第122話 実家に帰ろう! その13
「「「 なっ!? 」」」
「これはどういう事だ愚姉妹よ」
あろう事か、エリエールさんが手にしているのは奴隷解放申請の書類だった。何故それが精霊の国にあるのか。一枚は控えとしてアドリード王国の役所から確かに渡されていた。それをいつの間にか手に入れていたのか。
「ど、どうして…… ネピア……?」
「ね、姉さん。た、確かに控えは私が燃やした筈よ……」
(いつの間にか燃やしていたのか……)
「控えがあるという事は、提出した書類もあるという事」
「け、けど! どうやってアドリード王国まで…… 母さんがアドリード王国にいたとは思えないわ……」
「おい」
「な、なに……」
「私が下等生物である人間の国へなど行くはずがないだろう。使役している使いの者だ」
「じゃ、じゃあ母さんがいた部隊の隊員が!?」
「戦争ならば喜んで向かわそう。だが、すえた臭いのする腐った人間というモノが蔓延っている国へ、逗留させるというのはあまりにも可哀想だろう?」
(か、下等生物ですえた臭い……)
「な、なら、どうやって!?」
「愚姉妹の名の通り愚かではあるネピアよ? 貴様の脳はクソを垂れ流す命令を己にするだけか?」
「くっ」
「ふふっ 知らぬのも致し方ない。この精霊の国では出会う事も少なかろう。何もエルフが直接に出向かう事もあるまい」
「出会う事が少ない……? エルフが出向かわない……? ハッ!?」
「勘の良い所は褒めてやろう。だがそれを知った所でお前達の未来は変わらん」
「ど、どうするつもりよ……」
「……」
「お、お母さん?」
「……」
「明けない夜はない。だがお前らが朝日を見れる保証はない」
「「 い、いやぁ…… 」」
「スコッティのクソ穴野郎が、まだマシと思える程にしてやろう…… 地下室でな……」
「「 いやぁーーーーーー!? 」」
(ち、地下室……? あ、あの怯えようは一体……)
「話し始めと最後にはサーを付けろ。そしてお前達が話していいのはサーだけだ」
「「 サー! サー! サー! 」」
「この私が何者か知らない訳ではあるまい」
「「 サー! サー! サー! 」」
「その私の命令を破るどころか、あまつさえ奴隷に成り下がっただと? しかも下等生物である人間の奴隷だと?」
「「 サー! サー! サー! 」」
「サーサーうるせえんだよっ!? (ドン!)」
「うっ……(デロデロデロデロデロデロデロ)」
「ね、姉さん……」
(あっ…… エルモアが腹パン喰らい、ゲロ吐いて汚れキャラに…… でも同じモノ食べてるとは思えないほどに、エルモアのゲロは綺麗だな……)
「そのクソ人間の奴隷から救ってくれたのはどいつだ?」
「「 サー! サー! サー! 」」
「まさか人間に奴隷にされて、人間に救われたなどとは言うまいな?」
「「 サー! サー! サー! 」」
「質問に答えろっ!? (ドン!)」
「うっ……(デロデロデロデロデロデロデロ)」
「ね、ネピアぁ……」
(り、理不尽過ぎる…… ネピアのゲロは赤ワイン増し増しだな…… 上からも下からも漏らすなんて、汚れキャラNo.1の王道まっしぐらだな……)
「おい、未使用の粗品を持つ人間よ」
「み、未使用の…… そ、粗品……?」
「貴様のような下等生物である人間の中で、子孫を残せない人間など生きる価値もないだろう。そのような頼りないイチモツで子は作れまい」
「なっ!? 平常時は確かにですけど! 膨張率がっ!?」
「膨張率だと? 子供が背伸びしているのと、なんら変わりはない。風船のように膨らめば希望があったかもな」
「くぅ……」
「お前は使われもしない粗品の気持ちを考えた事はあるか?」
「い、いえ……」
「安心しろ。お前の事だからな。お前が一番知っている」
「わ、分かりません……」
「この私を持っても分からない。いや、考えたくもないな。その様なクソのような気持ちは」
「うぅ……」
「だが一つだけ分かる事がある。そのような粗品を渡された時の私の気持ちだ」
「き、気持ち……?」
「使いどころのない粗品など貰ったところで、行動は一つに決まっている」
「そ、それは……?」
「捨てる」
「なっ!?」
「粗品だけ捨てても良いが、切り取ってしまう手間もあるし、触れたくないからな…… 愚姉妹と共にその身ごと捨ててやろう」
「いやぁーーー!?」
(誰かぁ!? 誰かぁ!? 助けてぇーーー!?)
