第158話 アドリード王国を救おう! その6
俺たちは睡眠を貪っていた。あれから皆と合流し、エルモア帰還記念パーティーとして宴にも気合いが入ってしまう。結果として誰も起きる事無く、ヨヘイじいさんが忘却の村へ朝戻るまで熟睡していた。
「起きろ。お前さん」
「ん…… あ……」
「随分と飲んだようだな」
「あ、あれ…… ヨヘイ……さん?」
「顔でも洗ってこい。そうしたら出発するぞ。お前さんの家族も起こしたらいい」
家族という言葉にピンとこなかったが、それはエルモアとネピアの事だろう。あの時はまだ奴隷で、鉄の首輪と鎖を付けていたロリフターズ。先の事など全く分からないまま、奴隷解放申請をする為に王都アドリアへ向かった。ヨヘイさんはそれから一回も逢っていないので、俺の状況など知らないだろう。
ヨヘイさんに促されるまま皆を起こし、顔を洗う、周りを見ると、数十人の山賊のような紺野さんの仲間以外は、出発していた。
(あぁ…… 明日には王都攻略作戦だってのに、ザンさんにも紺野さんにも挨拶出来なかったな……)
「ヨヘイじいちゃん久しぶり~」
「お久しぶりですヨヘイさん」
「久しいな。おぉ。首輪と鎖は取れたか」
「ウメさんも喜んでくれたよ」
「なんだか懐かしいです」
「積もる話もあるだろう。見せたいモノがある。それにアドリアに向かう別ルートもそっちだから、行きながら説明する」
「は~い」
「はい」
そのまま皆で向かおうとすると、ウメさんが風呂敷を持ってこちらまでやって来た。
「おにぎり作ったからみんなで食べてね。昨日喜んでくれたから漬物も入れたわ」
「ウメさんありがと! 美味しく頂くわ!」
「ありがとうございます! 漬物楽しみです!」
「また落ち着いたらいらっしゃいね」
「絶対来るよ!」
「今度は私の漬物も持ってきます!」
これから戦いに行くのだが、そんな事は微塵にも感じさせずウメさんとロリフターズの別れは済む。また出逢えると当たり前に信じて、俺たちはヨヘイさんと一緒に歩き始めた。
「あ!?」
「どうしたのネピア?」
「漬物……」
「漬物? (ガサゴソ) ウメさんがくれた風呂敷にいっぱい入ってるよ? おにぎりと一緒に」
「違うのよ姉さん。姉さんの言葉で思い出したんだけど、ギルディアンに置きっぱなしじゃない…… あぁ……」
「あ……(ガクっ)」
「……」
「……」
うな垂れたロリフターズ。漬物がどうなっているかは分からないが、こう付け加えた。
「ギルディアンのスラムを出る前に、バルバートさんに手紙送ったんだ。一応、俺たちの荷物は回収してくれてると思う」
「そうですか…… でも、ぬかをかき回してくれていますでしょうか?」
「……それは分からないな。けど、ベルギィはエルモアが漬物食べさせてから、凄い気に入ってたよな。もしかしたら、代わりにぬかをかき回してくれているかもしれん」
「ベルギィに期待するわ……」
「ベルギィさん…… 我が娘達をお願いします……」
(糠漬けが、娘か…… まぁ手間かけてやっていたからな……)
糠漬けへの希望をベルギィに託すロリフターズ。多少気落ちしたものの、いつかまた出逢える糠漬けの思いを胸に秘めて歩き続けていた。忘却の村から一時間も歩かないうちにヨヘイさんが作業していた目的の場所へ着く。
「ここだ」
「レールが引いてありますね」
「遙か昔、王都を作る為にここから石などの資源を運んでいた。今はもう使われていないがこの手押しトロッコで、アドリア旧市街へ抜けられる洞窟への入り口近くまで行ける」
「楽しそ~! 早く~! 早く乗ろ~!」
「まだまだ私もアドリード王国の事を知れていませんね」
「致し方ありませんシャーロット王女様。太古の遺物ですので」
早速ラヴ姉さんが乗り込み、手押しトロッコで行ったり来たりはしゃいでいる。それに乗っかる我が社会派紳士ご一行。俺もそのトロッコに乗ろうとした所でヨヘイさんに声を掛けられる。
「少しいいか?」
「はい」
