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第119話  実家に帰ろう! その10



 ロリフターズの実家が近づくにつれて、別の事に不安がこみ上げているエルモアとネピア。先ほどの案件は頭の片隅へと追いやられたのか、しきりに二匹で何かを話していた。


(実家に連絡していなかった事を怒られると思っているんだろうな)


「楽しみ~ キノコ楽しみ~」

「エリエールさんのキノコ鍋は本当に美味しいよ~」

「わ~い! 成長するで~!」

「……私も成長したい」

「するっさ! 食べたらするっさ!」

「……今までずっと食べてきたんだけど」

「もっと! 食べる! 足りない!」

「足りない……か…… そうだよね…… 食べないと大きくならないもんね!」

「そう! そうなんさ!」


(ラヴ姉さんもクリちゃんも十分に大きいですよ。身長は除く)


 実家に辿り着く五匹。うち二匹は深呼吸をする有様。残り三匹のうち二匹は成長を望み、残り一匹の社会派紳士はスコッティさんとのワインを楽しみにしていた。


「おじゃましま~す!」

「おじゃまします」

「た、ただいま~」

「か、帰りました~」

「失礼します」


(相当ビビってるなネピアとエルモアは)


「いらっしゃいクリネックスさん。タロさん。それと……」

「ラヴ姉さん!」

「ラヴさん。いらっしゃい」

「……」

「……」

「……我が娘達よ」

「「(ビクゥ!?)」」

「何をしているのです。お入りなさい」

「「 サー! 」」


(完全にビビってるな)


「どうしっちゃったん? エルもっちとネピっちは?」

「連絡してなかった事を怒られると思ってるみたいなんだよ」

「あ~ エリエールさんはそういった事は厳しいからね~」

「スコッティさんとも逢ったんだけど、父母が心配してるだけだと思うんだ」

「そうか~い。心配される事はいい事だんね~」

「そうだね~」


 リビングに案内されると、テーブルの上には鍋が七個置かれていいる。そして有り余る程のキノコに野菜。お肉も食べきれない程に置かれていた。どうやら一匹に一つの鍋がデフォルトらしい。その鍋は魔法でも使っているのか、敷いてある石の上でグツグツと煮込まれていた。


「やったぁ! 成長すんぞ~!」

「食べるよ…… 今夜はね…… フフッ……」

「美味しそうだ……」

「……」

「……」


 各々好きな席に座ると、いち早く手を伸ばしたラヴ姉さんがクリちゃんに諫められていた。だがラヴ姉さんの気持ちが分かる程に口内に充満する涎。身体がこれからの食事を本能のままに欲しがっているようだ。


「我が娘達よ!」

「父さん」

「お父さん」

「うんうん。家族揃っての食事はいいものだ。それとクリネックスちゃん。タロくん。聞いていたけどラヴちゃんでいいのかな?」

「うん! ラヴ姉さんですな!」

「こんばんはスコッティさん。久しぶりですね」

「あぁ! こんなにも自宅が華やかになると嬉しくなるね~」

「そ、そうですか」

「……そしてタロくん? どうだったかね?」

「え、え~と、すいません。エルモアとネピアのお気に入りの場所で、色々とゆっくり話していたもので……」

「そうかい。そうだね。話というのは同じ内容でも、場所によって入り方が違うモノさ。それがあるから燃え上がるんだ」

「本当にいい話が出来たと思います。スコッティさんとワインを飲むのを楽しみにしていたんですよ」

「おぉ! そうかいそうかい! まさかあれを差し置いて、私とのワインを楽しみしていてくれるとは男冥利に尽きるね~ ただの勢いだけでなくそういった冷静さもあるとは…… こりゃ私もうかうかしていられないね~」

「スコッティさんは、お変わりなくお元気そうですね」

「もちろんさクリネックスちゃん。いや~ クリネックスちゃんもラヴちゃんも本当に綺麗だね~」

「は、はぁ」

「ホント!?」

「あぁ! クリネックスちゃんは昔から知っているけど、ラヴちゃんは初めて会ったけど、ビンビンくるよ! いいね!」

「わ~い!」

「……随分と楽しそうですね、あなた」

「……」

「そろそろ始めましょう……」

「サー!」


(サー!はロリフターズ家の挨拶の一部なのかもしれないな)


「このような田舎にお尋ね下さってありがとうございます。おもてなしといっても、このような事しか出来ませんが本日は楽しんでいって下さいね」

「堅苦しい事はないから、いっぱい食べていっぱい飲んでくれると私も嬉しい」


 エリエールさんとスコッティさんはそう言うと、赤ワインを俺たちに注いでくれた。エリエールさんはエルモアとネピア。スコッティさんはクリちゃんとラヴ姉さん。そしてウインクしながら俺に注いでくれた。


