第105話 切符とお土産を買おう!
ネピアを先頭に一度改札を出た五匹は、キノコの里へ向かう寝台列車の切符を購入する為、窓口にきていた。
「おっちゃん、キノコの里までだけどG1空いてる?」
「申し訳御座いません。満席ですね」
「G2とG3は?」
「ただいまご用意出来るのはスリーパークラスのみでして……」
「スリーパークラスで一区画あいてるところは?」
「え~ ありますね。ですが料金が一匹分多くなりますよ?」
「いいわ。六匹分支払うから」
「かしこまりました。それでは二十二時十分発の南斗星でお取りします。ステータスカードをよろしいですか?」
「あい。みんなステータスカード出して」
「ここでは便利なカードになったもんだ」
「料金は一匹様二万クイーンになります」
「十二万クイーンか。ちょっとまって……」
「いいわ。ここは私が払うから」
「いいのか?」
「これくらいは払わせてよ」
「後で渡すねネピア」
「ネッピー私も後でね」
「よろ~」
(ラヴ姉さん…… 同じ人間として悲しいよ…… ちゃんと返して貰うからね借金……)
「ネピア、それなりにアドリアで稼いでたと思うけど大丈夫か?」
「大丈夫よ。このターミナル駅なら口座のあるキノコ銀行で決済出来るから」
「へぇ~ ちなみにどれくらい貯金あるんだ?」
「……秘密」
「意外に貯め込んでそうだよな~」
「私も貯金あります!」
「エルモアもか。そう言えばお酒以外はあまり無駄遣いしてなかったよな」
「そのお酒の出費が一番痛いんだけどね……」
「……もっと貯められました」
「だろうな……」
「ラヴ姉さん! 借金のみ!」
「私も走り屋やってたからあまり貯金ないな~」
(二人はそんな所も一緒か……)
「それとG1とかG2G3ってなんだ? 個室だっけ?」
「G1は鍵付きの個室で四匹部屋。G2はカーテンで仕切れるの。G3も同じ広さだけど六匹部屋ね」
「俺たちはスリーパークラスだっけ?」
「そう。G1からG3は値段もいいから客層もいいの。スリーパークラスは大衆向けね。カーテンの仕切りもないけど私たちが一区画を独占して乗車、就寝出来るわ」
「本当に寝台列車なんだな。ちなみにGってなんの略?」
「GOODよ」
「久々に乗るから楽しみです!」
「私も~」
「ラヴ姉さん! 楽しみすぐる!」
これから乗る寝台列車に思いを馳せながら、窓口を後にする。本当に迷宮のようなターミナル駅を五匹で闊歩する。
「まずはお土産。出発時間まで二時間程だけど、寝台列車は到着してるはずだから余裕を持って乗車するようにしましょう」
「もう乗れるのか?」
「到着してればいつでも乗れるよ」
「よし。じゃあ土産を買いたいんだけど、どんなのがいい?」
「そうね~ 父さんは味がしっかりしてるのが好きだから、お酒のツマミとか甘いお菓子とかそういったのが喜ぶわね」
「了解。お母様は?」
「そうですね。お母さんはお酒大好きですから、お酒そのものをお土産にすれば喜ぶと思います」
「了解。クリちゃんのご両親は?」
「えっと……そうですね~ お酒も飲みますけど二人の両親程じゃないから、ここの名産品とかでいいと思います」
「了解。じゃあ早速買いにいこう!」
「「「「 お~ 」」」」
目移りする程の多くの商店に気分が上がるものの、広大なターミナル駅を端から端まで見る程の時間の余裕はない。精霊の国出身者である三匹に任せて案内してもらうことにした。
「ザ!土産屋さんって感じの店構えだな」
「観光客向けだけど、種類は豊富で他に比べれば在庫あるし、一軒一軒回ってるほど余裕もないしね」
「精霊の国では、なるべく過剰供給しないんだもんな。なら種類でカバーってところか」
「ズーキくん! これ! 不思議な森の不思議なクッキー!」
「あ、これ~ お母さんが好きな奴だ」
「じゃあこれはクリちゃんのご両親とロリフターズのお父様に……」
「これ不思議なんだよね~ お酒入ってないのにお酒みたいに楽しくなるんだ~」
(……大丈夫なのか? このクッキー?)
