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第140話  スラムに行こう! その3



「んで」

「……」

「何をコソコソ話してたの?」

「……ナニも」

「……何もかにも怪しすぎるわ」

「男同士にはそういった事が希にあるのさ」

「「「「 !? 」」」」

「(もしかして……)」

「(密会! 絶対! 合体!)」

「(そ、そうかぁ~ やっぱ感動の再会の後だもんね~)」

「(ネピア? 私気になってるから、さっき教えてくれなかった事しっかり教えてね)」

「(……誰にも教えないわ)」

「(って事はネッピーやっぱ知ってるって事だぁ!)」

「(ち、違っ!?)」

「(ネピア? さぁ行くよ。真実の泉へ……)」

「(おぉ~ エルモアっちがやる気~)」

「(珍しいね。エルちゃんが…… こ、こういう事に興味持つなんて……)」

「(私にも知らない事が世の中には沢山ある…… 情報が無いというのは後手を踏むという事……)」

「(真理!)」


(置いてけぼりな感…… 男一匹は寂しいよぉ…… 聖夜ぁ……)


 あまりにも放っておかれたので、聖夜が部屋を手配してくれた事を皆に説明する。二本の鍵を見せながらだ。


「優しいですね」

「あぁ。聖夜はしっかりしてるよ」

「はぁ~ なんでこんなに差があるのかしらね~? え?」

「……」

「でも本当に優しいですよね。スラムの子供達に勉強を教えているなんて」

「そうだな。俺たちに出来る事は、聖夜が言った通り子供達と明日から一緒になって遊んでやる事だ」

「うん! ラヴ姉さん! ここぞとばかりに頑張っちゃう!」

「それでどこにあるのよ?」

「どうやらこっちの方みたいだ……」

「あっちじゃなくてこっち?」

「……そのようだ」

「……もう分かったわ。あんたが何を話していたか」


 ネピアが勘ぐるのは今に始まった事ではない。ただ、今回ばかりは致し方ない状況とも言える。片方の道は明かりこそあれ落ち着いている。だがもう片方の道には煌びやかで妖艶な色をした店が、至る所に並んでいたからだった。風俗街。


「こ、これは…… ズーキさん……? 私達を……?」

「クリちゃん? 違うよ? 全然違うよ?」

「で、ですが……」

「……淫獣」

「……淫獣は本当に止めて下さいませんかネピア嬢?」

「ここで嬢は止めて……」

「ならお前が先に止めろ。漏れやすい尿と一緒にな」

「そう。なら止めてあげるわよ…… あんたの息の根をね……」

「……」

「……」

「……ふん。平行線のようだな」

「……そのようね」


 俺とネピアは互いに距離を取る。相手から視線を外さないように横へとジリジリ移動する。先に動くか、それとも相手の出方を見るか。だがその選択肢を選ぶ事なく、この件は終了する。


「あの…… 部屋を見に行きませんか?」

「「 はい 」」


 その風俗街を突っ切った先に大きな建物があった。作りはしっかりしていて、妖艶な色も見た目もない。どちらかというと綺麗な佇まいでもあった。


「え…… こんな所にタダで泊まれるの?」

「この建物自体ではないらしい。敷地内にある倉庫代わりの部屋だ」

「まぁ…… 屋根裏部屋よりかはマシでしょ…… でもちょっと楽しみね~ どんなんだろ~」

「屋根裏部屋でもいいですね」

「俺も結構気に入ってたよエルモア」

「なんだか懐かしいですね」

「とりあえず行ってみようよ~」

「待って~ ラヴ~」


 建物の入り口から裏手を目指す。庭も手入れされていて汚らしい感じは一切しない。だが俺たちの部屋は倉庫だ。あまり期待はしない方がいいだろう。そんな事を思っていると、裏庭にあたる部分に二階建ての倉庫が見えてくる。綺麗ではないが汚くもない。


「……見た感じは大丈夫そうだな。とりあえず扉開けて入るか」

「待って! 待って! 私開けたい!」

「んぁ? いいぜ」

「あんがと!」


 ネピアは倉庫の扉に手を押し当てている。もうそろそろ開いてもいいような力加減になるが全く開こうとはしない。俺はこれからの展開を考えた。



 一つ。開けた瞬間に大量の埃がネピアに襲いかかり蹂躙される。

 一つ。開けた瞬間に大量の蟲がネピアに襲いかかり蹂躙される。

 一つ。開けた瞬間に大量の鼠がネピアに襲いかかり蹂躙される。



(屋根裏部屋と同じパターンだな…… さて……)


