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第107話  寝台列車に乗ろう! その2



「美味しいなネピア」

「やっぱ美味しいわね~ 川鯨は~」


 食べるまでは意気消沈していた面倒エルフは、川鯨の竜田揚げを一つ頬張ると機嫌を直す簡単エルフでもあった。


(簡単娘め)


「全部食べた!」

「ラヴは早いね~」

「あたぼ~よ!」

「砂ガニの刺身と清酒は合いそうだな」

「はっ!?」

「あれ? ラヴ姉さんネピアから清酒貰わなかったの?」

「貰う前に全部食っちった……」

「一万クイーンがものの数分で消えましたね」

「豪快でラヴ姉らしいわね」

「あはは」

「あぁ……」

「ラヴ姉? 今からでもお腹に清酒を入れれば、胃の中では味わえるんじゃない?」

「はっ!? それ名案!? よしいこう!」

「はいラヴ姉」

「ごっつあんです!(クイッ)」

「「「  おぉ~ 」」」


(なんでもアリだな~)


「あっ!?」

「どうしたエルモア?」

「……ライム忘れました」


(めっちゃ気落ちしている…… 楽しみにしてたもんなぁ…… だがしかし…… くくっ……)


「え、エルちゃん? ほ、ほらソルトはあるよ?」

「あ、ありがとぅ…… ぅぅ……」

「ね、姉さん……」

「エルっち……」


(それにしても本当に今日は、いつもよりクエルボちゃんを愛でている感じするんだよなぁ~ とりあえずあまり気落ちさせたままにするのも忍びないな…… よし)


「エルモアほら」

「タロさん…… はっ!?」

「こいつがご所望なんだろ?」

「タロさん……」

「ライムもエルモアに食べて欲しいってさ」

「タロさん!(ギュッ!)」

「やるねぇ~ ズーキく~ん」

「エルちゃんの為に買っていたんですか?」

「あぁ」


(いつかはクエルボちゃんショット連続飲みになるからな…… これが最終的にあるのと無いのとじゃ差がありすぎる……)


「タロさん。私は礼儀知らずではありません。このように親切にされ黙っていたらクエルボの名に傷がつきます」

「え?」

「ご安心下さい。本日は有り余るどころか、致死量のクエルボちゃんの瓶を保有するテキーラ補給部隊がエルモア! タロさんへの兵站の補給は途切れる事はありません!」

「え?」

「テキーラ補給部隊は兵站を担当する需品科として後方支援《嬉し飲み増しタロさん》を徹底いたします!」

「え?」

「さぁさぁどうぞどうぞ」


(ミスったーーー!? 恩を売りすぎて怒濤のクエルボちゃん返し!?)


「え、エルモア?」

「サー!」

「楽にしてくれ」

「サー!」

「本日は随分とクエルボちゃんを仕入れたようだが?」

「サー!」

「それは如何に?」

「サー!」


(これ飲まないとリピートパターンなのか!?)


「姉さん? ちょっとタローに話するわ」

「サー!」

「ちょっといい?」

「あぁ……」


(助かった…… ネピアぁ…… ありがとぅ……)


 するとネピアは持っていた巾着袋から大量の清酒を取り出してきた。その中には懐かしの覇王やモコ殺しもあった。


「随分買ったな…… それに覇王も買えたのか……」

「割り増しだったけど致し方ない状況なのよ」

「? どういう事だ?」

「話してなかったんだけど、精霊の国は赤ワインが主流なの」

「あぁ。それでいっぱい売っていたのか。確かにビールとかは少なかったよな。俺はてっきりあのお店がワイン専門店だと思ってたよ」

「そうね。そう思ってしまうわよね。フルオンじゃ普通に色々なお酒飲めたでしょ?」

「あぁ。精霊の滝ビールも精霊の泉ビールも美味かった」

「フルオンは特殊なのよ。人間の趣味嗜好を取り入れた街というところね」

「そうなのか」

「実は精霊の国では昔、お酒を飲む事は禁じられていたの」

「マジで?」

「本当ですよタロさん」

「禁酒法時代もあったんですよ」

「そりゃ生きづらい時代さね~」


(フルオンを基本に考えては駄目って事か……)


「その禁酒法時代でも飲めたお酒ってのが……」

「赤ワインって訳か」

「そう。赤ワインだけは女王様の血という事で許された唯一の果実酒。けど今は時代も流れておおらかになってきたと言えるわ」

「古い考えを大事にするエルフもいるって事か」

「そういう事。だから実家に帰る前に、エルモアはクエルボちゃんを大量買い

して思い残す事なく飲み干すつもりなのよ」


(え…… これ全部の飲むの……?)


「お母さんは赤ワイン好きなので…… 自宅では飲めないんです」

「なるほど。規律というか伝統というか、そういった精霊の国の歴史を重んじる方なんだな」

「……」

「……」


(あれ? 結構いい事を言ったと思ったけど…… 押し黙っちゃったぞ?)


