第167話 アドリード王国を救おう! その15
またもやクリちゃんの隠し持っていた、正論丸より効く胃腸薬、ポン豆を使用し二日酔いを回避する。既に王都奪還作戦一同は総員王城の正門まで列をなしている。
異変に察知したアドリアの兵士が騒ぎ出し、王城正門や外壁の上から俺たちを監視していた。そこにどうやらヤベーゼと思われる、横に広く薄毛のおっさんが出てきたのは正午になる少し前の事であった。
「ぶぶぶ。反乱軍が束になったところで、この王城、ならびに宮殿を落とす事はできなんだぶぅ」
(マジでそういう喋り方なんだな……)
「首取ったるどーーー!」
「てめぇの命も今日までだぁーーー!!!」
「小便でも漏らしながらビビってろ!!!」
(それはネピアの専売特許です)
「愚かだぶぅ。わざわざ見に来てやったのだから、ひれ伏すんだぶぅ。後は任せたっぶ。門番として給料分しっかり働くんだぶぅよ?」
「かしこまりましたぁ! ヤベーゼ様!」
「このグラマ! ヤベーゼ様の忠臣としてお役に立ってみせます!」
「おいグラマ? この隊長である私を差し置いて随分とゴマをするではないか?」
「アピスト隊長についていっても、先が見えますしね」
「なんだと貴様っ!」
「だいたいですね……」
俺は安堵していた。何せこいつらが出てきてこないと、お話にならないからだ。いつも通り下らない痴話喧嘩を俺たちに見せつける。既にヤベーゼは去り、異様な空気を醸し出しているレジスタンス達。
「アピスト! グラマ!」
「なんだ!? 今は忙しいのだ!」
「あっ!? あいつは!? アピスト隊長!? あのクズですよ!? 私たちの夢を奪った!?」
「な、なんだとぉぅ!? おいクズ!? ヤベーゼ様に刃向かうとは恐れ知らずな奴め!」
「……正門を開けろ」
「馬鹿な!? 何故クズのいう事を聞かなければならないのだぁ!?」
「アピスト隊長? ここからなら安全です。ウンコとかアイツに投げて、今までの鬱憤を晴らしましょう!」
(投げてきたら、そのウンコ喰わせてやるからな…… ふふっ)
「もう一度だけ言う。正門を開けろ」
「はっはぁ! 気持ちいいぞ~! 泣いて喚いて糞尿を垂れ流したら、考えてやろう!」
(こいつらウンコとか小便とか好きそうだもんなぁ)
あまり図に乗らせたくないので、エルモアとネピアに正門を開けて貰うように言って貰う事にした。これでアイツらも言う事を聞くだろう。嫌がるネピアとエルモアをを前面に出して言葉にさせた。
「お願いします。正門を開けて下さい。アピストさん」
「ぐはぁ!?」
「アピスト隊長!?」
「は、早く、正門を開けなさいよね、ぐ、グラマ」
「もっはぁ!?」
「ぐ、グラマぁ!?」
(真性は扱いやすいなぁ)
「……だ」
「だ?」
「……駄目だ」
(生意気にもロリフターズの願いを聞き入れないだと!?)
「聞いているんだぞ!? 昨日! 旧市街でファン感謝祭が行われていた事をっ!」
「そうだ! そうだ! ファン第一号である私を差し置いてなんたる事!」
「……おいグラマ」
「……なんですか隊長?」
「ファンクラブ会員No.1はこの隊長であるアピストだ」
「なっ!? それはおかしいでしょう!? 私が先に幼気様に出逢ったんです。間違いなく私がファンクラブ会員No.1です。そして聖幼人様に労いの言葉を掛けて貰えたのも、この私グラマです」
「なんだと貴様っ!」
「だいたいですね……」
アホのやり取りを聞きながら、無駄に時間を過ごす事はない。あまり物怖じしないエルモアですら微妙な面持ちでいる。ネピアに至っては、時折アピストグラマコンビから発せられる視姦とも言える、強烈な眼差しに精神を蝕まれていた。
外壁の上に並んでいる幾多の兵士達も涙している。アドリアの兵士はすべからく真性組だと聞き及んでいたが、これ程までだと流石に気持ち悪い。だが、これで道は開けた。
(仕方ない。真性共は譲歩すると勘違いするから、言いたくはないが致し方あるまいて)
「ゴホン!」
「「(ビクゥ!?)」」
(この咳払いは止めた方がいいな。エルモアとネピアが勘づく)
「あ~ なら正門を今すぐに開けてくれた場合にのみ、ファン感謝祭をアドリアの兵士にも行う事を考えよう」