皆にここで待っていてもらうよう伝える。ヨヘイさんが歩き始めたのは、アドリアはと向かう方向とは逆の森だった。レールが隠れてしまうほどに生い茂っている木々。
「こちらに何か?」
「そうだ。ここは木々が生い茂ってはいるが、実のところレールに被さっている部分は偽装されている」
「偽装?」
「見れば全てがわかる」
そうして偽装された木々を抜けて存在していたのは、俺の予想を遙かに超えるモノが鎮座していた。それはレール二線をまたいで作られている尋常ではない大きさの列車砲であった。
「こ、これは……」
「RAILWAY GUN 通称TYPEーRだ」
「だ、だから俺が荷車TYPEーSをヨヘイさんから紹介された時に、TYPEーRもありそうですねって言ったら態度が豹変したんですね……」
「そういう事じゃ。何せ王都に何かあった時の秘密兵器だからな。それをいきなり現れた者に言い当てられたら、勘ぐりもする」
「た、確かに」
「こいつは一人では動かせん。だが十分に動かせる人員が今はいる。明日の正午以降に宮殿裏にある秘密の港辺りをこれで破壊し撃ち続ける。ギルディアンから来る傭兵どもを、たんまり乗せた船は陸に付ける事は出来んだろう」
「ですが、通常の港へ迂回されてしまうんじゃないんですか?」
「そっちは大丈夫だ。キャプテンガイの率いる隊が、港を守っている。それに一部のアドリア沿岸兵士が傭兵共を気に入ってなくてな。移動放題も設置済みだ」
「じゃあ海からは大丈夫そうですかね」
「まぁ撃つのは初めてだがな」
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満足したヨヘイさんと偽装された森から帰ると、息を切らせたラヴ姉さんが、草むらで大の字になっていた。
「……もう手が動かない」
「はしゃぎすぎですよ……」
(けど確かに疲れそうなトロッコだな……)
「お前さんにこれを渡しておく。彩煙弾だ。お前たちが明日の正午、王城の正門を無事に抜けたら青色、進入出来ないが、戦闘状態を継続出来るなら黄色。失敗なら赤色だ」
「分かりました」
「ザンの陽動部隊もこれを所持している。彩煙弾の状況によって作戦を変更しろ」
「はい」
「気をつけてな。また忘却の村で飲もう」
「はい!」
森へと歩き始めるヨヘイさん。俺たちはあまり大きくないトロッコに皆乗車する。手押しの部分は真ん中に支点があり、両端をシーソーのように上げ下げする事で前進する。俺と聖夜でも良かったのだが、ロリフターズがやる気だった為、任せる事にした。クリちゃんはトロッコに興味津々なのか、目を輝かせていた。
「レールが二線ありますから、レースとかしたら面白そうですね~」
「技術屋の血が騒ぐ?」
「騒ぎますね~ ダウンヒルも面白かったですけど、こういった進む道が決まってるレースもいいかもしれませんね~」
クリちゃんは煌びやかな金色の髪を、シャーロットさんと同じようになびかせながら未来を語る。一方ロリフターズも肩口辺りまである髪を、一定のリズムでなびかせる。ラヴ姉さんのように一気に力を使う事なく、悠然たる速度で先へと進んでいく。
「エルモアさんとネピアさんは息がピッタリっすね~ 流石は姉妹っす!」
「照れるわね……」
「自慢の妹ですから」
「姉さん……」
「ネピア……」
(トロッコを動かしていなかったら、抱き合うシーンだな……)
「どの位で着くんですか? ズーキさん?」
「通常ルートをヒポに荷車引かせて半日くらいだったから、この速度なら半分以下だろうな。それに途中から洞窟を歩く事になるから、数時間くらいで洞窟までいけるんじゃないか?」
「あたしもう動きたくないよ~」
「それまでに回復してねラヴ?」
「は~い」
「借金なくなったから身軽でしょ? ラヴ姉さん?」
「そうだ! 身軽! 未来!」
「あはは。頑張ればさらにご褒美かもだよ?」
「王都奪還した暁には、十分な謝礼をいたします」
「イヤッホーーー!!!!!!」
ラヴ姉さんの未来ある雄叫びと共に、我らがラヴトロッコはレールの上を快調に進んでいった。