第162話 アドリード王国を救おう! その10
俺たちレジスタンスは旧市街奥にある大きな建物に集合していた。大きな体育館のような、それでいて工場のような風体の建物。人数も半端なく、ほとんど埋まり切りそうであった。既に会場の外で場所取りをしている者達もいた。
(でもこれを見つかったら流石にマズいよな……)
そんな事を気にしていると、アクトゥスさんが話し始めた。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
「ですが、流石に規模が大きすぎませんか?」
「今日は旧市街の設立記念日なんです」
「そうでしたか」
「いつも通りこの建物で記念式典をして、旧市街全体で飲み明かします」
「なるほど。じゃあ前夜祭ですね本当に」
「そういう事です。それでは始めますよ」
(ザンさんは本当に何も知らせないよな……)
アクトゥスさんが壇上へと上がり、集まった旧市街の人たちからの目線を集める。ざわめきが一瞬大きくなるものの、これからの話しに耳を傾けるように、静かになった。
「本日はお集まり頂き誠にありがとうございます。僭越ながら司会進行と致しまして私アクトゥスが承らせて頂きます。昨今、王都で横暴の限りを尽くしているヤベーゼに立ち向かう為に私たちは集っています。そして本日。明日の王都奪還作戦へ向かう皆様へ、心強い味方がいらっしゃいます。では早速になりますが、ご演説よろしくお願い致します」
アクトゥスさんの声かけに応じるシャーロットさん。ローブとフードを被った出で立ちはそのままに、壇上へとあがる。そしてフードをとった瞬間に会場は最高潮に達した。
『シャーロット王女様!?』
『シャーロット王女様が無事であらせられるぞ!?』
『シャーロット王女様~!!!』
「……皆様。私の力不足により、今回このような事態を招きお詫び致します。ですが、必ずや明日の王都奪還作戦を成功させ、以前の暮らしを取り戻し、民の皆様が安心して暮らしていけるよう、粉骨砕身の精神で国事に携わっていきたいと思います。その言葉に真実が宿るよう、奪還作戦においては及ばずながら参戦させて頂きます」
『うぉぉぉぉぉーーーー!?』
『取ったる!? ヤベーゼの首を取ったる!!!』
『気合い入れるぞーーーー!!!』
するとシャーロットさんはこちらを見て微笑んだ。
「私たちには心強い味方がいます。皆様の力になってくれる勇者達です。実際、私を救ってくれた御方たちです。ズーキ様。後はよろしくお願いいたします」
「はい」
シャーロットさんが壇上より降りると盛大な拍手と声援があがる。その熱気が冷めやらぬまま壇上へ上がる社会派紳士。
「ご案内に預かりました社会派紳士こと勇者タロ・ズーキです」
『アイツ…… 奴隷商人じゃないのか……?』
『いいや。実際は奴隷解放した紳士だぜ……』
『ヤベーゼが王位継承した時に、王都と新市街を混乱させて、港から強引に出港した強者だぜ……』
「明日の王都奪還作戦について説明します。明日、正午前に宮殿に繋がる王城正門へ総出で向かいます。正午と同時に正門から突入し王城へと進入。即応部隊が宮殿へと肉薄。ヤベーゼを打ち倒し、王都を正常な状態へと戻します」
『おいおい。どうやってあの正門を抜けていくんだ?』
『密偵が中にいるんじゃないのか?』
『だからと言ってアドリアの兵士とまともにかち合うのか……』
「正門の件についてはご安心下さい。必ずや民の心にひれ伏し解き開かれます。皆様に覚えて頂きたいのは彩煙弾の色の意味についてです。この私自ら正門突入が成功した場合は青色。正門突入に至らないが、戦闘継続可能なら黄色。戦闘継続不能なら赤色を発射します」
「また、別ルートからの宮殿進行を同時に行います。そちらの部隊も同じように彩煙弾を発射します。上空へ彩られた煙を参考に、進行、状況維持、撤退を判断して下さい。基本的に赤色が発射された場合は、シャーロット王女様の身の安全と戦略的撤退が最優先事項となります」
「同じくしてアドリアの民である皆様もです。これからのアドリード王国を担う民が、無駄に命を落とす必要はありあせん。ですが、突入成功し宮殿まで行けるのであれば、身を捨てて戦って頂きたいと思います」
『おぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!!!!』
「詳細については各々の小隊長に伝令します。質問等あればまとめてご提案下さい。逐一対応いたします」
大まかな作戦内容を提示し終わって安堵する。俺のここでの役割は終了だが、付随しての業務は、これからが大変なのであった。
「以上で作戦概要を終了致します。続きまして、アドリア奪還作戦に従事して頂ける皆様に、ささやかながらお礼をさせて頂きたいと思います」
『お礼……?』
『なんだ……?』
『酒だろ?』
「ご存じの方もいらっしゃると思いますが、旧市街アン様管轄の事務所で活動しているジュニアアイドルグループ。ロリフターズが握手会ならぬ、お祈り会をただ今より開催致します」
『うぉぉぉぉぉーーーー!?』
『一部が凄い盛り上がりだな……』
『可愛いけど、ちょっと幼すぎるよな……』
エルモアが威風堂々とした足取りで壇上へと上がる。そして敬礼。その軍隊然とした行動が一部のファンに受け入れられて、既に大変整った列が出来上がる。
ネピアは一部熱狂的なファンからの目線で、心底怯えた表情をしている。それがたまらないファンは列こそ乱れてはいるが、ネピアへの視線は一直線であった。
「ロリフターズは旧市街で結成された、魔法少女ジュニアアイドルグループです。精霊の国出身の双子の姉エルモア、妹のネピアが初期メンバーになります。ですが今回、マネージャーであるタロ・ズーキは掘り起こしました。人間として精霊の国の大地を踏み、彼女をこのアドリード王国へ誘致しました。ではどうぞ! 優良個体エルフであるクリネックス!!!」
『『『『『 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!!? 』』』』』
クリちゃんは怒声とも思える歓声に一度怯んだが、予想以上の反響に嬉しくなったのか、笑顔でペコペコしながら壇上へとやってきた。幼体に興味がなかったレジスタンスの面々は全て、成体クリネックスの列へと並び始める。
(予想以上だな…… これなら…… ふふっ……)
そしていつの間にか、エルモアの列に並んでいるシャーロットさん。彼女は宣誓通り、ロリフターズ全てにお祈りをかけて貰う気らしい。律儀に並んでいる所に好感が持てる。
「アイドルには触れちゃ駄目だよ~ はいはいもっと下がって~」
ビリビリした魔法十手を振りかざし、クリちゃんに近づこうとした野郎共を牽制するエルフ耳を付けたラヴ姉さん。口元には手拭いをして顔を隠し、髪型もポニーテール然としたスポーティーなラヴ姉さんから、髪を下ろしツーサイドアップにして印象を変えていた。そして前掛けには「精霊降臨」、腕章には「偶像警備」と書かれいている。
『マネージャーさん!? その娘は!?』
「あ~ この娘は警備担当だから、お祈りはないんだ」
『で、でも!?』
「ごめんね! お仕事中なんだ!(ビリィィィィ!)」
『はい! 分かりましたぁ!』
見た目はエルフであるが、人間であるラヴ姉さんにも群がろうとする。やはり警備担当にして正解だ。ラヴ姉さんの見た目と愛嬌なら、ファンが生まれる可能性は大いにあった。だが、クリちゃんに群がろうとする野郎共を押さえ込む為にもラヴ姉さんは必要だった。そして喜々としてその役割を果たしている。(ブンブン!)