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第139話  スラムに行こう! その2



 挨拶と一通り済ませたロリフターズご一行は、聖夜にスラムに来た理由を伝えた。自由な商人のランスから預かった、百万クイーンをスラムの師匠に渡したいと、かいつまんで説明する。先ほどの盗人のガキは、エルモアとネピアから解放された瞬間、俺に一蹴り入れフードをかぶりながら走り去ってしまった。


「あのクソガキ…… 社会派紳士として後でしっかり罰を与えてやるからな…… ふふっ ローブをひんむいてからケツを皆の前で叩いてやる……」

「パイセン? あの子には自分がちゃんと言っておくっすから」

「まぁ…… 聖夜がそう言うなら……」

「それにあの子、女の子なんすから、裸にしちゃだめっすよ?」

「え!? 女の子だったの!?」

「そっすよ。確かに金や物を盗む事は悪い事っすけど…… ここじゃ、そうしないと生きていけない人もいるんすよ」

「……盗もうとしたのが俺で良かったな。他の奴だったら大事になっていたんじゃないか?」

「あんただって一緒でしょ。裸にして、おしり叩くだけで済んだのかしらね?」

「聖夜。こいつはスケベエルフのネピア。妹のくせにベースケなんだ。お姉さんであるエルモアは聖修道女グッドシスターだから間違っても一緒にしないように」

「でもパイセンの方がスケベそうっすよね?」

「なっ!?」

「あーーーはっはっはっ!!! 良く分かってるじゃない! 聖夜だっけ? あんたはこの淫獣の仲間とは思えないわね。友人は選びなさい。引きずり込まれるわ」

「はいっす。ネピアさん」

「なっ!? 聖夜!?」

「まあまあ、パイセン冗談っすよ」


(くっそぉ!? ネピアの奴ぅ! 聖夜を取り込みやがってぇ! こうなったらネピアの秘密を漏らしてやる…… 文字通りな…… くくっ……)


「いいか聖夜?」

「なんすか?」

「このクソエルフはな…… っう! 危ねぇ~ 何しやがる!?」


(既にネピアの瞳が青白く燃え上がって!?)


「……滅びたいか?」

「……いいえ」

「……滅びたいか?」

「……いいえ」

「……滅びたいか?」

「……いいえ」

「仲いいっすね~ RPGのまねごとっすか?」

「(シュゥゥゥ) 仲間じゃないから仲は良くないわ」


(……鎮火したか ……これからは聖夜を消火に使おう)


「面白いっすね。ネピアさんは。エルモアさんはお姉さんなんですよね」

「はい。そうです」

「なんだか自分も妹を思い出してしまうっすね」

「妹さんがいるんですか?」

「はいっす。ネピアさんを大事に見守る、その眼差しを見て自分も思い出してしまったっす」

「聖夜…… 妹いたのか……」

「すいませんっす。ちょっとパイセンとまた逢えて思い出してしまったっす」

「精霊達が聖夜さんの優しさに触れて微笑んでますよ。元気だして下さい」

「ありがとうっす。エルモアさん」

「いえいえ」

「妹を大事にするのが兄と姉の役目っす。ネピアさん改めてよろしくっす」

「こちらこそ。あなたの気持ちは例え異世界だろうと伝わるわ。そう信じなさい」

「はいっす」


 二度と会えないであろう妹に思いを募らせる聖夜。二度とは逢えない俺と不仲であった両親の事を思い出していた。この異世界に来てからの時間は、人生の割合で言えばまだ多くない。だがその多くない時間の中で元の世界の事を忘れられる異世界の生活があった。だが思い出してしまったんだ。聖夜は俺と再会する事で。俺は聖夜と再会する事で思い出す。


(考えてもしょうがないんだけどな…… だが人は停止出来ない思考する事を……)


 こういった解決出来そうにない悩みを助けてくれるのが仲間である。エルモアとネピアは聖夜に向けて微笑み続けていた。俺は精霊を見る事は出来ないが、暖かい光が彼女達を覆っているよう。そして同じように彼らを見つめる視線が二つ。同じようだったのは視線の先だけで、ラヴ姉さんとクリちゃんはガールズトークに花咲かす女学生のように色めき合っていた。


