第128話 商の国へ行こう! その3
「ズーキ! 辛気くさい顔してないで飲むぞ!」
「あぁ! 飲もう!」
「「「「「 かんぱ~い!!!!! 」」」」」
抜け殻のようになったロリフターズ。まるで餌のない船に紛れ込んで、動けなくなってしまった犯罪鼠達。スコッティさんの遺言となるような話を聞かせてからはあの状態のままだ。
(俺がいたら思いにも耽れないだろう…… 姉妹だけの方がいいんだ……)
「ズーキはこれからどうするんだ?」
「貯金が心許ないですから、商の国で働きながら皆と暮らそうと思ってます。まだその辺りの事は詳しく話してないですけどね」
「そうか。俺たちはこの船と一緒になって仕事するから、また離れる事になるだろうな」
「そうだな。けどまた精霊の国へ行く時は頼む」
「あぁ。どうせまた逢う事になるさ。こうやってまた出会っているんだからよ」
「本当だな。そういやバルバートさんは舵を握ったまま?」
「それがいいんだとよ。旦那は意外にロマンチストだからな」
「俺たちの話し声を肴に舵を取ってるってか。そりゃロマンチストだ」
「エルモアちゃんとネピアちゃんどうしたんだ?」
「ヤコブ。俺がスコッティさんの…… 彼女達の父の事を話してしまったんだ……」
「まだ幼いもんなぁ…… 見た目だけだけど…… 父を思って寂しがってるのか……」
「エリエール様にやられたからな……」
「やられた?」
「星になったのさ……」
「「「「「 えっ!? 」」」」」
「詳しくは彼女達に聞いてくれ」
「あ、あぁ……」
俺の一言でこちらもまた、微妙な空気が流れる。だがラヴ姉さんとクリちゃんはお構いなしに盛り上がっていた。
「うぇ~い!」
「飲むよ~!」
「俺も飲むぜ!」
「飲も飲も!」
「ズーキさん飲みましょう!」
(ラヴ姉さんとクリちゃん。明るさが身に染みるな……)
「ズーキくんありがとう!」
「いえいえ。こちらこそですよ」
「(色々してあげるね!)」
「(その時はクリちゃんと一緒にお願いします)」
「(分かった!)」
(これが金の力よ…… 社会派紳士は金を思う)
「エルちゃんとネッピーはどうしたんですか?」
「ホントだぁ~ なんかマントを覆って寒そうにしてるぅ~」
「……寒い訳じゃないと思います」
「何かあったんですか?」
「スコッティさんとの会話でね。聞き慣れないキノコの里の方便っていうか、単語があってさ。それをスコッティさんとの思い出話とともの話したんだ」
「なに~? 教えって~?」
「ニュンニュン」
「!?」
「かわぃぃ~ ニュン! ニュンニュン! ニュンニュ~ン!」
「ら、ラヴ!? そ、そんな事を大きな声でいっちゃ駄目だよ!?」
「って事はクリちゃんは知ってるって事だよね? 教えて」
「聞きたい! ラヴ姉さん! 聞きた~い!」
「そ、そんな事ぉ む、無理ですょ……」
もじもじと赤ら顔で否定するクリちゃん。俺は一瞬で脳内の記録に成功する。紛う事なき優良高画質画像。既に粗品は反応していた。
「兄ちゃんズ! ニュンニュンって知ってる!?」
「ラヴ!?」
「あ~? なんだよそれ? お前ら知ってるか?」
「俺は知らん」
「ニュンニュン? ニュンっとするんじゃないのか?」
「!?」
「ヤコブ流石ぁ! でもよく分からないよ!」
「俺も分からん。ノリで言ってみたぐらいの感じだしな」
「精霊の国の言葉かい? クリネックスちゃん?」
「(うぅ……)」
「「「「「( 照れがかわいい )」」」」」
(はふぅ~ん! ふぅん! ふぅ~ん!)
