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第40話  ラヴ姉さんとも飲もう!



「そうかい。それじゃ仕事は駄目になっちゃたのか」

「参ったよホント……」


 俺の気持ちを弄んだラヴ姉さんを恨む事なく、最上階の個室にて未だ一緒に酒を飲んでいる。

 気持ちの切り替えが重要な日である事は明白だったので、ラヴ姉さんに断りを入れトイレで一人瞑想をしてきた。ラブ姉さんとの間には何も起こらなかったが、俺にとっては十分な餌になる部分もあったからだ。


「どうするの?」

「どうしようか……正直二人に言いづらい……全部俺の責任だし……」

「ふ~ん」

「はぁ……」

「……ちょっと待ってて。すぐ戻るから~」


 残っていた酒を俺に手渡して部屋から出て行ってしまう。今までの事からクビになった仕事の話までしてしまった。

 実際話してみると情けない話ではあった。話す事で楽になる事もあるだあろうが、現状が良くなったとは思えなかった。


(……飲むか)


 やる事と言えば仕方なく酒を飲む事くらい。本当なら今頃は天にも昇るような気持ちでいたかもしれないが、実際はそうならなかった。仕事が出来なくなったように経験も出来なかった。


(ラヴ姉さん……ヒドイよ……すごい楽しみにしてたんだよ?)


 清酒を一気に煽り酔いに任せる。事実に十分酔ってきたのが実感出来る。だがどうしても心の弱い俺は、自身のミスに対して考え込んでしまう。


(はぁ……なんで起きれなかったんだ……二人に会わす顔がない……)


 そんな事を考えていると、不意に声がドアの向こうから聞こえてきた。



「この中にタロさんがいるんですか?」

「本当なの? アン様が大丈夫っていうから来たけど……」

「大丈夫! 酒場の女! 嘘つかない!」


(えっ!? なんで二人がっ!?)


「おじゃましま~す」

「はいるよ~」

「……」


(くっそぉ! 陰に隠れたけど…… 何やってんだ……俺)


「いないじゃない。酒場の女はなんだっけ?」

「いる! 絶対!」

「……たしかにタロさんの匂い」

「……ふん。そうね。それに精霊たちもそう言ってる」


(……もう諦めよう)


「……」

「あっ! タロさん!」

「何やってんの? 隠れちゃって」

「ズーキくん! 私嘘つき! なるところ!」

「ラヴ姉さん……なんで片言なの? それにどうして二人を……」

「……こういうのは早く言った方がいいのさ。こじれる前にね。まぁ、そんな事は起きないけどね~」


 二人を椅子に座らせて、当初の目的から大幅にズレた、最上階の瀟洒しょうしゃな個室だった。


「洒落ていますね~」

「そうね。しつこさが無くてとてもいいわ」

「……」

「どしたん?」

「それに……昨日はどうしたんですか? 夜も帰ってこなかったので心配しました」


 不意に心が抉られたように痛む。心配させてしまった事に申し訳なさを感じる。そして仕事も失ってしまった俺。


「ごめん。昨日は……仕事が遅くなってしまって戻れなかった」

「戻れなかったって……王宮の近くでしょ?」

「……終わったの深夜だったから」

「「えっ! 深夜っ?」」


(もう覚悟決めて話すしかない)


「それで……相部屋ドミトリー借りてさ……それで……」

「その……ちょっといいですか?」

「え……」


 するとエルモアが側に寄ってきて肩の辺りを手でかざしてくれる。痛みが少しずつ引いていくような感覚。


「あの……お話の前にお身体を治しませんか?」

「……ありがとう。お願いするよ」

「はい!」


 エルモアには気づかれていたようで、一番ヒドイ肩の傷から治してくれた。結局全身に手をかざしたり触れたりしてくれたので結構な時間がかかってしまった。


「すごい傷だったわね。ずいぶんと無茶しちゃって……」

「でも……」


(言うしかないんだ……)


「その……すまん。俺さ……寝坊しちまってクビになったんだ。本当にごめん。せっかく高給な仕事にありつけたってのに、台無しにしちまった。謝る事から逃げて酒も飲んでる。仕事も探してない。ごめん」

「……」

「……」


(はぁ…… 最悪だ……)


「あの…… そんなに謝らないでください」

「えっ」

「そうよ…… 別にクビになったって、お酒飲んでたっていいわよ」

「だってせっかく見つけたのに……」

「そうかもしれませんけど、こんな無理してはたらく事ないですよ。タロさんの事でそうするなら何もいいませんが、私たちの為にやってくれている事です」

「そうそう。前もいったけど楽しくいかないと。ね?」

「エルモア…… ネピア……」

「ほら大丈夫だったでしょ? さっさと解決して二人と異種かっ!? うっ! うーーーー!!!」


 慌ててラヴ姉さんの口を押さえて彼女に耳打ちする。


「(ちょっとラヴ姉さん! 何を口走ろうとしてんのっ!? 駄目でしょ!? 純愛っていうならそこはちょっと抑えようよ!?)」


 すると多少気を使ってくれたのか、ラヴ姉さんも俺の近くに寄ってきて声のトーンを下げて話してくる。


「(純愛だからさっ! 異種姦いしゅかんは純愛さっ! それを二人に伝えればしっぽりした繋がりが見られるハズっ! ここで今っ! 見せてっ! ねぇっ! 見せてよっ!)」

「(ラヴ姉さんっ! ちょ! 落ち着いてっ!? 純愛をここでっ!? 繋がりを見せるっ!? しっぽりっ!? おかしくないっ!? それって純愛なのっ!?)」

「(見せてぇ~!? お願ぃ~!? 見せてよぉ~!)」

「(ラヴ姉さん!? お願いですから落ち着いてっ!? ほらっ!? 二人が訝しんでますよっ!?)」


 ネピアは明らかにジト目でこちらを伺っている。エルモアも不安そうな目でこちらを見ている。


「いいかい二人とも? 何も怪しい事はない。ほら、ラヴ姉さんも説明して」

「うん。エルモアちゃん。ネピアちゃん。名誉紳士ハイブリッド・ジェントルメンの事をよろしくね?」


(また訳の分からん事をっ!?)


名誉紳士ハイブリッド・ジェントルメン? それって社会派紳士の事ですか?」

「そっ そうなんだよ!? エルモアくん! 社会派紳士には色々な呼び名があってね! その一つと言うわけさ!」

「ふ~ん。ラヴ姉は社会派紳士なんてモンを認めてるの?」

「そりゃモチのロンさ! こんなにいい男はいないよっ!  流石はあたしの惚れ込んだ男さっ! はっはぁ!」

「「えっ!?」」


 エルモアとネピアの声がハモる。そして、この後も続いていく本日の個室酒場飲み。ここからどうやって絡まった四人の紐を、いかにして解いていくか考えていかなくてはならなくなった。だがラヴ姉さんのせいで、解く必要もないと思うくらい固結びされた俺たちの紐。こうして四人の結束は固まっていくのであった。











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