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第18話  新市街へ入ろう!



 真性なる門番、アピストとグラマを追い返した俺たちに新市街への道が開けた。だが開けた先には更なる窮地に追い込もうとする謎の集団がいた。

 彼ら……いや彼女らは門番達との騒ぎを遠目で見ていたようで、一人の高圧的で美人そうなお姉さんが下男を大量に引き連れてこちらへ向かってくる。 

 俺はネピアとエルモアに大人しくしてもらうように念押ししてから彼女を見据える。

 

「新市街は貴方たちのような下賤な輩が入れる場所ではないわ。引き返しなさい」


 すると下男どもが下卑た笑い声を上げてくる。


(そいつらの方がよっぽど下賤だろ……)


「あ~すまないが、ちょっとした用が役所にあってね。用がすんだらすぐ出て行くよ」

「あら? 口答えする気?」

「いや……争う気はない。ただ用事を済ませたいだけなんだ」

「それが口答えなのよ。第一に、このわたくしドローンはあの大臣様に懇意にしてもらっているのよ? その私の命令は即ち大臣様のご命令と同じ事。それが分かっていないようね。仕方ない……やっておしまいっ!」

「へっへっへっ」


 下男どもがこちらに向かってくる前に俺は即座に土下座した。


「これで……勘弁して下さい」

「はっ?」

「「「「「はぁー! はっはっはっ! 」」」」」


 下男どもが嬉しそうに笑い声をあげる。これでなんとか済んだかと思ったが、そう甘くないようだった。そのままの体勢で一人に頭を踏みつけられる。


「おいおい。どうしたんだ? 疲れて眠っちまったのか? ドローン嬢様の御前で居眠りするたぁいい度胸じゃねぇか! あぁっ!?」


 そのまま頭を何回か踏みつけられる。額に痛みが走るがそれに意識し続ける事は出来なかった。

 俺の左右から脇腹に向かって蹴り上げる下男ども。胃液が出そうになるも必死に痛みと合わせて堪える。

 激しい蹴りを一発横から喰らい、土下座状態が解除されると下男どもの勢いは増していった。

 

「ちょっとやめなっ……」

「黙ってろっ!」

「……っ!?」


 この状態で俺に怒鳴られるとは思っていなかったのか、ネピアが驚きを隠せない様子で俺を見続けていた。


「……すいません。ドローン嬢様。私たち田舎者でして、王都のしきたりがまだ分かっていなかったようです。申し訳ございません……」


 もう一度、地面と一体化するように深い深い土下座を敢行する。


「そうそう。初めからそうしておけばよかったのよ。全く……手を煩わせるんじゃないわ。まぁ、この王都で誰よりも優しい私だから、このあたりで許してあげるわ」

「へっ! おい良かったな? ドローン嬢様にしっかり教育してもらってよ? はーっはっはっはっ!」

「お前達、この田舎者たちにあれをくれてやりなさい」

「へっ? いいんですかい? このような田舎者にわざわざ……」

「お前たちも私に口答えする気? 大臣様の遊び道具にしてしまおうかしら?」

「いえっ! 申し訳ございません……おいっクソ田舎者どもっ! これをくれてやるっ! お前の命以上のモノだ。粗末に扱えばお前の命も粗末に扱われるだろう」


 すると高価そうな賞状筒を一つ俺に手渡してくる。


(なんだ? これ……とりあえず……助かった……痛ぇ……)


「おいっ! こんな道の往来で寝てるんじゃねぇっ! さっさと起きろっ!」

「……はい」

「いいかっ!? ドローン嬢様は大変慈悲深い御方だ! 役所での用事がすんだらとっとと出て行けっ! それとその動物は旧市街に置いてこいっ! いいなっ!?」


 大きく恫喝すると、先にいってしまったドローン嬢様に媚びを売るようにヘコヘコしながら走って行ってしまう。



(おいおい……今日は最悪の日だな……)



「ちょっと大丈夫っ!?」

「タロさんっ! 今すぐに回復をっ」


 俺は手でそれを制する。今度はエルモアを驚かせてしまった。


(まず、ネピアに謝らないとな……)


