第171話 アドリード王国を救おう! その19
パネーゼの召喚魔法で現れた自動銀兵。巨大なるその鎧騎士にエルモアが突っ込んでいく。自動銀兵は手にしていた魔法馬ですら一刀両断出来そうな大型の剣を振り下ろした。
「!?」
ギリギリの所を半身で躱し、魔法タクティカルグローブで鳩尾に一発入れたエルモア。だが攻撃を受けた事など、微塵にも感じさせずにいた。連撃を可能な限り費やしたエルモアは、相手の腹部を蹴り上げる反動を使って、こちらに戻ってきた。
「……物理、魔法耐性とも優れています」
「聖夜はシャーロットさんの護衛を頼む!」
「はいっす! 守り切ってみせるっすよ!」
「……お願いします聖夜さん」
「ネピア! とりあえず一発カマしてやれっ!!!」
「そのつもりよっ!!!」
大きな火の玉が詠唱と共に現れる。近くにいた俺たちにも伝わる熱量。それをそのまま自動銀兵に向かって投げつけ激しく燃え上がった。
続けざまに、メロン程の大きさの魔法球が連続してネピアの両手から発射された。誘導されているように各球が、関節部分に目掛けて当たり、小規模な爆発を起こした。
「……これで終わりとは思えないけどね」
「自動銀兵ってくらいだから、中に人はいないんだろうな……」
王の間が火事にならないか心配していた瞬間、燃え上がる炎の中から自動銀兵がラヴ姉さん目掛けて突進してきた。
「魔法十手!!! ぐっ!!!」
あの巨剣を魔法十手で受けきったラヴ姉さんも凄かったが、そのまま剣の勢いを殺せないまま、壁まで吹っ飛ぶ。
「ぐぅ!?」
そのまま壁にしなだれるようにして、倒れてしまったラヴ姉さんに自動銀兵が追撃を掛ける。ラヴ姉さんを救おうとしたクリちゃんが、魔法クロスレンチをブーメランのように投げ、兜の正面に当て込んだ。一瞬だが視界を塞がれた自動銀兵にエルモアが再度猛進する。
「せいっ!!!」
戦闘時にあまり声を出す事ないエルモアが、魔法タクティカルグローブで自動銀兵の腕を掴み、強引に一本背負いした。床から伝わる大きな振動。自動銀兵の堅さや重さが嫌になる位に伝わってきた。
「ラヴ!? 大丈夫!? ラヴ!?」
「……」
「クリちゃんはラヴ姉に回復魔法を! タロー!? あんたも回復出来るんだから用意しときなさいっ!!!」
「了解!」
エルモアの魔法と体術を組み合わせた攻撃と、ネピアの豊富な種類の魔法で自動銀兵を牽制していく。決定打が出せないまま時間だけが過ぎていき、俺たちの魔源と体力、そして俺の回復弾が消費されていく。
「ラヴ!? しっかりして!? ラヴ!?」
「ぁ…… ぅぁ……」
相当の衝撃だったのか、未だラヴ姉さんは動けていないでいた。
(クリちゃんの回復魔法と、俺の回復魔法弾を合わせればラヴ姉さんもっ! はっ!?)
一瞬だった。離れたラヴ姉さんを横目で伺っていた瞬間、自動銀兵は俺の目の前まで向かってきていた。
「タロー!?」
「タロさん!?」
ネピアの放った魔法球が自動銀兵へ向かっているのが見えた。それに隠れるようにしてエルモアが追撃している。
だが自動銀兵は俺に正対したまま、右手でもった巨大な剣で器用に魔法球を打ち払い、エルモアに返球する。そしてゴツイ左手で俺の身体ごと吹っ飛ばそうする。
(終わっ……ってないぞ!!! オラぁ!!!)
回復魔法弾を知らない者が見たらリボルバーで自決した様であろう。銃口を自分に向けて可能な限り連発した。数発を自分に打ち込んだ所で、自動銀兵からの左手の一撃でまともに吹っ飛ばされる。
「ぐがっ!!!」
ラヴ姉さんと同じように遙か先の壁まで、吹っ飛ばされる。意識が寸断されそうになるが、回復魔法弾が効いているのか持ち直す。だが、そう思ったのもつかの間で、意識が寸断されそうになったり、目が覚めたりと、ジェットコースターのような脳の動きに混乱しきっていた。
「タロー!? こんのぉーーー!? ぐっ!!!」
「ネピア!? ぐっ!!!」
(くっそぉ!? 動けよ!? 俺の身体動いてくれよっ!?)
