第104話 三匹を助けよう! その2
通勤快速の三匹を助ける為にネピアとは一時休戦。だが俺は一つの疑問を解消出来ずにいた。
「どうしてラヴ姉さんが膝枕してたの? なんでエルモアじゃないの?」
「それは……」
「私が止めたからよ」
「どうしてっ!?」
「成長の温泉で淫獣具合も成長した性獣に、姉さんを喰われる訳にいかないでしょ」
「……」
「理解した?」
「エルモアはどうなんだ?」
「別に私は膝枕してもいいです」
「姉さん!?」
「やっほ~! オラぁ!? ネピアぁ!? お前の独りよがりなんだよ~ あっ!?」
「あんたぁー!? あのアトラクションで改心したんじゃなかったの!?」
「だから皆には何もしてないだろ。俺はあの三匹から正当な報酬を得ようとしていただけだ。命を助けるんだぞ?」
「な、なによ…… 正当な報酬って……」
「……」
「……」
「あの~?」
「なんでしょうか? エルモアさん?」
「なら命を助けて貰った私からも報酬を与えなければいけませんよね?」
「……」
「どうなんですか?」
「……すいません」
「はぁ」
「……アホ」
「くっ」
(しかしエルモアから報酬を頂く訳にはいかない。大事な仲間だしな。けど膝枕ぐらい許してくれたって…… うぅ……)
「とりあえずちゃっちゃと喰わせましょうか」
「そうだね」
「食べれるかな……」
「食べなかったら口移しだね!」
「「「「 !? 」」」」
(その発想はなかった…… すげぇラヴ姉さん……)
「し、仕方あるまいて…… しゃ、社会派紳士として承ろう」
「あんたはそこで正座してなさい」
「……はぃ」
「この子は食べそうだよネピア」
「チビか」
(お前の方がチビだけどな)
「(ギロッ!)」
「……」
「……お見通しよ」
(グリフめ…… 勘ぐりがお上手だこと)
「あ、食べた」
「(モグモグ)」
「大丈夫? 元気になった?」
「姉さんは優しいわね」
「エルモアは優しい」
「……何か?」
「いえいえ。ネピア様もお優しいですよ?」
「ふん」
「あ…… 私どうして…… はっ!?」
「大丈夫そうだね」
「(バッ!)」
エルモアから逃げるようにして間合いを取るチビエルフ。助けてやったというのに憎悪の目でこちらを見続けている。
「この二人に何をしたっ!?」
「何をも何もアンタ達が自爆したようなもんでしょ」
「……究極五月病にやられてたのか」
「あ~ 面倒だからこれあんたが食べさせなさい」
「……何を考えてる」
「勘ぐりはやめて欲しいわね」
(お前もな)
「(ギロッ!)」
「……」
「あんたは黙ってなさい」
(一言も喋ってなんですけど)
「ほら。これ喰わせて私たちの目の前から消えなさい」
「ちっ…… 礼は言わないからなっ!」
「あんた達が礼儀を持ってるとは思えないから期待なんてしてない」
「くっ」
チビエルフは残りの二匹にタンポポのような特効薬の花をのせた川魚の刺身を食べさせようとするが、どうも上手くいかない。仕方ないのでアドバイスをする事にした。
「お~い!」
「なんだ!? 今は忙しいんだ!」
「口移しすれば食べるぞ!」
「なっ!?」
「口移し! 口移し! 口移し!」
「や、やめろ。そんな大きい声で言うな……」
「あんた救えないわね……」
「別に俺がやるって訳じゃないんだからいいだろ」
「あ~ あたしも見た~い!」
「じゃあラヴ姉さんご一緒に!」
「「口移し! 口移し! 口移し!」」
「なんだか楽しそうですね。私も」
「姉さん!?」
「「「口移し! 口移し! 口移し!」」」
「う、うるさい!」
「ちょっと仕返ししてる気分だね。じゃあ私も」
「「「「口移し! 口移し! 口移し!」」」」
「あ、あんた達……」
「ほらネッピーも」
「い、いやよ…… そんな事を口に出すなんて……」
「でもネピア? 食べさせないと治らないよ?」
「そ、そうだけど」
「後押ししてやるのが優しさってもんだろ? ほら……せ~の!」
「「「「「口移し! 口移し! 口移し!」」」」」
「あ~も~! 分かった! やるよ!」
「「「「「 お~ 」」」」」
初めてだった。初体験。俺は今まで生きていて同性同士の接吻を現実で見た事はなかった。それもただの接吻ではない。自身の口内で咀嚼した食べ物を相手に受け渡す。まるで親鳥が雛鳥に餌を与えているような当然の理。
「「「「「 お~ 」」」」」
(いいね!)