あまりにも悲惨な光景が目に浮かび、辺りを見回して助けを呼ぼうとする。スコッティさんは泡吹きながら尿漏れ。クリちゃんは下を向いて微動だにしない。頼りのラヴ姉さんも同じく下を向いて嵐が過ぎ去るのを待っている。
(くっそぉ!? ラヴ姉さんは飄々としていると思ったのにぃ!?)
だが彼女達は正しかったのだ。あのラヴ姉さんですら、黙って下を向いている状況。酔いに身を任し、ノリと勢いで生きる彼女すら停止させる事が出来るエリエール様。人生を停止出来る特殊能力もお持ちだ。
「何か言い残す事はあるか?」
「……」
「……」
「……」
「では一つ下の階層へ……」
「ま、待って! 母さん!?」
「だ、騙されたの! に、人間に…… そ、それで……」
(駄目だろうな…… 人間に騙されている時点で詰んでる…… あろう事かネピアがテンパってる……)
「ほう。どのように?」
「ふ、船で送ってくれるっていうから…… け、契約書にサインをしたら……」
「すぐに支払え。出なければ奴隷に」
「そ、そうなの! ひ、ヒドいヤツもいたもんよ……」
「ヒドいヤツもいたもんだな!(ドン!)」
「うっ…… (デロデロ…… うえっ…… うえぇぇっ……)」
(もう吐けるモノがないんだ…… ネピアぁ……)
「そのヒドいヤツがお前だ。見てみろ? 自身の有様を」
「うぅ……」
「もっとヒドくしてやろうか?」
「待って!? お母さん!」
「私は全てを知っている訳ではない。ただ思い描く事は出来るのだエルモア」
「そ、それは……?」
「発端は流れ着いた人間の船。ネピアが止めるのも聞かずに好奇心の塊であるエルモアがネピアと共に密航。酒でも見つけて酔いどれていたら、いつの間にか出航し周りは海。どうしようもないので、ひたすら飲み続ける。ギルディアンに着くも酒を飲み続ける。思いの外、時間を掛けずに出航した船から下船出来ぬまま継続して航海。ギルディアンから積まれた酒を延々と喰らい、アドリード王国についた頃には泥酔状態が常。船員に見つかり、おおかた商人風情のヤツが提示した契約書を読む事もせずに泥酔のままサイン。そしてそのクソ粗品人間と出会う。こんな所だろう」
「「 !? 」」
(え…… アホ過ぎるだろ…… マジでそんな感じで俺と出会ったのか……?)
「私は言った筈だ。契約書にサインをする時は、例えそれがクソのような文章量でクソのような文面でも読み尽くせと。そして読み終わった瞬間にもう一度読む気概を見せろと」
「……言ってた」
「……言った」
「いいか? 社会というクソ海はそこにいるだけで汚れる。そして沈んだらクソを飲み続けるだけだ。そして、どの位置でもクソを飲ませようとするクソ蟲がいる」
「「 サー! 」」
「どうだ? 私の想像したお前達の行動は当たっているか? 不浄の酒を泥酔するまでいつまでも飲んでいたんだろう?」
「そ、そんなアホな事は流石にね……?」
「そ、そうだよお母さん……? そんなに飲んでたら在庫がなくなって見つかっちゃう……」
「下らない事にみっちり教え込んだ魔法を使ったか…… ネピアよ……」
「(ビクゥ!?)」
「下らない事にみっちり教え込んだ体術を使ったか…… エルモアよ……」
「(ビクゥ!?)」
(船に乗り込んだ大きめのネズミみたい…… ロリフターズ! 改め、犯罪鼠達!ってとこだな……)
「対岸の火事ではないぞ粗品よ」
「!?」
「貴様も一緒に…… そうだな…… 貴様はスコッティのような勢いはありそうだ。なら愚姉妹の初体験をくれてやろう」
「「「「「 !? 」」」」」
「か、母さん…… ほ、本気……?」
「こ、心の準備が……」
(しょ、初体験って…… エルモアとネピアと…… そ、その…… す、するのか……?)
「嬉しそうだな……」
「た、タロー…… あ、あんた……」
「タロさん……」
「ち、違っ!?」
「その嬉しさは快楽を呼び起こす…… だが延々と続く快楽がどのようになるか分かるか……?」
「……」
「最初はいいだろう…… 次第に快楽が苦痛に変わる瞬間の顔がたまらんのだ…… ははっ」
「お、俺は社会派紳士だっ! エルモアとネピアに無理強いはしない!」
「……そうか。なら苦痛のみな」
「いやぁーーー!?」
魔方陣を展開するように、どこからともなく現れる階下への階段。ただならぬ臭気が俺たちを襲う。こんな事ならエルモアとネピアに無理強いすれば良かったと思うが、社会派紳士は諦めていなかった。