第159話 アドリード王国を救おう! その7
途中何回かトロッコの漕ぎ手を変わり、手慣れてきた頃、進んでいたレールが大地に埋もれていた。
「どうやらここから歩いて行くようだな」
「場所分かるんすか?」
「なんとなくな」
洞窟があろう場所へ向かって歩こうとする。だがそれをエルモアに止められた。
「洞窟へ向かうんですよねタロさん」
「そうだ」
「確かにそちらの方にいくつか、洞窟らしき穴はありそうなんですが、旧市街まで繋がっている事を考えると、あちらの方だと思います。かすかに風が抜けてきてます」
「そうね。姉さんの言う通りだわ。精霊もそう言ってる」
「パイセン頼りないっすね~」
「ぷっ」
「ズーキくん! 方向音痴!」
「誰しも間違いはあるよラヴ?」
「そうですね。私も数多くの間違いをしてきました。結果皆様のお手を煩わせる事になっています」
(クリちゃんとシャーロットさんは女神…… そしてエルモアも女神……)
実際エルモアが示した道を歩いて行くと、草木に隠れるようにして穴が左右に広がっていた。入り口の高さは低いモノの、中に入ってしまえば、奥に抜けるに従って広くなっていく。
「光照らすよ~」
「広いから私も出すね」
「これくらいなら私も出来るから…… えいっ!」
ネピアの言葉と同時に洞窟内が明るくなった。さらにエルモアの援護、そしてクリちゃんが魔法を使ったのは初めて見た。
「すごいっすね~ 綺麗っすよ~」
「そう?」
「便利ですね。精霊の国では皆が魔法使えるんでしょうか? 私も王女として魔法学を学びましたが、光っても一瞬ですね。このように連続しては使用できません」
「……私はあまり使えません。どころか、下から数えた方が早いレベル。うぅ」
「クリっち人間疑惑!」
「エルフです……」
「パネーゼなんか人間でも空間転移出来るほどの技量を持っていた。その者が持つ資質なんだろうな魔法も」
「クリっち資質少なめ!」
「うぅ……」
(まぁ俺なんて何も出来ないけどな…… 魔法も戦闘も…… ふふっ……)
これから王都奪還作戦など行うのであろうかと思う程に、和気藹々とした雰囲気で洞窟を進む。無論に洞窟内は暗いが、エルフ三匹娘の魔法の明かりと、俺たちの気分で払拭していた。
「旧市街まで何もないといいね!」
「……」
「……」
「……」
ラヴ姉さんの一言にロリフターズと社会派紳士は危惧した。エンカウントするスイッチがラヴ姉さんの一言で入ってしまったのではないかと。
だが、ラヴ姉さんは持ち前の鋭さで、それを感知していたのかもしれない。エルモアとネピアも険しい表情となる。
「(敵がいるかエルモア?)」
「(擬態魔法でしょうか…… 姿も気配も感覚としては薄く感じますが、匂いに動きがあります……)」
「(擬態魔法?)」
「(周りに溶け込んで姿を消します)」
「(距離は……?)」
「(まだあるわね。左右から漂ってきてるわ)」
「(よし。もし相手が左右に展開していて姿形が分からないなら、エルモアとネピアでぶっ飛ばしてくれ。ネピアは魔法を使ってもいいが、洞窟が崩れるような状況は勿論避けたい)」
「(サー!)」
「(ふふふ…… 洞窟でぶっ放すのは初めてね……)」
ネピアに俺の言葉が届いているのか疑問だったが、前に進んでいく。さりげなくクリちゃんラヴ姉さんにも魔法具を出してもらい、聖夜と俺もいつでも抜けるようにしていた。
やがて中央が広くなる場所が見えてくる。待ち伏せするならここだろう。
「(いるわね……)」
「(左右にいます……)」
「(相手の動きがあった時点で攻撃。もしくは無くても匂いを追って殲滅。俺たちは基本シャーロットさんを守ろう)」
「(サー!)」
「(ふふふ)」
「(借金ないラヴ姉さんは最強!)」
「(魔法クロスレンチちゃんの堅さを示しますよ~)」
「(戦闘好きっすね~ エルフの皆さんは~)」
「(私はどうしたらいいでしょうか?)」
「(シャーロットさんは顔を見られないように気をつけて下さい)」
「(申し訳ありません)」
