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第142話  スラムに行こう! その5



「ンゴォ!? フゴォ!? ンゴォーーーー!?」


 暴れ牛ならぬ暴れ魔法馬まほうば。一足先にヒポを新しいねぐらへと誘導し約束を果たす。港に寄って荷車TYPEーSを引いてきた為に時間はかかった。俺がここまで引き連れて行く間もヒポは挙動不審だったが、今はまさに猛獣のよう。興奮を覚えてしまったヒポは後戻り出来ない。


「大事に使ってくれて…… 換えは無いだろうからな……」


 猛獣もとい淫獣になったヒポは、俺に目をくれる事も無く魔法馬まほうば向けエロ本を読みふけっている。器用に足を使いページをめくる姿は微笑ましいものであった。眺め続けのも無粋だったのでホテルへと戻る。


(ふふっ 俺が初めての時もそうだったな……)


 夕方までにホテルを引き渡さないとならないので、彼女達を起し引っ越しの準備を始める。バルバートさんや、アウロたちには申し訳ないが、彼らには別の場所で休んでもらうように伝えてあった。


 引っ越し作業を終えた頃には夕暮れを迎えていた。暖かいどころか熱い日中と比べて格段に気温の下がるギルディアン。夜を迎える前、一足先に社会派紳士ご一行はスラムへと向かう。


「これから子供達とお遊びですね」

「なんだか仕事の事も考えずゆっくり出来るのはいいな」

「そうね~ でもここでどんな仕事しようかしら?」

「あたし酒場で働く!」

「私はどうしようかな~ 珍しい家具があったから家具職人にでもなろうかな~」


(確かにネピアの言う通りだ。金が無ければ生活も出来ない。このギルディアンでどうやって生活をしていくか……)


「考え事ですかタロさん?」

「どうやって金稼ごうかなってさ」

「ランスに聞いてみたら?」

「そうか。そうした方が良さそうだな」

「ランスさんは今どうしてるのですか?」

「あ~ こないだのレースのブックメーカーを捕まえに行ってるんだけど音沙汰なしだな」

「なら聖夜っちに斡旋してもらうのは?」

「そうか…… 今日逢ったら聞いて…… (ハッ!?)」


(聖夜はキャバクラのボーイ…… なら俺は風俗店の研修担当員になれるはずだ…… ふふっ…… ハハッ……)


「よ、よし、逢ったらみんなの仕事を斡旋して貰えるように…… なんだ……?」

「……なんだか騒がしいわね」

「……結構な人数の足音です」


 通りの先にある曲がり角から不穏な音が聞こえ始める。逃亡者と言えば逃亡者な俺たちは皆で顔を見合わせて頷いた。裏通りへ抜けられる小さな路地へ身を隠し、状況を確認する。


「おい!? いたか!?」

「こっちにはいません!」

「発見出来れば御の字だが、今のところ情報もないからな…… 地道にいくしかないだろう」

「ですが既にこの町にいないのでは?」

「他の街には別の捜索隊が早馬で向かっている。俺たちの役目はこの町だけだ」

「了解しました!」


 大勢の兵士達がギルディアンが首都、カーサ・ダブルオーを駆け巡る。これがこの国の兵士であればさほど気に止めなかったのだが、兵士の身なりはアドリード王国のものであった。


「(おい。どういう事だ?)」

「(私達を追ってきたんでしょうか?)」

「(それにしては大掛かり過ぎない? 兵士を連れてきたって事はギルディアンと戦争でもおっぱじめる気かしら?)」

「(精霊の国へ一度向かった俺たちは、時間を消費している。俺たちの捜索隊なら俺たちが港に入った時点で拿捕されていてもおかしくないか……)」

「(確かに…… 私達がここに来る前に、現地入り出来る時間の余裕はありますしね)」

「(久々にこいつの出番かいな? シャキン!)」


 路地裏で魔法十手を得意げに振るラヴ姉さん。身を潜めている間に話し合うが、向こうと同じように俺たちも情報がなかった。


「よし。まずは聖夜と合流だ。スラムの人間が何か知っているかもしれない」

「はい」

「そうね。あの慌てようじゃ、今さっき船着き場に着きましたって感じね」

「随分慌ててたもんね~」

「あ~ 早くビリビリさせたい~ (ブンブン! シャキン! ビリィィィィィ!!!)」


(既にビリビリしてますし、めっちゃ明るいよラヴ姉さん?)


