第147話 生存しよう! その3
「一体どういう事なんだよじいさん?」
「どうもこうもないわい。デリバリードライバーのバイト中じゃ。それよりどうかの? 箱車は大きいに限らんか?」
「このトヨタ・コースターもあのハイエースのようにキャンバストップに改造してんのか?」
「いや。営業車じゃからの。フルノーマルじゃ」
「じいちゃんなんでも運転出来るんすね!」
「ふぉっふぉっふぉっ」
「ふぉっふぉっふぉっ……じゃねーよ!? 色々苦労したんだからな!? え!? オラぁ!?」
「お主は相変わらずじゃの~ 後で時間作るから待ってるのじゃ」
「……逃げる気じゃないだろうな?」
「嬢をお求めになるお客様からの料金徴収じゃの」
そのまま運転席から降りたじいさんは、嬢と一緒になって男共に何か交渉していた。すると状況を見ていたエルモア達がこぞってこちらにやってくる。
「なにあれ?」
「大きな馬車だと思ってくれればいい。馬がいなくても走る」
「あの方は知り合いですか?」
「残念ながら」
「でも、すご~いね~ なにこれ~ 大きい~」
「こんな物アドリード王国で見た事ありません……」
「技術屋の血が騒ぎますね…… ふふっ」
(クリちゃんがニヤニヤしてる…… それもかわいい)
「で?」
「俺が聞きたい状況だ」
「そうなんですか?」
「そうなんです」
「鈴木君。ちょっと皆にいいかな」
「はい。紺野さん」
「私は紺野勇雄だ。あれが来たと言う事は、明日の正午から戦闘になる。記念すべき十回目の戦だ。これに勝利すると女王様から褒美が貰えると聞いている」
「ふ~ん。どんな褒美よ?」
「分からない」
「分からない?」
「誰も十回勝利した事がないからだ」
「今まで誰もいないんですか?」
「いや。私達以外の事は分からない」
「ね~ どんな風に戦うの~?」
「ほぼ肉弾戦だった。特にルールもない。作戦も無いに等しい」
「ほぼ?」
「たまに魔法を使ってくる相手もいたが、基本は物理攻撃だな」
(こっちには魔法士がいるから、ちょっとは優位になるか?)
実際の戦闘時の状況を紺野さんが皆に話す。だが当初の話通り、力と力のぶつかり合い。身を隠すような場所もなく、平野で戦闘を行うとの事であった。
「まっ 私が魔法でぶっ飛ばしてあげるから安心しなさい」
「君は魔法士か」
「そうよ」
「なら明日は相手に魔法士がいるだろうな」
「そうなんですか紺野さん?」
「多分な。私たちは元々は千人近くいた。正しく合戦のようでもあった」
「「「「「千人!?」」」」」
「繰り返し戦闘する事で仲間は死に絶え、今はこの人数になっている」
「ぱないっすね~ 大パイセンは~」
「そして相手も同じように人数が減っていった」
「同じ相手なんですか?」
「違う。なぜなら相手を全て倒して終了となるからだ。生き残るか全滅かどちらかだ」
(マジかよ…… 紺野さんは俺と聖夜より壮絶な体験をしてきたんだな……)
昔の仲間を思うような遠い目をして話す紺野さん。鍛え上げられた筋肉がたき火の明かりに照らされる。
「君たちの話は聞いた。明日勝利する事が出来れば、叶う望みかもしれない。ただ……」
「ただ?」
「今までの戦闘も相手との戦力バランスが取れていた。どっちが勝ってもおかしくない状況もあった。だから……」
「油断するなって事?」
「そうだ。それに君は魔法士として優れていそうだ。となると明日の敵も同じように優れた魔法士がいると見るべきだな」
「そっ。お褒めにあずかり光栄だわ」
「頼もしいな。皆も改めてよろしく頼む」
「ネピアよ」
「エルモアです」
「あたしラヴ!」
「クリネックスです」
「シャーロットです。女王様のご加護を」
すると、どこからともなくやって来た紺野さんの仲間達が、俺たちに酒を手渡してくる。既に酒を飲んでいるのか嬉しそうだった。
「聞いたとは思うが明日が戦闘だ。思い残す事はない方がいい」
「ありがとうございます」
「清酒ある!?」
「あるぞ。持ってくるから待ってろ」
「テキーラありますか!?」
「テキーラか…… ちょっと待ってろ。いろんな酒持ってきてやるよ」
「サー!」
(思い残す事はない方がいいか…… そうだよな…… 明日死ぬかもしれないんだ…… そうやって今残っている人たちは生きてきたんだ)
重そうな木箱を軽々しく持ち上げて向かってくる山賊のような者達。だが心根は優しい者ばかりだった。
「ほらよ」
「あんがと!」
「サー!」
「嬢ちゃん達も明日戦うのか? まぁ戦わなくても俺たちが負ければ殺されるからな。そんときゃ戦った方がいいぞ」
「任せなさい。最強最高の魔法士ネピア様が殲滅してあげるわ」
「おぉ。魔法士か。なら明日は魔法士に気をつけないとな。他にも魔法士はいるか?」
「私は肉体言語の方が得意ですが、魔法士でもあります」
「ほぉ。そいつは楽しみだな。名前は?」
「エルモアです」
「じゃあエルモアちゃん。テキーラで乾杯だな」
「「乾杯!!(クイッ)」」
「他には魔法士はいるか?」
「クリネックスといいます。私も魔法士の端くれですが、ネッピーのように魔法を使える訳じゃありません。魔源をいっぱい持っているというだけです」
「そうか。兵站は重要だからな。まぁ明日死ぬ身かもしれん。飲めるだけ飲んで悔いは残すなよ」
(そうだな俺たちも飲むか)
「男共は今のうちに遊んでいた方がいいぞ。嬢ちゃん達には悪いが、爺さんが商売で女の子いっぱい連れてきたからな。早くしないと予約で埋まっちまうぞ?」
「分かりました!」
「パイセンは好きっすね~」
そう言うと、紺野さんに一礼して仲間の元へ戻っていった。随分と紺野さんに礼儀を尽くしていたが恩でもあるのだろうか。その後ろ姿から視線を皆へ戻すと一匹のエルフに不審がられた目で見られる。
「……楽しそうじゃない」
「酒が飲めるからな……」
「予約するんですかタロさん?」
「いえ」
「しないんですか?」
「ぃぇ」
「どっちなんですか?」
「……すいません」
「はぁ」
「でも緊張するっすね~ 試合はいっぱいしたっすけど、命を賭けた戦いなんて初めてっすよ」
「気負う必要はない。百人規模ならすぐに片がつく」
「そんなもんすか? 大パイセン?」
「私はこの肉体のみで戦うが、ほとんどの者達は斬り合いだ。防具もまともな物がないし斬りつけられた者は死ぬ」
「……そうっすよね」
「大丈夫よ聖夜。私がぶっ飛ばしてやるから」
「そうですよ。私も頑張りますから」
「そんな事言われたら頑張るしかないっすね」
「そうそう! 明日の事は明日! 飲もう!」
「そうだな。ラヴ姉さんの言う通りだ。だけど飲み過ぎるなよ? 二日酔いで戦闘なんて目も当てられない」
「は~い!」
だが夜が更けると共に酒の量が増えていくのはいつもの有様でもあった。
大変お待たせ致しました。本日より外伝を挟み最終章5章の最後まで、毎日複数話投稿します。異世界ロリフターズを支えて下さった皆様と、最終話の後書きでお逢い出来るのを楽しみにしています。