「あ~ ネピア……ごめんな。怒鳴ったりしてさ。それとエルモアもごめんな。回復はいいんだ……」

「わっ……私は大丈夫よ。それよりあんた本当に大丈夫なの?」

「タロさん。どうして……」


 エルモアが悲しい顔をする。初めて会った時のような元気のない表情。心が苦しくなるような気分になるものの、俺の意思は変わらなかった。


「……覚えておきたい痛みもある。俺はこの痛みをしっかり身体と心に刻み込み、やがてくるだろうその日まで、この今の気持ちを蓄えておくんだ」

「あんた……」

「タロさん……」

「……俺は社会派紳士だから、しっかり指導してやらないとな」

「……あんたがそれでいいならいいけどさ。でも仕返しするってんなら、私も参加するよ」

「……あぁ。俺とネピアが手を組めば最高の結果になる」

「私は外道のあんたと手を組む気はない。……けど、もし私が外道に成り下がる日が来るというなら、その時に手を組むのはあんたにするわ」


「くくっ……」

「ふふっ……」


「あの~ 私は仲間外れなんでしょうか?」

「そんな事はない。ただ、エルモアには汚れて欲しくないんだ」

「はぁ」

「えっ!? じゃあ私は汚れてもいいって事っ!? おかしくないっ!? 私の扱いおかしくないっ!?」

「だってアン様も言ってただろ? 失禁は汚れになるって。お前失禁したじゃん」

「してないっ! 失禁はしてないっ!」

「いいかチョロ? お前はどう思っているかは知らないが、お漏らしも失禁も同じ意味だからな? チョロっと出ようが派手に出ようが一緒だ。認めろ。これが現実リアルだ」

「こんのぉ~! チョロって呼ぶなぁ! 身体に分からせてやるぅ!」

「あっ! 痛ぁっ!? てんめぇ! 病人に向かって何しやがるっ!?」

「はっはぁ! 今だけ病人ぶってんじゃないわよ!? 年がら年中あんたの場合、頭の病気じゃないっ! ぷぷっ。その病気のせいで宿賃五万クイーンの手練れだもんねぇ!」

「おっし言ったな! お前にも身体で分からしてやんよっ! オラぁ!」

「はっ!? あんた程度がこのネピア様に勝てるとでも思ってんのかしらっ!?」


 満身創痍である俺の身体をネピアは何処吹く風でいつも通り組み合ってくる。流石に後悔した俺は停戦を申し入れる。


「……勘弁して下さい」

「ん~ な~に~? 聞こえな~い?」


(くっそぉ! 絶対失禁公開の刑で後悔させてやるぅ!)


「……お許し下さいネピア嬢様」

「仕方ない。今日だけよ? これくらいで許してあげるのは。いいわね?」

「……」

「返事はしっかりしなさいってアン様に言われたでしょ?」

「はいっ!」


 

 動く度に痛む全身。この痛みに復讐という自身の願いを刻み込む事でより洗練された仕返しが出来ると確信した。

 そしてこれ以上の問題を避ける為に、ヒポと荷車を新市街に近い旧市街にある家畜小屋へ置いてくる。


「すまんなヒポ。新鮮そうな草いっぱい買ってきたから、これ食って待っててくれな」


 軽く耳を動かし、それが合図になったかのように食事を始めるヒポ。店の利用者ではない俺はこの商店にお金を支払いヒポを置かせてもらった。


(ヒポなら自分でザンさんのところまで戻れそうな気もするんだけどな)


 そんな事を考えつつも、荷車に置いたドローン嬢様の下男がくれた賞状筒を改めて見ていた。最初の印象通り、高価な出来で売り払ったらそれなりのお金になるんじゃないかとも思った。


「そういやさ。あんたなんで私の事を止めたの? 全員まとめてぶっ飛ばしてやったのに……」


(こいつ釘さした意味ねぇ……まぁ、こいつも俺のこと案じてくれてるからな)


「……最初はさ、新市街の奴に通用するかアン様の名前を出して確かめてみたかったんだけど、大臣が話で出てきただろ? アン様は下手したらこの王都で一番強い可能性もあるけど、流石に大臣相手に事は構えられないだろ。それであいつらに使うカードが無かったから、矛先を一人に集中させようかと思ってさ」

