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第126話  商の国へ行こう!



「この位置からだと、同じように海流にのれば商の国ギルディアンだ」

「バルバートさんが問題なければそこで構いません」

「そうか。俺も仕事せにゃならんからな。ギルディアンで御法度の商品を仕入れてアドリード王国に運べば少量で金になるからな」

「分かりました。到着までこれからどうするか皆で考えます」

「そこでだ」

「はい?」

「お前達は船員として乗った訳じゃない」

「はい。船賃ですよね?」

「船員はアウロ達で十分こなせる事が分かったから雇う気もない」

「ちゃんと支払いますよ」

「あーーー!?」


(ビクゥ!?)


「な、なんだよネピア?」

「キノコ銀行からお金を出すの忘れたぁ……」

「はっ!? 私も忘れたぁ……」

「大丈夫だよ。俺の金があるから」

「いいの?」

「いいんですか?」

「いいもなにもこれからも一緒なんだ。気にしないでくれ」

「じゃああたしも気にしない!」

「ラヴ姉さんは海を泳いで行って下さいね?」

「また扱いがヒドいよ~! うわ~ん!」

「だいだいですね。エルモアとネピアはキノコ銀行にちゃんと貯金があるんですよ? それにアドリアで稼いだお金も持ってる。ラヴ姉さんとは違いますから」

「うぅ……」

「わ、私が多少持ってますから…… お、おいくらですか?」

「クリっち…… うぅ……」

「行きは未航海ルートだったが、一度通ってるルートだから半値でいい」

「半値とはおいくらでしょうか?」

「一名様五十万クイーン」

「え……」

「五十万クイーン」

「ず、ズーキさん?」

「クリちゃんは優良個体エルフだから払うよ。けど結構ギリギリだな。行きが俺、エルモア、ネピア、ラヴ姉さんで四百万クイーン。これからが俺、エルモア、ネピア、クリちゃんで二百万クイーン。合計六百万クイーンかぁ」

「なっ!? ラヴ姉さんは!?」

「泳いで下さい」

「ヒドぃ~! (バンバン!)」

「王都アドリアで百七十万クイーンも使って復讐するんじゃなかった…… 残りは後僅か…… はぁ……」


 俺はどうせアウローズ達が、甘やかすんだろうと高をくくっていた。しかし思いの外、アウローズ達も渋い顔をする。そして皆でラヴ姉さんの処遇を決める事になる。


「ねぇ~? アウロ兄ちゃ~ん?」

「……忙しいんだ。後にしてくれるか?」

「後っていつ!?」

「ギルディアンに着いてから」

「それまでに何とかしないといけないの! 泳ぎたくな~いよ~!」


 ラヴ姉さんは金策巡りに余念がない。というか余裕がない。まずはアウロ。それから一人ずつ回って行くのだろう。


「ノカラ! ノカラ!」

「無理」

「ヤコブ! ヤコブ!」

「三ヶ月男だからな。そんなに持ってないんだ」

「フレイ! フレイ!」

「娘の為に使う」

「ベルギィ! ベルギィ!」

「……未来の嫁の為」

「……」


 俺はそれを横目で見ながら、久しぶりに会えたヒポの世話を甲斐甲斐しく行っている。変わらない風体ではあるが、微妙に成長している。


「ヒポも大きくなるのかな」

「(ふる)」


 一度耳を震わせたので肯定という事だろう。ヒポとの簡単なコミュニケーションを俺は喜び、干し草を食べているヒポの傍らでまったりする。


「ねぇタロー?」

「どうした?」

「ラヴ姉の事だけど……」

「甘やかさないぞ」

「そ、それはそうなんだけど……」

「なんだよ」

「エルモアとね家事使用人ハウスキーパーしていた時のお金があるから……」

「甘やかさない」

「う、うん」


(アウローズでも甘やかしてないんだ…… 百万クイーン返して貰うまでは俺も……)


「タロさん?」

「どうした?」

「ラヴさんの事ですが……」

「甘やかさないぞ」

「どうしても駄目ですか?」

「……どうしてもって訳じゃないけど、アウロ達も甘やかしてないだろ?」

「でも……」

「船員は足りてるってバルバートは言ってたけど、働く事だって出来るはずだ」

「はい……」


(ふぅ~ ネピアもエルモアもか…… となると……)


「ズーキさん?」

「はい」

「ラヴの事なんですけど……」

「借金返す見込み有れば出しますよ」

「そ、そうですよね…… すいません……」


(クリちゃんの困り顔は見たくないな…… はぁ~)


