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第23話  既視感しよう!



 本末転倒。ネピアが全く起きないので古代魔法を使用し、永遠なる睡眠状態から回復させてあげたのにも関わらず、起こされた本人は魔法すら使わず肉体言語で俺を永遠の眠りへといざなうう。


「タロさん。大丈夫ですか?」

「……あぁ。俺……どうしたんだっけ……?」

「えっと……」

「……?」


 何か言いづらそうにしているエルモア。俺はそのエルモアの膝に収まるようにして仰向けになっていた。人の温もりを感じる膝。それを枕のようにして横たわっている。 

 俺はこの無償の愛に感動し心ゆくまで頭皮に感じる膝枕の愛を享受していた。しかしあまりにも行動的に頭をグリグリ動かしていた為に、エルモアが「あっすいません。起きますよね」言って膝枕状態を解除してしまった。


(君は膝枕界の頂点に君臨できる可能性を秘めている)


「いや……謝らないでくれエルモア君。本当に感謝している」

「そうですか、それは良かったです」

「良かったのはこちらの方だ。久しくこの気分を忘れていたよ。本当にありがとう」

「いえいえ。そう言って頂ければ十分です」


 もう日常なのではないかと感じてしまう程の既視感デジャヴを感じ、頭を左右に軽く振りながら意識を整えてゆく。相変わらずの狭い屋根裏部屋であったが、それでも何か、ほんの少しだけ……気持ち広く感じた。それは一人少なかったからであった。


「あれ? ネピアは?」

「下にいますよ」

「下に? なんで?」

「それは……」

「まぁいいや。ネピアぁー どうした~?」


 本人に直接聞いた方が早いと思った俺は階段を降りていく。階下の窓から外を眺めている姿は儚げであった。まだ子供ながらも大人びた表情で外を見つめているのを見るとなんだか落ち着かない気分になった。


 そして俺はその気持ちが俺の本心である事がすぐにわかった。魅了される俺の心。真っ直ぐにネピアを見据えて近づいてゆく。俺は堪えきれない衝動を胸に秘めて、彼女に心からの気持ちを真正面からぶつける事にした。


「オラぁ! てめぇ! 思い出したぞっ! この俺様に鳩尾みぞおち喰らわしやがったなぁっ!? えっ!? 肉体言語で俺を落とすとはいい度胸じゃねぇか!」

「わっ!? 生き返った!?」

「てんめぇ! 今! 生き返ったって言ったよな!?」


 ネピアとそのまま組み合い一悶着起こす。


「だいだいあんたが寝ている私にキスしようとしたのが原因じゃないっ! あんたの犯罪履歴に強制わいせつ追加よっ!」

「あぁっ!? ふっざけんなっ! 強制わいせつだとぉ!? お前は寝ていたんだから準強制わいせつ未遂だろっ!?」

「あっ! 今っ! 自分で犯罪告白したぁ! ほらやっぱ犯罪者なんじゃないっ!」

「違ぇーよ! 犯罪者じゃないっ! 意味が違ってるから訂正したんだっ! 大体よぉ! 俺がなんでネピアに好き好んで接吻しなきゃならないんだっ!? ただお前が起きないから古代魔法に着手しただけだっ! 俺が何したってんだよっ!?」

「何したってキスしようとしたでしょっ! 本人の合意も得ずにこの性犯罪者っ!」

「……」

「……」

「……ふん。平行線のようだな」

「……そのようね」


 俺とネピアは互いに距離を取る。相手から視線を外さないように横へとジリジリ移動する。先に動くか、それとも相手の出方を見るか。だがその選択肢を選ぶ事なく、この件は終了する。


「あの……出かけませんか?」

「「 はい 」」


 俺たちをたしなめたのはエルモア。ネピアも素直にその言葉に従う。俺も納得はいかないものの、エルモアには階下でも誘われていたので、大人しくする事に決めた。

 旧市街を回るのにヒポを連れて行くかどうか迷っていた時にザンさんから声がかかる。


「おい。ヒポだったか? 荷車と一緒に借りれるか?」

「構いませんよ。大事にしてやって下さい」

「当たり前だ。家畜を大事にしない奴は家畜にも大事にされない」

「じゃあ安心ですね」

「……ちょっと急がしくてな。ちょくちょく借りるがいいか?」

「世話になってますんで。先ほどの通り大事にしてくれればいいですよ」

「助かる」


 そのまま出かける旨を伝えて玄関を出る。相変わらず雑多なところではあるが、アン様のおかげで安心して歩ける。隣にはエルモア。流石に手は繋いでないが、繋いでもいいくらい楽しそうにしている。

 ネピアはと言うと俺からは距離をとり性犯罪者を見る様な目つきで俺を伺っている。


「行きたいところあるか?」

「そうですね……」

「……」


 ネピアは俺の質問に対して考えている訳でもなく、無視しているようだった。エルモアは誘ったはいいけど、どこにいくのかは考えていなかったようだ。

 俺も何か考えがある訳でもなかったが一緒になって思考していると、一つの疑問が浮かび上がった。


「そういえば、精霊の国へ戻る為にはいくらぐらい必要なんだ?」

「……わかりません」

「えっ?」

「すいません。少なくとも今持っているお金じゃ無理だと思います」

「そんなに高いんだ……」

「わからないんです。その……」

「……」


 そして俺は思い出した。ディープ・フォレストと呼ばれる大陸。そしてそこに住んでいるエルフは鎖国してはいないものの、現在は他国と交流していないという事を。


「そうか……下手したら船をチャーターするって事になるのか……途方もないな」

「……はい。私もその事にして、確認から逃げていたのかもしれないです」

「大丈夫だ。逃げるのは得意だから」

「じゃあ一緒ですね」

「あぁ」

「……」


 これだけ話をしてもネピアはだんまりのままだった。仕方なくネピアに話かけようとすると、今度はネピアが話し始めた。


「ここで話しててもしょうがないわ。直接聞いてみるしかないでしょ」

「そうだね」

「「ね~」」


 最近この「ね~」にも色々なパターンがある事に気がついた。基本的には上半身を左右どちらかに傾け相手も同じ方向に傾ける。その際に両腕を身体にピッタリと付けて両手だけ外側に開くタイプと、両腕も両手も外側に開くタイプ。そして立っている場合には身体を傾けた方向の足を横に出して踵で地面を踏むタイプと、身体を傾けた方向とは逆に足を横に出して踵で地面を踏むタイプがあるようだ。


(正直この動作だけはキュンとくるものがある。それが例えネピアだとしても)


「じゃあ港方面にいって実際聞いてみるか」

「……だから私がそう言ったじゃない。なに真似してんの?」

(くっ……)

「タロさん! 行きましょう!」

「……行こうか」

「ふんっ」


 そうしてネピアのねちっこいクソのような言葉に一旦は我慢するも、すぐに我慢出来なくなり口喧嘩をして、いつも通り組み合ってしまうのであった。











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