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第42話  裏庭に行こう!



 俺のせいでエルモアとネピアの帰郷が遠のいてしまった。ラヴ姉さんにそそのかされて借りた個室の料金は六万クイーン。ラヴ姉さんに渡した一万クイーンと合わせると七万クイーン。そしてプラス飲み食いの料金。


(正直……このやっちまった感って……二日酔いと合わせると最悪なんだよな……)


 昨日は早めに勢いづいた飲みをしたおかげで早々にみんな潰れた。夜に一回起きるものの既に始まりを見せていた二日酔いモドキに嫌気が差し、置いてあった胃腸薬を飲んだのが功を奏する。


(ラヴ姉さんは仕事。俺たちは休日。はぁ…… 助かった)


 勢いで飲んで勢いで散財すると本当に後悔する。二日酔いになっていなければ気分転換も出来るのだが、大体そういった展開の時は二日酔いだ。そして飯は食えない、何も出来ない、気持ち悪い、考えても考えても出てくるのは散財した事実と気持ち悪さだけ。


(気分が良いとは言える状態ではないけど、二日酔いって感じじゃないしな)


 それに昨日飲んだ胃腸薬。これが身体に合ったのだ。飲んだ瞬間の口では説明出来ない複雑な味に辟易したが効果は抜群だった。


(レタツー。君は最高の胃腸薬だよ。誇りをもって社会派紳士が勧めるよ)


 ラヴ姉さんが言っていた通り、ザンさんに仕事を紹介してもらおうと今は階下に向かっている。時刻は昼。寝過ぎて身体が痛いのか、筋肉痛なのか、両方なのか、判断する事は出来なかった。



「ザンさんいますか?」

「……いるぞ」

「すいません。ちょっと聞きたい事が」


 ドアを開けて中へ入れと促す。色々な工具と商品なのか作成された品々。それが所狭しと並んでいるが、乱雑さは全く見受けられなかった。


「なんだ?」

「……実は……仕事を紹介して貰えないかと」

「仕事? お前コロシアムはどうした?」

「……クビになりました」

「そうか。そこまでは聞いてなかったな」

「その……根性無しな俺なんですが稼げる仕事はないでしょうか? 軟禁状態でも構いません。どうせなら逃げられないような所でしっかり金を稼ぎたいんです。二人を早く帰郷させてやりたい……です」

「そうか」

「……」

「……」


(そんなに甘くはないか……実際コロシアムをクビになってるしな……)


「……わかった。そうだな……明日の夕方もう一度来い」

「はい。よろしくお願いします」


 

 何か思案してくれるのか、明日の夕方に再訪する事になった。一度階上へ向かい屋根裏部屋へと戻る。


(あれ? 誰もいないな……)


 先程まではネピアが本を読んでいたのだが、そのネピアもいなくなっている。二人に用事があった訳でもないが、なんとなく彼女らを探しに階下へ向かう。

 ついでに洗濯物を持って行き、階下で洗い裏庭へ干そうと思い実行する。


(洗濯板を使った洗濯も慣れたもんだ)


 洗濯物をためる事をしない俺は、こまめに洗濯しているので大した量ではなかった。洗濯物をためる方もいるだろうが、俺は洗濯物を干すという行為が面倒であまり好きではなかった。


(ちょくちょく洗濯すれば干す手間も少ないからな)


 毎回毎回少ない洗濯をするというのは無駄な行為かもしれないが、俺にとっては大した問題ではなかった。

 だがここに来て少し状況が変わったのだ。裏庭がとてもよく整備されていて本当に心地よいのだ。洗濯物を干すという行為が手間と感じず、多少の喜びを持って行う事が出来るのだ。


(よし。裏庭でゆっくりしよう)


