第41話 最上階の個室で飲もう!
「たまたまラヴ姉さんに呼び止められてさ。それで意気投合して飲んでたんだ」
「……ふ~ん」
「……そうですか」
「……そうなんです」
「そう! ホント!」
酒場にある最上階の高級個室。その中で、人間対エルフの攻防が始まっていた。
「別に下で飲んでたっていいんじゃないの?」
「……」
「……なに黙ってんの?」
「……いえ」
「ズーキくん! やさしい! 個室! 最高!」
「……やさしい、個室、最高って言ってるけど?」
「……」
「うん! だって私! いっ っ!? んーーーっ!?」
「(ちょっとぉ!? 異種姦は禁止! 淫靡な台詞禁止!)」
「……」
「……」
訝しみが確信に変わったような目線を感じるものの、ここで引き下がる事も出来ず会話を続けていく。
「……そのな? ラヴ姉さんがエルモアとネピアの事を、エルフだって知ってて驚いたんだよ。確かにステータスカードで年齢は見たし、フードには耳袋もある。気づく要素はあるだろうけど、直接言われたのは初めてで驚いたんだ。それでその事を話すにあたって個室を借りて話をしていたんだ? OK?」
「……なに話してたの?」
(ロクな事しか話してねぇ! どうするっ!? どうすっるっ!?)
「……そろそろかね。安心して。ズーキくんは口が堅いよ。この個室に来て二人の事を聞いてもほとんど喋らないんだから。ちょっと興味があってね、あたしがズーキくんに二人の事を聞いてたんだ。ね? 安心!」
「……興味……ですか?」
(また……余計なコトを言うんじゃないだろうな……)
「そう! (チラッ)」
「(ぶるぶる)」
「はぁ~ 仕方ないか…… 簡単に言うと三人の仲が気になったのさ。あたしがね」
「「!?」」
「もしかしたら……いや……でも…… そういった気持ちをもって生きていけない! ハッキリ聞き出して幸せになりたいっ! そうでしょ!?」
「「!?」」
「どんな気持ちを持っていたって伝えなければ意味が無いっ! けれどそれを伝えていいのか迷う事もあるよね? だからまずズーキくんに三人の仲について聞いたのさ」
「そっ…… それで…… こいつは…… なんて言ったの?」
(えっ? 俺なんか言ったっけ? ヤバい……ネピアが尿漏れエルフだって話したっけ? けどもういいや。尿も酒に流してもらおう)
「純愛っ!」
「ぶほっ!?」
「きゃっ!」
「大丈夫ですか? タロさん?」
今度はエルモアが、布巾で粗相した辺りを拭いてくれる。
「そうさっ! 純愛っ! 彼は当然のようにそうしているんだっ! 名誉紳士だっ!」
「……純愛」
「そうなんですか? タロさん?」
(異種姦を禁止したら純愛かよ……)
「……」
「……」
「……」
「……」
(なんて答えたらいいのか……はぁ……でも流れは悪くないな。最上階高級個室を借りた辺りを変に探られたくない……上手くいかなかったし……グスン)
「……まぁ、大事にはしてるよ」
「「「!?」」」
(驚いてるな……よし逃げ切れる! ゆけ! 社会派紳士よ!)
「当たり前だろ? じゃなきゃ一緒にいないよ」
「「「!?」」」
(サクセス! 社会派紳士!)
「色々心配かけたけど、改めてよろしくな」
「……うん」
「はい」
「(じわぁ……)」
(うわっ ラヴ姉さん泣いてるよ。本当に異種族同士が好きなんだなぁ……よしっ!)
「じゃあさ。みんなの気持ちも繋がったところで乾杯しよう」
(後は酒飲めばうやむやになるな)
「……そうね」
「はい!」
「飲む!」
「「「「 かんぱ~い! 」」」」
珍しく清酒を嬉しそうに飲んでいるエルモアを見て、クエルボの事を思い出した。この部屋にもいくつかの酒類が常備されているようなので、辺りを確認してみる。すると棚の中にクエルボがあるのを発見。ショットグラスを合わせてテーブルに持って行く。
「ほら。エルモアはこっちの方がいいだろ?」
「あっ! ありがとうございます!」
「……あんた、エルモアには優しいよね」
「……そうか? ネピアには優しくないか?」
「べっ 別に優しくしてほしいワケじゃないんだから……」
「(はふぅ……)」
(ラヴ姉さん……とろけてますねぇ)
「あんまり酒飲んでる時にしたい話じゃないんだけど……仕事さ、何かいいのあるかなぁ」
「……そうねぇ」
「そうですねぇ」
「仕事? 高いの?」
「出来れば。この二人を早く故郷へ帰してやりたい」
「素晴らしい! なおさら協力したくなるね~ ……そうだね。一度ザンさん辺りに聞いてみたら?」
「ザンさんですか?」
「そう」
「……その情けない話しなんですが、もし高給な仕事があっても……今回のようにクビにならなかったとしても、続けられたかどうか……なんだかんだで逃げ出していたかもしれない」
「ふ~ん」
「無理しないでくださいね?」
「そうそう」
(けど逃げる癖は直さないと……はぁ)
「ズーキくん。何をそんなに卑下してるの?」
「えっ?」
「つらい事あったら逃げちゃいそうで恐いの?」
「俺はすぐ逃げるんですよ……」
「直りそう?」
「……難しいでしょうね」
「なら発想の転換さ。逃げちゃう。頑張っても逃げちゃう。なら逃げられない場所で仕事すれば?」
「えっ?」
(逃げられない場所で仕事?)
「逃げるコトから逃げないで、逃げれないところに行く。なんだか言ってて分からなくなっちった。飲もう飲もう」
「そうですね……飲みましょうか」
「クエルボありますよっ!」
「清酒あるよ~」
「あっ あぁ……」
(逃げないで頑張ろうと思っても逃げる。なら逃げれない場所に行く。逃げたくても逃げれないか……)
「まぁまぁ。とりあザンさんに聞いてみ? 王都の事ならアンさんザンさんから右に出るモノはいないっしょ」
「よし。決まった。後は飲むだけだ」
「「 チョリ-ッス(ッス)!! 」」
「え~ なになに~ なにそれ~?」
「「 チョリ-ッス(ッス)!! 」」
「「「 チョリ-ッス(ッス)!!!! 」」」
(そうだな……俺たちにはこれがある。後は流れに身を任すまでよっ!)
「「「「 チョリ-ッス(ッス)!!!! 」」」」
「(パクッ)(クイッ)(ペロッ)」
「(クイッ)」
「「「「 チョリ-ッス(ッス)!!!! 」」」」
「(パクッ)(クイッ)(ペロッ)」
「(クイッ)」
「「「「 チョリ-ッス(ッス)!!!! 」」」」
「(パクッ)(クイッ)(ペロッ)」
「(クイッ)」
「「「「 チョリ-ッス(ッス)!!!! 」」」」
「(パクッ)(クイッ)(ペロッ)」
「(クイッ)」
これからの展開に強烈な既視感を感じるものの、この勢いを気持ち悪がらず共感し、ノってきてくれたラヴ姉さんに多大なる感謝をした。
そしてこの最上階の高級個室の料金が、俺の巻き取り仕事の全給料を上回る事に気がつくのはもう少し後の事である。