 俺は仕方なくバルバートさんの元へ向かう。ラヴ姉さんの処遇について話す為に。おっかない顔というよりは、真剣に海を見続けているバルバートさんはとても様になっていた。


「バルバートさん」

「おう」

「ラヴ姉さんの事ですが」

「泳ぐ気になったか?」

「ははは。いま金策に駆け回ってますよ」

「そうか」

「仕事とかってどうですか?」

「足りているな。それに嬢ちゃんがやる気ないだろ」

「……そうですね」

「やる気にさせるのか?」

「どうでしょうかね。あのラヴ姉さんがやる気になるとは思えないです」

「そうだろうな」

「アドリアでは仕事してたんですけどね~」

「今は旅の気分なんだろうな」

「なるほど。確かに自分もそういう気持ちですね」

「実は俺もさ」

「バルバートさんも?」

「そうだ。処女航海も無事に終わって船体整備も済んでいる。今が本当の意味でのスタート。俺という旅が始まったのさ」

「ずっと夢見ていたんですよね。自分の船を持つ事に」

「あぁ。だから金の事なんて正直すっ飛ばしてやりたいがな……」

「でもお金は重要です。復讐に百七十万クイーン使ったアホのいう事じゃないですけどね」

「金がある時はそうなるもんさ。だが今はどうだ?」

「働かないと心配になりますね」

「そうだ。まだ蓄えがあっても減ればそうなる。だが嬢ちゃんは百万クイーン以上の借金がある上にあれだ…… だがな、今は旅なんだ…… そう俺は思ってるよ」

「はい」


 なんとなく諭されてしまったようだ。この異世界に来て不安だらけだった。けれど精霊の国へ帰郷させてやりたいという目的が出来て仕事を始めた。もちろん食い扶持を稼ぐ意味合いもあったが。


(あの飄々とした性格に助けられた事も多いからな…… よし)


「クリちゃん」

「はい」

「クリちゃんはいくら持ってる?」

「に(ごにょごにょ)クイーン」


(まさか二百クイーンじゃないだろうな……)


「に、二十万クイーンです……」

「……安心したよ」

「え? で、でも…… 全然貯まってなくて……」

「それでも二十万クイーンあるんだ。マイナス百万クイーンよりかはマシさ」

「た、確かに…… で、でも私も船賃を払ったらマイナス三十万クイーンです」

「ま、まぁ…… そうだな……(ハッ!?)」


(クリちゃんが俺に借金!? お、落ち着け…… いける…… これは行けるぞぉ!)


 俺はこの時点で既に決定していた。助ける。仲間を助ける。当然の理じゃないか。それにラヴ姉さんの借金があるのも変わらない事実。


(そうだ…… クリちゃんとラヴ姉さんを合わせて…… ぐふふぅ)


「タロさん?」

「(ビクゥ!?)」


(アブねぇ!? ネピアじゃなくて良かった!)


「あのやっぱり私……」

「いい」

「でも……」

「皆まで言うな」

「タロさん……」

「大事な仲間だ」

「タロさん!」

「ちなみにエルモアはいくら持ってる?」

「貯金置いてきてしまったんで…… アドリアで働いた時の残りですね。結構使いましたから三十万クイーンほどでしょうか?」

「分かった。ネピア~!」

「なに~」

「ネピアはいくら持ってる?」

「エルモアと一緒くらい」

「じゃあみんなで大体百万クイーンくらいか。ギルディアンに行ったらすぐに仕事を見つけないとな」

「そうね。でも五匹もいるんだから一匹二十万クイーンを一ヶ月で稼いだとしても百万クイーンにはなるわね。実際どの程度稼げるかしらないけど」

「アドリアぐらい稼げればもっといくか」

「でも低く見積もっておいた方がいいですね」

「だな。でもなんとかなりそうだ」


(肝心のラヴ姉さんはっと…… いた…… 隅っこで膝を抱えて人差し指でなんか書いてる…… 哀愁漂う姿だな…… けどちょっと可愛い)


「ラヴ姉さん?」

「……」

「ラヴ姉さん?」

「……なに」

「どうだった?」

「……駄目だった」

「ラヴ姉さんはアドリアではいつも働いていたよね」

「……うん」

「俺たちのお金ももう残り少ないから……」

「うぅ……」

「商の国ギルディアンに行ったら一緒に働こう」

「……うん」

「ホント?」

「ホント。働くよ。だって皆に申し訳ないもん」

「分かった。じゃあ一緒に飲もう」

「え……」

「皆のおかげだよ。エルモア、ネピア、クリちゃんにちゃんとお礼言ってね」

「え…… え……」

「さあ行こう」

「ありがと~! ズーキくん大好きぃ~!」


(よし。これで俺の未来は確定)


 この件でアウロたちに色々言われるものの、アウロたちも安心したような顔つきになっていた。これもラヴ姉さんの人徳がなせる技の一つだと思う。そして俺のような貢ぐヤツがラヴ姉さんを養っていくのかもしれない。











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