俺たちは進む。罠に向かって。だが、見えない奴らは攻撃してこなかった。いや、してきた所でエルモアとネピアの餌食になっていただけだ。広くなっていた辺りの中心点に差し掛かった時に、ネピアが右方向に電撃魔法球をぶっ放す。
「痺れるといいわっ!!!!!」
『ぐわぁーーー!?』
相手が慌てた瞬間を見逃さず、姿の見えない相手に向かって、匂いを手繰り突進するエルモア。
『ぐおっ!?』
『なんで俺たちが見える!?』
音もなく瞬殺を敢行するエルモア。だが最後の一人が声を振り絞り叫んだ。
『伝令ーーー!? 敵が来たっ ぐぅ!!!!』
最後の一人が倒れた後、俺たちが進む方向から僅かに走る音が聞こえてきた。
「マズいぞ!? 敵に侵攻を悟られてはいけない! 追うぞ!」
「かなりの速度で逃げています!」
「もしかすると魔法で脚力をアップしてるかも!?」
「間に合わないかもしれません!」
「なんとしても間に合わせるぞ! 先行して……」
『うわーーー!? ぐぅ!?』
すると伝令を受け持った兵士の絶叫が洞窟内を木霊する。静かになった洞窟で耳を澄ますロリフターズ。
「なんだ? どうなった?」
「逃げていった匂いは動かなくなりました…… そして……」
「……随分とまぁ危なっかしい殺気がこっちに向かっているわ」
「マジっすか!?」
「けどネッピー? もう殺気は消えたんじゃない?」
「あれ……? ホントだ……」
「けど、いい匂いするね! 甘~い(すんすん!)」
(殺気……? 甘い匂い……? なんだ……?)
「確かに、いい匂いがこの先から漂ってます」
「あ~ お腹空いたわね~」
「食べよう! ウメっちから貰ったおにぎり食べよう!」
「とりあえず前の方を確認しないとね。ラヴ?」
「うん! けど、いい匂~い(すんすん!)」
前方に注意を割いてはいたが、後方にも注意を払いながら、こちらへ向かってくる正体不明の相手を探る。
「何か引いてますね……」
「武器かしら……」
「……敵でないと信じたいな」
「ねぇねぇ!」
「なんでしょうか? ラヴ姉さん?」
「さっきの所に一旦戻ろ? 魔法具あったら拾おうよ!」
「そうね。敵か味方か分からないから、使える魔法具は拾っておきましょうか」
迫り来る相手から後退し、左右に広がりがある所へ足早に戻る。姿を現した兵士であろう者達は、正規のアドリア兵士ではない格好だった。近くに落ちていたコーヒー缶のような入れ物に目を向けると、ネピアが首を振る。
「駄目ね。魔源が抜けきっているわ」
「そうか。けど、こんなのが大量生産されていたら、戦闘にも影響するな……」
「多分大丈夫ですよズーキさん」
「そうなのクリちゃん?」
「これには膨大な魔源が入れられています。擬態は魔源の消費量が激しく時間も限定的。この量の魔源を使用するなら、攻撃に転化した方がバツグンに効率がいいです。だよねネッピー?」
「そういう事よ。実際魔法士が作製したアイテムは、実際の効力より弱くなるの。費用対効果も悪いし、アドリアのような結界で守られている場所では、さらに効力も低い。明るい場所では擬態に気づきやすいし。デメリットが多いから、こういった薄暗い場所で使用するぐらいしかないと思うわ」
「それに結構分かるよね」
「エルちゃんなら古代の完全擬態を、凄腕の魔法士が使用しても普通に対応出来ると思う……」
「心配しなくて大丈夫よ。アドリード王国では分からないけど、精霊の国では子供のお遊びみたいなものよ、かくれんぼとかね。それに明らかな違和感があるから」
「違和感っすか? 自分には分からなかったっす」
「だって姿も気配も薄く感じるのに、匂いだけは漂ってくるんだもの。それで精霊が騒ぎ出すし……」
「俺には分かりそうにないな……」
「匂いはバッチシ! ラヴ姉さん! お役に立てます!」
「まぁ今の所は置いておきなさい。それより目の前の相手よ……」
何かを引きずるようにして、こちらへ向かってくる存在。無事に旧市街へ着けると高をくくっていた、俺に対する嫌がらせだろうか。