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第173話  アドリード王国を救おう! その21



 コロシアムでは敵側とレジスタンス側で中央から分かれていた。敵側の方が数を見ても劣勢なのは確認出来たがどうにもおかしい。何故ならそれに攻め込もうとせずに立ちすくんでいるからだった。


「どうなってる……?」


 時折聞こえる弾着音と揺れ。これはヨヘイじいさんの列車砲、TYPEーRが秘密の港や陸、そしてアドリード王国に接岸しようとしている、ギルディアン傭兵船に撃ち込んでいるからだろう。


「……一匹ヤバそうなのがいるわね。それに対面して膝を突いているのはアン様じゃない?」


 確かに感じる。魔法力ではなく「気」であった。そして敵側の奥にはパネーゼらしき人物が、俺たちと対角線上にあるコロシアムの席で成り行きを見ていた。


「行きましょうタロさん」


 エルモアに促されて闘技場中心へと向かって行く。レジスタンスのメンバーが、道を空けてくれて前方へと向かう。


「無事だったか……」

「ザンさん!」

「鈴木君も聖夜君も……皆も無事だったか……」

「紺野さん! この状況はいったい!? どうしてアン様が膝を突いて!?」

「あの者がやった。彼女がアンさんの仇敵らしい……」

「そういう事だ。アンが力を温存していたのもアイツと戦う為だ」

「あれは誰なんですか!?」

「ダブルヴァージン」

「だ、ダブルヴァージン?」


 アン様と同じような女性とは思えない程の筋肉質な身体。そしてダブルヴァージンと呼ばれた彼女はアン様以上とも思える「気」をコロシアムに蔓延させていた。ついにその異様な輩が声を上げる。


「おいおい。アンともあろう奴が、この程度で根を上げるとはな。バージンを破り、結婚をして子供なんて産むから弱くなったんだ」

「……そいつは違うねぇ」

「……」

「あたしゃあザンと結婚して子供を産んだから今を生られているのさ……」


(アン様に子供がいたのか……? ザンさんからも聞いた事ないぞ……?)


「弱くなってか……?」

「確かに、お前は強いねぇ…… 同い年では最強さぁ…… だが、いつまでも勝ち続けられはしないよ…… だからあたしゃぁ、次世代の者を作りあげたんだぁ……」

「ならお前の役目は終わりだな。どれ……弱くなったお前を見続けるのも忍びない。これで終わりだぁーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

「ザン! 後は任せたよっ!!!」

「アーーーーーーーーンっ!!!!!!!!!!」


 ザンさんの雄叫びと共にダブルヴァージンと呼ばれた相手は、アン様にトドメを刺す。だがそれは届かなかった。そう。我らが最強戦士、紺野さんが一撃を食い止めている。


「……邪魔する気か?」

「勝負はついている。やる気なら私と願おう。アンさん。申し訳ないが、ここからは私が戦闘に入る」

「ふっ…… ザンよりも強そうだねぇ…… 後は任せたよ…… ぐっ……」


 ザンさんが慌ててアン様の所へ向かった。そして肩を貸しながら戻って来る。回復魔法を掛けようとすると、アン様は手で制した。


「魔法耐性が強すぎてねぇ…… あまり効かないのさ…… 無駄に使う必要はないねぇ……」


 ザンさんに寄りかかりながら、静かに戦いの行方を見守ろうとするアン様。それに倣い俺たちも紺野さんの戦いに目を向ける。


「なかなか良い筋肉をしているな。だがこの私ダブルヴァージンには勝てん」

「……アンさんが言っていた通りだ。勝ち続ける事は出来ない。それを教えてみせる」

「はっはぁ! 言うじゃないか! この私の膜を破れるとでも!? 私の膜は一枚だけではないっ! どのような攻撃ですら跳ね返す最強の膜を、もう一枚気力で展開出来るのだぞっ!? お前も見ていただろう? アンですらその膜を破る事は出来なんだ。お前の攻撃は効かない、だが私の攻撃はお前に届くのだ」

