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第44話  エルモアと市場をまわろう!

「ここからここまで下さい」


(えっ?)


「まいど嬢ちゃん。今日は大量のクエルボだね~ パーティーかい?」

「いえ。刺激の結果です」

「刺激の……結果…… ん~ 嬢ちゃんは難しい事を言うねぇ~ おじさんは馬鹿だから分からないよ。いや……酒飲んでいるから分からないのかもなぁ~! はっはっはぁ~!」

「ふふっ」

「どうすんだい? 今持って帰るかい?」

「市場を見てまわりたいので後でいいですか?」

「もちろんだとも。嬢ちゃんなら顔パスさ。いつでもいいよ」

「ありがとうございます」


(えっ? 十本以上あるけど? えっ?)


「ん~ 端数はオマケしとくよ。三万クイーンね」

「はい」


(三万クイーン!?)


「……お願いします」

「まいど~」

「それでは行きましょうか」

「……はぃ」

 

 冷静に買い物を済ませるエルモア。そして当初の決め事により支払いは全額が俺の負担になる。


「ふふっ ふ~んふ~んふ~ん」

「ははっ は~んは~んは~ん」


 もうどうにでもなれと言うほどでもあるのか……ないのか……俺には判断が付かなかった。何せ、ラヴ姉さん事件の時が七万クイーン。今回のエルモア事件が三万クイーン。合計十万クイーン。


(十万あったら……うぅ……絶対に店舗で大盤振る舞い出来たぁ……)


 この異世界にもあるのか分からなかったが、俺はそう後悔する。


「楽しいですね!」

「楽しいですな!」


 もう無理くりでもテンションを上げていくしかないと思った。忘れたいから。それに、俺がエルモアに対しての心遣いが足りていなかった事が起因しているので仕方ない。せっかくエルモアと買い物に来ているんだ。楽しまなければもったいない。


「これも刺激の一部だよな!?」

「……」

「……あの? エルモアさん?」

「……直接刺激は禁止項目ですよ?  タロさん?」

「えっ?」

「……」

「……」


(禁止項目? 直接刺激?)


「あの~ エルモアさん? それってどういう……」

「……クエルボ大人買い」


(ビクぅ!?)


「……ご理解いただけましたか?」

「……はぃ」


(エルモン……どうしちゃったの? もうお金ないよぉ)


 少なくともエルモアに直接刺激を与えると、禁止項目に当てはまって罰則がクエルボの大人買いになるという事は分かった。

 だがその直接刺激というのが分からない。直接的な……刺激。どれにも当てはまりそうで厄介な案件に飛び火してしまった感がある。


(詳細を聞いた方が絶対今後の為なんだが……この選択肢を選ぶ勇気がない……諦めよう)


「……市場を見てまわりたいって言っていたけど、何かあるのか?」

「え~と、特に何かあるというわけじゃないです。ただいつも同じところを見ているので、たまには他のところも見てみたいと思いまして」

「そうだな。端から端までこの市場を巡った訳じゃないからな。よしっ! 網羅してみるか!」

「はい!」


 そうは言ったものの、この市場は広く全てを見るとなると結構な時間になる。今は仕事も互いにしていないので問題はない。だが市場は表だけではなく建物の中まで入れると迷路のようになっている。全貌はこの旧市街の人たちでも分からないのではないだろうか。


「それにしても活気があるよな」

「そうですね。こういった活気は好きです」

「俺も好きだよ」

「……」

「……」


(ちょっとぉ~ エルモ~ン どうしちゃったの? ポンポンいたいの? さすってあげようか?)


「あっ……あのお店に行きましょうっ!」

「おっおう」


 いきなり走り出してエルモアが行ってしまう。先程から様子がおかしい。どうしてそうなったかは分かる。俺がエルフ関係の事を往来で話そうとしたからだ。

 エルモアの事だから、その罰としてクエルボの大人買いをさせた事を気に病んでいるのだろう。気を使わなかった俺が気を使われている。


(しっかりしないとな。愛想つかされちまう)


「……寝具店か」


 俺は店先で立ち尽くしながら確認するように声に出してしまった。何故なら寝具店なのに布団が見当たらないからだ。エルモアはそのまま店内に入って行ってしまったが直ぐに出てきた。


「おふとんがないです」

「おふとんがないのか」


 俺たちは屋根裏部屋で寝ている時に布団を使ってはいない。未だ購入していなかったからだ。枕は丸めた布。床にはラグを引いて底冷えを多少防ぎ、ブランケットを掛けて寝ているのが現状だ。ただしネピアは除く。


「売り切れたのか? 人気店だったのかもな」

「そうだったら余計に欲しくなりますね」

「……そう言うわけじゃないんだよ。すまないね商品が無くて」


 すると奥から俺たちの話を聞いていたのか、この店の店主と思われるおじさんがやって来た。


「あっどうも。その……商品はどうしたんですか?」

「……寝具は王都民にとって大事なモノだから、指定されたお店でないと製作や販売が出来なくなったんだ。しかも新規格に合っていない寝具は廃棄処分さ」

「もしかして……大臣が?」

「……そうだよ大元はね。けど、新市街の寝具店だろうね取り入ったのはさ。客層が違うのにとばっちりさ」

「ひどいです」

「はは……けど、そういう場所になっているんだ。ここ王都はね……住みづらくなってきたよ本当に……せっかくじいさんの代から受け継いで、誇りをもって布団を作っていたんだけどね」