「あ……」
「あ……」
「大丈夫?」
「あれ……」
「どうしたっけ……」
「まずはここから逃げよう」
「あ…… うん」
「え…… あぁ……」
残りの二匹は重傷だったのか、治りが遅く感じられる程に意識がハッキリしていないようだった。こちらを振り向く事もなく深い森へ消えていく。最後の最後に一度だけチビエルフがこちらに振り返っていた。
「純愛! 口移しは純愛!」
「いやぁ~ えがったえがった~」
「治ってよかったね」
「これでこの案件は終了ね」
「なんだかドキドキしてるよ~」
「ん~? ドキドキしちゃってるのか~い?」
「そ、そりゃあね」
「もっとドキドキしてみるか~い?」
「え!?」
「ん~?」
(ラヴ姉さんとクリちゃんの口移しが見れるなら一万クイーンくらいはいいかな)
「じゃあ駅に戻ろうか」
「砂魚とお花はどうしましょうか?」
「砂魚は砂川にリリースね」
「鉢植えは?」
「せっかくだから里に持ってくわ」
「了解」
駅に戻った俺たち五匹は、停車していた魔方陣列車に乗り込み、乗り換えのある主要駅まで身体を癒やす。皆も疲れていたのか、気がつくと睡魔に襲われエルモアの敷いたラグの上で眠りこけていた。
「プシュー」
「ニューイン ニューインです。お乗り換えのお客様は、お忘れ物ございませんようご注意下さい」
「「「「「 はっ!? 」」」」」
「プルルルルルルルルルルルルルル。 ドアが閉まります。ご注意下さい」
「ヤバいぞ!? ドア閉まるぞ!?」
「ネピア!? クリちゃん!? ラヴ姉さん!?」
「出るわよ!」
「寝落ちしてた!」
「腹減った~!」
「タロさん! 早く! (グイッ!)」
「おわっ!?」
「プシュー」
「危なかったです」
「ちょん切られてたか?」
「間一髪です」
「マジかよ……」
(絶対死者出てるだろ…… 危なすぎるぞこの魔方陣列車のドアだけは……)
魔方陣列車のドアで身体を真っ二つにされず安堵する。降りた駅はニューイン。いくつかの魔方陣列車が停車するターミナル駅のようで、フルオンと比べものにならない程に発展していた。
(不思議な森に行く前も見ていたはず何だけど酔っ払いすぎてたか)
「すごい広さだな」
「ここは地下だけど地上にも高い建物がいっぱいわるわよ」
「へぇ~」
周りを見渡すと沢山のエルフが行き来している。これ程に多くのエルフ達を見たのは初めてかもしれない。フルオンにもそれなりにエルフはいたが、比べようとは思えない。
「ここでお土産を買うから。一度改札を出ましょう」
「あぁ。いっぱい店がありそうだな」
「いっぱいありますよ。迷うくらいです」
「そうそう。ここは精霊の国のダンジョンとも言われてますよ」
「へぇ~」
「ラヴ姉さん! お腹減った!」
「ラヴ姉? せっかくだから駅弁買って列車内でどう?」
「いい! 凄くいい!」
「じゃあ、キノコの里に行く寝台列車の切符を購入ね」
「キノコの里?」
「私たちの実家がある所よ」
「田舎ですけどいい所ですよ」
「もちろんキノコが名産です。キノコ鍋は美味しいですよ~」
「食べたい! ラヴ姉さん! キノコ独り占め!」
「あはは。独り占め出来るような量じゃないけどね」
「相当な数が自生してるのか」
「自生もそうだけど、栽培もしてるわ。それが主要産業と言っても過言ではないのよ」
「キノコ鍋は正直楽しみだ」
「じゃあサクッと切符買ってお買い物を楽しみましょう!」
「「「「 お~ 」」」」