第154話 アドリード王国を救おう! その2
「エルモア~ エルモア~ エルモア~」
次元の彼方に吹き飛ばされてしまった時と同じように、俺はエルモアを探していた。しかし叫んだりはせず、肺から出る空気を自然に出すように、同じ事を譫言のように呟く。
「エルモア~ エルモア~ エルモア~」
ぐるぐるぐるぐると回る。そういう風にインプットされたプログラムを、律儀にこなすロボットのように動き回る。
「タロー……」
そしてプログラムにバグが発生したように、別の行動をし始める自分。探していない、川の中まで入っていった所でネピアに止められた。
「ちょっと!? どこに行くの!?」
「エルモア~ エルモア~ エルモア~」
「ズーキさん…… うぅ…… エルちゃん……」
手と足を前に動かしながら、そのまま引きずられて座らさせる。
「エルモア~ エルモア~ エルモア~」
そう声を出し続ける事で、俺は精神を保っていた。ずっと押さえ続けられた俺は、座りながら同じように呟いていく。
「ネッピー…… どうしよう……」
「……」
一度離れたネピアが、俺の横に立っていた。
「あんた!? しっかりしなさい! 姉さんにこんな情けない姿を見せ続けるつもりなの!?」
「あぁ…… エルモア…… あぁ……」
「姉さ~ん!!! 私は絶対に諦めないからっ!!! 絶対に最強最高の魔法士になって姉さんを連れ戻すんだからっ!!!」
「あ…… ネピ……ア……」
「こんなんで諦めないわっ!!! 上等じゃないのっ!!! やったろうじゃない!!! 世界を改変したって!!! 女王様に喧嘩売ったって!!! 姉さんを救ってみせるわ!!!」
「ネ……ピア……」
「いいこと!? だから、あんたもシャキッとしなさい!!! 今から根性注入してやるから!!! 歯を喰いしばれーーーー!!!!!!!!!!!」
その瞬間。後頭部に衝撃が走る。その衝撃を受け止めれなかった俺は顔面を地面に強打した。
(あぁ…… 痛ぇ…… けど…… ネピアだって痛いんだ…… なんでそんな簡単な事に…… 気がつかなかったんだ……?)
ネピアの根性注入で、ネピアの気持ちも注入された。いつまでも突っ伏している訳にもいかない。早々に顔をあげる。だが俺はそこで信じられないモノを見た。頭がおかしくなって幻でも見ているのかと、何回も瞬きした。
「すいませんタロさん。どうやらタロさんの真上から戻ってきたみたいです。大丈夫ですか?」
「あ……」
「痛かったですか?」
「あ……」
「大丈夫ですか?」
「え……」
「ちょっと待って下さい。今、治療魔法を……」
「エルモアーーー!?」
「わっ!?」
俺は、目の前にいるエルモアを力の限り抱きしめた。二度と離さないくらいの気概を持ってキツく抱きしめる。
「エルモア!? エルモア!? エルモアーーー!!!」
「はい」
「よかった…… よかった…… 本当によかった…… うぅ……」
「はい……」
たまらず大泣きする社会派紳士。これ程に涙したのはいつ以来だろうか。いつも子供の時は泣いていただろうか。でも、そんな事はどうでも良かった。エルモアが生きて俺の目の前にいる。エルモアの暖かい体温が俺にしっかりと伝わってくる。
「よがっだぁ…… ほ、ほんどうにぃ…… う゛ぅ゛……」
「泣き虫さんなのは、治りませんでしたね」
何を言っているのかは聞こえたが、何故そんな事を言うのかは分からなかった。俺はエルモアの前で泣いただろうか。異世界で出逢ってから、今の今までを思いだそうとするが、上手くいかない。昂ぶった感情が俺の脳を鈍らす。
「姉さん…… 本当に…… よかった……」
「心配かけちゃったね。ごめんねネピア」
「ううん。いいの。戻ってきてくれたから、それでいいの」
「エルちゃん!? 身体は大丈夫!?」
「大丈夫。問題ないよ」
「ふぅ~ 流石に心配したさ~ でももう安心だね!」