意識は多少マシと言えるほど。ジェットコースターのような上げ下げは無くなったが、大時化の海原を大型船で航海しているような、うねった動き。
身体に指令を出し続けるが、鈍い動きしか出来ない。そうしてついに、エルモアとネピアまでこちらに吹っ飛ばされてきた。
「……」
「ネピアぁ……」
先にネピアが自動銀兵にやられ意識を飛ばす。それを受け止めようとしたエルモアが、自動銀兵からの追撃を受けていた。身体を張ってネピアを助けたエルモアだったが、皆と同じく衝撃を殺しきれず、壁に全身を強打していた。
「ぱ、ぱいせ~ん!? ヤバいっすよ!? マジでヤバいっすよ!?」
「皆さん大丈夫ですかっ!?」
その声に反応したか、自動銀兵は聖夜とシャーロットさんの方へ歩いて行く。驚異として感じていないのか、悠然と距離を縮めていった。
ラヴ姉さんの回復に専念していたクリちゃんは、覚悟を決めたように自動銀兵へと距離を詰める。
「聖夜さん! シャーロットさん! 逃げて!」
時間を稼ぐつもりなのか、自動銀兵の周りで牽制を続けるクリちゃん。その間に聖夜とシャーロットさんは王の間から出られる、悪趣味な扉に辿り着いていた。だが、固く閉ざされた扉は開かない。
「駄目っす!? パイセ~ン!? クリネックスさ~ん!? 開かないっすよ!?」
「パネーゼが鍵の魔法を掛けているか、自動銀兵を倒さない限り開かないのかもしれません!」
(どうする…… どうすればいい……)
そんな考えも許されないのか、牽制をしていたクリちゃんは、自身の放った魔法クロスレンチを腹部に弾き返され身悶えていた。動きの止まった獲物を大剣で薙ぎ払う。撫で切りは避けられたが、勢いよく転がり最後には動けなくなっていた。
「シャーロットさん! 逃げるっすよ!?」
「は、はい! でも何処に?」
「逃げ続けるっす! パイセンが何とかしてくれるっすよ!」
「はい!」
自動銀兵は攻撃してこない者には興味がないのか、重い身体を床と共に揺らして、聖夜とシャーロットさん歩いて追い続ける。だがその一歩一歩の歩幅は十分にあり、また体力と言った概念はないように思える。
(何か…… 何か…… アイツを倒せる奇策でもあれば…… クソっ! そんな都合のいい…… ハッ!?)
あったのだ。都合のいい展開が。それが役に立つかは分からない。あの不審者じみている謎のじいさんの書いた手紙がある。
俺たちを異世界まで送れる魔法士であろうじいさん。俺は奴からもらった手紙をスーツの内ポケットから取り出す。「ピンチじゃと思ったら開けるのじゃぞ?」と記載されている手紙の封を開けた。
(は……?)
そこには一文が書かれていていた。だがそれが窮地を救う方法とはあまりにもかけ離れていた。肝心な時に使えない奴ほどに使えない奴はいない。この言葉を心に思ったのはいつ以来だろうか。次第に沸き上がる憤怒の感情。抑えきれなくなった俺は、そのどす黒い感情と共に、聖夜に向かって怒鳴りあげた。
「聖夜ぁーーー!!!?」
「な、なんすか!? パイセ~ン! 妙案思いついたっすかーーー!?」
「よく聞けーーー!!!」
「き、聞いてるっすよーーー! は、早くお願いっすーーー!」
「俺はお前のあだ名を考えたーーー!!!」
「い、今っすかーーー!?」
「あだ名で応援するから頑張れーーーーーーー!!!!!!!」
「なんだか分からないっすけどーーー!? お願いするっすーーー!?」
「イヴーーーーーーーーー!!!!!!!!! シャーロットさんを守りながらソイツをぶっ飛ばしてくれーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
すると聖夜はその場で俯きながら動きを停止した。
「せ、聖夜さん? あ、あの……?」
シャーロットさん立ち止まってしまった聖夜に声を掛けるが返答はない。
「俺を……」
一人称が変わった聖夜。
「俺の事を……」
溢れ出る「気」。
「イヴって呼ぶなぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
聖夜の心の叫びと合わせて全身が神々しく輝く。あの自動銀兵ですら、強烈な光に動けないでいた。その光が収まり現れたのは聖気士になった聖夜だった。
(なっ!? いつの間にかチャラい格好も変わって神々しい騎士のデザインに!?)
だが溢れ出る「気」を感じると、騎士ではなく気士。だが装いは騎士そのものである。
「俺の名は聖夜っ!!! イヴではない!!! 行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!」
いつの間にか現れた長剣を携え自動銀兵へ接敵。悠々と相手の重い一撃を躱し、自動銀兵の右肘部分から切り落とした。
「!!!」
自動銀兵は一瞬驚いた様に動きを止めていたが、残った左手で応戦する。だがその手も同じように肘から切り落とされた。
「俺の名は…… 聖夜だーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
トドメの一撃と言わんばかりに肩から斜めに身体を切り落とした聖夜。崩れ落ちる分断された鎧から魔源が解き放たれ、それと同時に自動銀兵は消滅していった。