 裏口の扉を開けると同じように洗濯物を干しているエルモアがいた。側にはネピアが芝生の上に寝転がって本を読んでいる。


「二人もここだったか」

「あっ タロさん」

「ん~ あんたも洗濯物?」

「そうだ。ご一緒させて頂く」

「はい」

「どんぞ」


 気の抜けた返事をしたネピアはそのまま本の世界の住人となる。エルモアは俺の横で楽しそうに洗濯物を干している。


「……まさか全部エルモアにしてもらってるんじゃないだろうな?」

「……あんたの私に対する扱いを考えてくれたら答えてあげる」

「考慮しよう」

「そっ」


 すると答える事なく本の中へ飛び込んでしまう。取り残された俺は彼女を引き上げる為に必要な行動を取る。


「まぁいい。同じ洗濯物だ。これ干しとけ」


 そう言い放ちネピアに向かって俺の洗濯物を投げる。


「なにすんのっ!? ……えっ いやぁっ!?」

「おまっ! せっかく洗ったのにっ!」


 俺が投げた洗濯物を事もあろうか地面に投げ出すクソエルフ。


「てめぇ! 何しやがるっ!」

「それはこっちのセリフよっ! 乙女の顔にこんな汚いもの貼り付けるなんてっ! 最低っ!」

「何が汚いんだよっ! この下着は洗ったばっかだっての!」

「もともとが汚いのよ! 洗って済む問題じゃないでしょ!?」

「んだとぉ~? どこが汚いってんだよぉ~? オラぁ~?」


 そう言いながら自分の下着をネピアに対して前面に展開する。それはまるで仇敵ネピア城に向かい進軍する勇敢な社会派紳士の一人であった。


「いやぁーーーっ!? こないでっ! こないでよぉーーーっ!?」

「へっへっへっ この落ちない城にも弱点があったとはなぁ ほれほれ」

「いやぁーーーっ!?」


(あっ…… すっごい楽しい! いま俺は生きてるっ! これが生きるって事なんだっ!)


「そろそろ落城のご様子。それではこちらの下着を旗の代わりに履かせましょう」

「こんのぉ! いいかげんにしろぉっ!?」

「うっ!?」


(はぁ~ うぅ~ はぁ……はぁ……はぁ……)


 あろう事か俺の大事な股座トゥーナッツを蹴り上げる下劣な外道エルフ。言うまでも無くその場にうずくまり身動きが取れなくなる。


「はっはっはぁ! 簡単にくずれ落ちる弱点まるだしの淫獣が何を粋がってるのかしら? そこで大地に向かって生まれてきた事を懺悔なさい。いいわね?」

「……てんめぇ 中身が出でたらどうすんだよっ!? お前にも中に仕舞うの手伝ってもらうからなっ!?」

「なっ! また変なコトいってぇ!?」

「いってぇのは俺の方だ!」

「あっ! モコだ! モコですよ!?」


 すると場違いなテンションで何やら嬉しそうにはしゃいでいるエルモアの声が裏庭に響く。


「かわいい~ 逃げないかな~ こわくないよ~ だいじょうぶ~ あ~ ふかふかですぅ~」

「あ~ あたしもさわる~ あ~ かわいい~ あ~ ふかふかだぁ~」


(モコ? ネコじゃないのか? ネコにしては丸みを帯びすぎてるか……)


 モコと呼ばれたその生物は見た目はネコに似ている。だが俺が知っているネコのようにすらっとしておらず、まんまるとしている。例えるとタンポポの綿毛のようで本当に丸い。肉付きもあるのだろうが、それ以上に毛がフサフサしているようだ。


「こいつはモコっていうのか?」

「はい! とてもかわいいですよね~ 私たちの国ではあまり見かけないんです。森の奥で完全に野生化しているので、こんなふうに触ることなんて夢のまた夢です。はふぅ~」

「あ~ 幸せだわ~ なんたるこのふかふ感。ん~」

「アドリア……アドリード王国でも珍しいのか?」

「いえ。アドリード王国や商の国ではこのように野良モコがいるようです」

「へぇ~ けどこんなに大人しくて大丈夫なのか? 外敵とかさ」

「モコはね……魔法がつかえるのよ」

「えっ!? モコが魔法?」


 するとエルモアが「ちょっとごめんね」といいながらモコを抱き上げて身体を見せてくれる。とてもというか相当に足が短い。歩いたらお腹を擦っちゃうんじゃないかという程だった。


「モコは走ったりするのは苦手で歩くのもゆっくりなんです」

「そのようだな。それじゃ逃げられないだろう。野生化しているのはもっとスリムなのか?」

「いえ。同じようにまんまるとしています」

「ならどうやって外敵から逃げるんだ? まさか転がっていく訳じゃないだろう?」

「さっきいったでしょ? あんた記憶ってのが存在しないの? はぁ……」


(くっそぉ! 絶対に辱めてやるからなぁ!)


「魔法よ魔法。モコは瞬間移動テレポート出来るの」

「えっ!? マジで!?」

「マジ」

「マジです」


(すごい。モコすごいわ。あんたぁやるねぇ)


「それで身に危険が迫ると瞬間移動テレポートするのか」

「はい。基本はあるいて行動しますが、距離がはなれていると魔法をつかうようです」

「へぇ~ ちょっと俺も触りたい」

「だめ」

「なんでだよっ! ネピアには関係ないだろっ!」

「おおありよっ! モコが汚れちゃうでしょ!?」

「……そんなに綺麗なのが好きか?」

「……汚いのが好きなのはあんたぐらいでしょ?」

「……」

「……」

「あ…… いくの? じゃあまたね?」


 そして肝心なモコは俺とネピアが啀み合っている内に裏庭の奥へ消えていってしまったのである。











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