「(なんなん! なんな~ん!)」

「(ネッピー…… 妹が花咲かす時が来たよ!)」

「(来ちゃう!? 妹来ちゃう!?)」

「(来るかもだね~ 妹~)」

「(でも逢えないのは可哀想だね~)」

「(そうだね。だけど、今目の前にある現実、それを聖夜さんには手にして欲しいかな。妹さんだって聖夜さんが落ち込んだりしている所を見たく無いはずだよ)」

「(そうさね~ あたしも家族に逢いたくなっちまったい!)」

「(でも…… 聖夜さんだけでなくズーキさんだって一緒なんだよね……)」

「(だね~ だからこそあの愛の抱擁よ!)」

「(そう考えると本当に美しいね~)」

「(ね~)」

「(ね~)」


(ね~)


 ラヴ姉さんとクリちゃんの放つ、エルモアとネピアとは違った暖かさになんとなく触れた俺は、会話の内容を聞き取れずとも、同じように身体を傾けていた。 


(とりあえずお金をスラムの師匠さんに渡さないとな…… ちょっと聖夜と二人で話すか……)


「聖夜?」

「はいっす」

「一旦、スラムの師匠さんにお金を渡したいんだけど。それか弟子だな」

「じゃあ自分が渡しておくっすよ。これでも弟子なんで」

「え? 聖夜が弟子なのか?」

「はいっす。こっち来てからずっと世話になっているっすよ。仕事も斡旋してもらって」

「何の仕事?」

「キャバクラのボーイっす」

「(聖夜…… ちょっといいか?)」

「(なんすか? 小声で?)」

「(おほん。聖夜がしっかり仕事してるかこの目で確かめたいんだ)」

「(そんな事言って、ただ遊びたいだけなんじゃないんすか?)」

「(……何時から何時までだ?)」

「(がっつきますね~ ここいらじゃ昼前から朝までやってるっすよ。基本自分は朝から夜って感じっすね~)」

「(そうか。それはいい。ちなみにどのあたりだ?)」

「(パイセンは何処に住んでるんすか?)」

「(実はこれからの宿は決まってないんだ……)」

「(はぁ…… もし良かったらっすけど、ウチの店が管理してる空き部屋紹介するっすよ)」

「(助かる。家賃は?)」

「(あ~ 使ってない部屋っすから当分はいらないっすよ。ただ訳あり嬢が住む事になったりする事もたまにあるみたいっすから、一時的って感じっすかね)」

「(何から何まですまないな。早速場所を教えてくれるか?)」

「(お安いご用っすよ)」


 聖夜から場所を伺う。このスラムから近い場所にあるようだ。聖夜は部屋の事についてはあまり触れてはいなかったが、小綺麗にされているという事は分かった。その事を皆に伝えると一同、聖夜に礼を言った。


「それでなんすけど……」

「どしたん?」

「たまにでいいっすから、スラムに遊びに来て欲しいんすよ。子供達もいっぱいいるんで、遊んであげて欲しいっす」

「任せなさい。この私にかかれば子供の相手くらい余裕でこなしてみせるわ」

「ありがとうっす。ネピアさん」

「子供の相手をいつもしているんですか?」

「仕事によってまちまちっすけど、休みの日はいつもいるっすよ」

「素晴らしいです! 聖夜さんはとても優しさに満ちあふれていますね!」

「照れるっす。スラムの子供に勉強を教えてあげてるっす」

「ラヴ姉さん! 感動!」

「なんだかホロリときちゃいますね」

「それに比べて……(チラリ)」

「……」


(ネピアの野郎…… キャバクラ行ったら聖夜にお漏らし娘って事をしっかり伝えてやるからな……)


「じゃあまた明日この奥の場所でよろっす!」

「あぁ! 明日な!」

「楽しみにしてるわ」

「お仕事頑張って下さい」

「またね~」

「気をつけて~」


 聖夜ともう一度熱い抱擁を交わし、明日の夜にスラムで落ち合う事にする。聖夜は師匠にお金を渡した後に店に戻って手伝いをするとの事だった。また明日逢うはずなのに、何故だか寂しく感じてしまうのは元の世界を再会で思い出してしまったからかもしれない。











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