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第156話  アドリード王国を救おう! その4



「アドリアにある港ではなく、宮殿の裏山を下った辺りに非公式の港がある。もちろん俺たちの使える港ではない。どうやらヤベーゼが、ギルディアンから大量の傭兵を到着させる手はずになっていると情報を得た」

「……堂々としていないですね。アドリアの港に入港させればいいと思うんですが」

「王都は今現在混乱している。何せ王女様がいなくなったんだからな。ヤベーゼには付きたくないが、シャーロット王女もいない。てんやわんやの状態だ」

「ヤベーゼは王になったとは言え、あまり無茶は出来ないって事ですか?」

「どうだろうな。何か考えがあるのかもしれないが、俺たちは逆にその状況を突く。ヤベーゼが秘密裏に戦争の準備を始めるのであれば、俺たちもそうするだけだ。だからこそ今、忘却の村に必要な人手がいる事を察知される前に行動を起こしたい」


 どうやら、即応部隊となって動く事になりそうな話具合であった。それも近日中。


「いつ頃にギルディアンから傭兵達はやってくるんですか?」

「海の状況にもよるが、数日といった所だろう。それまでに叩く」

「……酒なんて飲んでいていいんですか?」

「飲ませないで皆を働かせるつもりか?」


 シャーロット王女は自身の国の行く末がかかっている為、俺たちの話をしっかりと聞いている。だが、ラヴ姉さんを含む残りの面子は既に酒浸りの状況になっていた。紺野さんの仲間達もだ。ただ一人、大童貞様である紺野さんだけはザンさんの話を少し離れた所で聞いていた。


「飲ませた方が良く動きそうですね……」

「だろう?」

「って事は……」

「明日王都アドリアに向けて進軍する」

「……最後の晩餐って訳ですか?」

「前夜祭だな。勝利の」


(とりあえず情報を聞くか……)


「分かりました。忘却の村にどれ程、人員を割くんですか?」

「そうだな。あの男の仲間…… 二十人~三十人くらいはここに残す。残りは陽動してもらう事になるだろう」

「陽動?」

「そうだ。王都へ向かう通常のルートであえて進軍させる。その間にお前達は別ルートからアドリア旧市街へ帰還する。そして仲間と合流し正面から攻める」

「正面からですか? 陽動がそんなに効くとは思えないんですが……」

「一気に話したが、陽動はお前達が無事にアドリアに戻る為だけだ。何せシャーロット王女様も連れて行くからな」

「よろしくお願いいたします」

「えっ!? シャーロットさんも連れていくんですか!?」

「勝ち鬨に王女様がいないのは話しにならんだろう」

「ま、まぁ、そうですけど」

「反ヤベーゼ派の腰を上げる為にも必要になる。どうかお許し下さいシャーロット王女様」

「構いません。苦労をかけますね、ザン」

「確かに、レジスタンス側としても気合いが入りますしね」

「そういう事だ」


(だが、シャーロットさんを連れて歩くとなると隠密性は何よりも重要になるな……)


「実際、別ルートの安全性はいかほどに?」

「宮殿の奴らは知らない、王都近くにある洞窟を旧市街へ繋げた。後はヤベーゼが感づいていないと信じるだけだな」

「陽動が上手くいく事を願いますよ…… まぁザンさんもいるし大丈夫ですかね」

「俺は行かんぞ」

「えっ!?」

「お前たちだけで十分だろう」

「で、ですが……」

「陽動の確率を上げる為に、俺が率いていく。それと、戦国せんごくから来たアイツもな」


 嬉しそうに顎で紺野さんを差すザンさん。紺野さんは黙って頷いていた。


「紺野さんもですか!?」

「そりゃそうだろ。アイツの仲間を引き連れていくんだ。まとめ役はいた方がいい」

「……確かにザンさんと紺野さんが、山賊然とした仲間を率いていたら、目立ちますね」

「そうだろ。ある程度、アドリアの兵士を引き寄せたら俺たちも撤退する」

「旧市街に着いたらどうしたらいいですか?」

「その日は士気向上に努めてくれ」

「……また前夜祭ですか」

「時間が必要なんだ。二十人~三十人いれば明日中には用意出来るだろうからな」

「この忘却の村で何をするつもりなんですか?」

「言ったろう? ヨヘイさんが話してくれると」


 そのヨヘイさんは相変わらずいない。ザンさんの話によると、ここから離れた所で作業中との事であった。


「分かりました。明日ヨヘイさんから聞きますよ。それで無事に旧市街に到着して前夜祭をやりますよね? 次の日からどうしますか?」

「攻める」

「……いつ頃ですか?」

「そうだな。こないだと同じ正午にしよう。お前はそれでアドリアから、上手く脱出出来たからな」

「前夜祭の後ですし、お昼くらいの方がいいかも知れませんね。けど、そんな適当でいいんですか?」

「勝てばいいんだ」


(そりゃそうだ)


「正門から攻めるんですよね?」

「そうだな。正門からにしてくれ。別口から俺たちが侵入。そして中で合流する。後はみんな仲良く宮殿に向かうって寸法だ」

「そんな上手くいきますかね。あの門を抜けなくちゃいけないんですよね? どうやって門を超えればいいんですか?」

「ん? 好きにしろ」

「えっ!? 何も案はないんですか!?」

「お前に好き勝手させた方が多分上手くいく。別口は任しておけ」

「なら一緒に正門から抜けた方がいいんじゃないんですか?」

「先ほど言った通り、王都は未だ混乱している。混乱に混乱を重ねれば混沌となるだろう。もし王都奪還作戦が不発に終わっても、傷跡は大きいほどいい。特に精神的な部分はな」

「……随分と弱気ですね。ザンさんっぽくないですよ」

「ヤベーゼは王として兵士を操れる。だが兵士もヤベーゼについていきたいとは思っていないだろう。王都アドリアを思う兵士を無駄に倒したくない。上手く混乱を扇動出来れば、剣を納める兵士もいるだろう。だが、宮殿奥には間違いなくパネーゼがいる」

「!?」


(そうだ…… アイツの事を忘れていた……)


「ヤベーゼと違い、生粋の魔法士だ。舐めてかかるとマズい。それにパネーゼ親衛隊なるものの存在が確認されている。詳細は不明だがな」

「……」

「どうした?」

「実は……」


 ザンさんにパネーゼに出逢っていた事を告げる。既にパネーゼにしてやられた事も。


「そうだったか……」

「はい……」

「お前達には悪いが吉報だな」

「吉報……ですか?」

「そうだ。今頃パネーゼはシャーロット王女様が、戦国せんごくから出られなくなっていると思っているからな。目の前にシャーロット王女様が現れれば、動揺の一つもするだろうよ」

「……油断は出来ませんがね」

「その通りだ。だが一泡吹かしている状況は良い気分だ」

「士気向上の努めに預かり光栄です」


(だが、本当に油断ならない。アイツをどうやって倒すのか……)


「心配するな。アンもいるからな」

「確かにアン様がいれば大丈夫な気がしてきました……」


 むしろアン様お一人で王都奪還出来るんじゃないかと考える。だが最強女将であるアン様にもお考えがあるのだろう。そう勝手に解釈し、俺は話をまとめていった。











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