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第160話  アドリード王国を救おう! その8



「甘~い!(すんすん!)」

「甘いね」

「甘いわね」

「ラヴが興奮するのも頷けるよ」


 何かを引きずるような、そして転がすような音が近くなってくる。ネピア達が出している魔法の明かりにその人物が触れた時、俺はその人の名を呼んだ。


「ジムナーカスさん!」


 彼は旧市街でフルーツ屋をしている店主だった。そのフルーツを載せた小ぶりな台車を転がしながら、片手でぶちのめしたであろう、兵士を引きずっていた。


「こんな所で奇遇だね。ここにはお客様も少ないから、フルーツでもどうだい?」

「フルーツは心を穏やかにさせてくれるんでしたね。頂きます。おいくらですか?」

「代金は既に頂いているよ。だけど私の分も残してくれると嬉しいかな」


 フルーツの山盛りに群がる女性陣達。聖夜はミニスイカを頬張りながら俺に質問してきた。


「お知り合いっすか?」

「あぁ。アドリアで贔屓にしているフルーツ屋さんだ」

「聖夜っす。よろっす」

「ジムナーカスです。これからもご贔屓に」


(この人、見た目は凄い穏やかな感じだったけど、強かったのか……)


「けど、おっちゃんが戦えるなんて知らなかったわ」

「ははは。フルーツのお陰で穏やかになったからね」

「おいしいです!」

「ありがとう。フルーツも喜んでいるよ」

「私もフルーツには目がありませんが、本当に美味しいですね」

「これはこれは、シャーロット王女様よりお褒めに預かれれば幸いです」

「騒乱が済んだら、また頂いても?」

「旧市街へ来て下されば、いつでも」

「分かりました。楽しみにしています」


 それからジムナーカスさんは倒れている兵士を並べて、楽しそうに頷いていた。


「う~ん。起きたらまた運動に付き合ってもらおうかな」

「おっちゃんなら一瞬でしょ。けど、そんな力を私たちに気がつかせないなんて、やるわね」

「本当です! ジムナーカスさんは凄いお人ですね!」

「ははは。これでも昔は混人不可の単独人生として生きていたんだけどね」

「なんすか? こんじんって?」

「人と一緒に住めないって事だよ」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


(ヤバい人だったか……)


「ある時ね、ザンを倒しアンに向かっていった……」

「「「「「 !? 」」」」」

「え…… ザンさんをですか?」

「まぁ奇襲というか闇討ちだったけどね」

「「「「「 …… 」」」」」

「それでアンにも同じように向かっていったんだけど……」

「「「「「 …… 」」」」」

「まぁ、そこでフルーツに出逢った訳さ」

「え~ 話してくんないの~?」

「私も気になります……」

「ははは。負けた事なかったからね。そこで全力で闇討ちして全力でシバかれたよ」

「流石ね…… アン様は……」

「アン様に逢ってみたい……」

「もう口の中ズタズタなのにフルーツを喰わせるんだ。喰えないって思ったんだけど、食べたら心が穏やかになってね」

「それでフルーツ屋さんを?」

「そういう事だね」


 壮絶な過去を淡々と喋るジムナーカスさん。ジムナーカスさんはここを一人で死守するようにと、アン様に言われたらしい。


「ザンの使いが君たちをよろしく頼むって言っていたから、逢えるの楽しみにしていたよ」


 嬉しそうに話すジムナーカスさん。俺たちはここでフルーツと共にウメさんがくれた、おにぎりと漬物を食べた。遅めの昼食を食べきった所で、一旦の別れを告げる。


「ここの死守をよろしくお願いいたします」

「任せて。慌てず行きなさい」


 甘い甘いフルーツを食べた女性陣はジムナーカスさんにいつまでも手を振っていた。そして俺たちは旧市街へと洞窟の中を歩いて行く。


「それにしてもザンさんを倒していたなんて……」

「勝つ為に手段を選ばない様はとても素敵です!」


(エルモアが汚れていく……)