「おいおい。クリネックスちゃんを困らせるなって」
「なにいい人ぶってんだよベルギィ。お前クリネックスちゃんの後ろには、あの最強最高の魔法士さんが憑いてるんだからな」
「はっ!?(キョロキョロ)」
「あれ? どうしたんだ? エルモアちゃんとネピアちゃん?」
「実はエルモアとネピアのお父さん…… スコッティさんと話していた時に、その言葉が出ててさ。それでそのニュンニュンについて話してたんだ。すごい盛り上がってさ。喜んでたよ」
「!?」
「どんな?」
「ん~? エルモアとネピアと出会ってから毎日ところ構わずニュンニュンしてるって言った。後は実家でもニュンニュンするって」
「!?」
「親父さんはどんなエルフ?」
「種まきが好きそうな優良漢エルフ。正直タイマンで飲んでみたかった」
「「「「「 …… 」」」」」
アウローズには分かったのか、皆でチラリとクリちゃんに目線を泳がせていた。
「……もしかしてエリエール様にやられた理由って、女性関係か?」
「よく分かったな。その通り。タケノコの山の幼妻だって強制自白されてた。流石はスコッティさんだよ。あの御方は失うべきではなかった」
「すごいエルフ! かこいい!」
「「「「「 …… 」」」」」
「な、なんだよみんな……」
「そりゃ、クリネックスちゃんが恥ずかしがる訳だ」
「知らなかったんだ。済まんな」
「ズーキ…… 訳も分からずよくそんな事を言えたな……」
「娘の彼氏がそんな事を言ったら…… 俺なら粉にするな……」
「ご、ごめんね? クリネックスちゃん?」
「い、いいです…… わ、分かってくれたのなら…… うぅ……」
「「「「「( とてもかわいい )」」」」」
(な、なんだよ……? 俺だけが分かってないのか……?)
「あ~ わかっちった」
「マジで!? ラヴ姉さん!? 教えて!?」
「ニュンニュンはねぇ~ 種まいて発芽させる行為やね~」
「え……?」
「性行為!」
「ぶっ!?」
「え、え?」
「ほらぁ~? 音がそんな感じしな~い? ニュンニュン! ニュンニュンニュン!」
「クリっち正解?」
「(こくり)」
「「「「「( これもかわいい )」」」」」
「なはぁ!? じゃあ俺はスコッティさんの愛娘に、ところ構わず性行為したって宣誓した訳かぁーーー!?」
「うん! 流石はズーキくん。異種交配だぁ~!」
「やるなズーキ」
「それも男さ」
「エルモアちゃんが…… 汚れた……」
「すごい親父さんだな……」
「エルモアちゃん…… 君の心だけは綺麗なままでいて欲しい……」
「ちょっと!? 汚れるってなに!? おかしくない!? 俺の扱いおかしくない!?」
「「「「「 おかしくない 」」」」」
「ヒドい!? ヒドいよ~! わ~ん!」
いつもネピアが言うセリフと、ラヴ姉さんが悲しみをアピールする前に使う、セリフをお借りした社会派紳士。
「エルモア!? ネピア!?」
「「(ビクゥ!?)」」
「すまん! 適当に話を合わせたらとんでも無い事に!?」
「……もういいの」
「……もういいんです」
「ネピア…… エルモア……」
「もし父さんが生きていたら…… キノコの里どころかタケノコの山まで知れ渡るわ……」
「もしかすると喜びすぎてそれ以上の被害が…… もう星になってもらっていた方がいいかもしれません……」
「姉さん……」
「ネピア……」
「「(ギュッ)」」
(本当にごめんなさい)
俺は赤くなり照れてるクリちゃんに問い詰めるラヴ姉さんを羨ましく思った。だが、俺の目の前にいるのは打ちひしがれたロリフターズ。彼女達の被害を止めるには現時点でスコッティさんの息の根を止めるしかないというジレンマだった。