 あまり土地勘もないカーサ・ダブルオーではあったが、向かう先は分かっているので、遠回りになりながらも裏道を抜けて待ち合わせのスラムへと急ぐ。集合場所に近づくと仙人のような爺ちゃんの周りに子供達が群がっていた。


「あーーー!? こないだの変態だぁーーー!!!」


 一際大きい声を上げたのは俺の金を盗んだ子供の一人だった。今日はフードをせず女の子である事も確認出来た。


「変態ではありません。社会派紳士です」

「みんな!? みんな!? 気をつけて!? 犯されるよ!?」


 俺を中心として、子供達が逃げ怯えている。小さい子は突然の事に泣き出していた。


「……凄い人気じゃないあんた」

「……」

「大丈夫だよ。お姉ちゃん達はみんなと遊びにきたの。ね?」

「ほんと?」

「ほんとだよ。じゃあいっぱい遊ぼうか」

「うん!」


 エルモアは聖幼人様ホーリーローリーのスキルを発動し、エルモアを中心とした子供達の群れが出来た。それに加わるラヴ姉さんとクリちゃん。


「ネピアは行かないのか?」

「見張りが必要でしょ」

「誰の?」

「あんた」

「……守ってくれるのか?」

「あんたから子供達をね」

「俺が見張られてるの?」

「うん」

「……ヒドくね?」


 心ないネピアの言葉に傷つく。すると仙人のような爺ちゃんがこちらへやってきて、一礼した。合わせて俺もネピアも一礼する。


「聖夜から聞いておるよ」

「これはこれは。お初にお目にかかります。社会派紳士のタロ・ズーキです」

「私はネピアよ」

「まぁもてなせぬがゆっくりしていってくれ」

「はい。あのお師匠さんでよろしいですか?」

「構わん」

「何か街が騒がしいようですが……」

「聖夜が今、確認に行ってもう少しで戻ってくるはずじゃ」

「聖夜が? 分かりました」


 挨拶が終わると爺ちゃんは近くに腰掛けて、子供達を暖かい目で見守っていた。すると何人かのスラムの子供達が恐る恐る近くにやってきて、ネピアに手招きしていた。


「あに?」

「ネピア姉ちゃん遊ぼ!」

「あい」

「わ~!」

「ちょ、ちょっと。引っ張らないで。あ~ も~ 分かったから~」

「早く~! 早く~!」


 いつの間にか師匠さんと同じように地面に腰掛けて、事の成り行きを見守っていた。もしかすると師匠さんと同じように暖かい目をしているのかもしれない。


(エルモアはまさしく聖修道女グッドシスターだな。布にくるまれた赤ちゃんを抱いていた)


 そのエルモアといい勝負をしているのはクリちゃん。まだまだ小さい子供を聖母のようにあやす様は美しい。子供達とかけっこしているラヴ姉さんは元気な子供達に好かれている。そして一番驚いたのがネピア。何故かやたら子供達に好かれている。特定の子供達というよりか、全体的に好かれているようにも見えた。


(まぁ子供達からしてみれば、お漏らし仲間って認識なのかもな……)


「パイセンお待たせしたっす。お師匠もおつっす」

「聖夜」

「大丈夫じゃったか?」

「はいっす。でもいずれスラムまで捜索されそうな感じっすね」

「……そうか。その旦那に詳しく話してやってくれ。ワシらだけではどうする事も出来んだろう」

「分かったっす」

「どういう事だ聖夜?」


 俺の横に座る聖夜。初めて会った時は幼く感じたものの、今は俺よりしっかりした面構えと言える。一度聖夜はスラムの子供達を見る。その後、意を決したように俺の顔をしっかりと見据えながら事の顛末を話し始めた。











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