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第149話  生存しよう! その5



 ラヴ姉さんの優しさから生まれたフォークダンスは今も続いている。人数こそ減ったものの、未だにたき火の前で女性達と踊る紺野さんの仲間たち。

 あれから随分時間が経ったので、俺たち社会派紳士ご一行様は既に観客に戻り、追加の酒を胃に落とし込んでいる。


「楽しかったね! 紺ちゃん!」

「あぁ。こんなに心躍ったのはいつ以来だろうか。本当にありがとうラヴちゃん。みんなも一緒に踊ってくれて助かった。流石に恥ずかしくてな」

「いえいえ。純粋さに触れた者であれば誰しもそうなるもの。こちらこそ身を清める思いでした」

「身長が低いのが悔やまれるわ……」

「確かに紺野さんとエルちゃんネッピーは踊りにくそうだったね」

「それもまた一興です」

「姉さんはプラス思考ね~」

「ね~」

「「ね~」」

「あたしも~」

「「「 ね~ 」」」

「じゃあ私も!」

「「「「 ね~ 」」」」

「ふふっ 仲がよろしいんですね。うらやましいです」

「ホントっすね~」

「ね~」

「えっ!? 俺もやるんすか!? 王女さん?」

「せっかくですから……」

「「 ね~ 」」


(なんだか凄い寂しいです)


一人輪に入るタイミングを完全にずらし、夜風に吹かれながら心も冷やす。手に持った酒を慰みに飲んでいると、例の不審者なじいさんが声を掛けてきた。


「ちょっといいかの?」

「じいさんも寂しくなったか?」

「ワシはいつも寂しいわい」

「……それはそれは」

「勇雄と聖夜も呼んでくれるかの」


 じいさんの言葉に素直に従うのは癪に障ったが、何かしらの情報が手に入ると思い、仕方なく行動してやった。

 紺野さんと聖夜を呼んだ後、皆から離れるようにじいさんが歩き出す。宴の喧噪が聞こえないほどの距離でもなかったが、確実に輪から離れた計三匹プラス不審者。


「で? 何だよじいさん? 謝罪なら別の方法で受け入れてやる」

「……最後になるやかもしれん。少し耳に入れておこうかと思っての」

「そっすか。何か大事な話なんすか?」

「明日の戦いが、今までとは違う状態になるのは分かるじゃろ? 勇雄よ?」

「あぁ。とびっきりの魔法士がこちらにいるからな」

「ワシはお前達だけに肩入れするわけにもいかん。だが一生懸命に自分を変えようとした勇雄には一つ申しておきたくての」

「……」

「今の自分は好きかな?」

「あぁ。生まれ変わったようだ。戦う事が私の使命だったのかもしれない」

「そうじゃろ。だが過去は消えん」

「……」

「お主は今も後悔しておる。元の世界での生活に。そしてそれを振り払うように、命を賭して戦ってきた。それは褒められるものじゃ。じゃが、全て捨ててしまう必要もない。元の世界の生活や考えもしっかり背負っていけた時…… 勇雄は新たな力を得るじゃろう」

「……」

「勇雄については以上じゃ。戻って皆と時間を漫喫してくれい」

「……世話になった。ありがとう」

「お主が体験してきた今までの人生は無駄ではない。今一度、思い返してみるのじゃ」

「あぁ」


 紺野さんは難しい表情をしながら、皆のいる陣へと戻っていく。残されるは二匹。


「次は聖夜じゃ」

「はいっす」

「聖夜は本当に優しき心を持っているの。スラムでの貢献は聞き及んでおる」

「照れるっす。ただ親父が住職だったもんで、それで寺子屋みたいのやってみようかと思っただけっすよ」

「聖夜よ。十分な人間性を持っているとは思うのじゃが、一つ足りてないものがあるの」

「いっぱいあるっすよ。一つじゃないと思うっす」

「なら怒りに対して恐れてはならん。聖夜が怒りを自分のモノに出来た時、聖夜が救おうとしている者達を救えるじゃろう」

「あ~ あんま怒んないっすからね~」

「しかしじゃ。スラムの状況を見た時には己の力不足を実感したじゃろう」

「はいっす。でも暴力はあまり好きじゃないっすから勉強を教えていたっすけど」

「いつか、その嫌いな暴力で大切な者を失う前に、怒りに慣れておくのも一興じゃの」

「はいっす。そっすね。目の前で何かあったらコントロール出来なくなるかもしれないっす。ありがとうっす」

「素直なのはいい事じゃ。時間を取らせたの」

「じゃあみんなの所に戻るっすよ。パイセン先に行ってるっす」


 紺野さんと同じように、去り際は硬い表情をしていた。いつも優しい笑顔でいる聖夜の印象が強かった為に違和感を覚える。


「おい。じいさん」

「なんじゃ?」

「明日死ぬかもしれないってのに、俺たちの気持ちを揺さぶるのかよ」

「明日死ぬかもしれないからこそ、出来る事はやっておいた方がいいと思うんじゃがの」

「まぁいいよ。で? 俺にはなんだ?」

「お主も頑張ったの」

「……明日死ぬかもしれんがな」

「そうじゃの」


(フォロー無しかよ。じいさんは当てにならないか…… はぁ……)


「予約していくいかの?」

「……」

「何迷っておるのじゃ。どうしようもないクズじゃの」

「……」

「……冗談じゃ」


(ちっ。ここで予約出来れば皆に見つからず出来たのに…… あぁ…… 綺麗な身のまま死んでしまうのか…… うぅ……)


「ま、まぁいい。明日勝って女王様から褒美を頂く時に…… ぬふっ」

「死んでしまったら褒美も受け取る事は出来ないの」

「また気落ちさせる発言かよ……」

「確かに褒美として何かを願う事は出来るのじゃ。じゃがそれは生き残った者達全てではない。たった一人じゃ。しかも死んだ者を生き返らせる事は叶わん」

「……」

「生きている者に全て望みがある。じゃが叶えられる者は一人だけじゃ。死なないように、そして失わぬ事を願っているぞよ」

「……そうだな。ちょっとばかり気楽に考えていたかもしれない。よし! 後悔しないように生きてみるわ」

「そうじゃ。その勢いを忘れてはいかん。そして諦めてもならん。頑張るのじゃよ」

「あぁ。ありがとな。じいさん」

「……もう出逢う事もないじゃろう。じゃがお主を見ているものはいる。それを忘れてはならんのじゃよ」

「あぁ。じいさん。世話になったな。バイト頑張ってな」

「おぉそうじゃそうじゃ。また人気嬢の予約待ちをしている者がいたんじゃ」


(マジで俺も予約したい……)


 そんな俺の考えを見据えていたのか、足早にこの場所から去るじいさん。紺野さんと聖夜と同じように、俺も難しい顔をしているのだろうか。


(誰も失いたくないな……)


 実際戦闘になってみたいと分からない事も多い。だがネピアの魔法。エルモアの身体的能力。ラヴ姉さんの息の根を止めようとする時の気迫。クリちゃんの魔源マナジーの多さ。どれをとっても引けを取るとは思いたくない。


(むしろ俺が死なないようにしないとな……)


 そんな事を考えつつ、誰かが死ぬのであれば、俺だけにしてもらいたいもんだと、自身の命の事を軽く考えていた。












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