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第131話  商の国へ行こう! その6



「いやぁ~ 本当にお美しい~」

「そ、そう?」

「妹様は可憐で、お姉様は気品に溢れてますね~」

「……」


 日陰に戻ると、先ほどの少年がロリフターズに話しかけていた。可憐とはほど遠いネピアに世辞を言う。エルモアには気品。むしろ少年には、今のエルモアに話しかけられる気概があるなと俺は思った。何故ならエルモアは既に俺の作戦を実行中だからだ。


「お姉様は寡黙な方なんですか?」

「い、いや…… そういう訳じゃないんだけど……」

「……」

「大丈夫ですよ? 何もしませんから。ある人を待っているんです、ここで」

「……」


(エルモアは頼りになるなぁ~ 微動だにしないのに、いつでも戦闘に移行出来そうな雰囲気がある…… 流石はエリエール様の娘さんだ……)


「任務ご苦労。限定的解除。少年は先ほど出会った。残念ながら宿は満室だ」

「……そうでしたか。あまりにも話しかけてくるので、すぐに移行出来るようにしていました」

「え……? 旦那……? 移行って……?」

「一瞬だ…… 次に目が覚める時は、新しい世界だ」

「……ははっ 冗談ではなさそうですね」

「それが分かれば生き延びられるだろう。じゃあな」

「旦那ぁ…… どうか話だけでも…… 本当に騙したり金を奪ったりするわけじゃないんです……」

「エルモアどうだ?」

「嘘を言った時点で破壊します」

「了解。ネピアは?」

「今のところ真剣さだけで、騙すような事は感じられないわね」

「そうか。じゃあ命が欲しかったら真実だけ話せ。なら聞いてやる」

「あ、ありがとうございやす旦那! そ、それとエルモアの姐さん?」

「……」

「もし俺を破壊したら、身銭をスラム街にいる先生に渡して下さい。どうかお願いします」

「……」

「エルモア」

「はい」

「嘘ついた時点で俺に伝えてくれ。破壊は俺が判断する」

「サー!」


(エルモアが戦闘マシーン過ぎる…… 一切の情けなしだな……)


「じゃあ質問する」

「はい旦那!」

「名前は?」

「ランスです! 自由フリーに商売しています! 商売王になるのが夢です!」

「よしランス。俺に何をして欲しい」

「そちらの魔法馬まほうばでレースに出て欲しいです!」

「ランス…… 魔法馬まほうばって知ってるのか……? それともこの国では一般的なのか……?」

「自分は古い本に載っていたのを見て知りました。この国でも同じように知っている人もいるでしょうが、基本的には少ないと思います」

魔法馬まほうばでレースに出る俺のメリットは?」

「レース出場者専用の宿に泊まれます。もちろん関係者も。それぐらい大きい所ですから」

「なるほど…… ならランスのメリットは?」

「レースをかき回す事によって利益が出る方がいます」

「その利益をランスが受け取る?」

「受け取れないかもしれません。商売人としては末端で、自由気ままに始めたばかりですから。ですが次への繋がりは確実に作れます」

「俺のデメリットは?」

「目立つ事。落馬などのレース上の事故。かき回した事による怨恨」

「ランスのデメリットは?」

「ブックメーカーによる制裁・報復。後は…… エルモアの姐さんに破壊される事ですかね」

「それでもやるのか?」

「世話になってる人がいるんで、のし上がりたいんです。この国で金を持っていないという事は、家畜未満。蟲以下ですよ」


 未だにエルモアからの報告はない。ネピアに一度目線を送るが、問題は無さそうだ。しかし話を聞いても俺がやる必要はない。ただ、意気込みというか気合いというか、そういった「気」をランスから感じ、それに呼応したくなったのも事実。


「かき回す事なんて夢のまた夢だろうな」

「そうですね。実際莫大なお金が動きますから、馬のオーナーや騎手も手を抜く事はないでしょう」

「それでもいいのか?」

「構いません」

「分かった。出よう。皆もそれでいいか?」

「いいわよ。目立とうが怨恨があろうがぶっ飛ばしてやるわ」

「いいよ~! すっごくいい! 楽しみ~!」

「私も旅に出るのが夢でしたから。それがこんな楽しそうな事になるなら構いません」

「……」

「エルモアは?」

「限定的解除を実行中です」


(ノリがいいのか悪いのか……)


「よし。解除を認識してくれ」

「はい。ランスさん?」

「はい! エルモアの姐さん!」

「大丈夫ですよ。精霊が楽しそうにしてますから。気持ちも十分に伝わりました」

「姐さん……」


(ほっ…… いつもの優しいエルモアだ……)


「自分から巻き込ませておいてこんな事をいうのはあれなんですが…… 本当に大丈夫ですか? おかしな奴もいっぱいいる国ですから……」

「大丈夫だ。詳しくは話せないが、やっかい事はお手のモンさ。心強い味方もいるしな」

「ランスっつたっけ? なかなか気概あるじゃない。頑張りなさい」

「ありがとうございます! ネピアの姐さん!」

「エルモアとネピアはこういった手合いには好かれるよな」

「気合い入ってますから」

「いいじゃない。なかなか骨のありそうな奴よ。あんたより数倍? いえ数百倍? 比べるのが可哀想になるくらいマシよ」

「……」


(ネピアの野郎…… この国でも漏らしてもらうからな……)


「旦那」

「なんだ?」

「お願いを聞いてもらえる立場にはないと思いますが、自分に何かあったら身銭は先ほどの通りスラムにいる先生か、最近出来たお弟子さんにお渡し願えますか?」

「分かった」

「大丈夫ですよランスさん。一緒に入る時は守りますから。それでも何かあった時は任せて下さい」

「エルモアの姐さん…… よろしくお願いいたします!」


(なんか放っておけない奴だよな…… これもランスの人柄なのかもしれないな……)


「ランス?」

「はい!」

「俺たちは一度船に戻るが、どうすればいい?」

「こちらもクライアント様に一時報告します。船着き場まで迎えに行きますので、それでよろしいですか?」

「あぁ。じゃあまた後でな」

「一旦失礼します!(バッ)」


 この人混みの中を器用にすり抜けて走って行く少年ランス。自由フリーな商売人として、気ままに商をしていると言うが、実際は苦労の連続だろう。俺たちも自由きままに生きてはいるが、厄介事が沢山あった。それを超えられて生きているのも仲間のおかげだ。


「そういう事だから、少しの間は住む場所は決まったな」

「そうね。レースが終われば宿の空きも出るだろうし、賃貸物件も探しやすそうね」

「楽しみ~! すご~い! レース出るなんてズーキくんすご~い!」

「えっ!? 俺がレース出るの!?」

「あんた以外、誰が出るってのよ……」

「頑張って下さいね! タロさん!」

「てへへ。私は整備専門ですから」

「マジかよ……」


 いつの間にか騎手として決定されていた社会派紳士。完全に流れに巻き込まれてしまったが、一番に巻き込まれていたのは、魔法馬まほうばであるカバのようなヒポである事は、彼自身知るよしもなかったかもしれない。











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