 俺はこれからの展開に対して絶対安全防衛ラインを制定し、エルモン、クリちゃん、ラヴ姉さんを手で押さえて状況を見守る事にした。


「こんのぉ~ 開きやがれぇ~」

(正直蟲は勘弁して欲しい)

「こんのぉーーーエルフをなめんじゃないわよぉーーーーーー!!!!!!」


 とち狂ったネピアは一度下がり勢いをつけて肩の辺りで扉に体当たりした。そのまま倉庫内へと消えてゆく。


「おわっーーーっ ぎゃふっ!」


(今回もギャフンは聞けなかったか…… いつか聞けるのだろうか……)


「ネピア!」

「ネッピー!」

「あ~ 勢い付けすぎたね~」

「……これで性格が治ればな」

「ん? 何かいったん?」

「いえ」


 甲斐甲斐しく世話するエルモアを想像し、それが現実となっている様を倉庫内で確認する。今回はクリちゃん付きだ。ラヴ姉さんは俺と一緒になって倉庫内を見ている。


「ちっとホコリっぽいけど、大丈夫そう」

「そうだな」

「でも荷物多いね~」

「全くだ」


 荷物に突っ込んだネピアをほじくり返したのか、それとも元々そういった状態で置かれていたのかは分からないが、倉庫内は足の踏み場もないくらい物に満ちあふれていた。


「どこにあるん? 部屋?」

「二階の端っこの二つだってさ」

「へぇ~ そう言えば鍵二つあったね!」


 階段は存在した。だが階段にも荷物が置かれていて、荷物が階段のように鎮座している。この様子だと二階も荷物満載だろう。


「あぁ~ 頭いたぃ~ 肩も痛ぃ~ あぁ~」

「まだ痛い? じゃあもうちょっとするね」

「あぁ~ 効くねぇ~ エルモアのは効くねぇ~」


(これは魔法を受けてみないと分からないが、ネピアがおっさん臭くなるのも頷ける程の効能がある。気持ちいいのだ)


「凄い荷物ですね」

「まぁ…… タダだしな…… ネピア大丈夫か?」

「……あぃ」

「じゃあ行くぞ」


 屈むようにして階段を上りきった後に見えてきたのは一本の廊下だった。思いの外二階には荷物が置かれておらず閑散としていた。試しに手前側の扉に手を掛けてみるが扉は開かない。


「二階は荷物ないね!」

「二階まで持ってくのが面倒だったのかしらね」

「そうだろうな」

「この部屋ですか?」

「いや、奥の二つだそうだ。行こう」

「二つ…… 二つ……」

「どうしたクリちゃん?」

「あ、いえ…… 部屋割りは……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


(クリちゃんと二人きりも悪くないが…… 現実的に考えると、俺が一人部屋だろうな…… それも久しぶりにいいな……)


「あたしクリちゃんと一緒がいい!」

「じゃあラヴと一緒だね~」

「私もそっちにいくわ」

「ならタロさんと一緒にします」

「「「「 !? 」」」」

「だ、駄目よ姉さん!? 淫獣と二人っきりなんて!?」

「じゃあ私がそっちにいくね。ネピアはタロさんと一緒」

「い、嫌……」

「じゃあタロさんは私と一緒の部屋で」

「はい」

「だ、駄目よ姉さん!?」

「じゃあどっちにするの?」

「……」

「ネピア?」


 埒があかなそうな雰囲気でもあったのと、なし崩し的にエルモアと一緒の部屋になれると考え提案する。


「とりあえず開けるぞ」

「……そうね」

「そうしましょう」

「楽しみ~」

「ベットあるかな~」

「あるといいね~!」

「「 ね~ 」」


 和やかなラヴクリ嬢を横目に見ながら扉の鍵穴に鍵を差し込む。だが扉を開けるまで気が付かなかったのだ。やたら二つの扉同士が近かった事を。そして格安どころか無料で泊まれるという事に意識を向けていなかった事。俺たち五匹は扉の向こうの状況を見て理解する。











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