「なら……その膜も破ってみせるっ!!! うぉぉぉぉぉぉぉーーーーーー

ー!!!!!!!」


 紺野さんの身体から漏れ始める膨大な「気」。


「なっ!? 貴様っ!? 大童貞だったのか!?」

「俺は孤高の戦士…… 46歳の童貞だぁーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 それだけでは済まなかった。紺野さんが己の恥部をさらけ出した時に、紺野さんの全身から輝かしい金色の「気」が全身を覆い尽くす。上半身の服は全て破れ、筋肉が膨張する。そして紺野さんのアイデンティティである角刈りは金色となって揺らめいていた。


「なっ!? ……伝説の超童貞《スーパーチェリー人》だとぉ!?」

「行くぞっ!!! ダブルヴァージンっ!!! お前の膜を破るっ!!!」


 宣誓と同時に紺野さんがボディーブローをかます。慌てて防御結界のような「膜」を張るが、それと共々ぶっ飛ばされる。


「ぐっはぁーーー!?」


 パネーゼのいる辺りまで飛んでいく。だが、ダブルヴァージンも負けてはいない。コロシアムの残骸から問題なく這い出てくる。だがそれは残像だったのだ。既に紺野さんへ肉薄していた、ダブルヴァージンは怒濤の連撃を紺野さんへ叩き付ける。


「はっはぁ!!! どうだっ!!! どうだぁ!?」

「はっ! はっ! はっ! はっ! はぁーーーーーーーーーっ!!!」


 全ての攻撃に両手で応戦し防ぎきる紺野さん。攻撃を払いきった最後にダブルヴァージンを上空へと蹴り上げ空中戦へと持ち込む。


「はい! はい! はい! はい! はい! はい! はいやぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!」

「むん! むん! むん! むん! むん! むん! はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!」


 空中戦をものともせずダブルヴァージンと紺野さんは地表に落ちながら、連撃を繰り返す。


「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!」


 両手を合わせた紺野さんが、ダブルヴァージンの脳天目掛けて叩き落とした。


ドンっ!!!


 コロシアム中央にクレーターが作られる。決定打にはならなかったようだが、明らかにダブルヴァージンは疲弊していた。


「……破れない膜などない」

「くっくっく…… ははっはぁーーーはっはっはっ!!!」

「……膜が破れた時が、お前の負けだ」

「おめでたいなぁ……」

「……どういう事だ?」

「男が超童貞《スーパーチェリー人》になれるように、女もまた……なれるのさぁ…… 超処女《スーパーヴァー人》になぁーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

「なんだとっ!?」


 紺野さんと同じように全身が金色に包まれる。バチバチと金色になった髪から、破裂しそうな「気」を纏い変身を告げる。

 俯いていた彼女が顔を上げ、不適な笑みを浮かべた瞬間、超高速戦闘が開始される。


「はい! はい! はい! はい! はい! はい! はいやぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!」

「ぐっ! ぐっ! ぐっ! ぐっ! ぐっ! ぐっ! ぐわぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!」


「はっはぁ!!! こんなモノか!? こんなモノかぁーーー!? 超童貞《スーパーチェリー人》の力はぁーーー!?」 

「なっ なんという力……」

「超処女《スーパーヴァー人》を甘く見るなよぉーーーーーーーー!!!!!?」

「ぐわぁーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!」


 上空へと蹴り上げられた紺野さんは、同じように脳天に強烈な一撃を喰らい、猛烈なスピードで地上へと帰還する。


ドンっ!!!!!!!