「それでは…… 乾杯」

「「「「「「 かんぱ~い!!!!!! 」」」」」」


 赤ワインを一気飲みしたラヴ姉さんは、そのままの勢いで鍋を喰らう。まさしく喰らうという表現がしっくりくる程に食い荒らしていた。


(勢いは半端ないんだけど、綺麗に食べるもんだ)


 その勢いに負けず劣らずのクリちゃん。大人しそうな印象を受ける彼女ではあったが、今夜は成長の為にそれを解禁する。


(やたら一つのキノコを食べ続けているな)


「クリちゃん?」

「ふぁい」

「食べてる所にごめんね。クリちゃんがいっぱい食べてるのが成長のキノコ?」

「そうれふ」


(ベニテングタケみたいに見えるんだけど…… けどゲームに出てくる身体が大きくなるキノコにも見えるな……)


いわゆるスーパーキノコを想像し、あれなら身体の大きさも倍になる可能性も秘めているなと一人思う。


(なら1UPキノコもありそうだな……)


「さぁさぁタロくんも食べて食べて。これなんかあまり採れないヤツなんだけど、美味いよ~」

「ありがとうございます。頂きます」


(あった…… 正しく1UPキノコだ……)


「……美味しい」

「だろう? もっと手に入れたかったんだけど、時間がなくてね」

「もしかして取りに行っていたんですか?」

「あぁ。こんなにも賑やかになる食事なんて久しぶりだからね~」

「……」

「……」

「そ、そうでしたか。でも本当に美味しいです」

「そうかいそうかい。老骨には堪えたがね。ははっ」

「そんな。スコッティさんはとてもお若いですよ」

「ホントかい!? いや~ そんな事を言われるとハッスルしたくなるね~ こんなに女性率が多いとね~ いや~ は・な・や・か!」

「……あなた?」

「サー!」

「食事中ですよ……」

「サー!」


(エリエールさんも若く見えるよな。もしかしてこのキノコのおかげなんだろうか)


 ラヴ姉さんとクリちゃんは、成長という一つの目標に向かって突き進んでいる。俺も1UPキノコとスーパーキノコを頂きつつ、見た目が珍しいキノコを選んで食していく。

 エルモアとネピアは微妙な顔つきで「もそもそ」と鍋をつついている。料理が美味しくないという感じではなく、喉に食べ物が通っていかないというように見える。


「なぁエルモア?」

「はい」

「大丈夫?」

「はい」

「ネピア?」

「……」

「ネピア大丈夫か?」

「……大丈夫よ」


(エルモアもただ返事してるだけだし、ネピアに至っては一度目なんか聞いて無かっただろ……)


「クリちゃん?」

「はい」

「キノコの里では一人ずつの鍋が基本なの?」

「キノコの里の住民はマイ鍋があるんですよ。お外で食べる時は大きな鍋一つを皆で食べます」

「へぇ~ 外では大きな鍋なんだ」

「お外の場合は、キノコが採れる場所に大きな鍋が常備しているんです。それを使って皆で食べるというのがキノコの里では一般的ですね」

「なるほど」

「食べたぁ~」

「えっ!? もう食べちゃったのラヴ姉さん?」

「食べた!」

「まだありますから、お腹がすいてたらどうぞ」

「やったぁ!」

「……こりゃ成長するかもしれないな」

「……やっぱり食べる量が少ないのかな」


(ラヴ姉さんはどこにそんな量のキノコが入るんだ? しかもワインも結構飲んでるし)


 ラヴ姉さんは食べるし飲む。俺はあまり食べると飲めなくなる時もあるが、今は食欲が勝っていた。その勢いを衰えさす事なく鍋を平らげる。


「おかわりしますか?」

「ありがとうございます。本当に美味しかったです。もう少し入りそうですが、スコッティさんとワインを飲む約束をしていたので、ゆっくり頂いてもよろしいですか?」

「わかりました。ワインもいっぱいありますから」

「こんな美味しいキノコ鍋を肴にワインを飲めるなんて幸せです」

「だろう? エリエールは料理が上手いんだ」

「腕の立つ奥様を持つスコッティさんを羨ましく思います」

「これで……」

「何か……?」

「……何でもありません。さ、さぁ! タロくん? ワインの時間と洒落込もうではないかぁ!?」

「は、はい」


 グラスに注がれる赤ワインを眺めながら、ここがロリフターズの実家である事を再認識する。この異世界での仲間と共に家族で夕食を取っている。


(食べれて飲めて話せる仲間がいる。幸せだな本当に)


 その気持ちを大事にしながら、美味しいキノコ鍋とワインと共に身体に染みこませた。変わらず黙りきっているロリフターズが、少しずつ話し始める頃には夕食は宴と化し、いつも通りの流れとなっていく。











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