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第35話  巻き取ろう!



「……んっ あ…… ……っ あぁ……はぁ」

「あっ 起きた? 大丈夫? ネピア?」

「えっ…… あ~ 良かったぁ~ もう」


 起きるとそうそうにエルモアに抱きつくネピア。寂しんぼな妹が姉さんに甘えているような微笑ましい光景が目の前に広がる。


「……エルモア姉さん」

「……なあにネピア?」

「う~ん」

 

 ネピアは幼児退行したように顔をエルモアに埋めて甘えている。そんな風なネピアは見た事がなかったのでとても可愛らしく見えた。


「どうしたの? 恐い夢でもみた?」

「……うん。恐かったの」

「そう。でももう恐くないよ……ね?」

「うん」


 そうは言うもののエルモアから離れる気配はない。こんなに甘えてくれるなら一家に一匹、抱きネピアとして販売すれば物好きが購入してくれるだろうとも考えた。


(そう言えば全く仕事してないけど……大丈夫なのかな? 完全出来高制だからいいのか?)


「あ~ もし身体に不調があるのなら無理するなネピア?」

「……っ!?」


 慌ててエルモアから離れるネピア。離れられて寂しかったのかエルモアはとても残念そうにしていた。


(……悪い事しちゃったな。後でエルモアに謝らないと)


「ネピア? 無理はするな。仕事さえ教えてくれれば俺が代わりにやっておくよ」

「……別に大丈夫よ」

「じゃあ早速三人で仕事するか」

「そうですね。出来高だから頑張らないといけませんね」

「じゃあネピア頼むぜ」

「はいはい」


 ネピアは大した事じゃないという体で、早速準備にかかっていた。ロールの葉の横幅より長くて細い棒を持ってきた。それをロールの葉の先端に巻き込み一週した所で米粒を引き延ばしたようなつぶつぶ感のある糊を、ロールの葉に横一線に塗る。そのままクルッと巻いていく。


「これで終わり。後はずっと巻いていくだけ」

「……これだけ?」

「後は太くなってきたらこれ使うの」


 ネピアはロールの葉に差し込んだ細い棒をもう一つ持ってきた。この棒には上下に線が二本引いてある。どうやらこの線の辺りまで太くなるようにひたすら巻き続けるようだ。


「そう。その二本線より直径が大きくなったら一本ロールの出来上がり。最後にまた糊を横一線に付けて終了。あとは同じ事の繰り返しよ」

「簡単ですねぇ」

「簡単だな」

「じゃあ続けて」



「あぁ」と声を出した本日は月曜日。このロール作りのお仕事は年中無休で行われている。日の出から日の入りまで。人が呼吸するするようにこのロールの木も生き続ける。そして延々とロールちゃんは葉っぱを伸ばし続ける。

 俺たちはこの日が始まりだった事を忘れる位に座ってロールを作り続ける事になった。




◆月曜日◆


「ロ~ル巻き巻き~ ロ~ル巻き巻き~」

「巻~いて 巻~いて」

「……」


(ネピアは器用に巻いていくなぁ。本当に大人しいしずっと本を読んでるな。好きなんだろうな……)




◆火曜日◆


「ロール巻き巻き ロール巻き巻き」

「巻ぁいて 巻ぁいて」

「……」


(ネピアは本当に本好きだなぁ。ずっとこの作業だけど飽きないのかな?)




◆水曜日◆


「ロール……巻き巻き ロール……巻き巻き」

「巻ぁ……いて 巻ぁ……いて」

「……」


(ネピア? お前は本と結婚すれば絶対上手くいくぞ。俺が……この社会派紳士が太鼓判を押すよ。 でも……飽きたなぁ)



◆木曜日◆


「ロール……巻き……巻き ロール……巻き……巻き」

「巻ぁ……い……て 巻ぁ……い……て」

「……」


(ネピアぁ…… どうして? どうしてそんなんでいられるの? ねぇ……もう飽き飽きなんだよ?)



◆金曜日◆


「ロ……ル……巻……巻……き ロ……ル……巻き……巻……」

「……まぁ……い……て ……まぁ……い……て」

「……」


(ネピアぁ……助けてよぉ……もう巻きたくないよぉ……)




◆土曜日◆


「ロ…………ま…………き ロ…………ま………き」

「……ぁ……ぃ…… ……ぁ……ぃ……」

「……」


(ネピアぁ。飽きたぁ。ネピアぁ。飽きたぁ。ネピアぁ。飽きたぁ。ネピアぁ)




◆日曜日◆


「………………… ロ…………………」

「……………… …………ぃ……」

「……」


(ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア。ネピア)



◆月曜日◆


「………………。………………」

「…………。…………」

「……」


(……俺 ……何で生きてるんだっけ? ……俺 ……なんでここにいるんだっけ? ……俺 ……ちょっと待て ……何か思考が鈍っている)


「ちょっ ちょっといいか? その話が……」

「……私も……です」

「……」

「あっあのネピア? 聞いてるかな?」

「ん? んあ? あ……ふあぁ~あ。ごめんごめん本に集中しすぎてたわ。どしたん?」

「ネピア。多分君にとって天職なのかもしれない。ワガママいって済まない。頼む……転職させてくれ……」

「他の仕事するの? いいよ」

「マジでっ! ありがとうっ!」

「ありがと~ ネピアっ!」

「「「(ギュッ)」」」

「あっ! こらぁっ! あんたは離れなさいって! こらぁ!?」

「だって! だって!」

「なんなのよぉ~!? いいから離れなさいって!」


 大きく振りほどかれた俺は捨てられた子豚のようだった。打ち捨てられたように身体を斜めにして捨て子豚アピールを前面に展開する。


「タロさんタロさん! 私たち耐え抜きましたねっ!?」

「転職出来るよ! やったねエルちゃん!」

「「(ギュッ)」」

「二人ともそんなに嫌だったの?」

「嫌っていうか……凄い楽なんだけど、飽きすぎるっているか、なんというか……」

「多少は動きがないと……落ち着きのない子なんで……」

「エルモア。そんな事ないよ。俺だってそうさ。じっとしてられないんだよ……」

「タロさん……」

「エルちゃん……」

「「(ギュッ)」」

「はぁ」


 俺とエルモアはネピアの慈悲深い対応に心から感謝の意を示し、楽すぎる仕事は俺たちには向かない事を知った。そして落ち着きのない二人は、これからも落ち着き無く動き続けていく事を心に、そして互いに誓った日にもなった。











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