「……でもそれだとタロさんが」


(あ~ あんまりというか絶対見たくないよな……こういう顔のエルモアは)


「確かにアホみたいにやられたけど、俺らの最優先事項は奴隷解放申請を滞りなく終了させる事だ。現状はな。あいつらにとやかく言われて、大臣の特権でも使用されて開放申請出来ませんじゃ困るだろ」

「……でも」

「ありがとうエルモア。今度は今回のようにならないように上手くやるさ」

「……はい」

「まぁ……正直なところあいつらが大臣に密に繋がってるとは思えない。あの時の商人のように下っ端ほど後ろ盾の名前を出したがるからな。だが、さっき言った通り役所の用さえ済んじまえば後は野となれ山となれだ。そんときゃ俺もやられはしないよ」

「はい」


(納得はしてない顔だけど、こんなところかな)


「そういえば、あんた何かもらってなかった?」

「そうですね。筒のようなモノでしたよね」


 荷車に戻した賞状筒を手に取る


「これか、開けてみるか……」

「待って! 待って! 私開けたい!」

「んぁ? いいぜ開けてみろよ」

「あんがと!」


(あっ……このパターンは……)



 一つ。開けた瞬間に大量の煙がネピアに襲いかかり蹂躙される。

 一つ。開けた瞬間に大量の蟲がネピアに襲いかかり蹂躙される。

 一つ。開けた瞬間に大量の蛇がネピアに襲いかかり蹂躙される。



(良かった。女王様ありがとうございます。率先して危険に飛び込んでくれたのは、あなた様のお陰でございます)


 俺はこれからの展開に対して絶対安全防衛ラインを制定し、友好国・サンエルモアン王国のエルモア姫の手を引いて状況を見守ることにした。


「ささっ、姫様こちらへ」

「はぁ」

「こんのぉ~ 開きやがれぇ~」

(うわぁ~絶対何かあるよ~ あいつマジでアホだな)

「こんのぉーーーエルフをなめんじゃないわよぉーーーーーー!!!!!!」


 とち狂ったネピアは壁を背にして賞状筒を足で挟み蓋を思いっきり掴んで勢いよく引っ張った!


「おわっーーーっ ぎゃふっ!」

(相変わらずおしい。あと一言なんだけどな)


 ネピアは賞状筒の蓋が取れた勢いと共に、後頭部を後ろの壁に激しくぶつけてご就寝となった。


「あっ! ネピア! 大丈夫!? ほら、起きて……ね?」


 エルモアはネピアの後頭部に手をかざすようにしている。俺はネピアが命をかけて開放した賞状筒を手にし中身を確認する。


「……? なんだ? 何かの賞状か?」

「あぁ~ 頭いたぃ~ あぁ~」

「まだ痛い? じゃあもうちょっとするね」

「あぁ~ 効くねぇ~ エルモアのは効くねぇ~」


 おっさんのキマり声を聞きながら、俺は賞状筒から一枚の綺麗な紙を取り出した。


(これは……っ!?)


 その紙を見た瞬間全てが繋がる。それは単純明快で4ピースのジグソーパズルがピッタリと当てはまったような、当たり前の感覚。


「ふふっ……ははっ……」

「……どしたん?」

「何が入ってたんですか?」

「あー 何入ってたの!? 見せて見せて!」


 ほらよ、とネピアに綺麗に仕上がっている一枚の紙を手渡してやる。その紙をエルモアと一緒に眺めるネピア。二人とも表情は違っている。


「……あの女、自分に絶対的な自信があるようね。同性として嫌になるわ」

「綺麗に描かれていますね……どうやってこんな鮮明に描きあげたんでしょうか?」

「……だがその綺麗さが仇となる」

「「 ? 」」


 二人とも俺が言った意味が分からないようであった。俺はドローン嬢様がバストアップで綺麗に描かれているこの紙を大事に大事にしまう。いつの日になるだろうか分からない俺の復讐劇。だがやる事はすでに決まっている。俺はほくそ笑みながら愛おしいように賞状筒を抱きしめた。











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