 先ほどとは比較にならないほどのクレーターが出来上がる。紺野さんは必死に起き上がろうとしていた。


「……つまらんな」


 超処女《スーパーヴァー人》に勝てる生物など存在するのだろうか。誰しもがそう思った。そう思われてもおかしくない彼女は、それに見合った行動を取る事になる。


「気も満ち溢れて気持ちがいいぞぉ。よ~し、この王都ごと破壊してやろう」

「なっ!? おいダブルヴァージン!? 契約が違うぞ!? この私と王都を守るのがお前の役目だろう!?」


 流石に慌てたのか、パネーゼが一際大きい声で、超処女《スーパーヴァー人》に叫んだ。


「ふふっ こうなっては貴様ごとき私を止める手立てはあるまい。強い者が好き放題出来るのが世の常だ」


 すると大きなクレーターの中から紺野さんが這いずり出てきた。


「ち……がうな……」

「ほう? 何が違うという?」

「なら…… 既にこの世界は滅びているだろう……」

「これから滅びるのさ」

「なら私が食い止める…… 皆の為に……」

「……何故そこまでして、弱い者を守ろうとする」

「私も守られていたからだ。しかし気が付かなかったのだ元の世界では。孤高のアルバイターとして自由を謳歌していた私は、一人で生きているつもりだった。だが実際は私より仕事の出来る者や、頭のいい者達が一生懸命働いて社会を組み立てている。そして私と同じように生き方を見つけられなかった者達が、その社会を一生懸命に縁の下で支えてきたからだ」

「……」


 超処女《スーパーヴァー人》は黙りきった後、盛大に笑い始めた。


「はぁーーーはっはっはっ!!! 貴様も日本の出だろう!? この私も何十年前に怪しい爺さんに連れられてきたのだっ!!!」

「なんだと!?」

「アルバイトぉ~? 笑わせるな! 私はお前のようにこの世界に逃げ込んで来た訳じゃ無い。私は男尊女卑というレベルでない時代に、正社員キャリアウーマンとしてバリバリ仕事をこなしてきた。見物だったぞ。あれ程にオスを振りかざしていたクズ共にクソのような仕事をあてがうのはなぁ!?」

「……」

「お前も思う所があるのだろう? そんな年齢までアルバイトをして、惨めに生きていた自分が哀れだろう?」

「……確かにそう思ってしまった時があった。だが私は自分の過去を捨てはしない。全てを背負い一つの自分として生きて行く。そして絶対に諦めない。最後の最後まで成長していくんだ」

「成長? 46歳にもなってアルバイトをしている奴には成長などない。後は朽ち果てていくのみだ」

「そんな事はない。人は死ぬ直前まで成長する。だから俺は守り切ってみせる」

「ならばこの王都の民も全て背負ってみせろ…… くくっ…… 今からヴァージン砲で跡形も無く吹き飛ばしてやる」


 信じられない事に、溢れ出る「気」を身体の下に出して、浮遊していく超処女《スーパーヴァー人》。どうやら空中から紺野さん目掛けて、この一帯を吹き飛ばすつもりらしい。


「いいかっ!? 貴様のように人生や仕事を舐めている奴に私は負けはせん! アルバイトという楽な方へ逃げたクソ野郎は、ヴァージン砲で焼かれながら懺悔しろっ!!!」

「アルバイトの何が悪い!? 自由に生きるのも人それぞれだ! アルバイトに善悪はないっ!」

「……」

「……」

「……平行線だな」

「……そのようだ」


 決着は互いのエネルギー波で付ける。そう言わんばかりの二人。互いに片腰に両手を合わせて「気」を貯めだした。地響きが膨大なエネルギーを想像させる。そして超処女《スーパーヴァー人》と超童貞《スーパーチェリー人》である紺野さんは最後の決着を付ける。


「せ~」

「ア~」


「い~」

「ル~」


「しゃ~」

「バ~」


「い~」

「イ~」


「んーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「トーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 凶悪な光の柱がぶつかり合う。柱の大きさは同じ。だが、紺野さんが押し負けていた。


「はっはぁ!!! ヴァージン砲で消し去ってやるわーーーー!!!」

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーー!!!」


 もう駄目なのか、既に紺野さん間近に迫っているヴァージン砲。だが紺野さんは最後まで諦めなかった。自身を勇気づける気合いの言葉を吐き出す。


「……時給」


 紺野さんがそう呟くと精神エネルギーなのか、紺野さんの身体の周りに支払われていただろう時給が表示された。


(600円!? 最低賃金を遙かに下回る金額だ!?)


 その低い賃金も紺野さんの気合いで飜すことになる。


「……二倍」


(やっと1200円!?)


「……三倍だぁーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


(キターーーー!? 1800円!? アルバイトとしては夢の金額だぁ!?)


「なぁーーーーーーーーーーーー!? おぅおぁぁぁぁあああああぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」


 時給1800円という膨大な金額を得た紺野さんは、超処女《スーパーヴァー人》の光の柱を押し返し、彼女を押しつぶして業火に焼いた。











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