「ま、まぁ喜ばれるにこした事はない。じゃあこれと……」
「これ美味しいわよ」
「ん? 砂魚とば? 不思議な森と深林海岸のコラボレーションって……」
「この辺りの砂川から捕った砂魚を半身におろして細く切ってね、海水に漬けて潮風で干したものよ」
「へぇ~ わざわざあそこまで持って行ってるのか~」
「ちなみにあの深林海岸駅にいるおばちゃんが作ってるから」
「マジで!?」
「マジ」
「よし。これは多めに買おう。キノコの里までのツマミにもなる」
「ズーキくん! これ! 不思議な恋人! 薄めのクッキーだって!」
「……クッキー好きだねラヴ姉さん?」
「うん!」
「じゃあそれも……」
「後は母さんのお酒でいいんじゃない?」
「よし。じゃあ会計してくるな」
大した金額でもなかったので、何個か買い増しして店を出る。皆も個人で買い物をしていた。もちろんラヴ姉さんは奢って貰っていた。
「へへへ~」
「ラヴ姉さん?」
「なんだ~い?」
「借金返して下さい」
「なっ!?」
「みんな自分のお金で支払ってるんですよ?」
「うぅ……」
「少しずつ増えてますからね」
「えっ!? どうしって!?」
「百万クイーンですよ? 利息分だけでも払ってもらいますからね?」
「そんなぁ~」
(俺はラヴ姉さんを甘やかさない)
「(ねぇねぇ~)」
「(……なんですか)」
「(いっぱい膝枕してあげるから~)」
「(……)」
「(ね?)」
「(膝枕だけでは足りません)」
「(え~ じゃあもっといいのにしてあげるよ~?)」
「(……致し方ありませぬな。社会派紳士としてそれ相応の対応をせねばなるまいて)」
「(やったぁ!)」
「どうしました?」
「い、いや……なんでもないんだよエルモア君? はっはっはぁ!」
「何してんのよ? お酒買いに行くわよ」
「はい」
今度は小さい店構えだったが、見た事もないようなお酒がズラリと並んでいる。どれもこれも高級品のような佇まいではあったが、値段はそれ程に高くない。
「いっぱいあるな~ どれも見た事ないぞ」
「ほとんどがワインね」
「そうか。俺にとっては新鮮に感じる商品だよ」
「あれ? エルちゃんとネッピーはワイン飲ませてあげなかったの? ズーキさんに?」
「……寝台列車でこいつに話す事にするわ」
「……そうだね」
「なんだよ…… 不安になってきたぞ……」
「大丈夫よ。不安になるのは私たちだから」
「? じゃあ後でな。それでどれがいいんだ? どれも魅力的に感じるけど……」
「お母さんは歴史があるのが好きなんです。他のよりちょっと高いですけど、これは喜んでくれると思います」
「ほう。デザインも歴史を匂わす作りだな。じゃあこれにしよう」
「キノコの里に到着するのは明日の昼過ぎだから、それまでの分のお酒も買うわよ」
「あぁ。じゃあ俺はビールを……」
「ラヴ姉さんも飲みたい……」
「一緒に買うから選んでいいよラヴ姉さん」
「やったぁ!」
それなりに気にしていたのか、遠慮しながらお酒を持ってくるラヴ姉さん。謙虚な彼女を見るのも忍びないので、俺が適当に選んで買い増しする。
(どうせ後で足りなくなるしな)
両手に荷物が塞がり始めた俺たちは最後の買い物に移る。そう、それは駅弁。この精霊の国でも駅弁は繁盛しているようで、探すのに手間取る。どこもかしこも売り切れに近い状態。それでも各々気に入った駅弁を買う事に成功し、一路出発ホームを目指していく。