表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
173/174

第174話  アドリード王国を救おう! その22



 ヒューーーーーーー ドンっ!!!


 上空から超処女《スーパーヴァー人》が落下し地面と激突する。


(あれ!? 押しつぶされて消し炭になったように見えたけど!?)


 紺野さんは全ての「気」を放出したにも関わらず、超処女《スーパーヴァー人》の落ちた場所へ歩いて行く。


「……大丈夫か?」

「……負けちまったな」

「あぁ」

「だが、不思議と気持ちがいい…… 私は…… ふふっ 今となっては負け惜しみにしか聞こえんだろうが、お前より強かった筈だ。だが結果はこうだ…… どうして私に勝てた……?」

「君は処女だろう?」

「あぁ…… 貴様より年上で処女だ…… だが貴様だって童貞だろう……?」

「そうだ。そして君はアンさんにこう言っていたな。子供を作ったから弱くなったと、だがそれは間違いだ。アンさんは次世代に繋いでいったんだ」

「あぁ…… そうか…… だが、それが貴様の勝ちに……?」

「いや…… 君は諦めていた」

「諦めて……?」

「処女を捨てる事を……」

「……」

「……」

「そうか…… いつしか、女を捨ててがむしゃらに働いてきた。そして仕事をマスターした私は異世界で最強の女になると誓った」

「それさ。女を捨てるのが早すぎたんだ」


 いつの間にか超処女《スーパーヴァー人》の近くにいるアン様とザンさんが頷いていた。


「そう……だったのか……なら貴様は……?」

「俺は46歳になった今でも、童貞を捨てる事を諦めてはいない」

「くくっ ははっ それじゃあ勝てん訳だ…… 最初から捨てていた私に勝てる訳が無い…… 完敗だ……」

「いや……まだだ……」

「……どういう事だ?」

「これからは、その知力と体力を使って、この世界で旦那を探せばいい」

「……諦めるな……か」

「そうだ」


 嬉しそうに笑う超処女《スーパーヴァー人》。その眼に映るのは広大な空。だが心にはいつか出会える思い人に満たされているだろう。


「超処女《スーパーヴァー人》…… 貴様には失望したぞ……」

「パネーゼ!?」

「パネーゼ。私はアンタの駒じゃない。なんてったって孤高のアルバイターに自由を教えてもらったからな」

「そうか。駒だろうが、駒じゃなかろうが、消せるときには消させてもらおう。召還! 自動銀兵達オートアーマーズ!!!」


 聖気士パラディンである聖夜が登場するまでは苦戦した相手が二十体も召喚された。


「先ほどの奴は自動銀兵達オートアーマーズの出来損ない。お前達があそこで死んでしまっては、この舞踏会も楽しめないと思って手加減させてもらった。王の間を壊されても困るしな。だが、ここならその心配もない。魔源マナジーをほとんど消費はしたが、これで終わりだ。反逆者どもを全て葬れ!!!」


 一難去ってまた一難。どころか全滅の可能性もある状況であった。頼りのアン様と紺野さんは動けない。聖夜は先ほどのように戦闘を始めたが、本来の力を出している自動銀兵達オートアーマーズにやられないようにするのが、精一杯のようだ。


「エルモア!? ネピア!?」

「タロさん!? 遅延戦闘を継続します!」

「タロー!? 頼むわよ!」

「私は紺野さんを回復させてきます!」

「じゃああたしはクリちゃんのフォローにまわるんさ!」

「頼む! 何とかしてみせるからっ!」


 だが打つ手などない。じいさんからもらった都合のいい手紙は既に使っている。俺たちは逃げ回りながら、戦闘を継続させていた。ザンさんもアン様を庇いながら応戦しているが、流石に倒す事は出来ないでいた。


(どうする!? どうする!? どうすっる!?)