「あ~ お腹いっぱい~ もう布団で寝たい~」

「もう少しでしょ。着いたら前夜祭だから寝てたらもったいないかもよラヴ姉?」

「!? そうだった!? あ~ 飲みたい~」

「ふふっ ラヴさんも素敵ですね」

「「「「「 !? 」」」」」

「あ、あのシャーロットさんはそういった……?」

「?」

「ラヴが…… 取られちゃう……」

「「「「「 !? 」」」」」


(やっぱクリちゃんは素質アリか……)


 アホな考えをしていると、目の前に階段が見えて来た。この階段をジムナーカスさんはフルーツの売り場ごと降りてきたのだろう。


(担いで余裕に降りそうだな……)


 階段を上がっていくと、屋根裏部屋へ続く天板ような扉があった。それを開けようとすると、いつも通りネピアがやって来る。


「待って! 待って! 私開けたい!」

「んぁ? いいぜ」

「あんがと!」


 ネピアは天井の扉に手を押し当てている。もうそろそろ開いてもいいような力加減になるが全く開こうとはしない。俺はこれからの展開を考えるのは止めた。何せ一度も俺の想像通りになっていないから。


(どうせネピアがとち狂って突進して終わりさ)

「こんのぉ~ 開きやがれぇ~」

(アホだなぁ…… 引き戸だったらウケるな……)

「こんのぉーーーエルフをなめんじゃないわよぉーーーーーー!!!!!!」


 いつも通り、とち狂ったネピアは一度下がり勢いをつけようとする。だが、その時に扉の向こうから声がかかった。


「……もしかしてネピアちゃんかい?」

「んあ? 誰?」

「宿屋のおじさんだよ」

「あーーー!? 漫画大事にしてるおっちゃん!?」

「そうそう。今開けるね」


 扉が開かれると、洞窟の中に光が差す。ネピアを先頭に順々に這い出していく。


「あ~ おっちゃん久しぶり! 漫画ある?」

「勿論あるよ。ただ、港がヤベーゼに支配されてるから、新刊は無しだね。まぁどっちにしても、中々手に入らないけどね」

「あ~い」

「おお、ネピアちゃんの兄ちゃん…… じゃなくて……面妖な出で立ちの…… え~と」

「社会派紳士です」


 初めての挨拶の時と同じように、社会派紳士のところのイントネーションを強めにして、紛うことなき紳士であることを強調する。


「王都奪還作戦のサポートをしているんだ。泊まる所がなければ、用意するよ」

「ありがとうございます。まずはレジスタンスのまとめ役などとお話がしたいですね」

「分かった。好きな部屋で待っていてくれ」

「はい。じゃあネピアがいつも使っていた場所で」


 そんな挨拶をして、皆でネピアのいる部屋に向かう。扉を開けると四畳半ほどの部屋で、落ち着いた色のラグにクッションが四つほど置かれていたのは変わらず。肝心の漫画は覚えている限り増えてはいない。


「落ち着いた場所ですね。ネピアさん? 何を読んでいらっしゃるのですか?」

「ん? 漫画」

「漫画…… ですか……?」

「まぁ、とりあえず読んでみなさい」

「そうですね」


(凄い真剣に読み始めた…… ネピアの新しい仲間が出来たか……?)


「漫画なんてこっちの世界にもあったんすね~」

「そうか聖夜は知らなかったのか。俺も結局は読めなかったんだけど、ネピアの実家には尋常じゃないくらい漫画があるらしいぞ」

「へぇ~ なんかいいっすね~ 同じような文化があると安心するっすね~ 大分、こっちの世界に馴染んできたとは思うっすけど」


 シャーロットさんは読まないかと思っていたのだが、声を掛けても届かなそうに集中していた。残りの面子も同じように漫画を手に取り各々、楽な姿勢で読みふけっていた。明日、王都奪還作戦が行われるとは思えない程に、漫画喫茶な状態でレジスタンスのリーダー達と顔を見せる事になる。











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