第151話 生存しよう! その7
「防御結界っ!!!!!」
光の柱が俺たちを突き刺す前に、ネピアの防御結界が大きく展開する。両手を目の前に出して、相手の攻撃を耐え続けている。
「防ぎきれるかネピア!?」
「今んところは…… 大丈夫ね…… クリちゃん!」
「ネッピー行くよ!」
クリちゃんはネピアの後ろに付くと、同じように両手を前に出す。違う所は、その両手がネピアの肩に触れている所だ。
(そうか! クリちゃんは魔源の保有量が優れているって言っていたもんな!)
『どれ…… もう少し魔力を増やしてみよう。ふん!!!』
「ぐっ!!?」
「ネピア! 私も防御結界張るね!」
「お、お願い姉さん」
ネピアの真横でエルモアも両手を前に出し防御結界を張る。クリちゃんは片手をエルモアの肩にのせる。
「エルっち! ネピっち! クリっち! 大丈夫なの~!?」
「姉さんがいるから、さっきより余裕が出来たわ」
「けど、このままって訳にいかないね……」
「そうね…… どうにかしてアイツの魔法を止めないと……」
『ほう。まだ耐えるか。なら少し本気を出していこう…… ふんっ!!!!!』
「ぐっ!? ま…… マズいわ…… このままだと…… 押し切られる……」
「じょ、徐々に…… 押されて……」
「エルちゃん! ネッピー! 私の魔源も限りがあるよ!?」
「マズ~いよ!? あの光の柱に犯されちゃう!?」
「パイセン!? ヤバいっすか!? マジでヤバいっすか!?」
「どうする!? どうすっる!? どうすっる!?」
考えても考えても焦るばかり。何せ魔法士と戦えるスキルは俺たちにはない。この防御結界を抜けて、よしんば攻撃出来たとしても跳ね返されてしまうだろう。
(マジでヤバい! どうすんだよ!? 何が出来るんだ俺!?)
目の前で苦悶の表情を浮かべながら、防御結界を張るネピアとエルモア。そして同じように苦しそうにしているクリちゃん。彼女達の役に何も立てない。己の無力さと、これから起こるであろう人生の終焉に悲観した。
『さぁ…… 死ぬのは一瞬だ…… 光にまみれて死ね!!!』
すると紺野さんがネピアとエルモアの前に立つ。紺野さんは防御結界ギリギリの場所に突っ立っている。
「紺!? 危ないから下がりなさい!?」
「紺さん! 危ないです!」
「ネピアちゃん。エルモアちゃん。クリネックスちゃん。後、数十秒だけ堪えてくれ」
「「「 えっ!? 」」」
「私は自分の過去を肯定する。そして全てを背負いこの技に賭ける!!!」
(なっ!? 紺野さんの身体の周りに「気」が尋常じゃないくらい溢れ出ているっ!?)
その気迫と膨大な「気」を見て力が入ったネピアとエルモアは、互いに目を合わせて頷いていた。
「なんだか分からないけどっ!? やっちゃえ紺!!!」
「紺さん!? 耐えきってみせます!」
「私の魔源は全部あげるよっ!!!」
紺野さんは深呼吸した後に腰を落とす。両手を右腰の付近に構え唸りだした。
「 ア~ 」
(え……?)
「 ル~ 」
(ま、まさか……?)
「 バ~ 」
(ほ、ホントに……?)
「 イ~ 」
(そんな掛け声で……?)
「 トーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
紺野さんから溢れ出ていた「気」が強大なエネルギー波となって防御結界から突き抜けていく。魔法士が放っていた光の柱に打ち勝って前にみるみる進んでいく。
『なっ!? なんだこの強大な反応はっ!?』
「おぉーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
紺野さんが雄叫びを強くすると、エネルギー波の勢いは比例して増す。そしてその強大なる「気」のエネルギー波は、相手の魔法士ごと飲み込んでいった。
『こ、この私がぁーーー!!!!? ぐぁーーーーーーーー!!!!!!!!?』
強烈なエネルギー波が辺りを焼き尽くすと、膝をつきながら倒れる紺野さん。慌てて近寄ろうとするエルモアとネピアも倒れる。その瞬間クリちゃんはよろめきながらもエルモアとネピアを抱え込んでいた。
「紺ちゃんスッゴい!? なにあれ!? やりたい!」
「……なんとかなったようだ。ふぅ」
「大パイセン! すげーっすよ!? マジ半端ないっす!」
「「「「「 大童貞! 大童貞! 大・童・貞!!! 」」」」」
(その掛け声もどうかと思いますが、どっちもどっちだな……)
勝利を褒め称え合う勝ち組な瞬間。紺野さんが立っていた所から、遙か彼方までブスブスと焦げ付いた臭いと煙が辺りを舞っていた。
勝利に酔った俺たちは紺野さんのエネルギー波と、ネピア、エルモアの防御結界。そしてクリちゃんの魔源を皆で褒め称えていた。
紺野さんが放ったエネルギー波の通り道を皆で歩く。まさに観光気分でその一直線である軌道を散歩する。
「紺ちゃん大丈夫?」
「あぁ。気の放大量出で抜け殻のようだが、気分は悪くない」
「参ったわよ。アンタの攻撃には私も勝てる気がしないわ」
「私もです! 凄いお力です!」
「私の魔源全て放出しても無理そうだね~」
(あのネピアが素直に認める程に強烈だったのは確かだ。紺野さんがいなかったら俺たちはあの光の柱に飲み込まれていた)
「さっきの魔法士はどうなったの~?」
「完全に消えたでしょ。あの強大なエネルギーに立ち向かえる生き物はいないわね」
「蒸発して消滅ですね」
「苦しむ間はあったのかな~」
何の気なしに魔法士がいたであろう場所に辿り着く。跡形もなく消え去っていた。残っているのはエネルギー波の通った後に残る、焦げと煙。だが俺は慢心していたのだ、脅威に向かって前進しているとも知らずに。
「タロさん危ない!!!!!」
「ぐっ!!?」
エルモアからの突然の当て身に吹っ飛ばされると、俺が元いた場所にいるエルモアに黒い黒い禍々しい球がエルモアを飲み込んだ。
「エルモアーーーーーーー!!!!!!!?」
黒い球に飲み込まれたエルモアは、そのまま黒い球が収束して無くなるのと一緒に消えていった。
「エルモア!? エルモア!? エルモアーーーーー!!!!!!!?」
半狂乱になってエルモアの事を叫ぶ。だがエルモアからの返答はない。代わりに聞こえてきたのは、煙の向こうから現れた、身体の右半分がゴッソリ持っていかれている敵の魔法士だった。
『ふふっ ははっ はーーーっはっはっはっ!!! 最後の力を振り絞って次元の彼方に吹き飛ばしてやったわ!!!』
「てめぇ!!? エルモアを元に戻せ!!? ぶっ殺してやる!!!!」
『我とて元に戻せる術は知らなんだ…… 今頃は時空の狭間で消滅している筈だ…… 運が良くても今頃は肉体ですら、その世界で展開することも出来ず精神すら不安定な状況だろう…… そして僅かな時間で消滅する…… くくっ…… この私を見くびるからこういった事になるのだ…… 馬鹿共め…… 一矢報いてやったわ…… うっ……』
そのまま前のめりに倒れる魔法士。そしてそのまま息絶えてしまった。