『開もぉーーーーーーーーーっん!!!!!!!!!!!!』
『うぉぉぉぉぉーーーー!?』
『ロリフターズが目の前でぇーーー!?』
『はぁ……はぁ……はぁ……』
『見つめ逢えるぅ! 吐き出した二酸化炭素吸えるぅ!?』
そして王城の扉は、真性共の欲望の解放と共に解き放たれた。正門が動き始めると同時に、エルモアとネピアが俺の後ろに隠れる。
「うぉぉぉぉぉーーーー!?」
「扉が開かれたぞぁーーー!!!」
「流石は勇者ーーー!!!」
開かれた門から隊長アピスト、グラマを先頭に、こぞってアドリアの兵士が集まってくる。
「良くやった。褒めてつかわすぞ。アピスト、グラマよ」
「でぇ~ 旦那ぁ~? 早速くぅ~?」
「げへへぇ~ 一緒にお風呂に入りましょうねぇ~」
「「(ビクゥ!?)」」
「お前達アピスト、グラマには褒美を考えている」
「「(ビクゥ!?)」」
「そして残りの兵士達よ。味方になるのであれば、お前達の事もしっかりと考えてやろう」
「「「「「 うぉぉぉぉぉーーーー!!!!!!!! 」」」」」
既にレジスタンスの面々は突入に向けて足並みを揃えている。王城内を見て取ると、宮殿へ向かう道左右から、アドリア正規兵とは思えない服装の者達が大勢出てきた。
(時間はないな。よし! 彩煙弾を撃つ!)
時間は正午。上空に青色の煙が一本そびえ立った。それを合図に各隊がそれぞれ気合いを入れる。
「ヤベーゼの首を取るぞーーーーー!!!!!」
「「「「「 うぉぉぉぉぉーーーー!!!!!!!! 」」」」」
「シャーロット王女様のご加護をーーーーー!!!!!!」
「「「「「 うぉぉぉぉぉーーーー!!!!!!!! 」」」」」
「逃げない兵士はアドリアの兵士じゃねぇーーーぞーーー!!!!!」
「「「「「 うぉぉぉぉぉーーーー!!!!!!!! 」」」」」
そして遊撃的である、即応部隊の俺たちが宣誓と共に吶喊する。先行はお祈り会で、エルモアの列に並んでいた大変気迫のある部隊。隊長は勿論エルモアだ。
「「「「「ディープ・フォレスト!!! 聖エルモアン!!!」」」」」
「ブラッドレイン家の名の下に敵を殲滅する!!! 続けっ!!!」
「「「「「 サー!!!!!!! 」」」」」
いつもとは違う口調のエルモアは、既に戦闘状態に移行しているのだろう。そして僅かな差を持ってネピアの部隊が宣誓する。お祈り前の者達とは思えない程に、ネピアに全てを捧げていた。
「「「「「ディープ・フォレスト!!! 聖ネピアン!!!」」」」」
「私たちも行くわよっ!!! 姉さんに続けっ!!!」
「「「「「全ては魔法士ネピア様の為に!!!」」」」」
正門からなだれ込むレジスタンス。正門入り口の左右からアドリア正規兵も流れに加わる。宮殿に続く道半ば程で、ギルディアン傭兵部隊であろう連中と戦闘になった。エルモアは敵陣を中央から潰していく。その流れに乗ってネピアの部隊。そしてネピアの部隊に守られながら俺たちは宮殿へと突っ走る。
「ファイア!!! ファイア!!! ファイア!!!」
「「「「「サー!!! サー!!! サー!!!」」」」」
「姉さんの部隊を援護!!! 私たちと共にタロー達をこのまま宮殿へ突っ込ませるわ!!!」
「「「「「全てはエルモア姉様の為に!!!」」」」」
エルモアの突進力に中央から分断された敵兵達。だが、左右からの攻撃が次第に強くなっていく。それに合わせてアドリア正規兵達がフォローに入る。このまま押し切れそうになった瞬間、思いも寄らぬ事態が発生した。
『彩煙弾が宮殿裏手から発射されたぞ!?』
『黄色だ!?』
『なんだとっ!? 突入には失敗したかっ!?』
別ルートからの進入する予定であった、ザンさんと紺野さんが率いている部隊が、黄色の彩煙弾を発射していた。だが俺は間髪入れずにもう一度、青色の彩煙弾を続けて二発発射させる。
『俺たちは前進だぁーーー!!!』
『続け続けーーー!!!』
『裏まで回り込んでやるぞーーー!!!』
流れに乗った状況を、停滞させる訳にはいかなかった。連続に発射した彩煙弾に勢い付いたか、後方の部隊も変わらず吶喊していた。そして俺たちは宮殿入り口まで無事に辿り着く。