「ま、まぁそういう事だから実家では赤ワインしか飲めないから、今のうちにいっぱい他のお酒を飲んでおきなさい」

「分かった。そうさせてもらうよ」

「じゃあ乾杯しよ~!」

「そうだな。ラヴ姉さんに同意」

「「「「「 かんぱ~い!!!!! 」」」」」


 実家では赤ワインを飲む事になるという。俺はワインなら赤が好きだったので、どんな赤ワインが飲めるのだろうと一人考えていた。車内では俺たちが乾杯するように、他の座席でも乾杯のコールが聞こえてくる。


(騒がしいが暖かさも感じるな)


「どうぞ!」

「あ、あぁ。ありがとうエルモア」

「いえいえ」


(結局クエルボちゃんからは逃れられないか)


「(クイッ)」

「「「「 おぉ~ 」」」」

「やっぱ効くなぁ~」

「クエルボちゃんは頑張り屋さんですから!」

「クエルボちゃんも頑張って俺たちも頑張ったよな。本当に精霊の国へ来てからも色々あったなぁ~」

「そうね~」

「ありましたね~」

「私も助けて貰ったし~」

「助けた!」


(あれ? ラヴ姉さんは寝てただけじゃ?)


「まさか女王様に目を付けられてるとは思いもしなかったけどな……」

「それは私の妄想かもだって。あまり気にしないで」

「分かった。けどさっきの話じゃないけど、精霊の国の事を色々知れた気がするよ。赤ワインもそうだけど、伝説のエルフ達の事とかさ」

「タロさん。私とネピアの名前の由来も聞いたんですか?」

「あぁ、エル・モア・ネピ・ピア。彼女達が究極五月病アルティメットワンウェイホリデーを直す特効薬を探しに行った話しも聞いたよ」

「そうだったんですか」

「そういや精霊の国はアドリード王国より発展している所があるよな。これも魔法を追求した結果なんだよな」

「そうね。前にも話したけど、千年前は今より魔法が発展していて夢のようで遙か未来のような状況だったみたい」

「そういや凄腕の魔法士がいたんだっけ?」

「そう。名前はホクシー。魔法士ホクシー。世界のコードを読み取れたともされていたわ」

「それって…… 世界の作りが分かったって事か?」

「すご~い!」

「そう言われていますね」

「技術屋としては尊敬に値するエルフだね~」


(半端ないよな…… どんな人だったんだろう?)


「なあネピア? その魔法士ホクシーさんはどんなエルフだったんだ?」

「記録によればもともと馬車を引く御者だったみたいよ」

「叩き上げの魔法士なのか……凄いな」

「色々な所へ行って色々なモノを見た時に、如何に自分が小さい存在だって事を思ったみたいね。それから、ありとあらゆる情報をかき集めては自分の脳にブチ込んでいったらしいわ」

「それで?」

「それからはその情報を元に、自らの色を付けて情報を発信し続けた。そして情報に溺れた。情報をいつしか定められた義務のように更新し続けた。本当は楽しむ為に始めたハズなのに…… けどある日を境にピタッと止んだの」

「そこで世界のコードを知った?」

「実はそれについてはあくまで考察にすぎないの。ただ最後に言葉を残して消えていったわ」


(消えた? 言葉?)


「自分より遙か彼方にいる存在。そして自分より上位の者達が表に出てきていない」

「女王様の事か?」

「それもあるかもだけど、どうやら一般の人間やエルフも含まれているようなの」

「じゃあ、その魔法士ホクシーさんを超える存在がいくつもいるって訳か」

「一線を越えているのに、そこにとどまれる奴ほど恐ろしいモノはいない。社会に溶け込んでいて全く見分けが付かない」

「……それは凄いし確かに恐いな」

「それを知った魔法士ホクシーは初心に戻ったみたい。面白く生きたい。そして面白くなる奴を陰ながら手伝いたいと……」

「世界の裏方に徹するって事か?」

「そうみたいね」

「会ってみたかったもんだ」

「ん? 会えるかもよ?」

「「えっ!?」」

「会えるの~!  ラヴ姉さん! 会ってみたい!」

「マジで!? じゃあ今も生きてるのか!?」

「この言葉を残した時で既に数百年は生きていた。老いもせず、むしろ年を重ねる程に出来る事が増したとも言われている」

「すっご~い!」


(マジかよ…… 本物過ぎるだろ……)


「魔法を突き進めると科学という異世界のモノに辿りつけると言われているわ」

「え……」

「魔法士ホクシーは馬車の御者をしていた時が本当に楽しかったみたいなの。もともと乗り物が好きだったみたいね。いつしか異世界に行って、そこの乗り物に乗るのが夢だったみたいよ。そして多分……いや、もうその夢は叶えて一般のエルフや人間に溶け込んで生活しているでしょうね」

「話を聞く限り実現していそうだな…… そういった学問とかを突き詰める者は行動的な感じじゃなく、部屋に籠もっているのが今までの俺のイメージだったけど、随分と印象が変わったよ」

「凄いアクティブよ魔法士ホクシーは。ダンジョンを隅々まで調べ上げるわ、古代遺跡に潜って魔法具を探し当てるわ、盗掘している奴らを己の力だけで叩きつぶすわ、何せ武勇伝の多い魔法士ね」


(古代遺跡……? まさか……な……)


 俺はいつも顔に装着しているVR型のサングラスを一度手に取りながら、ブラック企業から脱出した際に乗ったタクシーの運転手さんを思い出していた。











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