 自動銀兵達オートアーマーズに対抗出来る者がいない。みるみるうちに窮地に追い込まれていくレジスタンスのメンバー。攻撃を受けては撤退し回復をする。だがそれも限界にきていた。


(何も役に立てない…… だけど…… 諦めてはいけない……)


 フル回転させる頭に浮かんでくる策を、見つけては捨てていた。ついにそれすらも出来なくなる出来事が起きる。


「ぐぅ!?」

「姉さん!? あっ!?」


 エルモアとネピアが同時にやられる。助けに行こうと足を走らせるが、間に合わない。大きく剣を振りかざす自動銀兵達オートアーマーズ


(やめろ!?)


 スローモーションのように世界が遅延する。これからの事を思い、胸が熱くなったのか、何故か鳩尾みぞおち辺りが暖かく感じる。誘導されるように、それを手で触れた俺は掴み願った。不思議な森一丁目で手にいれた、紐付きのキーである。


(力を……)


 振り下ろされようとしている自動銀兵達オートアーマーズの巨剣。その行動を止めるように魂の叫びを俺はする。


「貸してくれぇーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」


 遅延していた世界が固まる。時間が止まった訳ではなかった。どのような理屈があるのかも分からなかったが、自動銀兵達オートアーマーズは動きを停止していた。


 そして一方を見つめる自動銀兵達オートアーマーズ。一斉に同じ方向を向き、ソイツが現れて来るのを何故か待っている。


「召還呪文だとぉ!? 何故!? あんな奴が召還など出来るぅ!?」


 パネーゼが叫んでいる間も、紐付きの鍵は光きらめいている。既に状況を察知したエルモアとネピア、聖夜とザンさんアン様も俺の元へやって来た。ラヴ姉さんとクリちゃんも紺野さんを抱えて集合し、光の行く末を見ていた。


「あ、あんた…… 召還呪文なんて使えたの……?」

「凄いですタロさん!」

「え……? 私の立場は……?」

「簡単魔法しか使えない簡単娘なクリちゃん!」

「いやぁーーー!?」

「ぱ、パイセン? 自分より凄いじゃないっすか!? 良かったすね!」

「流石は鈴木君。安心している」


(一体何を召喚したというのだ……?)


 鍵の光が地面に向かって放たれている。そこから浮かび上がるシルエット。俺は気づいてしまった。俺と同じようにスーツを着て現れた者に。


「さぁ…… 鈴木君…… 会社に戻ろうか……」

「か、貸島かしじまさん……」


 驚きを禁じ得ないとはこの事だろう。そこには「貸嶋かしじま」と明記されたプラスチック製の名札を付けている会社の先輩がいた。髪を七三分けにし、ふちの無い眼鏡をかけている。


「もう…… 逃がさないよ……」

「ひっ!?」


 どう考えても自動銀兵達オートアーマーズの方が驚異であったが、元会社の先輩だからか、こちらの方が恐怖が勝っている。

 何故か自動銀兵達オートアーマーズも恐れをなすように後ずさりしていた。そこにパネーゼが喚く。


「ど、どうした!? 自動銀兵達オートアーマーズよ!? かかれ! かかれい!!!」


自動銀兵達オートアーマーズは召喚された者に弱いのか……?)


「さぁ鈴木君…… 鈴木君だけの研修がっ! あるからね……」

「ひ、ひぃ…… か、か、かし、貸島……先輩……?」

「なんだい……?」

「あ、あの…… い、今、窮地に追い込まれて…… まして……」

「……」

「た、助け……」

「素直に会社に戻るのなら…… 助けよう……」 


(いやぁーーー!? 絶対戻りたくないっ!? しかもこの人なら、何とかして俺を連れ去るくらいマジで出来そうだっ!?)


