為は終了したようだった。
「(今っ!? 今ですかねっ!? タロさんっ!?)」
「(そっ、そのようだな……)」
そのようだった。