(ここでも大臣の影響が出てきているのか……)


「おふとんは……もしかして……」

「そんな悲しい顔されたら困っちゃうね。大丈夫。先月までに売り切ったよ。おかげさまでね」

「そうですか安心しました」

「もしかして布団を買いに来てくれたのかい?」

「あ……その……今は布団を持っていなかったので、見に来たんです」

「残念だったけど……あっ……ちょっと待っててくれるかい?」

「あっはい」

「はい」


 店主は小走りで店内に戻っていってしまう。その後ろ姿が見えなくなったと思ったら、直ぐに何かを抱えて戻ってきた。それは二つの枕だった。


「もし良かったらいるかい?」

「えっ……いいんですか」

「あげるのは構わない。どうせ販売許可が降りないんだから売れないしね。ただ……」

「ただ?」

「これは死んだじいさんが最後に作った枕でね。じいさんはこの店が販売停止になる前に旅立てたんだ。この二つはじいさんが使っていないから新品だよ」

「わぁ……とてもしっかりしています。それに本当に気持ちが込められています」


 エルモアは精霊からそう告げられているのだろうか。大事に大事に枕に触れて愛おしそうに撫でている。


「死んだじいさんも浮かばれるよ。そんな風に扱ってくれるなら」

「しかし……これ程の枕を頂く訳には……」

「いいんだ。君たちに使ってもらう為にじいさんが作ったのかもしれない」

「……わかりました。ただ……ひとつお願いがあるんです。実はこの子の妹がいて三人で暮らしているんです」

「そうかい。あるには……あるんだけどねもう一つ。けど……じいさんが使っていた試供品なんだ」

「そうですか……それは流石に頂けませんね。大事な遺品ですものね」

「あぁ……いや、そういう訳じゃないんだ。ほら、死んだじいさんが使っていたモノなんて嫌だろう? それでもいいならむしろ使って欲しい。じいさんはこれをいっぱい作って販売するの楽しみにしていたんだ」

「はい。それなら頂きます。ありがとうございます」


 店主はもう一つ奥から持ってきてくれた。目印にと、なんだか可愛らしいリボンを付けてくれた。


「それじゃお兄さんがこのリボンのやつね。姉妹さんには新しい枕をあげて」

「はい。本当にありがとうございます」

「大事にしますね」

「本当に大事にしてくれそうで安心するよ。じいさん……良かったなぁ」


 遠い目で遙か上空を眺める店主さん。俺たちもそこに店主さんのじいさんがいるように感じて同じく空を見上げる。


「……そういえばこの枕の商品名ってあるんですか?」

「……」

「……」

「……」


(あれ? なんだか悪い事を聞いてしまったか? 本日は選択肢をよく間違える)


「その……じいさんが言っていたのは……永眠枕だって」

「……なるほど」

「私はよく寝れそうで気に入りました!」

「ホントかい? じいさんはその試供品で初めて寝たら逝ったんだ。名には恥じないとは思うよ」

「……最強の枕ですね」

「……そのようですね」

「……どうする? 今ならまだ引き返せるよ?」

「……エルモアは気に入ったんだよな? その、伝わってきたんだろ?」

「はい! とても思い入れがあって、良い気が満ちあふれています!」

「そういう事なので頂きます」

「まさか、これをお客さんに渡せるとは思ってもみなかったよ。こちらこそ無理を言ってすまないね」

「いえ! こちらこそ感謝します!」


 店主さんに再度お礼を伝える。永眠枕とは凄いネーミングだが、エルモアが太鼓判を押してくれているから大丈夫だろう。エルモアと精霊のお墨付きだ。


「かさばるから買い物が終わったら取りにくるかい?」

「……すいません……何から何まで気を使って頂いて……」

「いつでもいいからね」

「「はい!」」


(枕の名前は聞いたけど、店の名前も聞いておくか。もう店は畳むのだろうけど、後世に名を残す事になる最強枕かもしれないからな)


「あの……お店の名前は?」

「ここかい? ウチはアイチ寝具店だよ。何故なら二人が……愛を知る……その場所は……布団さ。そうだろう? ちょっと言ってて恥ずかしいけどね。じいさんがそう名付けたんだ」

「なるほど。理にかなってますね」

「……」

「あ……小さい娘がいるのに申し訳ない。文句はじいさんにお願いするよ」

「大丈夫ですよ。それでは後で取りに来ますね」


(そういやエルモアって、この国の基準だと何歳なんだろう? ネピアが必死に言わせないようにしてたから、見た目通りなのかもしれないな……)


「……」

「(……二人……愛……知る……場所……布団……)」


(エルモンが何か呟いているけど大丈夫かな? 何かの呪文を唱えている訳じゃないよね? いきなり何か発動して巻き込まれるのは嫌だよ?)


 俺は不安になるものの、どうする事も出来ないという事実を受け入れてまだまだ続くエルモアとの買い物を楽しんでいくのであった。











 ブックマークが二桁になるという快挙を成し遂げました。皆様、本当にありがとうございます。明日以降になりますが、19:09頃を目安にしばらく投稿いたします。

 

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