 俺は考えた。会社に戻らず、この世界にとどまれる方法を。そしてあわよくば自動銀兵達オートアーマーズを蹴散らす事を。


「さぁ…… 時間がない…… 早くっ! 決めてね……?」


(嫌だぁ…… 個人研修なんて受けたくないよぉ…… 誰かぁ……)


 助けを求めるように皆を見つめる。俺は紺野さんを見たときに閃いた。


「か、貸島先輩!」

「さぁ…… 元の世界に行こうか……」

「貸島さん。俺は会社を辞めます」

「……」

「バックレてすいませんでした。最初からこの言葉を言えば良かったんです。手間を掛けさせて本当に申し訳ありません」

「残念だね…… なら仕事に戻るよ……」

「待って下さい!」

「……」

「お、お金を貸して下さい!!!」


「「「「「 !? 」」」」」


「いくら……?」

「せ、千円……」

「借用書ね…… ここにサイン……」


 サイン後に懐かしい日本銀行券を渡される。訝しむレジスタンスメンバーと社会派紳士ご一行達。


「か、貸島さん?」

「……」

「守ってくれますか?」

「……」

「あの自動銀兵達オートアーマーズから俺を……」

「……」

「債務者から債権者がお金を回収出来なかったらマズいですよね……?」

「助けよう…… その代わりイチイチだよ……」


(一日一割だろうが、一時間一割だろうが元値が千円だ、問題ない)


 もう一度借用書を渡され一瞬で署名する。


「お願いします!」

「(スゥーーーーーー)」


 信じられなかった。その場で人差し指を自動銀兵達オートアーマーズに向け、横一線に手を動かす。端まで指を動かしきると、自動銀兵達オートアーマーズのの上下が分断されてから大爆発した。


「「「「「 !? 」」」」」 


「(ちょっとタロー!? なんなのコイツは!? 危なすぎでしょ!?)」

「(た、タロさん!? どういった契約を!? まさか命!?)」

「(ぱ、パイセン……? あ、あれ……地元で有名だった名無しの先輩っすよ……)」

「(パない! パないよ~! あれ紺ちゃん? 何隠れてんの?」

「(ラヴちゃん? 大人には事情があるんだ。いいね?)」

「(どんな事情か気になりますね~)」


 一瞬で片がついた戦闘を事も無げにしている貸島さん。俺たちの脅威は去った。後は魔源マナジーの切れかかったパネーゼを潰すのみ。だが新たな脅威が生まれていた事を俺は知る。


「いいの……?」

「え……?」

「イチイチだよ……?」

「あ、はい。今返しますね……」


 今では使えない日本銀行券の五千円札をスーツのポケットから取り出す。異世界に飛ばされた時には見つからなかったが、その後に数あるポケットの中から見つけたものだ。


「お世話になりましたのでお釣りはいりません」

「足りない……」

「へ……?」


(仮に一時間一割としても、千百円だよな?)


「い、いくらですか?」

「イチイチだよ…… 一秒に一本」

「一秒!?」


(マズい…… それでもおかしい…… 一本ていくらだ?)


「一本ていくらですか?」

「一千万……」

「へ……?」

「もう…… 一分たったから六億円……」

「いやぁーーー!?」

「返せないのなら…… 一緒に……」


 そう言いうと貸島さんは光に包まれる。どうやら召喚タイムが終了したようだった。


「絶対…… 回収…… するから…… ま……た……」

「いやぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」


(一分で六億円だよ!? 一時間で三百六十億円!? 次に逢った時はいくらになるんだぁーーーーー!!?)


 気が付くとうな垂れた俺にヒポが慰めに来ていた。Dr.ヤーブーとヒポはようやく動けるようになったのか、コロシアムに戻ってきていた。


「お主は随分と凄い知り合いがいるのじゃのう?」

「へ……?」

「あの見た目は古文書に書かれている異世界を殲滅した暴君そのものじゃったぞ? それならあの強さも納得出来るの」 


(おかしいだろっ!? 何で日本でサラリーマンやってんだよ!?)


 俺たちが下らないやり取りをしている頃、レジスタンスメンバーによって、残りの残党と、魔源マナジーを使い切ったパネーゼはとっ捕まえられていた。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