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第24話  港に行こう!



「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

「つ……疲れましたぁ~」

「なんなのよ~ あいつらぁ~ もういやぁ~」


 無事に港へたどり着いたとは言えない状況だった。あれからネピアと喧嘩をしていると、真性門番のアピストとグラマが俺たちを追いかけてきたのだ。アン様の名前を出して大人しくなったかと思えば、非番である事を免罪符に、個人の付き合いという触れ込みで襲いかかってきたのである。


 旧市街だった事が功を奏したのか、俺たちが逃げているのを助けてくれる人たちが何人かいた。恐らくアン様関係の人たちだろう。


「……あんたら、何やってんだ?」


すると訝しむような目線をしながら声を掛けてきたのは、昨日酒場で限界までネピアに奢らされていた荒くれ者の一人だった。


「あっ! ごっそさん! おっちゃん!」

「昨日はごちそうになりました」

「メンタルポイント全回復しました!」

「あっ……あぁ。それは……なにより……で何してるんだ?」

「実は……」


 正直この荒くれ者に話すか迷った。だがネピアはおっちゃんに心を開いているようで、一度区切りをつけてから事情を説明し始めた。


「こいつは驚いた……そうだったのか。そういやぁ、昨日は酒と勢いにやられて自己紹介もまだだったな。俺の名前はバルバード。この海を生業にしている者だ」

「タロ・ズーキです。昨日から世話になっています」

「おっちゃん! 私ネピア!」

「エルモアです!」

「あぁ。改めてよろしくな」


 ここは港近くの倉庫街。バルバードさんが事情があるならと、この場所を提供してくれた。そしてバルバードさんは事情を説明するネピアを娘でも見るかのように暖かく見守っていた。


「そうか……大変だったな。それにしてもエルフだとは思わなかった。大丈夫か? この旧市街でも新市街の奴ら取り入ろうって輩は多いからな」

「取り入る?」

「そうだ。どうにかして新市街の住民になりたいのさ」

「そーなの? おっちゃん」

「あぁ。大元は大臣さ。あいつが王都に君臨するようになってから勢いが増した。旧市街の奴は新市街に、新市街の奴は王宮に、王宮の奴は大臣に、というような流れが完全に出来ちまってる」

「この二人をお土産にする事で身分を上げれるって事ですか」

「……そういう奴もいないとは限らねぇ。気をつけな」


 は~い、と気軽に返事をする二人。随分と軽い印象を受けたが、目的の質問をバルバードさんに聞いてみる。


「ここから精霊の国まで船で行ったらいくらかかります?」

「……そうか。嬢ちゃんが俺にそう言ったものな。だが……正直難しいな。まず定期船は知ってるだろうが無い。それと海流からわざわざ離れて精霊の国へ行く船もない」

「海流……ですか?」

「あぁ。女王様の島が世界の中心にある。その回りの海域は反時計回りに海流が強く流れている。ここから出る定期船は、基本的に港から出てこの海流にのって商いの国へと向かう。中には中心の海流ではなく、大陸の外側にある大海流にのって船を動かしている者達もいる」

「なるほど……もし船をチャーターしたら、いくらぐらいかかりますかね?」

「……結局、船自体はここに戻ってくる事を考ると、定期船世界一周の金額を遙かに超えて、しかも海流から一度離脱し、ほぼ未開である精霊の国へ向かう。旧市街のオンボロ物件なら買える金額になるかもな」

「おっちゃんマジ?」

「マジ」

「そうですかぁ」


 途方もない金額だろうが、二人が帰るためには仕方がない。まずは生活の基盤を盤石なモノにして少しずつ上を目指していくしかない。

 俺たちはバルバードさんにお礼をいい港を後にする。帰りの道はなんだか気落ちしてしまった。


(だが諦めても人生は続く。やるしかない)


「よし。働こう」

「そうですね。地道に貯めるしかないですね」

「……はぁ。長い道のりねぇ」

「どっちにしても働くんだ。切り替えて頑張ろう」

「そうですね。少しでも楽しくいきましょう!」

「そうねっ! やったるわい!」

「「ね~」」


 この気分が下がる前に俺たちは、旧市街にある安宿巡りをする事を決定した。旅人向けの安宿には必ず掲示板があり、そこにいっぱいの張り紙がある。この張り紙は色々あって、旅人が不要になった物品などを売ったり、物々交換したり、同じ方向に行く旅人がいれば人数を増やして御者付きの荷車を一緒に借りたりする。

 もちろん仕事斡旋もある。旅人が旅費や宿代確保の為に一定期間働き、その金を持ってまた旅に出るという流れだ。


「……どうだ?」

「いっぱいありますけど……私たちあまり目立てませんもんね」

「あ~ これいいんじゃない?」


 ネピアが持ってきたのは「おおみかんの収穫」と書かれていた一枚の紙。こないだもらったスイカがとても小さかったから、今度は大きいんだろう。そんな事を考えつつ仕事内容を確認する。


(収穫、運搬、箱詰め、その他。日払いで手取り一万クイーン……とりあえず受付レセプションで聞くか……)


「すいません。これ三人でやりたいんですけど」

「おおみかんね。重いけど大丈夫だろうね? そっちは子供みたいだけど持てるの?」

「はい!」

「持てる!」

「なら頑張りな。今日はもう無理だから明日の日の出前にここね。迎えくるから」


「「「はい!」」」


「よかったな。まず第一歩踏み出したな」

「はい!」

「この私にかかれば、選ぶのも決まるのも一瞬ね!」

「……確かにな。それは認める。まぁ、明日から朝は早くなるから余裕を持って早めに寝よう」

「「お~!」」


 だが残念ながら気分の高揚した二人は、なかなか寝付ける事なく夜を更かしていくことになる。そしてその煽りを完全に食う事になった社会派紳士がここにいた。












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