「ラヴさん。皆さんも無事ですか?」
「あぁ。これで全員無事だエルモアちゃん」
「そっすよ! これでフルメンバーっす!!!」
「女王様…… ありがとうございます……」
「あっ!!!」
「どうしたのネピア?」
「……女王様に喧嘩売っちゃった」
「そうなんだ。凄いねネピア。自慢の妹だよ」
「そ、そう?」
「アドリード王国の王女…… 元ではありますが、女王様…… どうかお許し下さい…… 全てはエルモアさんを救いたいが為だったのです…… どうか、寛大なお心を……」
「あっ!? いいのよシャーロット! 私の為にそんな事を言わなくても!」
「いえ。大事なお姉さんを失ってからの、ネピアさんの行動は素晴らしいものでした。女王様も見ていた筈です」
「あ、ありがと…… でも…… はぁ…… 謝っておくか…… あ~ 聞こえますか~ あ~ 私ネピアは~ もう喧嘩する必要もなくなりましたので~」
「そんな感じでいいの? ネッピー?」
「壺には入れないで下さいっ!!!!!!」
「あ~ すっごく伝わったと思うさ~ ネピっちの気持ち~」
「「「「「 あはははははは 」」」」」
それからは代わる代わるエルモアを中心として皆が話す。俺はそれを聞きながらも、エルモアを離す事はなかった。
「あの~? タロさん?」
「離さない」
「はぁ」
「絶対に離さない」
「じゃあそれでもいいですよ」
「「「「「 !? 」」」」」
「(どう思う!? ラヴ!?)」
「(あ~ これは芽生えちゃったね~ 純愛!!!)」
「(やっぱそうだよね!? 離れ離れになったズーキさんとエルちゃんは、苦難を乗り越え結ばれる事に!?)」
「(異種姦! 純愛! 最高!)」
「(エルちゃん! ズーキさん! おめでとう!)」
「……離れなさい」
「嫌だ」
「離れろっていってんでしょ!? 私の大事な姉さんに抱きつかないで!!!」
「ふん。俺も大事だ」
「「「「「 !? 」」」」」
「(どう思う!? ラヴ!?)」
「(あ~ これは完全芽生えちゃったね~ 純愛コースまっしぐら!!!)」
「(だよね!? だよね!? あ~ 素晴らしい展開!?)」
「いいから離れろってんでしょーーー!?」
「あっ!?」
無理矢理エルモアと引き離される俺。その怒りをネピアにぶつける。
「あっ!? コラぁ!? なに引き離してんだ!? オラぁ!?」
「はっ! あんなに女々しい姿を見せておきながら、この粋がりよう? やめてくれる? あんたは川にでも入って、その腐った根性を流してきたらいいわ!」
「はぁ~? 緊張の連続で漏らしちまったネピア嬢こそ、そこの川で身を清めた方がよろしいんじゃありませんかね? この社会派紳士がそう具申いたしますぞ?」
「……」
「……」
「……決着は死以外ないと心得よ」
「……望むところだ」
「あの~ これからの事を決めませんか?」
「「……はい」」
それから紺野さんにこの場所の事を伝え、近くにある忘却の村と呼ばれる所まで、皆で移動する事になった。
「あ~ まさか、またここに戻って来るとは思わなかったな~」
「懐かしいですね」
「そうね~」
「「 ね~ 」」
上半身を傾けながら、嬉しそうに姉妹揃って同じ行動を取る、エルモアとネピア。ネピアとは先ほどやりあったが、それを踏まえても微笑ましい状況だった。
「ウメさん元気かな~」
「そうね~ 逢いたかったから、なんだか楽しみね~」
「「 ね~ 」」
(はぁ~ 癒やされるぅ~ エルモアかわいい~)
絶対に手放してなるものかと、心に決めた社会派紳士。これからはエルモアと一緒にずっと行動していこうと誓う。もうあんな思いはしたくない。なら、これからのアドリード王国奪還作戦も気合いを入れていかなくてはならない。
何せあのパネーゼの転移魔法を喰らって、戦いの国へ戻される訳にはいかない。俺は一人、エルモアを思いながらも、奪還作戦の知恵を絞り始めるのであった。